お の れ 晴 明   作:あん仔

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カルデアにて 01

 

 お の れ 晴 明 !!

 

 どこからともなく耳に届いた声に歯ぎしりをする。ともあれ私の召喚を純粋に喜んで見せるマシュとぐだ……藤丸にしゃあねえなあ、と自分の置かれた状況を受け入れていく。

 諦め、とも言う。

 そこは召喚陣の用意されたカルデアの一室で、藤丸たちの初めてのサーヴァント召喚であるのだという。そして藤丸は少しずつ貯めた聖晶石で連続の召喚を試みているらしい。

 タイミングはちょうど冬木を攻略し、オルレオンへレイシフトする前のようだった。

 つまり私はチュートリアル召喚での確定サーヴァント枠、といったところだろうか。となると私のレアは星4……?

 いやゲームでなく現実だけども。

 細かな話は召喚を終えてから、とのことで召喚陣へ向かう藤丸たちを少し離れて見守る。チュートリアルガチャって誰が出るんだったかな。

 朧げな記憶を辿っていく。

 

 その時だった。召喚陣に虹色の光輪が浮かび、部屋の空気を魔力の波が大きく揺らしていく。

 まさかチュートリアルで星5確定演出だと!?

 

「こ、これは!」

「すごい魔力反応です、先輩!」

 

 キラキラと期待の声を上げる藤丸とマシュに私も立ち上がり、すぐそばで召喚陣を見つめる。

 

「お初にお目に掛かります!! 拙僧、真名を蘆屋道満と申す法師にて陰陽師──はて? アルターエゴ。キャスターではなく? ……さて、奇妙なこともあったものですねえ。ともあれ。以後、よろしくお願いいたします。マスター」

 

 予想もしていなかった人物の登場に思わず頭の中が真っ白になってしまう。

 

「え!? アルターエゴ!? なにそれ、マシュ!」

「わ、分かりません!」

「ちょ、ちょっとタイム! ごめん、狴犴。ドクターたちに話してくるから、蘆屋道満、さん? と、ここで待ってて!」

 

 酷く慌ただしい様子で藤丸とマシュが廊下へと去っていく。

 ぽつん、と二人。取り残されて私はそっと召喚陣に立ったままの道満を振りかえる。

 

「結人殿。あなたも召喚されているとは拙僧、思いもしませんでしたぞ」

「私もです。こうして法師様ともう一度会えてとても嬉しいです」

 

 すっと私の手を握り締めて道満がうっそりと微笑みを浮かべた。私が答えると、微かに目を見開き、また笑みを深めた。

 

「ところで法師様、アルターエゴというのは?」

「……さて、拙僧にもとんと見当がつきませぬ、不思議なことがあるもので。さあ……結人殿、共にマスターの元へ参りましょうか」

「はい。法師様」

 

 手を握られたまま、道満が藤丸のあとを追って廊下へと出た。

 あ、私、そういえば待っているように言われたんだったか……。まあいっか。

 つか、道満が召喚されるって時系列とかどうなってるの?

 いや嬉しいけどね?

 

「え? 二人って知り合いだったの? あとアルターエゴって何か強いクラスらしいね! 改めまして、よろしく! 道満! 狴犴!」

 

 その後エクストラクラスのサーヴァントの説明を受けたらしい藤丸が改めて挨拶をしてきた。差し出された手を握り返せば無邪気に笑顔を浮かべていた。

 道満といえば、そんな藤丸の様子に微かな愉悦の笑みを浮かべながら同じように握手を交わしていた。

 はっはーん。さてはこやつリンボだな?(確信)

 まあ実際にはリンボの記録がある道満らしいけど、結局どっちであっても同じだろう。

 

 その後、数日間をシュミレーションルームでの戦闘訓練に費やした。出てくるエネミーは見たことのある手や扉だ。

 そうしている内に絆が上がり、セイントグラフを確認でもしていたのか端末を見つめていた藤丸が目を丸くして叫んだ。

 

「って、えぇえ!? なんで二人ともセイントグラフ封印なんてされてんの!?

「おやおや、奇妙なことが続くものでございますねえ」

「曼荼羅って 地獄界曼荼羅って、何!?」

「ンンン、いずれ分かるときが来るのでしょうが。拙僧にはとんとわかりませぬ」

「何と地獄とは、不穏ですねえ」

 

 本来ならあり得ないエクストラクラスの召喚に、予期せぬ出来事が続いたことでカルデアに藤丸の悲鳴が響き渡った。

 胡散臭く白を切る道満に乗っかり私も知らないふりをする。

 つーか、道満はともかく私のセイントグラフも封印されているんですか!?

 平安京イベント内定ってマジ?

 

「ええーい! 分からんことは無視無視! とりあえず二人用の種火も十分に集まったし、一気に再臨しちゃおっ!」

 

 ここでカルデアのシステムを説明しておくと、基本的にサーヴァントの霊基は藤丸の持つ端末で管理されており、操作方法は殆どゲームと変わらないようだ。

 藤丸のような一般人にも感覚的に分かりやすく、という狙いがありそう。

 

 つまり、これから集めた種火をひたすらに霊基に吸収させるのだ。

 藤丸が端末を操作し始めると途端に自分の魔力が高まっていくのが分かる。かつて自分もしていたことを、まさかサーヴァント側から体験することになるとは。

 

「あ、狴犴のレベルが上限になったね。じゃあ道満より先に再臨しちゃおうね」

「わかりました」

 

 初再臨である。藤丸の操作が終わるのをワクワクとしながら待つ。レベル上げとはくらべものにならないほど自分の魔力が高まっていくのを感じる。

 すると眩い白で視界が塗り潰された。視界を埋め潰す白に、瞼を閉じる。

 その直前、遠くから微かに誰かの慌てる声が聞こえた気がした。

 

 

 ★

 

 

 再び目を開けたとき、シミュレーションルームにいたはずが、何故か食堂に立っていた。

 

「マスター殿?」

 

 以前に見たときは整然と並べられていた椅子やテーブルが嵐にでもあったかのように転がってしまっている。

 藤丸を呼んでも、しんと人のいない食堂は静まり返っている。普段は他のカルデア職員やサーヴァントたちで賑わっている食堂の様子に不安にさせられる。

 こわいこわいこわい。

 

 敵襲? でもそれなら、血の跡がないとおかしいか。そもそもこんな序盤にカルデアが襲われることなんてなかったはず……、いや道満が実装されている時期なら分からないんだけど。

 何かのイベント?

 こんなタイミングで?

 悶々と悩みながら、とりあえず藤丸を探そうと廊下へ出る。

 

「結人殿」

「っ、法師様!」

 

 廊下に出てすぐに声をかけられた。振り返ると道満がなぜか傷だらけで立っていた。しかし顔つきだけは妙ににこやかだ。

 

「法師様、その傷は……もしやカルデアが何かに襲われて?」

「いえいえ、そんなことはありませんぞ。ただ少し……、迷い込んだ獣めが暴れたのです」

「獣? そんなものがいるんですか」

「ええ、どうにもとても狂暴な獣であるようで。ンンン拙僧、美しき獣でありますが獣の相手は不慣れ故こうして不覚をとってしまった次第です」

 

 獣ってビーストのことじゃないよね、ね?

 意味深げな含み笑いをする道満の様子に不安を煽られつつも傷を癒していく。

 

「道満! 狴犴! 無事!?」

「マスター殿」

「あ、よかった! 狴犴もちゃんと正気に戻ってるね」

「まさか私が暴れたのですか?」

 

 問い掛ければ気まずそうに藤丸が目を逸らした。嘘のつけない性質らしい。しかしそれでは答えているようなものだ。

 

「マスター殿、私の霊基に何か不備でもあったのですか? 何をしでかしたか、きちんと話していただけないのなら、今すぐに自害いたしますが」

「……、えぇ。もう極端すぎるって……あのね」

 

 私の様子から本気だと信じたのか、藤丸が起きたことを話してくれた。

 

 なんでも再臨をした私の姿は、異なる人物に変化したのだそうだ。端末に残った記録を見れば、そこには唐服を身に着けた白い虎の耳と尾を有する青年の姿があった。

 その青年には見覚えがあった。

 藤原結人が母を亡くした日に同化したはずの相手だ。

 

「これは、狴犴ですね。私の身に宿る狴犴の本来の姿です」

「そういうこともあるんだあ……、でね、この人がさ」

 

 すっかりしょぼくれた藤丸が再び口を開く。

 

 

 ....

 

 

 

「あ、狴犴のレベルが上限になったね。じゃあ道満より先に再臨しちゃおうね」

「わかりました」

 

 声をかければ穏やかな狴犴の返事があった。一瞬だけ端末から顔を上げて様子を窺えば漫画で見たことのある平安時代の装束を身に着けた狴犴はにこにこと微笑んで藤丸のことを見つめていた。

 その隣にはピエロみたいなイメージを見るものに与える謎のエクストラクラス、アルターエゴとして召喚された蘆屋道満が寄り添うようにして佇んでいる。

 新しく仲間になってくれた二人は生前からの顔見知りらしくやけに距離が近かった。

 道満と目が合った気がして、藤丸は慌てて視線を端末に戻す。

 この操作もすでに一つの特異点を修復したマスターにとっては慣れたものだ。

 

 再臨の光が狴犴を包んだ。

 

「よくぞ俺を呼んだな、人間! 俺を呼んだからには愉しませろ、それが出来なきゃ背後にはせいぜい気を付けておけよ。マスター殿?」

 

 現れたのは再臨前の狴犴と、全く異なる容姿をした青年だった。金色の獣を思わせる瞳に水色をした頭の上にはぴょこぴょこと猫……、虎の耳が揺れている。

 服装も荊軻が身に着けるものに近い。中華鯖だろうか。あれ、でも狴犴は……?

 

「あ、あの」

「あ?」

 

 青年から事情を聞こうと藤丸が声をかけたとき、青年が動きを止める。

 青年の視線は藤丸から隣の道満へと移り、瞬間シミュレーションルームの空気が一気に重く変わった。

 突然のそれに藤丸は息を飲み込み、咄嗟に歯をきつく食い縛り悲鳴を飲み込んだ。

 

「おい、外道が何故ここにいる」

「え、ど、道満がなに?」

「ン、ンンンンン! 何故と申されましても拙僧、結人と共にカルデアに召喚された身なれば! カルデアに在るも当然! かと!」

 

 低く地を這うような青年の声と、正反対な道満の喜色に弾む声が余計にその場の異様さを際立たせた。

 破壊音。

 同時に起こった爆風に顔を腕で庇う。

 

「ンンンフフフハハッはあ!! まさかこのような形で顔を合わすことになるとは! なんたる計算外! そうかお前はあの記憶を有しておるか! 何とも可笑しなことよ! ははっはははッ!!」

「死ね、死ね死ね死ね死ね! 疾く死ね! 蘆屋道満!!」

 

 

 破壊された扉の向こう、廊下から少しずつ離れていく道満の笑い声と青年の憤怒の叫びが藤丸の耳に届いた。

 ぽつん、とシミュレーションルームに残され藤丸は思わずその場に座り込んでしまった。

 

「な、なんなの?」

 

「先輩! 無事ですか!?」

 

 爆発に気が付いたマシュがシミュレーションルームに現れる。どう説明したものかと、悩みながら藤丸は駆け寄ってくれたマシュの手を借りて立ち上がる。

 

『ンン、マスター。申し訳ありませぬが、さすがの拙僧もいつまでも此れなる獣を相手には出来ぬ故、可能ならば狴犴の再臨状態を戻していただきたく』

「え、わ、わかった!」

 

 マシュの背後からクルクルと飛んできた人形の紙から道満の声が囁いた。その言葉に藤丸は端末へ向かう。

 画面には先ほどの青年の姿が狴犴、として載っていた。

 それに困惑をしながら道満の言葉に従い狴犴の再臨状態を操作する。

 遠くから聞こえていた破壊音が止まった。

 

「せ、先輩……一体、何が……」

「うん、狴犴と道満のところに行こう。少し話をしなきゃだ」

「は、はい! お供します!」

 

 道満の式神が居場所を教えてくれた。

 どうやら狴犴という霊基は一つで二人の人格と姿があるようなのだ。そして第二再臨の姿の狴犴は何故か蘆屋道満を敵視し、視界に入れば必ず殺そうと向かっていく。

 

「英霊ってこういう形もあるんだなあ……」

 

 第一再臨の狴犴は道満ともむしろ仲良く過ごしているために扱いを考えねばと藤丸は大きくため息を吐いた。

 

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