蛇口の栓はどうにか修理した。
そのために壊した道具の数は数えるのも辛い。
まあ、色々とやらかした結果僕の部屋の床の一部は今や千切れたパッキンや歪んだネジ、ドライバーで埋められている。
あれ、おっかしいなぁ・・・・・・
色んな意味で。
僕って、手先は器用な方だという自負はあるんだけど・・・・・・
まあとりあえず、起こった物事に整理を着けようと僕はベッドに腰をかけた。
ギチギチと不快な金属音をたてて、ベッドのスプリングが軋む。
僕達ゴッドイーターは、P53偏食因子を投与されている。
僕達が自分の神機に喰われないようにするためだ。
神機に喰われる、と言うのはつまり、神機もまた一種の荒神であることに由来する。
神機もオラクル細胞の塊で、通常の荒神と異なる点と言えば連中で言うコアが神機の場合アーティフィシャルCNSだけで、他は荒神と何ら変わりない。
つまり、何の処置もされずに神機に触れたらその人は神機と言う荒神に捕食されてしまう。
それを防ぐための僕達が着けている腕輪であり、P53偏食因子なのだ。
ただ、この物質にはそれ以外にも効能(?)がある。
それは、副効果に身体能力の飛躍的向上と自然治癒能力の強化だ。
つまり月並みに言ってしまえば、超人じみた肉体を手に入れたことになる。
・・・・・・ふむ成る程、僕は超人に近い存在なのか。だから、さっき手を怪我したときも、あっと言う間に傷口が塞がったのだ・・・・・・と結論付けようとするけども、どうにも無理がありすぎる。
うん、無理がある。
いくら超人じみて傷が塞がりやすい体になったとは言え、数秒でまっさらに塞がるなんてことは普通あり得ない。
例えどんなに小さな傷でも、数時間はかかる。
例に挙げるなら、ちょうどさっきみたいな切り傷とか。
「うぅん?」
僕は、僕の右手をジッと睨みながら唸った。
あまりにも不可解すぎる。
正直言って、少し気持ち悪いくらいだ。
さっきの幻聴(?)と言い、異様な早さの傷の塞がりようと言い、今日は変なことが多い。
・・・・・・変なことと言えば、今朝見たあの夢もそうだよね・・・・・・
何なんだろうか、ほんとに。
そこまで考えて、僕はベッドに背を預けた。
やはり固いスプリングが僕の背中を無愛想に押し返してくる。
「・・・・・・たまには優しくしてくれても良いんじゃないかなぁ?」
僕はベッドに向き直って、少し説教じみた口調でそう言った。
無論、ベッドは何も答えないし、相変わらず固い反動だけが返ってくる。
「・・・・・・何やってんだろ」
ベッドに話しかけるという変な行動をした自分を省みて、僕はそう呟いた。
しばらくボーッとしていると、ターミナルがメール着信音を発した。
何だ誰だ、と締まらない頭で考えながら、僕はノソノソと起き上がってターミナルへ歩いた。
ターミナルを僕のコードで起動してメール受信ボックスを開いた。
着信1件の表示が出力される。
そのメールを開いてみると・・・・・・
「宛先 イリス
件名 無し
差出人 不明
本文
おっと、何て怖いメールだろうか。
差出人不明、件名不明でしかも本文がないって、一体何の嫌がらせだろうか?
これでも僕は、広く浅くをモットーにした技術者だよ?
逆探知くらい屁でもないっての。
僕は、すこぶる調子の良くなった思考回路の一部でそんなことを考えながらターミナルをいじりだした。
どんな風にイジっているかは企業機密。
そんなこんなでイジクり回しながら、僕はあることに気付いた。
いったんイジるのを止めて、僕はもう一度メールの内容を確認した。
「宛先 イリス
件名 無し
差出人 不明
本文
あれ、まだ終わってない?
そう、メールの本文はないわけではなかった。
ただ、スクロールしないと本文が読めないようになっていたのだ。
・・・・・・何て子供じみた嫌がらせなんだろうか?
僕は溜息をついて、画面をスクロールし始めた。
これが意外と長かったりして、僕は段々めんどくさいなぁ、とか思い始めた。
そしたら、案外すぐに本文が見えた。
よう・・・・・・無茶はするなよ」
ん、誰だろ? これ送ってきたの。
最後のあまりにも短い一文を読んだ瞬間、そんな疑問が頭の中にベンと力強く貼り付けられた。
僕が知っている人に、こんなまどろっこしいことをする人っていたかなぁ?
そう考えながら、僕はこのアナグラにいる僕が知っている人の顔を1人ずつ思い出していった。
結果、どれも当てはまりそうにない。
文章だけで言えば、ソーマかな? って思ったけどソーマがこんな面倒なことをするかな、と訊かれたらノーだ。
つまり、ソーマじゃない。
誰なんだろう? 最後まで分からないままだったから僕はそのメールをとりあえず保護することにした。
後で誰かに訊こう。
そう考えて僕はメールを閉じた。
分からない物には手を着けないのが一番、と言うのはかつて僕がいた孤児院の先生の言葉だ。
僕はその言葉に習って、さっさとターミナルを閉じた。
そして、何事もなかったのだ、と自分に言い聞かせながらベッドに戻って、今度こそ寝た。