二つ名鬼神   作:ザタキシード

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変化

 

自室に戻ってからと言うものの。

 

僕は、一向に寝ようとするわけでもなく何かを食べたりしようとするでもなく、部屋の真ん中で突っ立ったままでいた。

 

何かを感じる。

 

そう、何かを感じるのだ。何かを。

 

随分昔の外国の映画みたいにフォースが云々とか、そう言った類のものではなく、違和感があるのだ。

 

何だろう・・・・・・? 気配?

 

僕は、少しだけ五感を尖らせて周囲の状況を探り始めた。

 

キッチン・・・・・・何もない。

 

テーブルとソファ・・・・・・変わっていない。

 

室内温度・・・・・・温度計を見る限り変わっていない。

 

臭いは・・・・・・特に感じない。

 

「?」

 

探るのを止めて、はてな? と僕は首を傾げた。

 

何かがあるのに、なにもない。

 

気配に似た違和感、だけどこの部屋に僕以外誰もいない。

 

まぁ、いたらいたで凄く怖いんだけど。

 

そんなことはどうでも良い。

 

とりあえず、僕は五感の棘を引っ込めた。

 

すると、急に頭の中がぼうっとして、やや立ち眩んで少し踏鞴を踏んだ。

 

・・・・・・頭が、少し痛む。

 

なんだか耳鳴りまでしてきたよぉ・・・・・・

 

細くて甲高い金属音に似た音が、耳、いや頭の中に響いてきた。

 

視界がぼやけだして、次第に色が曖昧に抜けていく。

 

色彩といえるものが、白と黒だけになる、その直前だった。

 

『・・・・・・』

 

何か聞こえた。

 

『・・・・・・。・・・・・・・・・』

 

「誰!?」

 

誰かが、どこからか僕に話しかけている・・・・・・?

 

「誰? どこにいるの!?」

 

返事は、無い。

 

ぼそぼそと、ほとんど聞き取れない声は僕の声を無視してまだ何かを言っている。

 

何だ、何を言っている? 何を言おうとしているんだ?

 

僕は、焦る思考の中でそう思った。

 

誰だコイツは、何が言いたいんだ? と。

 

長く話していたぼそぼそ声が、いったん話すのを止めた。

 

やっと人の話を聞く気になったのかな?

 

「・・・・・・君は、誰?」

 

僕は恐る恐る、姿無き声に向かって話しかけた。

 

数秒の沈黙が、僕と気配の間を走り抜けた。

 

『・・・・・・ノアルジデアリオマエノシモベダ』

 

最後にその声を聞いた瞬間、気配が消えて色彩が戻ってきた。

 

違和感はもうなくなっていた。

 

「ちょっと!」

 

僕は、もとより何もいない空間に掴みかかった。

 

が、やはり何もいないだけあって、空を掻き切っただけで終わる。

 

「・・・・・・何だったんだ、さっきの」

 

辺りを見回したり、周囲の臭いを嗅いだりしたが何も変わらなかった。

 

「・・・・・・消えた?」

 

そう認識した途端、汗が吹き出てきた。

 

かなり緊張していたのだろうか?

 

切れる寸前まですり減らした緊張の糸が解けた瞬間、僕は途端にのどの渇きを覚えた。

 

何でも良いから何か飲もうと思って、僕はキッチンまで歩いた。

 

何故だか、足下がふらつく。

 

キッチンに立って、僕はウサギ模様が入ったコップを棚から取り出した。

 

20歳の誕生日の時に アリサから貰ったやつだ。

 

そう言えば、皆非道かった。

 

アリサはまた仕方ないとして、コウタやタツミさん、果ては榊博・・・支部長まで僕のことを未成年だと思ってたなんて。

 

僕、一度も自分の年齢を言っていないのに17歳って設定にされてた。

 

思い出すのも辛いから止めよう。

 

僕はそっと柄入りのコップを奥に戻して、柄なしのコップを取り出した。

 

冷蔵庫からスポーツドリンクが入ったボトルを取り出して、コップに注ごうとした、その時だった。

 

割れる音がした。

 

「っ!」

 

右手には割れたコップの破片がある。

 

何ヶ所かガラス片で切ったらしく、血が出ていた。

 

「痛たた・・・・・・」

 

僕は、ダストボックスまで歩いて手の上にある破片を捨てた。

 

床に落ちた破片がないことを確認して、僕はキッチンに戻って蛇口を緩くひねった・・・・・・つもりだった。

 

勢い良く水が流れ出て、飛沫が上がっている。

 

僕は慌てて蛇口を少し閉じて、水の量を調節した後、やっと怪我をした右手を水で濯ぎ始めた。

 

しかし、何と言うことだろう。

 

僕の右手には、血液が溜まってこそいたが、切り傷のようなものは痕すら見当たらなかった。

 

「ん?」

 

僕は怪訝そうな顔をしながら、自分の右手を睨んだ。

 

確かに痛みを感じたのだ。

 

切ったとき特有の、イヤな感覚も確かにした。

 

なのに、当の右手には何も残っていない。

 

僕は首が痛くならない程度に、首を傾げた。

 

確かに怪我をしたのに・・・・・・僕はそう思いながら右手から目を逸らして前を向いた。

 

「!!」

 

僕の見る先には、歪に変形した蛇口の栓があった。

 

・・・・・・どうしたんだ、僕は?

 

僕は、半ば放心した状態で、そんなことを思った。

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