「っ! 何で、こんなことをっ!?」
僕はどうにか出来ないものかと必死にもがいた。
「無駄だよ、ソレはシオちゃんが暴れても大丈夫なように僕が1から設計した拘束具だ。神機使いの力じゃどうも出来ないよ」
「っ! だからっ 何で!?」
「理由は簡単さ。念のため、と言うやつだよ」
何でもない、さも当たり前、そう言った口調で榊支部長は言った。
「まあ、今のところ君の精神状態も安定しているみたいだし、まだ安心していて良いよ」
安心して良いって、何も安心出来る要素が無いんですけどちょっとぉ!?
「そもそも何で腕輪が・・・・・・?」
僕にとって一番の疑問の固まりを口にした。
「分からない」
若干の悔しさを含んだ声色の返事。
「分からないって・・・・・・」
「逆算から根元に辿り着こうとしても、やはり限界という物があってね。例えば、君の腕輪の話でいくと、君に何らかの問題が発生して、その結果腕輪が外れてしまった。さて、何らかの問題って? と言う話になるんだ」
「・・・・・・」
沈黙が僕の納得と見なされた。
榊支部長は続ける。
「まぁ、それなりの仮説は立っているんだけどね。少し前のソーマ君からの報告でね」
「?」
何、そのソーマからの報告って?
「・・・・・・それはそうと、イリス君に問題だ」
「?」
何を訊かれるんだろう、といぶかしみを含めてそう思って僕は心持ちやや身構えた。
後ろ暗いとこは何もないけど、やはり緊張してしまう。
「君達神機使いは、選ばれた時、最初に何をして何をされたかな?」
「適合試験と腕輪の装着です。台にのっけられた神機を持って腕輪をガチョンってはめられて・・・・・・めちゃくちゃ痛かったです」
「うん。じゃあその腕輪、正式にはP53アームドインプラントだけど、コレの役目は何かな?」
「・・・・・・神機とゴッドイーターの中継役です。それと、偏食因子の投与・・・だったかな」
「その通り! 君達が付けている腕輪からは、定期的にP53偏食因子が静脈注射されている。・・・ソレは何でかな?」
「神機からの捕食を避けるためです」
「よく分かっているね。・・・・・・少し話が逸れるんだけど、神機って言うのは前にも言ったことがあるけど、これらもまた荒神の一種だ」
何か始まった・・・・・・
「荒神の一種と言うことは、即ちオラクル細胞で構成されコアを持つと言うことだ。何の処置もされていない人がそれに触ったりしたら、たちまちその人は神機に捕食されてしまう」
「・・・・・・」
「だけど、さっきも言った通り神機は荒神の仲間だ。つまり、神機は神機種と言う名の荒神のカテゴリーに含まれて、全体である程度決まった偏食傾向を持っているんだ。その1つが・・・・・・」
「・・・・・・P53偏食因子」
「着いてこられているようで何よりだ」
「さすがに常識ですよ、それは」
「よろしい。じゃあ続けるけど、さっき1つのグループとして神機を捉えたけど、厳密に言えば神機も元にするコアによって個体差があるんだ。何せ、元のコアが違うやつの方が多いからね」
僕は既に何も言わずに頷くことに専念することにしていた。
「だから、それぞれの神機に適合する人間じゃないと神機使いになれないんだ」
「・・・・・・はあ」
「さて、そんな神機を人間の支配下にたらしめる物質がさっきから何度も言っているP53偏食因子だ。
これと君達の遺伝子的な要因のおかげで、君達は神機に捕食されずに済んでいる。そして、これがあるおかげで君達の命令が神機のコアに伝達されるわけだ」
何が言いたいんだろう、このオッチャンは? 僕は既にその感想を抱いていた。
それでも、榊支部長の説明は止むことを知らないままでいた。
「さて、ここで少し話は変わるけど、イリス君」
「はい何でしょう?」
「君は、今までに何回本当に危険なことをやらかしてきたかな?」
この人の口から、やらかす、と言う単語が出てくることの方が印象が強かったりする。
それにしても、本当に危険なことか・・・・・・
「大きいのなら2回ほど・・・・・・小さいのを含めたらもう分かりません」
「それはそれで良くないんだけど、今は良しとしよう。じゃあ、その2回って言うのは何かな?」
「ハンニバルの時と、リンドウさんの神機握った時です」
「そう、それだよ!!」
突然の大きな反応に、僕は思わずビクッと跳ねようとした。やけに細めの固定ベルトが喰い込んで痛い思いをするだけに終わった。
「いっつぅ・・・・・・」
「・・・・・・大丈夫かい?」
「・・・・・・はい、続けて下さい」
榊支部長が少し息を吸った。
「君がリンドウ君の神機を握った時。あの時、本来君は彼の神機に捕食されて死ぬはずだったんだ。それなのに今もこうして生きている。とても稀な事象だ。本来あり得ないことなんだ。じゃあ、そのあり得ない事象を実現させるに至った原因は? ここで前のソーマ君の報告なんだけど、君の発する雰囲気というか気配が本人に近付いているか、もっと酷い、とね」
「はぁ?」
あまりにも変なことを言われて、僕は思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまった。
ソーマは何が言いたいんだろう?
「最初言われただけじゃ分からないよね。私も分からなかったんだ、言われた時は。
でも、今回の一件で何となく察しが付いたんだ。ソーマ君に近い存在、それはつまり荒神に近しい存在と言う意味では? とね。それで私はすぐに仮説が立てられたんだ。君の中の偏食因子が彼の神機を握った時、突然変異を握った起こしたのではないのか? ってね」
本当に何が言いたいんだろうか?
何度その疑問が浮かんできたことか。
「ここで、君の質問の答えだけど。君の中に発生した変異型の偏食因子と腕輪が若干の拒絶反応を示していた」
「?」
「あぁ、分かりやすく言うとだね。自分の家に帰ったら、知らない他の人がいた。おそらく、君の体の中ではそれと似たことが起きているんだ」
「・・・・・・何となく分かりました」
「そこに、この間の戦闘時に受けた敵のオラクル細胞が両者に干渉。拒絶反応の結果、腕輪が外れてしまうに至った。まあ、大方そんな感じだろうね。・・・・・・あぁ、それとこの仮説によると君の神機の調子が悪い理由も説明出来るんだけど、聞きたいかな?」
「何ですか!?」
身を起こすと痛い思いをする、と言うのは分かりきっていたので、僕は首だけをどうにかもたげて訊いた。
「簡単なことさ。君達新型に然り、コウタ君を始めとした旧型に然り、どちらの神機もP53偏食因子に対応するように作られている。それが、突然変な偏食因子にすげ替えられたら、ちゃんと動かなくなるのも自明の理だろう」
「えっと、じゃあ・・・僕は神機使いの引退はまだ考えなくても良いんですか!?」
「それはまだ何とも言えないね」
え? 何で?
僕の顔に出ていたのだろうか、榊支部長が理由を口にし
始めた。
「何せ、この話は全て仮説の上に成り立っている話だからね。仮説を証明しない限りは、どれもいつまで経っても机上の空論のままなんだ」
少ししたにずれた眼鏡を中指で押し上げながら、榊支部長は言った。
そして、突然僕に背を向けてカートを触りだした。
怪しげな音が聞こえるのは、きっと気のせいであって欲しいと願っている僕がいる。
だけど、なかなか不安に押し勝てなくて
「何を・・・しているんですか?」
僕は予想以上に情けない声を出していた。
「何って、準備だよ」
そして、博士が僕の方向き直った。
その両の手には良く分からないけど、とりあえず何かの医療器具が握られていた。
「怖いんですけど」
そう怖い、すごく怖い。まとっているマッドサイエンティストオーラが尋常じゃないんだよぉ!
しかも、光源の位置関係で榊支部長の顔に影が差してて怖さが数倍されているのだ。
泣く子が見たら気絶するレベルだよ!
「何、君の血液と皮膚を少しずつ拝借させてもらうだけさ。それとも、君は先端恐怖症だったりしたのかな?」
「違いますけどっ」
問答の内に、ちゃっかり腕をアルコール消毒をされていたりする。
「じゃあ問題ないね」
博士は笑顔のまま僕の腕に注射針を突き刺した。