今年の梅雨は例年より長く曇りと雨の入れ替わる日々が20日以上続いていた。
ア「......はぁ...」
自分が担当しているウマ娘。アドマイヤベガのため息が静かなトレーナー室に響き渡る。
星座を見に行けない日々は彼女のやる気を低下させる理由としては十分だった。
最初はプラネタリウムで満足していたが本物の星々を見られないのはつらそうだ。
ア「トレーナーさん、今日もトレーニングルームで練習メニューをこなせばいいかしら」
ト「あ、あぁ。その方針で行こう」
ア「わかったわ」
アドマイヤベガがトレーナー室を出て行く。
どうにかしないとな。
天候ばかりはどうしようも出来ないが自分に何かできないだろうか。
少し歩いてみよう。なにか良いアイデアが浮かぶかもしれない。
廊下を歩いていると2人のウマ娘がやってきた。
タ「やぁやぁトレーナーくんじゃないか。外の天気と同じでどんよりしているねぇ」
アグネスタキオン。視覚化出来ない感情や神秘を科学の観点から解明して身体強化に役立てようと特殊なアプローチをしているウマ娘だ。
マッドサイエンティスト然としているが彼女の理論は実用的な面も多く相談に乗ってもらう事が多い。
カ「...もぅ...タキオンさん。トレーナーさん...こんにちわ...」
タキオンに何か言いたげにしてから挨拶をしてきたのはマンハッタンカフェ。彼女はオトモダチが見える霊感が強いウマ娘だ。超常現象のエキスパートとしてアドマイヤベガの一件でアドバイスをもらっている。
ト「君たちなら...」
言いかけた瞬間タキオンが目を輝かせた。
タ「...ッ!!これは...!!実験の予感がするね...!!ククク...面白い事になりそうだ...!!」
カ「タキオンさん...。トレーナーさん、悩み事ですね。よければ準備室でお話を聞かせてください」
テンションが上がっているタキオンを横目にカフェが気を利かせてくれた。
ト「二人ともありがとう!」
タキオンとカフェに連れられて準備室に案内された。
カ「そこのソファーにどうぞ...飲み物はコーヒー___」タ「紅茶にしないかい?トレーナーくん?」
タキオンとカフェの目線が重なり火花が散らす。
タキオン「トレーナーくん?分かっているね?」
カフェ「トレーナーさん、自分の気持ちに正直になってください」
タ&カ「「どっち!?」」
これはもしかして修羅場というやつでは。
その後3人の前にはお茶の入った湯飲みが置かれていた。
以前カフェにお土産で渡した茶葉がまだあって本当に良かった...。
タ「プランCが用意されてあるとはねぇ、いやはや恐れ入ったよ」
カ「トレーナーさん、今度美味しいコーヒーを教えてあげます...」
本題に入ろう。
タ「悪天候続きで天体観測に行けないアヤベ君の調子が悪いと...」
カ「人の多い場所を嫌うアヤベさんには屋内施設は好ましくない...ですか...」
ト「トレーニングに影響が出るから海外に行くのは憚られる」
タ「ふゥむ...そうなると別世界...」
タ「...ハッ!!」
カ「タキオンさん?別世界なんて誰でも簡単に行けるものではないんですよ」
タ「いいや違う...!!諸君ッ!!VRウマレーターがあるじゃぁないか!!」
VRウマレーター、ウマ娘のトレーニング効率向上を目的としてトレセン学園が実験的に設備を購入したとの話は以前聞いた事がある。
しかしあれは運用に難があるとしていつの間にか姿を消していた。
ト「たしかに仮想世界なら...理事長に掛け合ってみるよ」
~理事長室~
理「承諾ッ!!ウマ娘と真摯に向き合う気持ちッ!!感動したッ!!」
た「えぇ!?あれはまだ不具合修正中なんですよ!!」
タ「ククク...安心したまえ。今回はあくまで試験、機械の調整は私が行うから何も問題ない」
た「不安定な機械を生徒に任せることは問題なんです!!」
理「たづなくんッ!!VRウマレーターをこのまま眠らせるには実に惜しいッ...!!」
た「ですが...」
ト「今回は私も同行します。大人がいれば大丈夫でしょう」
理「トレーナーが一緒なら安心ッ!!今後のモデルケースとして有用ッ!!」
た「はぁ...分かりました。トレーナーさん、こちらのカードキーをお渡しします」
渡されたカードキーにはレベル3と書かれている。
た「VRウマレーターを保管している場所は職員棟地下3階18室になります。職員用エレベーターを使用してくださいね」
早速行ってみよう。
~職員用エレベーター内~
エレベーターの階層ボタンにはB3Fなんて無いが...
カ「トレーナーさん、ここに模様がありますよ」
タ「どうやらそれがカードリーダーのようだねぇ」
カードリーダーにたづなさんから渡されたカードをかざすと音声案内が流れた。
EV「ユキ先階層ヲお申し付けくだサイ」
ト「地下3階でお願いします」
EV「......スキャン照合中...クリア...起動を開始シマス...」
タ「カードキーは分かるが監視カメラに声帯認証とは厳重だねぇ...」
~トレセン学園職員棟地下3階~
カ「まるで製薬会社が地下に作った巨大実験施設みたいですね...」
ト「えぇと18室...一番奥の部屋だ」
5分後
ト「ここだな」
スライドドア脇のカードリーダーにカードをかざすとドアが開いた。
天井6m程度の室内には人がすっぽり収まるサイズのコフィンが12基円形上に並んでおり半階上に制御室があるようだ。
タ「リアクションするのはもう疲れてきたよ。早速制御室に行ってみようじゃないか」
~VRウマレーター制御室~
20人程度が座れる席と機器類、正面上部には巨大なモニターがあり下部ガラスからコフィンを見下ろすレイアウトになっている。
タ「ふぅむ...これが制御端末かな」
タキオンがスイッチを入れると制御室内が明るくなり電子機器が動き出した。
AI「おはようございます、マスター。VRウマレーター管理AI、ミホノブルボンです。」
モニターにはミホノブルボンの姿が表示されている。
ト「ミホノブルボン!?」
ミホノブルボン、皐月賞、東京優駿の2冠馬だ。菊花賞ではライスシャワーに負けてしまったが完璧なラップ走行や高度な計算が可能でサイボーグではないかとの話が広がっている。
AI「正確にはミホノブルボンをモチーフとしたAI、となります。ミホノとお呼びください。」
タ「興味深い事は多々あるがここは置いておこう」
あまりに色々な事が起こりすぎて混乱しているがタキオンのおかげで冷静さを取り戻せた。
ミホノに事の経緯を説明する。
ミ「なるほど、状況は理解しました。それでしたらこちらのプログラムを推奨します。」
提示されたのは銀河鉄道の夜。銀河鉄道に乗車してはくちょう座から南十字座まで天の川銀河を間近から見られるシュミレーションだ。
これならアドマイヤベガも喜んでくれるに違いない。
ト「今日はもう遅いから今週末にもう一度集まろう」
ミ「始動時間承知しました、システムの再確認を実行しておきます。」
タ「トレーナーくん、アヤベくんを誘っておきたまえ。彼女がいないと始まらないからね」
ト「わかった!」
タ「私はここに残ってウマレーターを理解しておこう。トレーナーくんとカフェは先に戻っててくれ」
カ「タキオンさん、変なことはしないでくださいね」
タ「安心したまえ。少し調べるだけ、さ」
タキオンを部屋に残してトレーナー室に戻る事にした。
カ「アドマイヤベガさん...来てくれるといいですね...彼女はこういうの苦手でしょうから...」
ト「きっと大丈夫さ」
カフェと別れてトレーナー室に入るとアドマイヤベガがトレーニングを終えて戻ってきていた。
ア「おかえりなさいトレーナーさん。今日はもう終わりでいいかしら?」
ト「トレーニングは終了だ。それとちょっと話があるんだけど...」
ア「......何?」
ト「今週末、星を見に行こう」
ア「星を見に?天気予報だと今週中はずっと曇りか雨だけど...」
ト「VRウマレーターで仮想世界に星を見に行くんだ」
ア「ブイ...?何...?仮想世界...?ちょっと待って、一体何を言っているの...?」
アドマイヤベガに事の経緯を説明した。
ア「.........遠慮しておく。......時間が惜しいわ」
...の数から迷っている事が分かる。アドマイヤベガは迷ったら身を引く傾向にあるからこちらから手を引っ張らなければならない。
ト「...星を教えてほしい。君じゃないとダメなんだ」
ア「...ッ!!でも......」
もう一押し。
ト「アドマイヤベガがいないと、始まらない」
アドマイヤベガの顔を見据えて言葉にする。
言い切ったー!!自分ながら恥ずかしい!!
ア「...そこまで言うならしょうがないわ...」
ト「ありがとう!!」
こうしてアドマイヤベガを銀河鉄道(VRウマレーター)へ誘う事に成功したのだった。