二つ名鬼神   作:ザタキシード

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期限

 

地下ヘリポートに、 僕らを乗せたヘリが着陸した。

 

スライド式のハッチが開くと、 外からアナグラ特有の臭いが入り込んできた。

 

人が生きている、そんなことを実感させる臭いだ。

 

「・・・・・・・・・・・・ただいまぁ」

 

誰に言うわけでもないが、僕はいつも任務から帰ってきたらそう言っている。

 

それを言うことで、生きて帰ってこられた、と実感できるからだと思うけど、真意は僕にも分からない。

 

僕は重たい神機を担いで、神機管理庫へ歩いた。

 

先に行った2人は既にエレベーターの前に立っていた。

 

それでも僕は、ノコノコと自分のペースを乱さずに歩き続けた。

 

神機管理庫の中に入ると、いつも通りリッカちゃんが笑顔で迎えてくれた。

 

僕も笑いながら、ヒラヒラと手を振って返事をする。

 

「お帰り。 また随分とボロボロになってきたね、 キミも、キミの神機も」

 

彼女は腰に手を当てて、ある種の感動を示すような口調で言った。

 

「リッカちゃぁん」

 

そんな彼女に僕は弱々しく口を開いた。

 

「ん、何?」

 

「更に神機が言うことを聞かなくなっちゃった。今日は盾が開かなくなったし、スイッチも1段と遅くなってる」

 

そう訴えると、彼女は 真っ青になりながら聞き返した。

 

「え、盾が開かなく、なった・・・・・・?」

 

しまった、僕のバカ! この舌足らず!

 

「あ、いや、リッカちゃんの整備不良とかじゃないとは思うんだけど」

 

僕は慌てて、訂正を入れたのだが それがかえって彼女を混乱させた。

 

「そんな・・・・・・・・・・・・スイッチ時のスライドパーツは私特性のやつを組み込んで対応してたのに・・・・・・ それに盾が開かなくなったって・・・・・・」

 

彼女は、そう下を向きながらブツブツと考察を始めた。

 

僕のこの訴え自体は、彼女は前から知っていた。

 

と言うより、喋らされた、の方が正しい。

 

傷の付き方が最近おかしい、と突然言われ誤魔化そうとしても、ことごとく問いただされたのだ。

 

そう言う経緯のもと、彼女は更に神機整備に力を入れはじめ、挙げ句の果てには オリジナルパーツを開発して実戦運用させるまでに至ったのだ。

 

そう言う彼女の努力を知っているから、尚更この神機の動作不良が気になる。

 

この原因は、彼女の仕事には由来しない。

 

それら、僕も胸を張って言える。

 

僕も一端の技術者だから、彼女の整備の信頼度の高さは理解している。

 

なら原因は何だ、と訊かれれば返答に窮してしまうのだが。

 

「まあ、もう一度最初から見直してみるよ。後は私に任せて、キミは休んで」

 

リッカちゃんにそう言われて、僕はエントランスまで戻ってきた。

 

ほかの部隊のメンバーたちはまだ帰ってきていないらしい。

 

人がいないと、ここはこんなにも広いのか。

 

そう思わせるのに十分な空間が、エントランスに出来ていた。

 

「あ、イリスさん! お疲れさまでした。帰還報告入れておきますね」

 

「あ、ヒバリさん。 有り難うござます」

 

いつものやりとり、だけど僕としては一刻も早く自室に戻りたかった。

 

色んな意味で疲れていたのだ、僕は。

 

エレベーターの前に立つと、丁度下から上がってきたのが止まった。

 

中から出てきたのはソーマだった。

 

「ソーマ、お疲れさま」

 

僕はそう微笑んだ。

 

「あぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ソーマも普通に返してくれたけど、何か考えるような沈黙がついてきた。

 

「どうかした?」

 

僕は訊いた。

 

「・・・・・・・・・・・・いや、何でもない。気にするな」

 

彼はそう返してきた。

 

返してきたのだが、それで、気にするな、と言う方がいささか無茶じゃないでしょうかソーマ君。

 

でも、ここで追求しようとも思わなかったし、まずそんな気力もなかったので、そのまま僕はエレベーターに乗り、自室まで戻った。

 

自室に戻ると、僕は真っ先にベッドに飛び込んだ。

 

バフッとした、さして柔らかくない無愛想な反動が僕を迎え入れた。

 

だけど、僕はこの感触が気に入っていた。

 

昔、僕が神機使いになる前までいた児童用護施設のベッドは もっと酷かったからだ。

 

それと比べれば、ここのベッドは善意と良心の塊に天女の加護を施したようなものだ。

 

「・・・・・・・・・・・・キツカッタナァ」

 

僕はそう、小さく独り言た。

 

そう、キツかったのだ、今日対峙したあの新種の相手は。

 

相手の戦闘力はさることながら、僕の神機がぜんぜん 言うことを聞かないことが、僕を参らせていた。

 

「・・・・・・・・・・・・ボクガキライニナッチャッタノカナァ」

 

半ば心が抜け落ちた心境で、再び独り言た。

 

このまま、疲れに任せて寝てしまおうかな、と思ったときだった。

 

僕の部屋のインターホンが鳴った。

 

誰だろ、のんびりとした思考回路でそう思いながら僕はスライドドアまで歩いた。

 

『や』

 

外にいたのはリッカちゃんだった。

 

『話したいことがあるんだけど、良いかな?』

 

「あ、ちょっと待ってて」

 

僕はそう言って、一度部屋を見渡した。

 

イカガワシいもの、見られて困るもの、 掃除できていないところ・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・無い、よね。

 

うん、大丈夫だ、問題ない。

 

「入って良いよ」

 

僕がそう言うと、予定調和の如く良いタイミングでドアが開いた。

 

「お邪魔しまーす」

 

「どうぞどうぞ。リッカちゃんが僕の部屋に来るなんて珍しいね。 あ、そうだ、お茶が良い? それともコーヒー? あ、冷やしカレードリンクもあるけど」

 

僕は、簡易の台所をパタパタと動き回りながら訊いた。

 

「ありがと。じゃあ、冷やしカレードリンクで」

 

「はいは~い」

 

返事をしながら、僕は下の棚の中から箱詰めにされた件のドリンクを引きずり出した。

 

そして・・・・・・

 

「ところで、僕に話したいことって?」

 

冷やしカレりドリンクを出しながら僕は訊いた。

 

「うん。キミの神機のことなんだけど・・・・・・気を悪くせずに聞いてくれるかな?」

 

深刻そうな顔でそう告げられて、僕は身構えた。

 

返事はもちろん

 

「良いよ、僕も気にしてたし」

 

あんな事になって、気にしない方がおかしい。

 

出来ることなら真相も知りたい、例えどんな結果であっても。

 

僕は話すように仕草で促した。

 

「えっとね・・・・・・・・・・・・ 現段階で確実なのは、神機そのものに異常は見られなかったってこと。 基本分解も、完全分解をしても何も見つからなかったんだ」

 

「・・・・・・・・・・・・うん」

 

正直、ショックだった。

 

卑怯だけど、神機の整備不良だったら僕には何の問題もなかったのに、とか思っている自分がどこかにいたのだ。

 

だけど、その可能性は案外早く、そしてあっさりと消された。

 

「じゃあ、原因は神機じゃなくて僕の方にある、そう言うことだね?」

 

「・・・・・・そうなるね」

 

神機が無罪なら、使用者たる僕の方に問題があるに決まっているじゃないか。

 

最後まで、図々しく神機に責任を押し付けようとしていた僕自身に、少し腹が立った。

 

「ん~、参ったなぁ・・・・・・ 僕自身に問題があるっ て言われてもなぁ・・・・・・・・・・・・急に適合率が凄く低下した、 とかそんな感じのかな?」

 

「多分そんな感じだと思う。ただ、何でそんなことになったのかが、全分からないんだよね」

 

「・・・・・・・・・・・・ヤッパリ、キノセイジャナカッタノカナ」

 

マズい、口に出てしまった!

 

聞こえちゃったかな、 聞こえちゃったよね!?

 

「ん?」

 

あぁ、やっぱりぃ!

 

何とかして誤魔化さないと。

 

「あ、いや、何でもないよ。ただの独り言だから、気にしないで?」

 

苦しいかな、誤魔化せた、かな?

 

「う、うん・・・・・・?」

 

うぅん、まあその場凌ぎくらいにはなったかな。

 

「じゃあ、話をまとめると、 神機の動作不良は整備不良に由来するものじゃなくて、使用者である僕の方に何らかの原因がある、って言う感じかな?」

 

「言い辛いけど、そう言う結論に至ったよ」

 

真剣な顔で彼女は頷いた。

 

「早くも引退を迫られることになるなんてねぇ・・・・・・・・・・・・ ちっとも考えてなかったや。 引退はゲンさんくらいの歳になってからだって思ってたから」

 

半ばヤケになって、そう口にした。

 

だけど、リッカちゃんはそんな僕にちゃんと接してくれた。

 

「私の方でも、全力を尽くしてみるよ。 完全に動かなくなったときが、キミの神機使いとしての限界だけど、 それまでは私も精一杯頑張ってみる」

 

そう言って、リッカちゃんは冷やしカレードリンクを飲み干した。

 

僕にとって、彼女のこういう真摯な態度は凄く嬉しいものだった。

 

もう少し、神機を振り回そうかな、心からそう思えるようになるのだ。

 

「うん、有り難うね、リッカちゃん」

 

思った以上に自然と、明るい声が出せた。

 

「こっちこそ、任務帰りで疲れてるのに ゴメンね?」

 

「気にしないで、凄く大事なことだし」

 

「うん・・・・・・じゃ、私はこの辺で」

 

「ばいば~い」

 

僕はそう言って、廊下まで彼女を見送った。

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