気が重たい。
正直、僕はかなり堪えているらしい。
神機の不調、非適合者化の可能性、それに加えて今さっき突きつけられた足手纏いというレッテル。
この3つの事実が僕の脆いところに深く突き刺さって、抜けそうにもない。
エレベーターを降りてエントランスに出た。
朝起きてここに来た時は明るく感じたこの場所も、感情次第であら不思議。
今ではすっかり薄暗く霞んで見える。
「・・・・・・・・・・・・はぁ」
手すりにもたれ掛かって、静かに溜息をついた。
全く、僕と言う人間は。
女の子を泣かせて、ろくに役目も全うできなくなりかけていて、なおかつそれが分かっていて落ち込むことしかしていないなんて。
あ、女の子を泣かせちゃった時はコウタに殴られたんだっけ。
それにしても。
なんて、なんてダメなんだ。
何という体たらくだ。
手すりに顎をのせて、さらに僕はいじけた。
「よぅ隊長さん。随分とまぁ、お疲れなようで」
突然の背後からの声に、僕は肩を大きく跳ねさせた。
振り向けば、そこにはリンドウさんが立っていた。
「帰ってきてたんですか?」
するりと出てきた疑問を、僕はそのままリンドウさんに投げた。
「ん? あぁ、まぁな。新しい相棒の調整にな」
新しい相棒とは、あの騒動以来リンドウさんの手に現れた神機のことだ。
その前身を、僕とリンドウさんは知っている。
「いやぁ、参った。やっぱ遠距離向いてねぇわ、俺」
照れくさそうに、髪の毛をクシャクシャと掻きむしりながらリンドウさんは言った。
「どうかしたんですか?」
「たかだかコンゴウ1体に5分以上かけちまってな。それも、俺1人だけで行ったから、いつものサクヤみたいにタイミング良く助けてくれる仲間もいなくて」
よく見れば、掠り傷や火傷痕などがところどころに見え隠れしている。
リンドウさんは、どこからともなくタバコを取り出してくわえて火をつけた。
「・・・・・・上官失格だな。あんなになって初めて仲間の有り難さを実感するとは」
「でも、生きてるじゃないですか。貴方も、貴方に教わった僕も。」
「『死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ。隙があったらぶっ殺せ』。言われた通りやり続けて、僕らは生き残れたんです。失格なんかじゃありませんよ」
「何か言い方違ってねぇか?」
「そうですか? 内容は合ってるはずなんですけど」
そう言って、僕達はケタケタと笑い合った。
「それにしても、イリス」
急に真面目な声になったリンドウさんに、僕はほとんど無意識に構えた。
「お前、ちゃんと寝てるか? ひでぇ顔だぞ」
「え? そんなことないですよ。寝てますよ」
しばらく、リンドウさんはいぶかしむような面持ちで僕を見続けた。
「・・・・・・・・・まぁ、あれだ。無茶はすんなよ」
リンドウさんは、そう言って僕の肩を軽く叩いてからその場を後にした。
紫煙の臭いがうっすらと漂っていた。
何というか、あの人には一生適わない、そんな感じがするし、改めてそう思った。
僕の顔を少し見ただけで、あんなに見抜かれるとは思ってもいなかった。
実際、今朝見ていた夢のせいで最近はずっとよく眠れていないのだ。
あの、全てが食い尽くされていく夢。
僕は自分の右手首に着けられた腕輪を撫でた。
まだ頑張ってくれよ、と心の中で何度も呟きながら。
あ、そうだまだヒバリさんに消化報告していないや。してこよう。
僕は、ふと思い出してその場を離れて下に降りた。
「ヒバリさん、榊博・・・違った榊支部長のところ行ってきました。スケジュール表のチェックお願いします」
「分かりました。・・・・・・はい、消化確認しました」
僕は、その事務的なやりとりを終えてその場を離れようとした。
が、これもまたふと思って立ち止まった。
「ヒバリさん」
「何ですか、イリスさん?」
何だろう、と言った感じの表情でヒバリさんがこっちを見ている。
「他の部隊のメンバーが見当たらないんですけど、あの人達どうかしたんですか?」
「ああ、そのことですか。確か・・・・・・ありました。第2、第3部隊共に現在遠征任務に就いています」
「新人の2人も?」
「はい。第2部隊の指揮下で活動中ですね」
はぁ、皆全然落ち着けないんだな。
「第3部隊はもう任務そのものは完了していて、現在帰投中ですよ・・・・・・どうしてまた?」
軽く首を傾げながら、ヒバリさんは訊いてきた。
「いやぁ、人がいないとココも無駄に広いなって思って」
僕は、天井を見上げて遠くを見るような目をしながら言った。
「大丈夫ですよ」
「・・・・・・ですよね、心配無用ですよね。あの人達なら」
「はい!」
ヒバリさんは明るい声でそう言って頷いた。
ヒバリさんって凄いな、と時々思ったりする。
例えば、ちょうど今さっきの明るい声だけで僕の暗鬱な気分が少し和らいだりしたのだ。
・・・・・・タツミさんが惚れるわけだ。
おっと、これは本人に言ったら怒られちゃうな。
僕は、お礼を言って今度こそその場を離れて、エレベーターへ向かった。
行き先は自室。
今日は珍しく切羽詰まったような、痛いくらいピリピリした空気じゃない日だ。
任務も入っていないことだし、自室でのんびりしようという算段だ。
上手く行けばこのイヤな気分も紛れるかも、と言う希望的観測ももちろん織り込んでいる。
・・・・・・お、昇ってきた。
僕は、エレベーターに乗り込んでベテラン階へ下りるボタンを押した。