地球でも冥界でも……勿論天界でもない世界の山を歩く二人の女性の姿。
空の色は巡る間しく変わり続け、周囲に自生するのは地球では有り得ない姿の植物。
その様な中を二人は進むのだが、その指にはお揃いの指輪が光を放っている。
銀髪の冷静そうな美女は周囲の景色を気にしていないが赤毛の美女は興味深そうに周囲を眺めながら歩き、躓きそうになるも見えない何かが転びそうな彼女の前に現れてクッションになった。
「よそ見をしながら歩くのは危ないですよ、我が妻」
「奇妙な光景だったから、つい。ありがとう、トネリコ」
銀髪の美女の名はトネリコ、赤毛の美女の名は立香。
この二人、同性の夫婦にして魔法使いとその助手、更には二児の……アーロンとバーヴァンシーの母である。
二人はその後も歩き続けられやがて山頂付近の開けた場所で足を止める。
その場所でトネリコが杖を振るえば大地に現れるのは巨大な魔法陣。
「さて、この場所なら最適でしょう」
トネリコは魔法陣の中央まで来ると懐から水晶玉を取り出し、地面にそっと置く。
中には自分の尾を咥えた黒い蛇が眠った状態で入っており、まるで沼にでも放り込んだかのように静かに沈み始めた。
「これで封印は完成?」
「ええ、後は別荘も兼ねて蓋の役割を持つ城を建てましょう。家族でゆっくりと過ごす凄い城を建てます」
「じゃあ、封印が安定したら二人の顔を見に帰れるんだね?」
「そうですね。夏休み前には終わるでしょう。何せ夢幻を除いて最強のドラゴン、生半可な真似は通じません。バーヴァンシーは寂しがるでしょうが、アーロンはしっかりしていますので安心して……」
トネリコは言葉を区切り、おもむろに立香に近寄り顎に触れるとくいっと持ち上げて瞳をのぞき込む。
「あの子達も大きくなりました。そろそろ第三子を作っても良い頃では? 順番ならば貴女の番ですが、私に生んで欲しいのならば構いませんよ? いえ、アーロンも一人だけ男では気になるでしょうし、確率を上げる為に二人共という手も」
「うーん、私は良いんだけれど、あの子達って来年は三年生だし、別の学校に行くなら受験生になるからもう少し待った方が良いんじゃないのかな?」
「成る程。では、帰り次第二人を交えて家族会議で決定するとして……今夜は寝かしませんよ?」
「え? 未だ夕方前……」
トネリコが杖を振るえば地面が盛り上がって小屋が現れる。
その中に連れ込まれながら立香が思ったのは多感な時期の我が子達が家族会議の内容に困惑しないかだったが……母二人子二人の時点でアレなので大丈夫だろうという結論に達する。
人生、開き直りが必要であった。
「何故だろう? 二人がイチャイチャしている気がした。……何時もの事か」
重要な研究やら仕事で家を空ける事が多いけれど、うちの母親達は本当に仲が良い。
まあ、僕とバーヴァンシーも兄妹仲が良いんだけれど。
「それでね、お兄様。まーた靴箱に手紙が入ってたのよ。邪魔だっつーの」
「こらこら、口調口調。それは兎も角、捨てないで僕に見せてね?」
過保護とか過干渉じゃ無いよ?
変な手紙を送ってきたのがいるなら母様に最近貰った呪いの教本の中で、エグいけれど学園の管理者にそれほど五月蠅く言われない内容のを試すだけだから。
「ええ、お兄様がそう言うと思ってちゃんと捨ててないわ。正直その場で全部ゴミ箱に捨てたかったけれどね。あっ、これはちょっと萎びてるわね。未だ色が変わっていないので大きすぎないのは……」
放課後、僕はバーヴァンシーと共に魔法薬の材料を買いに裏通りの薬種問屋を訪れていた。
栽培出来る物は自家製のを使っているけれど、中には加工に時間が掛かるのやら一定の場所でのみ採取出来る天然物だって有るからこうして店を利用する時もあった。
バーヴァンシーだって母様から習っているし、今日買いに来たのは種類が多いから僕一人じゃ時間が掛かっただろうし助かったよ。
「今日は助かったよ。帰りに何か甘い物でも奢ろうか?」
最近新しい服を買ったし、お小遣い日前だから財布がピンチだろうしね。
確かファミレスの新メニューに妹が好きそうな物が……。
「あら、お兄様は普段から臨時のお小遣い日をくれてるじゃない。奢って貰わなくて良いからスーパーでプリンでも買って家で……何故頭を撫でてるの? 別に嫌じゃないけれど」
「いや、僕の妹は可愛いなって」
腹は立つけれど妹に手紙を送った連中は見る目があるよね、悪い虫だけれども。
こんな可愛い妹が居るから外に出ている時以外は友達のイッセーでも家には入れてやっていない。
だって彼奴はバーヴァンシーに卑猥な目を向けるから。
……そんな友達が何故裏の世界に関わっているのか、それは居候のメリュジーヌが部屋での待機の言いつけを破って僕に甘えて来たのが発端だ。
当時の僕達は中学生、イッセーには親戚の子に懐かれているだけで、外人はスキンシップが激しいのだと誤魔化せていたのに……。
「おや? パパのライバルの気配がするね。所有者なんて入れ物の入れ物、高級クッキーの缶を入れたレジ袋みたいな物で興味は無かったけれど恋人の友達だし……えい!」
まあ、こんな風に神滅具の所有者だと判明、ベルゼブブ派で保護したけれどアルビオンを宿す神滅具を宿す奴との戦いは周囲に被害をもたらすからと転生させて主になるのに尻込みするのが多く、今は保留のままトレーニングを受けている。
活躍すれば引き込んだとして、やらかせば主の責任として、発覚から数年後に恩を売るためにルシファー派の若手悪魔にチャンスが与えられたけれど鍛えていたイッセーじゃ兵士八個じゃ足りなかった。
まあ、神滅具のランクでは中程度のを宿して、何故か性欲が絡むと急成長するって訳の分からない特殊能力持ちだ、ラノベ主人公みたいな成長率だから彼女の実力不足じゃないけれど、これで話は破談になった。
尚、どうせ堕天使に狙われていただろうから保護出来たのは良いとして、勝手な真似をしたメリュジーヌには罰を与えたよ。
普段は寝ている時に潜り込んで、一時間程度で出て行くならとベッドに潜り込むのは許していたけれど、偶には反省させるべきだと1ヶ月の出入り禁止を言い渡し、ウッドワスに見張りを頼んだ。
結果、余計に甘えるようになって来たんだからさ……はあ。
「新商品とか有るかしら? 楽しみね、お兄様」
用事も済ませ、後は甘い物でも買って帰ろうとスーパーに向かっていた時、道に迷って言葉も通じていないらしい女の子を見つけたけれど……。
「彼女……あの聖女マニアの裏切り者が目を付けていた子か」
ちょっと知っている相手だった……。