ディオドラ・アスタロト……簡単に言うと聖職者フェチの裏切り者だ。
聖女を中心とした教会勢力の人物を誘惑、堕落させるのは悪魔社会的には悪くない、現在の冷戦状態以前も行われて来た事だ。
まあ、唯一の男性眷属であるお目付役が屋敷に囲ってある愛人達で籠絡されたし、ちょっと影でやらかしていないかを調べて欲しいと頼まれたのがつい先日、癒やしの力を持つアーシア・アルジェントを堕落させる為に痕が残る怪我を自ら負ったのがワンアウト、実は旧政権と接触していたのでツーアウト、裏切っていたのでスリーアウト、選手交代とばかりに依頼された結果、現在は肉体に別の魂を入れて二重スパイとして活躍して貰っている。
いやいや、悪魔の合理主義は恐ろしい。
肉体は本人だから血は残せるし、婚約を早めて子供が産まれ次第、ボロが出る前に名誉の死を迎えて貰う予定だなんてさ。
眷属とか囲われていた子達がどうなるかは……知らない方が良いから知らないよ。
母様は兎も角、母さんの方は善良だから僕が外道に染まるのは嫌がるだろうしさ。
「ふーん、教会に赴任して来たのかよ。あんなボロボロの教会にとか窓際族じゃね? テメェ、何やらかしたんだ?」
そんなディオドラに嵌められたアーシア・アルジェントは教会を追い出されたのにシスター服で荷物は少なめ、着の身着のまま最低限の荷物だけで追い出すとか手を汚すのが嫌なだけで野垂れ死ぬのを望まれたのが丸分かりだ。
魔女狩りの歴史もそうだけれど、教会って神の力が届かないのを穴埋めするのが役目じゃ?
まあ、異教徒と異端に厳しいのは基本何処もか。
……聖書の神は死んでるけれど。
つまりアーシア・アルジェントが日本に来るのは誰かの手引きって事で、身形も綺麗だし飛行機代だって安くない、やつれた様子もないから三食食べてベッドで寝ているって証拠だ。
悪魔の誰か……はシスター服の時点でね。
教会内で逆十字の描かれた服を着て過ごすみたいなもんだ、許可した奴の正気を疑われる。
だから同性であるバーヴァンシーに探って貰えばビンゴ、言っている廃教会は管理者不在の空白地域で現在堕天使の潜伏先だ。
「え、えっと、少し偉い方を怒らせたというか……」
「ふーん、そうなんだ」
チラッと視線を送る妹に頷きで返す。
回復能力持ちを本部に行かさず何の為に呼び寄せたのか。
合流して本部に連れて行くのか、回復能力持ちが必要な厄介な神器持ちと戦うのか。
……回復能力持ちは貴重で、教会にいるのは精々中級レベルが一人に下級三人、あとははぐれエクソシストが。
「直ぐ其処が僕達の家で、犬の散歩コースで通るから待っていてくれれば案内するよ」
成る程、大体予想は出来たけれど確証は無い。
ちょっと探りを入れて後は管理者に丸投げにでもしようか……。
「てな訳で少し早いけれど散歩(の振り)の時間だよ、ウッドワス」
「……」
バーヴァンシーに見張りを任せた僕は帰宅するなりウッドワスの所に
散歩セット(首輪とリードと袋)を持って行く。
本当は犬じゃないウッドワスには不要なんだけれど、一応犬って周囲に認識させているからね。
テレビの前に寝ころんで世界情勢をニュースで見ていたウッドワスは面倒臭そうに立ち上がり、忌々しいって感じで首輪とリードを大人しく装着される。
わざとらしく僕と時計を何度も視線を往復させて”話が違う。プライベートを邪魔するな”とでも言いたそうだ
これは明日の朝の起こし方が何時もより乱暴になりそうだ。
「次に大物が来たら譲ろう」
「……フッ」
納得したとばかりにウッドワスは僕を置いて歩き始める。
本当に母様以外には手厳しいんだからさ。
「わあ! 大きいワンちゃんですね。何って名前何ですか?」
「ウッドワスだよ、このクソ犬は。言っとくけどお母様以外じゃお兄様の命令を僅かに聞く程度だし、撫でようとかすんなよ」
……困った、凄く困った。
正直言って僕にとってアーシア・アルジェントの価値は低かった。
悪魔も癒せる神器?
僕の魔法でもより上の効果も治療が可能だ。
情報源?
客寄せパンダならぬ信者寄せ聖女に教会のどんな情報を?
今回だって一応探りを入れてみただけ。
悪魔陣営に勧誘……。
教会にいたし、追放されて直ぐに堕天使の仲間になるとか……追放者だから背徳者の仲間になっても問題無いんだけれど、どうも信仰心は残っているっぽいから信用度がね。
「それでうちの学校の変態がよ」
「ええ!? そんな事をしちゃっているんですか?」
……でも、バーヴァンシーと仲良くなってるのなら話が変わって来る。
ウッドワスも彼女に裏のことを知る友達が居ないのが分かっているのか邪魔をせず、逆に少し遠回りするコースを選んでさえいた。
ツンデレ……。
「本当にお世話になりました。本当だったらお茶でも出したい所ですけれど……」
「ウッドワスの散歩の途中だしな。おう。縁があったらまた話でもしようぜ」
バーヴァンシーったら分かっているのかいないのか……彼女が多分殺されるだろうって事がさ。
此処に来る途中でアーシアから聞き出せた話は大した事が無いけれど、見張りに使える虫はくっつけておいた。
一応女の子だし、誤解されないようにバーヴァンシーに指揮権を預けるとして後は連絡しておく程度か。
「ああ、はぐれ悪魔をどうすべきかも聞いておかないと……」
家の玄関まで辿り着いた時に他にすべき事を思い出す。
最近は心霊スポットとやらで怪しい場所に行きたがるのが多いし、早くしないと犠牲者が出そうだからね。
後ろでスーパーの袋片手に上機嫌なバーヴァンシーをチラッと見つつドアノブを開く。
「お帰りー! 部屋で待っていたのに直ぐに出掛けるんだもの、寂しかったよー!」
「ぐふっ!?」
不意に飛び込んでくるメリュジーヌ、だけれど僕は吹っ飛ばされないように耐える。
何故なら僕の後ろには巻き込んだらいけない妹が居る!
「……あれ? 知らない女の匂いがする。恋人を放置して他の女の相手をしてたの? それってどうなの? 死ぬの?」
「……よーし、よしよしよーし」
メリュジーヌの目が虚ろになった時の対処法……兎に角撫で回す。
よーし、チョロい!
「えへへ! 暫くこうやって撫でててよ」
この子、多分父親に匹敵する強さな上にツンデレだかメンヘラだか詳しくないけれどそんな傾向があるんだけれど結構チョロい。
撫でられてご満悦の表情で抱き付くのを見ながら空いた手をウッドワスに伸ばせば七往復も撫でさせてくれた。
このモフモフの毛並みを好きなだけ堪能出来るのは母様だけで僕や母さんは普段は五往復までで枕にして良いのは三分まで、それ以上は肉球で叩かれる。
尚、バーヴァンシーは一往復で三十秒まで
「うん? メールだ。イッセーからか」
彼奴、最近ご褒美を貰いつつ禁手化に成功したからって訓練が厳しくなったらしいけれど、一体何の用……。
『助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助け……』
「……」
そっと携帯の電源を切ってポケットにしまった。
「さて、やる事終わらせてお茶にしようか。バーヴァンシー、今日は宿題忘れちゃ駄目だよ?」
「わ、分かっているわよ、お兄様」
「ねぇ、今日こそ一緒にお風呂に入ろう。恋人だし当然だよね」
あー、忙しい忙しい。
友達からのメールとか見ている暇はないな。
「ねぇ、バーヴァンシー。さっきの子、危ないなら助けたい?」
「うん? まあ、助けたい、かしら?」
そうか、ならベルゼブブに連絡しないとね。
土地や学園の管理者関係で、一応ルシファーと……あのキッツい感じの魔王にも必要かな?