僕達がロストした部隊を見つけるのにかかった時間はさして長くはなかった。
任務を開始してから2日後の2130、混成部隊の作戦エリア(つまり嘆きの平原)から約20㎞南下した所にある、旧市街地にある辛うじて崩壊していない建物で僕達は彼等を見つけ出した。
そこに行き着くまでの間に遭遇した荒神は、ハガンコンゴウ、ディアウス・ピター、テスカトリポカなど、それなりに強力な個体だった。
ハンニバルやスサナオも見つけたのは見つけたけど、あれらと戦うのが目的じゃなかったから、やり過ごした。
既に、レーダーを始めとした電子機器と名の付く類の物は全て使えなくなってしまっていた。
彼等を見つけたとき、僕は
「やっと見つけたぁ・・・・・・」
と言いながら、安堵しちゃってその場に崩れてしまった。
「第1部隊選抜捜索班だ。お前等の捜索と救助を命令されている」
崩れ込んでろくに口の聞けなくなっていた僕に替わって、ソーマが言った。
「来てくれたか。・・・・・・助かるぜ」
返したのはタツミさんだった。
僕はへたり込んだままタツミさんの方を見て・・・・・・思わずギョッした。
タツミさんの全身が、風化したボロボロのペンキみたいな質感を伴った濁った赤茶色に汚されていたのだ。
最初、僕はそれが何なのか分からなかった。
ただ、見た瞬間にゾッとした。
そして、僕はあることに気が付いた。
混成部隊のメンバーは全員分頭に入っている。
そして、目の前に立つ彼等を見て、頭の中のリストと比較していく。
タツミさん、カノンさん、ブレンダンさん、アネットちゃん、ジーナさん、フェデリコ君、カレルさん・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「小川・・・・・・小川・シュンはどこだ?」
ソーマの問いかけに皆の表情が、ただでさえやつれて暗かったのに、さらに曇った
そして、ソーマがその質問を口にする直前、僕は全てを悟った。
・・・・・・コレが・・・・・・・・・そう言う感覚、なのかな・・・?
「・・・・・・アイツは・・・」
その時、ガチャンと音を立てて僕達の足下にナニかが滑り込んできた。
・・・・・・それは僕達が着けている腕輪だった。
「シュンはタツミさんが介錯したわ」
言い淀むタツミさんに替わって、ジーナさんが真実を告げた。
その瞬間、その場の空気が凍てついたような錯覚を僕は感じた。
え? 何て?
「どう言うことだ? シュンは重傷だ、と言うことは聞いていた。たが・・・荒神化するほどのものじゃなかったはずだ」
コウタの表情も険しい。
場の空気が、超特急で悪くなっていくのが肌の感触だけで分かる。
「・・・・・・すまん、さっきのは忘れてくれ」
途端にソーマが弱々しい声でそう言った。
アネットちゃんやカノンさんが、今にも泣き出しそうな顔をしている。
カレルさんも、悔しそうでは言い切れない表情で下を向いている。
その場を包み込む空気が、鉛のように重たい。
「・・・・・・あ、あのぉ」
もうそろそろ、僕達が来た目的を果たさなきゃいけないな、と思って僕は口を開いた。
一斉に皆が僕の方に振り向いた。
僕に向ける視線に若干の棘があるのは致し方のないことだろう。
「まず、混成部隊の被害状況を聞かせて下さい」
平静を装って訊くと、何人かが顔をしかめた。
「・・・小川・シュンが死亡。重傷0、軽傷が残り全員だ」
タツミさんが答えた。その声に、いつもの明るさは一切含まれていなかった。
「分かりました。じゃあ、詳しい報告はアナグラに戻ってからにしましょう」
「・・・・・・だな」
その晩は、彼等が隠れていた建物の中で過ごした。
ついでだと思って、僕はタツミさんやジーナさんなど比較的落ち着いている人達に事の経緯を訊いた。
話をまとめるとこうだった。
彼等の元々の任務は、嘆きの平原に出現した複数のハンニバルの掃討だった。
その任務の最後に、シュンがヘマをして腕を折った。
辛うじて任務は完遂できたけど、回収ヘリの到着を待っている間に(榊支部長がテープで聞かせてくれた辺りだ)未確認の敵が出現。
部隊は撤退を余儀なくされたわけだけど、敵の追撃が執拗だったために撃退からの離脱に移行。
何とかやり合って、その敵をダウンさせるまでにいたって最後の足止めにシュンがホールドトラップをいくつか敷設しているときだった。
敵が復活して、手近なところにいたシュンに襲いかかった。
この時、シュンの右腕が完全にやられたそうだ。
敵が運良くホールドトラップに捕まって、部隊はその場を離脱することには成功した。
で、移動し続けてこの建物を見つけ、ここに隠れることにした。
その晩、何の前触れもなくシュンの持って行かれた右腕が荒神化した。
タツミさんが駆けつけてシュンの介錯をした。
その次の日の晩(つまり昨日の晩)、僕達が彼等を見つけた、とこんな流れだ。
説明は、途中からタツミさんではなくジーナさんが受け持っていた。
やけに静かで、やけにポッカリとした感覚が身にのしかかる、そんな嫌な夜だった。
・・・・・・そして、そんな嫌な夜が明けた。
僕達は、混成部隊のメンバーとシュンの腕輪を共にして回収ポイントへ向かって歩き出した。
異様なほどに足取りの重たい、嫌な行軍であった。