夢を見た。
この食べ残しの世界でたった独り生き残ってしまった、 と言う何ともイタい、がイヤに現実味のある夢だ。
その夢の中で僕は、荒神達に喰われていく仲間やほかの人たちをただ傍観している、それだけだった。
神機は破壊され、ブレードパーツと神機本体がバラバラになっていて、使い物にならないのは一目瞭然だった。
僕自身も、左腕を食いちぎられていて、どうして生きているのかすら分からないほどの重傷を負っていた。
横腹の部分も喰い取られ、小腸がズルとこぼれ出て、そこに、どこからか来た小さな蟲がたかって一心不乱に肉をかじっていた。
夢だと分かっているのに、それが夢なのか現実なのかが曖昧になる。
見渡せば、仲間の死体、死体、死体・・・・・・
コウタらしきその肉塊は、頭から腹にかけてきれいに喰われ、 断面から、中に残った内蔵が飛び出ている。
その手元にはシワクチャで血に汚された彼の家族の写真があった。
ヒバリさんは、腹から下が無くなったタツミさんに必死で蘇生術を施していたのだが、後ろから飛び出てきたオウガテイルに諸とも喰われた。
リンドウさんは右腕の荒神化が再び始まって、既に理性を失っていた。
その傍らには、彼の最愛のヒトの亡骸が無造作に転がっていた。
誰か助けて、その訴えも声にならない。
皆が喰われていく中で、僕だけがそれを見つめ続けている。
荒神共は僕を無視して、 他の人を貪り喰らう。
止めて。
止めてやめてやめてヤメてヤメテヤメテ
ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ
ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ
ヤ メ テ
「ぅわぁっ!?」
僕は飛び起きた。
呼吸は乱れまくり、肩で息をしていた。
ビッショリと汗をかいていて、シャツが背中に張り付いている。
何て言うか・・・・・・・・・・・・気持ち悪い。
背中が冷たい。
色は戻っていた。
夢の最後、片言の思考に入る直前から、色が無くなっていたのだ。
無機質な、白黒の世界。
油断すれば奈落の底に引きずり込まれそうな際限のない脱力感。
そこから逃げ出そうと必死になったとき、僕の意識が覚醒した。
そうして、僕は起きたのだ。
無理矢理、強制的に。
「・・・・・・・・・・・・寒いなぁ」
僕は慌てて口を塞いだ。
制御が行き届いていない所為で、思ったことが口から出てしまったのだ
色々な思いがごちゃ混ぜになり、重苦しいため息となって体内から出ていった。
僕が見たのは一体何だったのかと訊かれたら、僕はどう答えるだろうか?
そんな自問自答をしなくても答は分かっているのに。
悪夢。
そう、あれは正しく悪夢だった。
何の救いもない世界、もしかしたら明日にでも現実になりそうな世界。
何を弱気なって考えているんだ、そんなことにさせないために僕達は戦っているんじゃないか!
そうやって自分を鼓舞してみるのだが。
・・・・・・・・・・・・・・・でも、僕はその中からもうすぐ外されるんだろうな・・・・・・・・・・・・
と、またすぐにナイーブな思考に戻ってしまう。
どうにかしたい現実と、どうにも出来ない現実に板挟みにされたときってこんな感じなのだろうか?
僕の中で、焦りだけが加速する。
まだやれる、皆と一緒に戦える、その思いだけが僕にとっての頼代だった。
そして、そのまま寝付くこともなく、僕は朝を迎えた。
流石にシャワーも浴びたし、着替えもしたが。
さて、今日も頑張ろっかな、そう思って部屋を出た。
エントランスは昨日と変わらず 人気が少ない。
まだほかの部隊は帰還していないみたいだ。
遠征任務なのかな?
そんなことを考えながら、すぐ下のロビーへ降りた。
「ヒバリさん、おはようございます」
PCを使って何やら難しいことをした彼女に、僕は挨拶をした。
「あ、おはようございますイリスさん」
あ、隈が出来てる・・・・・・・・・・・・
こう言うことにすぐ気が付いてしまうあたり、その善し悪しは別にして、僕がいかに目敏いかが分かってしまう。
「徹夜ですか?」
「はい、それもそうなんですけれど・・・・・・。タツミさんのメールの返信でちょっと・・・・・・・・・・・・」
困ったように笑いながらー実際困っていたんだけどー、何て送ろうか困ってしまって夜更かししちゃいました、ってタツミさん脈有りですよ!
「あ、そうだ、イリスさんに榊支部長から出頭命令が下りてます」
にこやかな返事の後、急に事務的な声になってそう報告してきた。
「え、何か悪いことしちゃったのかな?」
「いえ、懲罰とかじゃないと思いますよ? それなら正式な辞令が本人に直接行くはずですから」
「じゃあ何だろ・・・・・・ あ、いつ来いって言う話だった・・・ですか?」
マズい変な日本語になった。
「いつでも良いようですが、早い方が支部長としては良いみたいですよ」
流してくれて有り難うございますヒバリさん!
「分かりました、有り難うございます」
僕はそう言ってヒバリさんに頭を下げるとエレベーターへと向かった。
そして、支部長室の前にきた。
悪いことをしたわけじゃないのに、呼び出された場所に赴くとどんな状況であれ凄く緊張する。
深呼吸を何回かして、ドアを4回ノックした。
「極東支部第1部隊隊長、神谷・イリス。命令につき出頭しました」
『ああ、入って良いよ』
そう言われて、僕は認証機に自分のIDカードを通した。
「・・・・・・失礼します」
緊張がなす技なのか、ぎこちない感じがする。
「ああ、緊張しなくても良いよ。君をココに呼んだのは、別に君が悪いことをしたからじゃあ無いしね。それとも何かな、心当たりでもある?」
呼び出した本人は、僕の気持ちを知ってか知らずかいつも通り明るく接してくる。
「いえ、特に心当たりは。って言うか、何で僕は呼び出されたのでしょうか?」
「うん、実に良い質問だ」
そう言って榊博士は、立ち上がり、スクリーンをおろした。
そして、投影機を動かして何かしらのグラフをそこに映し出した。
「このグラフが何を示すか、君には分かるかい?」
「いえ」
僕は即答した。
まず、僕はグラフとかを見るのが苦手なのだ、ずっと前から。
「これはね、君がゴッドイーターになってから今に至るまでの戦闘データをグラフ化した物なんだ。縦軸は各任務の戦闘成績、横が初陣から今に至るまでの各任務を表している。ちなみにグラフの赤い色で塗ったところは君の成績で灰色の部分はその時の他のメンバーの分ね」
何とか話についていけている。
僕は黙って頷いた。
「よろしい。で、今の君の戦績なんだけど・・・・・・これだね、一番右端の棒グラフ。・・・・・・うん、過去最悪の戦績だね」
「・・・・・・はい」
否定が出来ない。悔しいけれど、その通りなのだ。
「さて、この低迷している状態で君を戦場に送り出すのは、私としては 非常に不安でね。君もそうだし、君と一緒に行く仲間もだ。・・・・・・理由は分かるよね?」
「・・・・・・足手纏いとは言え 神機使いの消耗は出来る限り避けたい、任務に赴く神機使い達には可能な限りリスクを背負わせたくない、ですよね?」
「・・・・・・その通り。そして、言うまでもないけれどこの場合前者はイリス君。君に当たる」
僕が足手纏い、かぁ・・・・・・何だか傷つく言い方だ。
「ただ、ここ極東支部も、人員が足りているかと言えば、そうとも言えない。これは他の支部にも言えることだけど、神機使いの数がどこも慢性的に不足しているのが、我々人類の現状だ」
「・・・・・・はい」
グラスゴー支部なんて、全体で3人だけじゃなかったっけ?
「そこで、だ。君にはこれからも第1部隊を率いて貰うつもりでいるんだけど、今後は戦い方に制限を設けて欲しいんだ」
「制限、ですか?」
「そう、制限さ。君には今後、遠距離戦闘に重点を置いて欲しい。攻撃、支援、回復、これらは遠距離戦闘における基本戦術だ。これからは、それに専念して戦って欲しい。良いかな?」
「・・・・・・・・・・・・努力はしますけど、やむを得ない場合は斬りに入きますよ?」
そもそも第二世代型の神機は遠近両方に対応できる柔軟性が一番のウリなんだから、近距離戦闘禁止なんて言うのは論外だ。
「勿論、それは構わないよ。ただ、遠距離戦闘をメインにして欲しいと言っているだけで、近距離戦闘を禁止する訳じゃないからね」
そうでなきゃ、僕も困る。
「・・・・・・分かりました」
僕は渋々ではあるけれど、とりあえず榊博士の言うことを承諾した。