とりあえず僕は、第1部隊のメンバーを集めて今、支部長室の前に立っている。
バガラリー見てたのにぃ、とか何とか文句をぶー垂れる全体的に黄色っぽい人がいるけど、今は無視無視。
コウタは分かりやすく反応を示しているけど、他の2人も同じように少し不満げな顔をしている。
・・・・・・分かってるんだよ。君達全員が今日休みの日だってことくらい。隊長なめんな。だからそんな目で僕を睨まないで下さいお願いします・・・・・・
時間は0923時と、まあそれなりに危なげのある時間だ。
「ごめんなさい!」
僕は、後ろに立つ3人に向き直って頭を下げた。
「皆今日が休みなのは分かってて、それを承知で呼び出しました。第1部隊のスケジュールの中に今日のコレが入り込んでて・・・・・・」
「良い、さっさとしろ」
色んなところから来る罪悪感に圧されて謝罪する僕の声を、ソーマは相変わらず無愛想な声のまま遮った。
「そうですよ。チャッチャと済ませちゃえば問題ありません」
「バガラリィ~・・・・・・」
最後の鳴き声は無視だ、無視。
それにしても、皆良い人ばっかりだなぁ・・・・・・。
こんな風に、例え休日でもちゃんと集まってくれるなんて。
何か、この前はカレルさんが召集命令を無視してフケたとか、そんな話を聞いたからなおさらそう思う。
時間は0925時。
ほんとゴメンね、と僕は言いつつ支部長室のスライドドアに向き直って4回ノックした。
「第1部隊隊長神谷・イリス、以下3名。召集命令により出頭しました」
僕は、事務仕事の時の声を作ってそう言った。
すると、カシュンと軽い機械音が鳴ると共にスライドドアが開いた。
中には、極東の策士(勝手に呼称)ことペイラー・榊支部長がいるのが見える。
「入って」
にこやかな声に促されて、僕達は支部長室に入った。
「いやぁ、休日なのに呼び出してすまない。少々、厄介な事態になってしまってね」
僕達が部屋に入るやいなや、僕達に席を勧めることもすっ飛ばして榊支部長は話し始めた。
「君達はアナグラに配備されている航空機は何があるか知っているかい?」
その質問に、アリサが答えた。
「兵員輸送用のヘリコプターが 23機、連絡用の機体が6機だったはずです」
「うん、君達に直接関わりのある方面ではそれが正解だ。だけど、それだけじゃない。ここアナグラには他にも偵察機や長距離移動用の輸送機だって配備されているんだ」
あれ? 長距離移動用の輸送機ってあれは本部だけが運用してるんじゃなかったっけ? アリサが極東に来たときに乗ってたあのデカい奴のことだもんね?
榊支部長の発言に、僕は少し首を傾げた。
で、忘れていたけどこの支部長ってかなり目敏いんだった。
「アナグラはね、世界的に見てもかなり特異でしかも研究対象として有用な最前線なんだ。だから、それに伴う形で色々な方面での権限が今や本部に続いて強くなっているんだ。例えば、さっき言ったような輸送機の運用とかね」
榊支部長は、さり気なく僕の方を見据えながら説明した。
はぁ、凄い。そんなこと知らなかった、本当に。
「おっと、話が脇に逸れてしまったね。このアナグラには、ヘリコプター以外にも航空機は配備されていて、その最たる例が偵察機だ。前時代に開発運用されていた亜音速機でね。これらが、昨日撃墜されてしまった機を最後にこの支部から消えてしまったんだ」
この意味、分かるかい? と榊支部長は僕達に問いかけてき。
「あのぉ」
コウタだ。
「そもそも偵察機って何やってるんですか?」
尤もな質問です、コウタ君。僕も分からなかったの。
「おっと、また教えていなかったか。偵察機は聞いての通り周辺状況の偵察を任務としているんだ。レーダーで捕らえられないような陰に隠れている荒神でも、いる限り視覚認識からは逃れられないからね」
「つまり荒神探しが任務ってことだな」
「それだけじゃない。例えば、レーダーの索敵範囲外のエリアの警戒も偵察機が行っているんだ。それに、新たに発見されたエリアの下見や接触禁忌種の監視も偵察機が行う」
何か、僕達が知らないところでゴッドイーターじゃない人達が、ある意味僕達以上に命を懸けて戦っている、と言うことを知るのはこれが初めてな気がする。
あれ・・・・・・?
昨日墜とされたのが最後の機体って言った?
監視任務、それをする機体が残っていない、接触禁忌種・・・・・・そう言うことか。
「つまり、偵察機の支援が無くなってしまった今、僕達が接触禁忌種がレーダーに捕まる度に片しに行かなきゃなきゃいけなくなった。そう言うわけですね?」
「理解が早くて助かるよ」
「・・・・・・? ドユコト?」
コウタは何となく話についていけていないみたいだ。
来た時から座学苦手だったもんなぁ・・・・・・
「ええっとね・・・・・・今までは偵察機が接触禁忌種の行動を監視していたから僕達も先手を打つことが出来たんだ。だけど、偵察機がいなくなったら先手を打つどころか迂闊に出撃も出来なくなるの。だから、せめて手の届く範囲にいる荒神だけでもってことで・・・・・・」
僕はコウタから視線を逸らして、榊支部長を見据えた。
「そう、緊急即応待機なんだ」
コウタ以外の全員が腑に落ちた、と言った顔をした。
コウタはまだ頭の上にでっかい?を浮かべている。
「相手がどこにいるか分からなくなったから待ちかまえる、そう言うことだ」
ソーマがこれでもかって位に噛み砕いて要約した説明をした。
「ああ!」
コウタの方もどうにか理解したみたいだ。
「・・・・・・ところで、待機中私達に課せられる制限はあるんですか?」
しばらくしてアリサがそう訊いた。
言われてみればその通りなんだけど、全然気が付かなかったや。
「ん! 実に良い質問だね。制限に関しては、まぁそうだね・・・・・・しばらくは他のミッションを受けられないってところかな。あぁ、勿論緊急を要する場合は例外も認めるけどね」
「訓練場の使用はどうなるんですか?」
「それに関しては問題ない。普段通り使ってもらって構わないよ。尤も使う機会があれば、の話だけどね」
「分かりました」
「ふむ。他に訊きたいことはあるかい?」
僕は無言のまま首を横に振った。
ソーマも特にない、と答えてそのまま。
コウタも特にないみたいで、黙ったままだ。
「特にないみたいだね。よし、ではお開にしようか」
召集~出撃までの手順を簡単に説明した後、榊支部長はそう言った。
少し砕けた敬礼も付いてくる。
僕達は榊博・・・支部長に敬礼を返して退室した。
しばらくして・・・・・・
「この任務ってさ、敵が現れたらすぐ行かなきゃならないんだろ? だったら、敵を発見するまで俺達はどうしてればいいんだ?」
コウタがそう訊いてきた。
「まあ、召集がかかってすぐに集まれるようにはしたいね」
僕はそう答えた。
「じゃあ自室待機でも良いのか!?」
コウタが目に見えて嬉しそうな表情をしながら詰め寄ってきた。
それが訊きたかったのか。
僕はそう思いながら、黙ってポリポリと後頭部をかいた。
「うぅ~ん・・・・・・召集がかかって1分以内にヘリポートで合流できるのなら構わないけど」
「ああ、それなら問題ない!」
コウタは明るい声でそう答えたんだけど、僕が遠回しにダメって言ったのが通じなかったようで、ほんの少しショックを受けた。
僕の意をくんでくれたのか、アリサとソーマはうんざりと言った風に溜息をついた。
その溜息の中には、僕に対する同情も含まれていて、それに気付いた僕は改めて変なところで強く繋がっている第1部隊の凄さを実感した。