穴部瑠璃 〜海の畔の小領で〜【完結】   作:PureFighter00

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怒られて修験者は弁天と並んで歩く事に。


同道

 里の者としては足腰が強い筈の弁天だが、歩幅や旅装もあって「比較してみると」修験者よりはかなり脚が遅い。しかしそれで置いてけぼりでは任務が果たせぬのでキツくキツくキツーく申し付け、修験者に足並みを揃える様伝えたのだが……

「修験者どのー! 商売が上手く行く様願掛けをお願い出来ますかー!」

「ウチの老母の容態が悪く……」

「子供が無事健康に生まれる様……」

 島津領内での修験人気は大変強い。ありがたい御仏のお力で何でも改善してくれると目されている為、すれ違う人々や出会った人々が気軽に声を掛けて真言、お経、呪いなど様々なものを求めて来る。

「言わんこっちゃない……」

 背中の行李を台にして修験者が護符を描く。火除の護符だ。

 風の様に歩き、気が付いたらあっという間に遠くに歩き去るぐらいの速度でなければ、皆声をかけて来て何事かを頼むのだ。更に悪い事にこの修験者は布施を強要しない。焼き米でも麦の一掴みでも渡されたら「む」と言ってただ受け取る。実質無料の様なものだ。それを見てまた別のものが何事かを頼む。ちょっと歩いては相談され、少し進んでは頼まれる。

「四苦八苦とは良く言ったものよ……」

「皆、苦しんでいるんだなぁ……」

 修験者は弁天の「またの機会に」と言う逃げ口上には否定的だ。縁あって出会ったのだ、「御仏の導きであろう」と頼まれたら断らない。だから頼まれる前に彼方に歩き去り、声の届かぬ先に行く。それは円滑に遠隔地へ向かう手段でもあった。

 

 

 余りに声を掛けられるので、修験者は諦めて山で山草や生薬を集める際に着用する丈夫な藍染の刺し子で作った野良着を着た。形としては作務衣に近いが、脚絆を巻いて草履を履き、ほっかむりをすると……その姿は皆もよく知る忍者に極めて近い姿であった。具体的にはSEGAが誇るバーチャファイター2あたりの影丸とほぼ同一。あの鉢金とマスク?を除いた姿そっくりだ。但しこれ自体は然程奇異な姿ではない。藍染には防虫効果があり実際農民も(余裕があれば)藍染の服を着る。作業着的なものではあるが……

 街道筋では目立つ。全く忍べて居ない。しかも作務衣が修験者の筋肉でパツパツなので異様ですらある。

 仕方なくその様な姿で海沿いの街道を南下しつつ、憮然とした表情で修験者は(彼の感覚では)チンタラと歩いた。日に10里では日が暮れるとは思いつつ……これは江戸時代の平均的徒歩旅の旅程で、野宿を苦とせず日に30里を行く修験者がおかしいのだ。

 おかしい、のだが……

 弁天は妙な事に気が付いた。並んで歩いた際に気が付いたのだが、修験者の歩き方は一様ではない。彼の歩き方は……幾つかの歩き方を四半刻程度の時間で組み替えている。逆に修験者も気付いた。何故弁天は同じ様に歩くのかと。

 通常、同じ歩き方を続けると身体の偏りにより1箇所もしくは数カ所に疲労が溜まる。この苦痛を修錬や適切な比重分散で減らして行くのが通常の歩き方だ。これを修験者は(わざ)と偏りを作り出して動的に疲労箇所を散らしている。結果として疲労が1箇所に集中しないので長距離を休む事なく歩き続けられる。修験者は「右足首が疲れたなら右足首だけ休ませれば良かろう。歩を止めて全部休ませる必要はない」と語っていて意味が分からなかったが、つまり痛みがキツくなる前に歩き方の比重の置き方を変えろと言っていたのだ。

 恐らく修験者はかなり若い時期からこの術を習得して居てそれが常態になっていたのだろう。もちろん鍛錬もあるのだろうが、この様な術を併用して驚異的な踏破能力を獲得したのだ。

「……お主、案外覚えが良いな……」

 休みが減り速度も増して修験者はかなり驚いている。少し楽しくなって歩き続けた結果、彼らは宿場を通り過ぎて野宿する羽目となった。この時代街道筋の宿場は平均的な旅人の1日の旅程を基準にして、5〜10里程度の間隔設置されている。

 

 

 翌朝……

「オン イダテイ タモコテイタ ソワカ」

「おん いだてい たこもていた そわか!」

「違う! オン イダテイ タモコテイタ ソワカ」

「おん いだてい たももていた そわか!」

「タモコテイタ!」

「たもこていた!」

「オン イダテイ タモコテイタ ソワカ」

「おん いだてい たもこていた そわか」

 2人は真言を唱えながら歩いていた。各所が痛み出したら唱える真言を替えて拍を替える……これが疲れない歩き方なのだそうだ。

「しかも真言覚える修練にもなる」

 ニヤリと笑う修験者もこのやり方で真言を学んだらしい。

「これは韋駄天様だったか?」

「そうだ韋駄天尊の真言じゃ!」

「脚早くなるか?」

「無論、あとメシにありつける!」

「本当か!」

「釈尊のお食事用意の為に『馳せ』『走る』から馳走(ちそう)と言うー! この時走ってるのが韋駄天様じゃー!」

「「オン イダテイ タモコテイタ ソワカ!」」

 

「次は薬師如来! 正式には薬師瑠璃光如来様じゃ! 脚の痛みが酷ければお縋りせよ。オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ!」

「……長いな。おん ころころ せんだり まとうぎ そわか?」

「いいではないか! オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ!」

「おん ころころ せんだり まとうぎ そわか」

「「オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ」」

…………

……

「次、弁財天! お前の真言呪じゃ! 覚えろよ弁天! オン ソラソバテイエイ ソワカ」

「おん そばそばていてい そわか?」

「ソラソバテイエイ! 空、蕎麦、手、えい!」

 修験者が身振り手振りを交えながら教える。

「そら、そば、てぃえい!」

「オン ソラソバテイエイ ソワカ」

「おん そらそばていえい! そわか」

「はい後10回!」

「おん そらそばていえい そわか」

「オン ソラソバテイエイ ソワカ」

 …………

 ……

 干飯(ほしいい)(一度炊飯したのちに乾かした米)だけで空きっ腹の2人が、空腹を紛らわせようと真言を唱えながら行く。頑張れ朝飯?まであと4里!

「弁財天様は何を助けてくれるんだ?」

「水回りの神様じゃ! 蓄財にも良い! 後確か琵琶が上手くなる!」

 

 朝っぱらから騒がしい道中が始まる。




万民千里善歩傳ですなぁ。
割り込み更新すまぬでござる。更にここ文章量増やすかも。
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