二つ名鬼神   作:ザタキシード

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事情

 

緊急即応待機命令が、正式な形で第1部隊に下ったのは次の日の朝だった。

 

僕達第1部隊のメンバーは全員、支部長室に集められて、そこで待ちかまえていた榊支部長がいつもとは違う空気をまとって僕に命令書を渡した。

 

「よく考えたら、こういう書類手続きもいるみたいでね。いやぁ、失念だったよ」

 

なんて、榊支部長は苦笑しながら言っていた気がする。

 

成る程、あの人がツバキさんに支部長職を押し付けたがっていた理由の1つが何となく分かった気がする。

 

あの人、書類仕事が苦手なんだと思う。

 

それと比べて、ツバキさんの書類仕事の素早さと言ったら凄まじいものがあったりする。

 

だって、普通3日はかかる部隊スケジュール表の作成をあの人1人で、しかも2日とかからずに片してちゃうんだもん。

 

押し付けたくなる理由も、見てしまったら納得せざるを得なかったりするわけで。

 

まあ、そんなことは正直僕達には関係がないわけで(実はあったりする)。

 

僕はエントランス1階にあるソファに腰かけていた。

 

珍しくジーナさんもいる。

 

「・・・・・・お疲れさまです?」

 

社交辞令的に、僕はそう声をかけた。

 

「・・・何で疑問形なの?」

 

無視してほしかったかな、そこは・・・・・・

 

「すみません、あまり慣れてないんで。ははは」

 

苦笑しながら、僕はやんわりと弁明した。

 

本当に、この人とは話す機会がない。

 

全然話さないわけじゃないんだけど、何と言うか・・・・・・そう、話す時と話さない時の間隔が凄まじいんだと思う。

 

うん、そうだ。

 

「アナタ達、今日は任務入ってないの?」

 

「え? ええ、まぁ。まだ、と言うか何て言うか・・・」

 

「ハッキリしない様子のね」

 

呆れた、と言わんばかりの表情でジーナさんは言った。

 

いや、言って良いのかどうか迷ってるんです。

 

・・・・・・ま、良っか。

 

「ん~と、緊急即応待機命令が下っちゃいましてね、僕達の部隊に。だから、任務があると言えばあるし無いと言えば無いんで、それでどう答えたらいいか迷っちゃったんです」

 

「あぁ・・・・・・この間墜とされた偵察機のことで?」

 

「知ってたんですか?」

 

正直意外だった。

 

僕もそこまで情報通ではないけど、人並み以上にはその手の情報が入ってきやすい立場だ。

 

その立場にいながらそのことを知らなかったのに、何でこの人は知ってるんだろうか?

 

「何で知ってるの? って顔」

 

「えっ?」

 

「アナタ、顔に出しすぎよ。すぐに分かるわ」

 

ジーナさんが可笑しそうに小さく笑った。

 

そして真顔に戻って話し始めた。

 

「その機体に乗ってたパイロットがね・・・・・・」

 

まさか・・・・・・恋人?

 

そう思わせるのに充分すぎるくらいに哀しげな表情でジーナさんは言った。

 

「・・・・・・パイロットが?」

 

僕は少し遅めの相槌を打った。

 

「私の・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「従兄弟だったのよ。・・・・・・私の方がちょうど2つ年上でね、本当の弟みたいな子だったんだけど・・・・・・この間戦死報告が届いてね」

 

「それで知ったんですか」

 

「ええ。・・・さすがに泣いたわ、あの時は」

 

ジーナさんでも、泣く時ってあるんだ・・・・・・

 

「私にも喜怒哀楽くらいちゃんと揃ってるよ」

 

少し不機嫌そうな声がして、僕は慌てて顔を上げた。

 

そこには、やはり少し不機嫌そうな顔をしたジーナさんがいて、僕のことをジッと睨んでいた。

 

「アナタ、私のことをいったい何だと思ってるわけ?」

 

あちゃぁ、ヘンなところで気付かれてヘンな形で解釈されちゃったかぁ・・・・・・弁明弁明。

 

「いや、ジーナさんが感情を分かりやすく示す姿が想像できなくて。ほら、いつもポーカーフェイスじゃないですかジーナさん」

 

「・・・・・・これでも日々明朗快活に過ごしてるつもりなんだけど?」

 

「いや、ジーナさんが泣くって言う状況そのものが想像しにくいんです」

 

「まぁ、それはそうなんでしょうけど」

 

「まぁ、はい・・・・・・あの、何と言うか、その・・・・・・」

 

何かを言おうとしているんだけど、言葉が見つからなくて詰まってしまう。

 

「?」

 

「ええっと、その・・・・・・僕が言う筋合いはないんですけど・・・・・・愁傷様でした」

 

「・・・・・・良いわよ、そんなに改まらなくても」

 

儚げな声が空気に溶ける。

 

ジーナさんがソファから腰を上げて、階段の方へ歩き出した。

 

「・・・・・・あの!」

 

僕は、堪えかねて言った

 

「ん? 何?」

 

振り返るその表情は、いつにも増して弱々しい。

 

「・・・・・・泣ける内に泣いた方が良いですよ」

 

「どうしたの、急に?」

 

至って普通を装った声が返ってくる。

 

「あの、ジーナさん・・・・・・まだ本当に泣けてないんじゃないですか? 目が辛そうですよ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・涙に意味はない。涙は流してこそ意味がある。溜めるものじゃない。僕の恩師の受け売りです」

 

ジーナさんは何も言わずに、踵を返して行ってしまった。

 

思った以上に小さな肩が、小刻みに震えているように見えた。

 

あの人が歩いた場所を、数滴ずつ間隔をあけて小さな水溜まりが追いかけていた。

 

泣かせちゃった・・・・・・のかな?

 

ジーナさんの背中が見えなくなった後、僕は自問した。

 

また女の人を泣かせちゃったのか? と。

 

アリサに続いて、ジーナさんまで泣かせたとなると、いよいよ僕の男としての様々が危うい。

 

女の人を泣かせる、と言うのはいかなる事情であれ精神と心臓に悪い。

 

女の子を泣かせるのはアリサが最初で最後だって決めてたはずなんだけどな・・・・・・

 

僕は硬いソファに深く腰をかけ直し、天井を仰ぎながらそう思った。

 

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