運が良いとでも思っているんだろう、呆れながらの感想はそれだった。
アーシアとバーヴァンシーが談笑しながらハンバーガーを食べる中、お祖父ちゃんと別れて席に戻った僕の視界の端には此方の様子を窺う堅気じゃない連中、何かやらかして堕天使側についたエクソシスト崩れ共だろう奴等の姿に気が付かない振りをしつつ、唇の動きで会話を読む。
魔法で盗聴するまでもなく僕とバーヴァンシーを連れ去ろうって言ってるのが分かったけれど、顔は知っていても実力を知らない辺りがリサーチ不足。
どうせレイナーレに”(堕天使に比べれば人間なんて)対した事が無い連中”とでも聞かされてたんだろうけれどさ。
確かに人間は通常なら堕天使には勝てない、勝てるのもいるけれど特殊訓練を受けた連中だけで……僕とバーヴァンシーはその中でも上位に入るってのにさ。
その上位のグループ内でも格差があるのは目を逸らしつつ僕は最後のポテトに手を伸ばし、バーヴァンシーが取ろうとしたので手を引っ込める。
「お兄様に譲るわよ?」
「いーや、最後の一個ってのは特別だからね。こんな時は兄貴が譲るものさ。まあ、嬉しそうな君の顔を見ていれば十分だから食べなよ」
「そう、じゃあ遠慮無く貰うわね」
嬉しそうな妹の顔にホッコリしつつ、どうして少しトロそうなアーシアが堕天使の拠点から抜け出せたのか不思議になる。
悪魔の縄張りだし、事故で死なれれば計画はおじゃん。
様子からして最後の晩餐を前に落ち着いてるって感じでも無いし、見張りだけ付けて放置しても大丈夫と油断しているんだろうと言う結論に落ち着いた。
「それでアーシア、これからお前、どうするの? ゲーセン行かねえ? ゲーセン」
「ゲーセンって何ですか?」
「何だよ、ゲーセン知らねえの? ゲームで遊ぶ所だよ。んじゃ、今から行こうぜ」
ちょっと強引な誘いだけれどアーシアも誰かと遊びに行くのは楽しみなのかついて来るみたいだ。
まあ、向こうから来るのなら別に夜中待ってなくても良いから早く寝る必要は無いんだけれど、これで夜食は口実を失っちゃったな……はあ。
ちょっと落胆しつつも顔には出さずに三人で一緒に店を後にして、近道だからと裏道に入ろうとすれば尾行してた連中は慌てて二手に分かれて僕達の後を追う。
「おい、ヴィヴィアンの者だな? 命が惜しくば大人しくついて来い」
「逆らえば少々痛い目にあって貰う」
「おい、アルジェント。お前も此方に来い。レイナーレ様はその二人をご所望だ」
「え? 神父様方、一体何を……」
銃と光の剣を構えて前後から迫って来る連中はとても元々神に仕えていた連中とは思えないし、自分の意思とは無関係に生まれから戦士になって、適応出来ずに落伍者になったって所かな?
三下堕天使に手を貸して甘い汁を吸おうとしているんだろうけれど、ホイホイ誘い出されちゃってさぁ
行き着く先は蜘蛛の糸……なーっんちゃって。
「ああ、僕達の一族が持つ力は少しばかり特殊でね。堕天使の上層部が興味を持っているから無理に連れて行って手柄にしようとしているだよ」
「はっ! お前達みてえな雑魚にお兄様と私が捕まるかっての。そんなんだから雑魚なんだよ、ざぁこざぁーこ」
「き、貴様等っ!」
「そう怒るなよ。……ああ、君達の企みは僕達以外にもあるんだろう? 例えば……この子の神器とかさ」
僕達の挑発に煽り耐性の低い連中は青筋浮かべて震えて、数人が耐えきれずに撃つんだけれど透明の障壁で防ぐ。
僕とバーヴァンシーなら食らっても平気なんだけれど、ちゃんと巻き添えになりそうなアーシアを守っているってアピールが要るからね。
「ひっ!?」
「馬鹿! あの女は神器を抜くまで死なれたら困る!」
「……え?」
咄嗟に頭を抱えて身を庇った状態で思わず出たであろう驚きの呟き。
神器を抜くつまりは殺すって宣言されたんだ、それも自分を拾ってくれて野垂れ死ぬ状況から救ってくれたからこそ神を裏切り教会と敵対する相手だろうと信用していた相手にだ。
「そ、それは一体・・・・・・」
「馬鹿! ギリギリまで隠す予定だったろうが!」
聞き返す彼女を無視しているけれど肯定したのと同じ発言にアーシアは真実を悟り泣きそうになる中、喋る気なんて無かったのに真実を教えてしまった二人・・・・・・実際は僕が精神誘導したんだけれど、その背中を光の槍が貫く。
髭を生やした堕天使、確かドーナシークが不愉快そうにこちらを見ていた。
「勝手な真似をした挙げ句に計画の邪魔までするとは、人間はこれだから役に立たん。おい、アザゼル様が興味を持つ力は血に宿るそうだ。男は殺し、女の方は犯して心をへし折っておけ。アーシア共々、なっ!?」
非常に不愉快な言葉、此処が街でなければ周囲一帯を吹き飛ばしていたと思える怒りが煮えたぎる中、偉そうに飛んでいたドーナシークが落下して、糸で切り落とされた翼の付け根から血が噴き出す。
「おい、お兄様を殺すって言ったか、お前? 代わりに私が死にたいって言うまで追い詰めてから気が向いた時に殺してやるよ。キャハハハハ!」
あー、完全にキレてる。
「あれ? 前が……」
はいはい、アーシアは目を塞いでいようね、グロ耐性皆無だろうからさ。
彼女の目を魔法で塞ぎ、耳を塞ぐ前にちょっとした設定を語る。
「実は僕達って君が助けた悪魔に関係があって、君とバーヴァンシーが友達になった事を教えたら、立場上助けに行けないから代わりに助けてくれって頼まれたんだ」
「え? あの悪魔さんが? それと友達って……」
「少なくてもバーヴァンシーは君を友達だと思っているし、助けたいと言っていたよ。じゃあ、ちょっと友達には見聞きさせたくない姿を晒したくないから目と耳を塞ぐよ?」
驚きと友達に飢えていたからこその喜びに震える彼女に目隠しと耳栓をする中、糸で血止めをされた上で縛られたドーナシークとはぐれエクソシスト達の顔は既に恐怖と苦痛で歪んでいる。
うーん、母様がバーヴァンシーはお人好しだから残酷な面も持っておけって教育したけれど、母さんと一緒に異議を唱えるべき……いや、バーヴァンシーを犯すとか僕を殺すとか言った奴と、聞いた時に乗り気な表情だった連中相手だし……別に良いか。
「バーヴァンシー、全員屋敷に連れて帰るから今は一旦其処までだ。お楽しみは後に取っておこうか」
「はーい。分かったわ、お兄様!」
「よしよし、君は素直な良い子だね」
妹の頭を撫でながらゴミ共を牢獄に転移させる。
後は血溜まりの後始末と……アーシアには追い返したって誤魔化せば良いか。
だって彼女、信じたい相手に盲信的になる上に依存するタイプだしさ……。
お祖父ちゃんじゃないけれど、バーヴァンシーの友達を増やすには良いとして、仲の良い友達その一程度の付き合いで留めて貰わないとね。
「残った堕天使はどうする?」
「クソ犬の散歩のついでに晩ご飯を外で食べさせちゃえば?」