この素晴らしい世界にねこですよろしくおねがいします 作:アカツメヒビキ
気がつくと、目の前には美少女が立っていた。
「ようこそ死後の世界へ。貴方はつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、貴方の生は終わってしまったのです」
そして目が合ったと思った次の瞬間に死を宣告された。目と目が合い、恋心ではなく命を取られてしまったのだろうか。そんな馬鹿な。盗まれたのは貴方の心(の臓)ですってか。どこの暗殺一家だおめぇ。
目の前の美少女の首を絞めたい衝動に駆られたが、なんとか抑える。そして自分の胸に手を当ててみる。トクン、トクン、と規則正しい音が手のひらに響いた。心臓は動いているし、呼吸もしている。この情報からだと生命活動は停止していないと思うのだが。はて、どういうことだろう。
この美少女は『貴方は亡くなられました』と迷いなく告げた。だが、今こうして自分は生きている。この矛盾は一体全体なんなのだろうか。もしかして、生命の死ではなく"社会的な死"のことを言ったのだろうか。
だが生憎、自分は社会的に罰せられるような事をした覚えがない。スクランブル交差点のど真ん中で全裸でソーラン節を踊った訳でもないし、学年集会中に校長先生と教頭先生のカツラを取っ替えた訳でもない。
因みに、今の例えは頭にパッと思い付いたから出しただけであって、特に意味はない。やろうと思ったことすらない。
「なんで一人で亜空間を見つめるような顔してるの? 一人顔芸大会なのかしら。アテレコなら私凄い得意なの、してあげましょうか?」
遠慮します。急に何言ってんだこの美少女。こちとら、お前が言った意味不明な言葉に頭を悩ましてるんだよ。ジトリとした目付きで美少女を睨み、小さくため息をつく。ていうか、この美少女は一体誰なんだ?
「っと、話が脱線しちゃったわね。初めまして、私の名はアクア。日本において若くして死んだ人間を導く女神よ」
急に何言ってんだこの美少女(二回目)。中二病なのだろうか、自称女神を名乗る美少女__改めアクアはドヤ顔でそう言い張る。顔にデカデカと『崇めなさい!』と書いてあるなコレ。可哀想に、現実と妄想の区別がついていないんだな。
「ねぇ……なんでずっと黙ってるの? なんでそんな私に哀れみの目を向けるの? 私、女神なんですけど。凄く偉くて美人な完璧女神なんですけど」
うんともすんとも言わないからか、おろおろと少し焦ってきたアクア。そんなアクアの肩にポンっと片手を置き、優しく微笑むともう片方の手でサムズアップをしてやる。大丈夫だ。人生まだまだやり直せるサ! 時が経てばこの行いを漆黒の歴史と懐かしむ日が来るからな。
大丈夫、大丈夫と赤子をあやすように、寝かしつけるようなリズムで肩を優しく叩いていると、アクアが「本当に女神だも"ん"っっっ!!」と涙目で言うので頭を撫でてやった。よしよし、ゆっくり自覚していこうな。
「もうっ! 長年この仕事やってきたけど貴方みたいなの初めてよ!! 早く仕事終わらせたいからコレから特典を選んでっ!!」
頭を撫でられたのが馬鹿にされたと捉えたのか、アクアはうぎいぃっと顔を真っ赤にして分厚い本を投げてきた。飛んできたそれを顔面の目の前でキャッチして開いてみると、そこにはずらりと文字が並んでいる。
《怪力》《超魔力》《聖剣アロンダイト》《魔剣ムラマサ》etc.……もしかしてこれは、中二病を患った者が書き綴ると言われる【僕が考えた最強の〇〇】のシリーズ本だろうか。物凄く分厚いぞ。一体中二病歴何年のベテランなんだ……?
「その目! その目をやめなさいよおおお!! アンタ、まだ私が女神だって信じてないわね?! 死ぬ直前の記憶ぐらい覚えてるでしょっ?! それでもって『死んだと思ったら女神様が異世界転生してくれるだって〜?!』ってなりなさいよおおおおぉぉ!!」
死ぬ直前の記憶? ぎゃーぎゃー喚くアクアから発せられた言葉にズキンと頭が痛む。瞬間、フラッシュバックのように自分の脳内に記憶が流れ込んでくる。
確か、路地裏で猫を傷付けている
刺された所を服を捲って確認してみる。血が出ているどころか、かすり傷一つなかった。さわさわと撫でてみるも、全く痛みも違和感も感じない。刺されたのは夢だったのではないかと思ってしまう。
だが、鮮明に思い出す刺された腹部の熱や痛み。血がドクドクと体から流れ落ちていく感覚や水音。
……どうやらここが死後の世界で、自分が死んだというのは間違いないらしいな。まあ、アクアが女神かどうかは放って置いて__中二病だったり言ったのは悪かったかな。謝らないけど。さてと、じゃあ気を取り直して転生特典を選びますかな〜。
持ち前の切り替えの早さを発揮し、パラパラ、ペラペラと分厚いカタログをめくっていく。そこでふと、目に止まったのは強そうだからとか格好良さそうだから気になったというわけでもなく……ただ、ここに並んでいるのが場違いなモノが書いてあったからだ。
「《ねこですよろしくおねがいします》……???」
全ての文字が平仮名で書かれ、その特典名の隣には不恰好な猫の絵が書かれていた。思わず声に出してしまったほど不思議で、とても気になった。
「もうそれでいいからはーやーくぅー。次が詰まってるんだから早く魔法陣乗ってさっさと旅立っちゃってー!!」
不貞腐れているアクアはヤケ食いのようにポテチをバクバク口に入れ、しっしっと手を払う。お前、女神は女神でも駄目な部類の残念女神だろ。……っとまぁいいか。多分、これは使い魔的な特典だろう。もしかしたら某猫型ロボットが出てくるかもしれないし、楽しみだ。
すぐに足元に光り輝く魔法陣が浮かび上がり、小さな光がふわふわと綿毛のように周りに流されていく。どうやら、もうすぐここから去ることになるみたいだ。
「ごほんっ。貴方をこれから、異世界へと送ります。魔王討伐のための勇者候補の一人として。魔王を倒した暁には、神々からの贈り物を授けましょう」
何言ってんだこの
「さあ、勇者よ! 願わくば、数多の勇者候補の中から、貴方が魔王を打ち倒す事を祈っています。……さあ、旅立ちなさい!」
ポテチを口の端につけたまま、アクアは両手を広げて高々にそう言った。瞬間、体が明るい光の中に包まれる。
__そして、気がつくと中世風のレンガで出来ている街の中に立っていた。異世界転生、完了である。
さて、異世界転生して早二秒。周りの視線がグサグサと刺さりまくっている件について話そうではないか。
道行く人から感じる視線を気にしながら、キョロキョロと辺りを見回す。なんなんだ、この異常な視線の集まり方は。視線を可視化できるなら、自分は今まさにウニかハリネズミか毬栗状態だぞ。
やけに刺さる視線と、何故かよく聞こえるヒソヒソとした声。広範囲に渡った生活音やらが鬱陶しい。いつもならこのくらいの雑音くらいどうって事ない筈なのに、いつもよりはっきり聴こえて嫌になる。
思わず、耳を塞ごうと目の横の辺りにある両耳を両手で塞ごうとした。__そう、塞ごうとしたにも関わらず、そこには"両耳がなかった"
……はぁ? 何が起こっているか分からないまま、両耳があるはずの場所をペタペタと撫でて叩いて触りまくる。あるはずの耳がない、あったという痕跡すらもない。こんな腹の傷がなくなってたみたいなデジャブは二回もいらない。
訳も分からず頭にクエスチョンマークを浮かべていると、通りすがりの子供が自分を指差し子供特有の高い声を響かせる。
「にゃんこだにゃんこっ!! ふわふわのもふもふの耳だ!」
何言ってるんだこの子供は。こちとら人間様だぞ。どこが猫なんだどこが。猫耳なんか、どこにも付いてる訳じゃあるまい……し??? あれ???
頭にある、髪の毛ではない謎の肌触りが手のひらから伝わってくる。そして、それを触ると自分がさっきまで探していた、少しのくすぐったさとがくる。
あ、あああ……まじか、なんてこったパンナコッタ。恐る恐る、近くの家の窓ガラスに近寄り反射で自分の頭を見てみる。
そこには、黒髪と同じ色の黒い二つの耳が圧倒的な存在感を主張していた。そう、推しにコレを生やすのは義務とされている"猫耳"が誰得か知らないが、自分の頭に立派に生えているのであった。
もふもふの自分の耳を触りながら、目が死んでいくのをじっくりと味わった。
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