【書籍化作品】りゅうごろしようじょ~見た目が幼女で誰も信じてくれないので【冒険者】のふりしていますが本当は【黒竜騎士】です。竜を食べると強くなるユニークスキルで最強に至り、悪しき竜を滅します。包丁で。   作:くま猫

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第21話 おいかけっこ

「おとなしくお縄につきなさい。さもなくば――」

 

 竜殺し包丁の切っ先を粉々に砕けたシュブ=ニグラスへと向ける。断れば次はお前がこうなるという意味の警告だ。

 

「ふふっ。無駄、無駄よ。あなたが倒したのはあくまで表出した一部。大樹の小枝を剪定(せんてい)した程度のこと。ふふっ、惨めね。あなたが出来たのは、ほんの少しの時間稼ぎにしかならないわ。確かに、ちょっとだけ驚きましたが。状況は変わっていませんよ」

 

 シュブ=ニグラスがあの程度の一撃で倒せるなんて、元から思っていない。私の目的は、あのバケモノが再生するまでの時間を稼ぎ、行動不能の間に私が倒しえる存在。つまり、あのソフィアという名のハイエルフを倒すことにある。

 

「そうね。でも、その少しの時間で十分。――あなたを殺すにはね」

 

 ソフィアは顎に人差し指をあて考える。

 

「そうですね。そうかもしれませんね。それならば、逃げるが勝ちですね」

 

 今までの自分の考えを簡単に捨て、即座に考えを切り換える。……この手の相手は自慢の策が破られた時にムキになって突っ込んでくるのが常だった。

 

(……ちっ、定石が外れた。この手の高慢ちきな相手には挑発が有効っていうのが、今までの鉄板だったんだけど。私も、考えを改める必要がありそうねっ……)

 

 ソフィアは高位の身体強化魔法で脚部を強化、木から木へと飛び跳ね、どんどん私からの距離を取っていく。まるで地面を歩くかのように軽やかな足取りでどんどん私から離れていく。

 

『……あんだけ勇ましいこと言っておいて、逃げやがったぜ。ありかよ。反則だろ』

 

 驚くほどの引き際の早さ。だが、逃がすわけにはいかない。シュブ=ニグラスを完全停止させるには召喚したあのソフィアというハイエルフの意識を奪う以外の方法はない。

 

 そして、このエルフの里で行われていた残虐な行いを明るみにするには、あの女を生かしたまま組合に突き出すしかない。

 

(だから、あんたを逃がすつもりはないし。必ず捕らえる!)

 

 森とともに生きるエルフ。そんな相手に木の上で追いかけっこは分が悪い。

 

(それに、身体強化の魔法を付与しているとはいえ……。この身のこなしは異常。まっとうな方法では追いつくことができないわね)

 

 木から木へと高速で移動する相手に追いつく方法は、一つ。迂回せず、一直線に、一瞬で、距離を詰め、意識を奪う。それが、勝利の唯一条件だ。

 

 ――そしてそんな不可能が、私には可能だッ!

 

「アルマトスフィア――限定展開ッ!」

 

 両脚部にアルマを限定展開。地面に指をつけ、クラウチングスタートの体勢を取る。魔力を脚部に集中。脚部スラスターがゆっくりと開き、魔力粒子が放出されていく。

 

(――イメージするのは真面陣から射出される、火矢)

 

 自分自身が火矢とし化し、あの女の胴をを貫くイメージを思い描く。脚部に限界まで魔力を込める。

 

「サジタ ケルタ マジック……」

 

 脚部の魔力の内圧が高まり魔力による光もドンドン強くなる。――魔力の充填完了。重力の影響、空気抵抗、角度調整……その他の細かな調整は全てリューが行う。私がするのは、ただ一直線に跳ぶだけ。

 

「……――ジャァンプッ!!!」

 

 地面を蹴り空に向かって矢のように一直線に跳躍。ソフィアに向かい最短ルートで跳ぶ。障害物を一切避けない直線的な軌道。進行の邪魔になる木々は、竜殺し包丁で薙ぎ倒し突き進む。……月に跳ぶ兎のように。

 

(……接敵まで、あと……距離五十メートル)

 

 ……ありえないほどの超長距離跳躍。……だが、わずかに届かない。重力による減速、スラスターに充填していた魔力の枯渇。……徐々に速度は落ちていく。まるで地球の重力を思い出したかのように下へ下へと引っ張られる。

 

 落ちる……。落ちる……。

 糸を切られた操り人形のように……。

 翼をもがれた鳥のように……。

 

 

『――引力操作(アトラクション)

 

 

 ジャバウォックから獲得した指向性の引力操作スキル。このスキルによって自身を中心に五十メートル以内の場所を、落下地点に指定することが可能となる。

 

 そして、今まさに私は水平方向に落下している。狙いは当然、ソフィアという名のハイエルフ。空から地に落ちるように、私は空中を滑落する。

 

 私はソフィアに向かって高速で落下。そして、今や手を伸ばせば届くところまで接近している。

 

「おやまあ?」

 

 女は追いつかれたことが理解できないのか間抜けな声をあげた。私は捻りを加え、ソフィアの後頭部を思い切り殴りつける。

 

 ソフィアはまるではたき落とされた羽虫のように地面に叩きつけられ、完全に意識を失うのであった。

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