マギアレコード―界の虚構譚―   作:白崎ミュウ

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――マギウスの計画が成功し10年が経ち、環いろはは新たな「マギウス」として戦い続けていた。しかし戦局が悪化してしまい、ウワサ結界内に作られた本部拠点での長い籠城戦となるまで追い込まれてしまう。環いろはは「マギの呪(ねが)い」から自らの手で魔法少女を解放することは出来ないと悟り、ある決断を下すのだった――。

記念すべき第一作目です。マギウスの計画が成功したifルートで書きました。
小説自体初めて書くのでいろいろ読みにくかったりミスが目立ったりなどすると思いますが、ご了承ください。

文法ミスや誤字脱字などがあったら遠慮なくご指摘いただけたら幸いです。




第一話「とっくのとうに、魔法少女じゃなかったんだ」

 しんとした半地下のこの空間には、銃弾を込める音以外、心のよりどころとなるものがなかった。

 

 相変わらず、外から忍び込んでくる月明かりは、私をせせら笑っている。

 

 月明りといっても、ウワサ結界が作り出す張りぼての明かりだけど。

 

「環司令」

 

 弱弱しいその声は私の胸を苦しくさせた。

 

「何? さなちゃん……」

 

 下手な声だけは出せたが、私は彼女を見ることができなかった。

 

 それでも、彼女は私を抱きしめてくれる。

 

「いろはさん、こうしているだけで、昔を思い出しますね」

 

 彼女の体温は、偽物だと知っていても、私のシゼンはそれに抗うことが出来ず、乾いた涙が頬を伝った。

 

「さなちゃん……。ごめんね、ごめんね……」

 

「謝らないでください。私はずっといろはさんの味方です。ずっと一緒にいるって約束したじゃないですか」

 

「……さなちゃんを失いたくないのに、私、どうして……」

 

「私は死んだりなんかしません。何年魔法少女やってると思ってるんですか?」

 

 魔法少女。なんだか、懐かしい響きを聞いたような気がした。「魔法少女」の残酷な事実を知らなかったあの頃は、どんな希望だって持っていられたんだ。

 

 もう十年。あの輝かしい頃から、絶望を知り尽くし、私はすっかり変わってしまった。

 

「一人で抱え込まなくてもいいんです。いろはさんが背負った十字架は、私も一緒に背負います。いろはさんが涙を流しそうなくらい悲しいときは、私とその気持ちを半分こです。いつか終わります。この悪夢はきっと終わるんです。終わるその時が来たら、一緒に帰りましょう。私たちの、みんなのおうちに。みんなのみかづき荘に」

 

 そんなことはできない。

 それは彼女も知っている。それでも、15歳の姿をした私の亡霊は、なせるはずのない無意味なキボウを今の私たちにいつまでも持たせてしまう。

 

「いつか、帰れたら」

 

「そう。いつか帰れたら……みんなでお酒が飲めるといいですね」

 

 彼女がそういって向き直り、微笑んだのが目に映る。

 熱い鉛が、舌の根元を圧迫するようだった。私はそれをごまかすように、息を吸った。

 

「……あの人がもし生きていたら、もうアラサーなんだよね」

 

 言ったとたん、溶けた鉛が口からはみ出した。それに呼応するように、乾いた風が彼女の髪を揺らし、彼女は唇をそっと湿らせる。

 

「……そうですね。もうアラサーです。酒癖も落ち着く頃なんでしょうかね」

 

 逆向きに、生ぬるい風が吹いた。私は下を見る。

 

「どうなんだろうね。悪酔いするとちょっと厄介だからね」

 

 あの人。もう帰ってはこない人。いつも冷静沈着で、優しくて、大好きな家族だった。仲間だった。

 

 あの人は酒癖がひどかった。

 べたべた触ってくるし、突然泣き始めるし、最後には泥酔して寝てしまう。普段の姿からは全く想像ができなかった。

 それでも、私はそんな一面を見れてうれしかった。自分の内側をさらけ出してくれたみたいで、やっぱり家族なんだと、改めて実感したのを覚えている。

 

 あの頃はまだ、なんとかなると思っていた。大変なことばかりだったけど、いつも通り、みんなと協力して頑張れば、必ず報われると信じてやまなかった。

 

 それでも、不条理というのは夢や希望などまるでゴミくずのように破いて捨ててしまう。

 

――――あの日、私はやちよさんを殺した。その時の感触もよく覚えている。

 

「……それじゃあ、私は行きますね」

 

「うん。…………待って」

 

「何ですか?」

 

「……ううん。何でもない」

 

「いろはさん、大丈夫ですよ」

 

「……うん」

 

 彼女は笑って、行ってしまった。

 

 やっぱり苦しかった。

 彼女の後姿を見ると、まるで生暖かい水の中で窒息してしまうように、喉の奥が締め付けられた。

 

♢

 

 協定を結んだはずのキュゥべえは沈黙を守り続けていた。少しの技術提供だけを済ませて、彼は姿すら見せなくなった。

 

 おそらくこの星にはもう用がなくなったんだろう。もしくは、初めから私たちに勝ち目がないと知っていたんだろう。

 

 このウワサ結界に作られた拠点に引きこもってから、数か月、食料も底をついた。敵がここへ攻めてこなかったとしても、全員飢え死にするのがオチだろうし、終わらせられるなら、早く終わらせてしまいたいとも思っていた。

 

 幸か不幸か、その願いが今日、叶おうとしている。

 

 天は、何かを守りたくて奇跡を願っても、何もしてくれないし、むしろ、私から大切なものばかりを奪っていく。それなのに、破滅に向かう願いは、すんなりと叶えてくれた。

 

 その証拠として、この途方もなく長かった戦争に、こちら側の破滅をもって終止符が打たれようとしている。

 

――――そして、「マギの(ねが)い」からも、解放されるんだ。

 

「司令」

 

 羽根の一人が発したその凍てついた一言で、私の周囲は真空と化したように、音がなくなった。

 

 そしてこの真空に、私はそっと息を置く。

 

「総員、第一種戦闘配置」

 

 この言葉を合図に、戦闘部隊の羽根全員のソウルジェムは非物質化された状態で本部に集められた後、技術部隊の管理下に入る。そして、ソウルジェムと肉体のリンク可能圏は大幅に拡張され、広大なウワサ結界内でも意識が途切れることはない。

 リンクされたことを確認した羽根たちは、各々自分の持ち場へと出発した。

 

 羽の肉体の損傷は、脳と心臓をえぐられない限り、後衛である救護部隊の治癒魔法で大体は修復でき、すぐ復帰が可能となる。

 

 羽根たちの死の条件は脳または心臓の損傷か、ソウルジェムが穢れで満たされるかのどちらかだ。

 ドッペルはソウルジェムの改良によって使えなくなった。そして、溜まった穢れによってソウルジェムが破壊されることを便宜上「魔女化」と呼んでいる。

 

 魔力の消耗や負の感情によってソウルジェムに蓄積された穢れは、本部にある疑似グリーフシードによって浄化される。

 浄化が間に合わず、ソウルジェムが穢れで満たされてしまい、「魔女化」が起こると判断された時、自動でそのソウルジェムを直ちに物質化し、敵のいる戦場へと発射する。

 羽根たち全員のソウルジェムは「魔女化」が起きる前に、希望と絶望の相転移によって得られる感情エネルギーを利用して爆発するように改造されている。つまり、敵前へと発射されたソウルジェムはドッペルも発動できず、爆弾としての使命を果たすことになる。

 

 このシステムを実現する技術はキュゥべえによってもたらされた。でも、システム自体は人間によって考案されたものだった。

 

 奇跡を願った代償として、いや、願ってすらいないかもしれないのに、悲しむことも、この不条理を呪うことすら許されず、最後に朽ちるその時まで、人を殺す兵器として利用される。

 

 私は魔法少女を守るために、魔法少女を死ぬ時まで戦争の駒として利用する、このシステムを採用した。

 

 全く、自己矛盾も甚だしいよ。

 

 一体どこで私は間違えたんだろう。

 

――――――――しばらくすると、指令室の一人がこちらを見つめてくる。

 

 ふと手を眺めると、目眩がしたようだった。

 

 私はそっと目を瞑り、かび臭い空気を味わう。

 

 その臭いに反応した、諦めの悪い私の生が、声をどもらせようとする。

 

 でも、それは出来なかったみたいだ。

 

「攻撃、開始」

 

 また始まる。

 

 今日は何人が生きて、何人が死ぬんだろう。

 

 私は、人の生死をただ傍観するだけなんだ。

 

 悲しみすら感じない。

 

 これが、奇跡を願った代償なのかな。

 

『総員、攻撃開始』

 

 無慈悲なテレパシー。それに反応して、私のソウルジェムは黒く光る。

 

 悲鳴のような銃声が指令室に届き、反響した。

 

 揺れる地面は戦闘の激しさを物語り、モニター上の、顔写真付きの名簿からは一つ一つ光が消え始める。

 

 

――――――――私は、耳をふさいでいた。

 

 

「くそ! 我々が予測したより敵数が多いようです」

「このままいけば浄化が間に合わなくなります!」

「まずい、いきなり犠牲が増えすぎてる」

「救護隊はどうした?」

「それが、救護隊ばかりが狙撃されているようです」

「こちらの作戦を知ってるのか?」

「そんなことありえない!」

 

 ごめん……。みんな、ごめんね…………。

 

「まずい……救護隊員総数の3分の2を切りました」

「戦闘部隊の犠牲者も急増しています!」

 

 この悪夢は終わるのかな。

 

 いつか帰れるのかな。

 

 またあの人に、会えるのかな。

 

「北東より増援の要請!」

「だめだ、敵が多すぎて身動きが取れていない!」

 

 私は、何のために、誰のために……魔法少女になんかなっちゃったんだろう…………。

 

 

――――――――そうだ、私はとっくのとうに、魔法少女じゃなかったんだ。

 

 

 気が付くと、私の自然は、すんなりと耳をふさぐ手を外していた。

 

「このままだと本拠地までの道が開いてしまう!」

「ソウルジェムは?」

 

 穢れで満たされても、私は魔女になることができなかった。

 

 それは、運命を呪うことが、私には許されないことだからなんだと、そう思っていた。

 

「魔女化の危険性はまだありませんが、北東部隊中心に浄化が追いついていません!」

「こうなったら、この本拠地の盾を矛にするしか……二葉隊を、出動させるしかないのか……」

「それしか、方法は無いと思います」

「……司令、二葉隊の北東区域への出動許可を願います!」

 

 でも、それは違っていた。

 

 私は(ねが)うことしか、できなくなってしまっただけなんだ。

 

――――そう、私は死神になったんだ。

 

「司令!」

 

 だから、わかってくれるよね。さなちゃん。

 

「出動許可を!」

「司令!」

 

「…………ソウルジェム管理システムをマニュアルに切り替えてください」

 

「な、何をされる気ですか」

 

「直ちに北東の羽根たちのソウルジェムを浄化装置から強制解除し、敵陣への一斉発射を開始します」

 

「っ……!」

「待ってください! 浄化は遅れていますが、まだ魔女化の危険性はありません!」

 

「構いません。直ちに発射準備を」

 

「しかし!」

 

「これは命令です。従えませんか」

 

「い、いえ……」

 

「それと、ソウルジェムに発火体を装着してください。しっかり、発射されたことがわかるように」

 

「…………はい」

 

「……ソウルジェム管理システム、マニュアルへ……切り替えます」

「……北東区域内にいる全ての羽根のソウルジェムを浄化装置から強制解除、これよりソウルジェム発射準備体制に移行します……」

 

 最初から、奇跡なんて願っていなかったのかもしれない。

 

 私が運命を(ねが)い続けた結果、今の惨劇が具現化されている。

 そして、終わりのない絶望のプロットに、自らの安住を求めているだけなのかもしれない。

 

「……指令、いつでも撃てます」

 

 絶望の甘受。それは、魔女になるということ。

 

 それなら私は、絶望に甘受される死神だ。

 

「発射」

 

 発火体を備えたソウルジェムたちは、夜空へ美しく放たれた。

 

 空で燃える魂たちを、ネガイを叶える流れ星を見るように、一同は天を仰いだ。

 

 同時にソウルジェムは、自身の輝きを持ち主に見せしめ、黒く濁っていく。

 

 もうじき濁りきるだろう。

 

 その時には、みんな魔女にはなれず、破滅の道へと進む。

 

 これが私の、不条理な問いに対する答えなんだ。

 

 

――――数発、破裂音が響いた。

 

「……司令。様子が変です……既にソウルジェムは穢れ切っているはずなのに、想定の威力の千分の一……いや、それどころか、爆発せず消滅しているものも多数あります……」

「敵に与えた損害は……ほとんど、ありません…………」

 

 

――――――――なるほど……。そういうことだったんだ。

 

 

 目に見えないところで、心の奥底で、みんなは既に魔女になっていたんだ。

 

 みんなの中に、とっくに希望なんてものは無かったんだ……。

 

 つまり、夢を見ていたのは私だけだったんだね――――。

 

 

 しばらく沈黙が続き、名簿の光は、最初よりだいぶ弱弱しくなった。

 

 進軍する敵は、もう目と鼻の先というところまで迫っていた。

 

 必死に抵抗し、最後には頭を撃ちぬかれる者や、そもそも抵抗する気力もなくそのまま死ぬように眠っている者の姿が、モニターに映し出されている。

 

 私は、目をふさいで椅子に座り、じっとしていることしかできなくなっていた。

 

 銃声が鳴り続け、悲鳴にも命乞いする声にも、慣れてしまった。

 

 そんな中、死を物語るようなしんっとした池に、一滴だけ水が落ちた時のように、生きている人間が作り出す物音が、近くで聞こえた。

 それは、本部のひとりが席を立ち、部屋の外へ出た音だった。

 

 そのひとりはしばらくすると、荷物を抱えて戻り、周りの人間と目配せをした後、神妙な面持ちになって私のところへ寄ってくる。

 

「司令、お話があります」

 

 そう言うと、私を部屋の外へと誘導した。

 

「……司令。今まで、ありがとうございました……。司令はどうか、お逃げください……」

 

「……え」

 

 その羽根は、私を残して部屋へ戻り、敬礼をすると、封鎖用のシャッターを閉め切った。

 

 直後に、どんっと低く鈍い音がなり、分厚いシャッターが揺れる。

 

 私は、膝から崩れ落ちた――――――――――――。

 

 

 

 

『ねえ……環さん……』

 

『私……いつまで魔法少女を続けなきゃいけないの……?』

 

 

 

 

――――――――――――意外と、簡単だったのかもしれないな。

 

 (ねが)いから解き放たれる方法は、今の今まで私の前で実演されていたんだ。

 

 そして、その主導者は私自身。私はみんなを使って、自分にそれを披露させた。

 

 私は答えを知っていたんだ。――――だって私は、死神だから。

 

 でも今度は、私の番みたいだね、さなちゃん――――――――。

 

 

 靴と地面のぶつかる音が、夕立のように聞こえてくる。

 フロア中にサイレンがなり始め、鼓膜を刺激する。

 

 私はそっと、黒くくすんだ手首の宝石から、ナイフを取り出した。

 

 輝く刃先を、自分の目に向ける。

 

 あがる息を落ち着かせ、両手で柄を強く握った。

 

 気づけば、敵はあと7メートル先と言ったところまで近づいている。総勢10名以上だ。

 そしてここは、一本道の通路。逃げ場は無い。

 

 目を瞑り、ピントを合わせるようにして、全ての神経を刃先に集中させる。

 目掛けるのは脳。この刃渡りなら、十分に目を貫き、脳に達することが出来る。

 

 目を見開くと、突然刃が重くなったような気がした。

 

 

 ――――ああ、最期にもう一度だけ、みんなに会いたかったな……。

 

 

 あと一歩で、敵は私を捉えることができる。

 

 その前に、この手で…………。

 

 

 私は、自分の目に向かってナイフを突き刺した――――――――。

 

 

 床に落ちた二つの手が自分のものだと気づくのに、どれくらいの時間がたったのだろうか。

 

 壁には人が入れるほどの大きな穴が開き、立ち込める煙の中には、どうやら人影が見える。

 

 その人影から、圧迫するような目線を感じた。

 

 敵の中の数人は何故か倒れており、残りは辺りを見回している。

 

「……少し、乱暴します」

 

 そう聞こえたかと思うと、私の意識は刹那にして、闇の中へと葬られた。

 

 

――――――――私にとりついている亡霊は、まだ終わらせてくれなかったみたいだ。

 




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