あれは、一体誰だった?
今更ながら、俺はそう思った。いや、そう思わざるを得なかった、の方が正しい。
自室から出て、エントランスに上がるためにエレベーターに乗った。
エントランスに着いて、エレベーターを出た瞬間にアレとはち合わせた。
あの気配は尋常ではなかった。
見た目は確かにイリスその人なのに、発する気配や雰囲気はまるで別物。
もはや、別人と呼ぶことすら怪しい。
俺としたことが、アイツと会った瞬間に飛び退きかけた。
俺の本能がヤバイとけたたましく叫び散らすのだ。
こいつはヤバイ、マトモじゃない、と。
ここ最近アイツが不調なのは承知している。
前に一緒に任務に行ったが、動きが鈍くなったというか神機の扱いがままならなくなっていたというか、とにかく変だった。
アイツらしくない。
その不調が始まる頃と同時期に、アイツはさっきみたいな雰囲気を時たま発するようになり始めた。
あの雰囲気・・・・・・・・・・・・
まるで俺に似ている。
いや、もしかしたら俺以上にアイツは人間からかけ離れたところにいるのかも知れない。
アイツは、アイツの中に別な何かを内包している。
何かとは、恐らく俺の中にある化け物と似た類の奴だろうが。
とにかく、このままだとお互いに危ない。
任務中にアイツの不調が来たときも然り、同じ状況でアイツが狂ったりしたときも然り。
・・・・・・ったく、俺は。
アイツの中に化け物がいることを勝手に確定事項にしてやがる。
失礼万全だな。
まあ、何にせよ早く手を打たないといけないことに変わりはない。
しゃくだが、榊のオッサンにでも聞いておくか。
あのオッサンなら、なんか良い考えでも思いついてくれるだろう。
他力本願なのは、我ながら情け無いが今は仕方がない。何せ俺は何も情報が揃っていない。
善は急げだ、さっさと行くとしよう。
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「オッサン」
ラボラトリに入った瞬間、目に入ってきた光景。
それは、書類の山に埋もれて潰されているアナグラの支部長代理ことペイラー・榊博士。
こんなのが俺達の上司だとは思いたくもないが、致し方のないことだ。
「や、やあ。その声はソーマ君だね? ちょっと、私を助けてくれないかな?」
「断る。助けなくても済む用件だ」
自己生活能力の無い上司には、一切手を出したりはしない。してたまるか。
「ひどいなぁ」
何のかんの言いながら1人で抜け出そうとしている。
バカが、そんな風に動いたらアンタの上に出来てる上束の山が・・・・・・言わんこっちゃ無い。
ったく、世話の焼ける・・・・・・
「いやぁ、助かったよ。有り難う」
「うるせぇ。そんなことよりだ。俺達のリーダーの様子が最近おかしい。あれじゃあ、言いにくいが・・・・・・足手纏いだ」
「・・・・・・ふむ」
「詳しい戦闘成績とかはアンタが持ってるだろうから、検証はアンタでやってくれ」
「分かった、調べておくよ」
「・・・・・・・・・・・・ああ、あと俺の気のせいなのかも知れんが言っておく。最近のアイツの雰囲気・・・いや匂いか、俺に似てきている気がする」
「・・・・・・どう言うことだい?」
「用件はそれだけだ。邪魔をしたな」
言うことだけ言って、俺は部屋を後にした。
榊のオッサンはまだ何か言っているが、あのオッサンのことだ、後はどうにかなるだろう。