拠点から少し離れた森の入り口辺りに岩がある。その岩をどかすと、狭い通路が現れ、隊長達はそこに入っていった。此処がギンアイの言っていた研究所である。ついでに、メタルマンのスーツのステルスは解除している。
「電気を付けたけど、最初に来た研究所と比べると少し寂しい感じがするなぁ」
『まだ整備中だから仕方無いわ。そこに冷蔵庫があるでしょ。開けてみて』
ギンアイの言う通りに部屋の一角に冷蔵庫がある。その冷蔵庫は何かを生産しそうな機械と合体しており、そのせいもあって不思議な見た目をしている。そこを開けてみると、緑色の液体が入った瓶が何本か置かれてある。その瓶には「エネルギー 1万ワット」と書かれている。
『それがメタルマンのエネルギー源であり、隊長の食事よ』
「え? これが…… 何か不味そうな色……」
「この液体は一体何ですの?」
『それはブドウ糖溶液よ。メタルマンの機能を維持するのに必要なエネルギーである1万ワットをこれ1本で摂取出来るわ。冷蔵庫と合体してる機械「ショクリョウツクールF」が自動的にそれを作っているのよ』
「ブドートーって?」
「正確にはグルコースという名前で、動物や植物の栄養になる物質ですわ。脳がエネルギーとして利用できる物質でもあるの」
「つまりジャパリまんみたいなものか」
『まぁ、その通りね』
ミーアキャットの詳しい解説に一同は感心してしまう。流石は先生と言ったところだ。この緑色の液体が食事のようだが、大丈夫なのかと隊長は不安に思ってしまう。何か青汁よりも緑が濃い。本当に飲めるのかすら疑問に思う。
『それを飲めばOKよ!』
「でもどうやって飲むの? マスクは脱げないし……」
「あ! もしかして口の部分は開くんでしょうか? ウィーン…… て感じで!」
口の部分が開く。ドールの言う通り確かにロボットのようだ。そこからあの緑色の液体を流し込むのだろうか。何だかあまり経験したくない飲み方のような……
『首に注入口があるわ。そこに流し込めば飲めるわ』
「首なの!? この辺りか……?」
「あ、隊長! 多分この穴かも!」
「ここか! 少し見づらいから零しそうだな……」
「あ、私がやります!」
「あ、悪いね。ドール」
ドールが緑色の液体を持ってメタルマンの首の注入口に緑色の液体を注いだ。零さないように慎重に注いでいく。暫くすると、隊長に変化が表れた。
「……うっ!」
「え? どうしました?」
「もしかして、腐ってたの!?」
隊長の呻き声で一瞬異変が起きたのではないかと心配したが、その理由は直ぐに分かった。
「……不味い……!」
呻き声を出した理由は単純。不味いからだ。色が不味そうだっただけに本当に不味い。しかもこれまでに味わったことが無い程の不味さだ。
「あ、そうなんですか……」
「まるで〇〇〇〇と××××を加えて、更に△△△△と□□□□を加えたようなとんでもない不味さだ……!」
「そんなに不味いと逆に飲みたくなっちゃうな……」
「ライオン、やめた方が良いよ。気を失いかねない不味さだ……!」
『申し訳無いけど味付けする暇が無かったわ。メタルマンの開発と機能追加を優先してたからね』
「これを着てる間は、これしか飲めないの……?」
『残念だけどその通りよ。良薬は口に苦しって言うから我慢してちょうだい。本来ならアップル味とかオレンジ味とかグレープ味とかにするつもりだったんだけどね……』
「それ、凄い飲みたい……」
猛烈に不味いものの何とか全部飲み干した。本物のギンギツネがメタルマンを脱がせる装置を修理させてくれるまでこれを飲むと考えると正直相当嫌である。
「また飲むと考えると、嫌だなぁ……」
『隊長。他人事のように聞こえるかもしれないけど、この状況に慣れれば慣れる程、隊長は楽になれるわ!』
「ほぼ他人事のような……」
『そのつもりで言ってないんだけどね…… あとやっておく事を済ませましょう』
「やっておく事?」
『近くの棚に金属の箱がある筈よ。その中に2個のチップがあるわ。開けてみて』
言われた通りに冷蔵庫の近くの棚に金属製の箱が置かれている。隊長はそれに手を伸ばして開けてみる。すると、中に赤いチップと黄色いチップの合計2個のチップが入っている。
『赤いチップと右肩前方のスロットに、黄色いチップ右肩後方のスロットに装着してみて!』
「どれどれ…… やっぱり少し見づらいなぁ……」
「あ、私がやります!」
「あ、ドール。それじゃあお願い」
「ハイ!」
ギンアイの言う通りに黄色いチップと赤いチップをメタルマンのスロットルに差し込む。カチッという音がすると同時に、メタルマンに変化が起きた。
メタルマンに電流が走るようなオーラが現れたのだ。
「おぉ!?」
『来た来た来た!』
「え? 何ですか!?」
「もしかして、野生開放みたいな状態なの!?」
ギンアイは随分興奮しているが、その様子を見ているドール達は一体何事なのかと驚いている。そんな中ギンアイは冷静に喋り始める。
『チップを装着した事でメタルマンの新しい機能が使えるようになったわ!』
「え? 新しい機能!?」
新しい機能と聞いて隊長はどのような機能なのかかなり気になってしまう。もしかしたら脱げる機能なのでは? と期待してしまったのだ。
「凄い! 何が出来るようになったの?」
『私にも分からないわ』
「…………ぇ?」
しかし、その返答は予想外の物だった。肝心の製作者(が作った人工知能)にも関わらず分からないという答え。
『チップを付ければ秘めた機能が使えるようになるっていう情報は入ってたんだけど、それが何なのかまではインプットされてないのよ』
「つまり、ギンアイにも知らされてなかったって事?」
『その通りよ』
まさかの知らされていないという話に隊長は唖然としてしまう。もしかしたら脱ぐ機能かも、と淡い期待を抱いた矢先、知らないのである。これではどうやってその機能を発揮すればいいのか分からない。
『大丈夫! チップを解析すればどんな機能なのか分かるわ! 少し時間がかかるけどね!』
「う、うん。頼むね」
仕方無くチップの解析をギンアイに頼む事にした。新機能が脱げる機能である事であれば良いなぁと心の中で思っている。いや、そうであって欲しい。でなければあの不味い液体を飲み続けなければいけないのだから。
「そういえばこの飲み物はどうやって作ってるんですか?」
『あぁ、それはアカギツネやホワイトライオンやピーチパンサーに頼んで時々材料を此処に運ばせているのよ。それを此処に入れて……』
「へぇ~、そうなんだ……」
解析が終わるまで隊長達は雑談で過ごす事にした。ドール達はこのメタルマンの機能について色々質問している。このメタルマンの機能は隊長も気になっているので、隊長もギンアイに聞く事にした。
そうしている間、パークでは大変な事が起きている事を皆は知らなかった。
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
「大変です! セルリアンが大量に発生しています!」
「大型の数も多いです! このままではパークセントラルの方にまで到来します!」
「不味いです! 各探検隊とフレンズの方々に連絡をしてください!」
パークの多くの人が集まる部屋では、人々が慌ただしく行き交っている。モニターには多くのセルリアンが映っており、皆同じ方向に向かって移動している。大小異なる大きさのセルリアンが蠢く姿はまるでこの世の終わりを表すかのようだ。
「ミライさん! このままでは……!」
「えぇ、総力を挙げて迎撃しないとパークは大きな被害を……!」
ミライと菜々は真剣そうにモニターを見つめている。このままではパークはセルリアンの巣窟と化してしまう。それを何としてでも防がなければならない。それは簡単では無い事を意味していた。
「ミライ、複数の探検隊がセルリアンと交戦し始めたわ」
「モニターにも映っていますね。セルリアンの数はまだ多い。何時まで持つか……」
カコの発言にミライは心配する声色で答える。フレンズ達がセルリアン相手に戦っている。今は小型や中型が中心だが後に大型が来る。その時まで力を残す必要もあるだろう。この小型や中型との戦いで体力を消耗した状態で大型と戦ったら……
最悪のパターンが頭の中に思い浮かんでしまう。
「各部隊に応援を出しました。もしかしたら……」
ミライはある可能性を思い浮かべた。あの鋼鉄のパワードスーツを身に纏った隊長を。もしかしたら、彼は……
次回の更新は2022年7月8日19時00分に投稿予定です。