「はぁ…はぁ… こ、これは…」
「これは…いったいどうしたのじゃっ!」
「雄二! これはどういうこと!?」
横溝君の報告を受けて急いで戻ってきた僕達が目にしたのは、目も当てられないほど荒らされたFクラスの教室だった。
「協定を結びたいって申し出があってな。それをしに行って戻ってきたらこの有り様だ」
「協定?」
「ああ、4時までに決着がつかなかったら明日の9時に持ち越しで、その間は試召戦争に関することは一切禁止するって協定だ」
「なんでそんなことを? Fクラスは男子が多いし体力勝負にすればいいんじゃ…」
「お前と姫路以外はな」
「あ…そっか…」
「私のせいで…」
弱い自分の体が恨めしい。
「それにしてもひどい惨状じゃの…」
「これじゃ補給も出来ないね…」
…しかし、これは荒らされただけで済んでいるのだろうか。雄二もそう思ったらしく号令を掛ける。
「お前ら、なにか盗られた物がないか確認してくれ」
その号令を皮切りに僕達は自分の荷物を確認する。…あれ?
「……………」
ない。ない。病院から渡された薬が…ない…ッ!?
「明久くん? どうかしましたか…?」
「あ、ううん なんでもないよ。大丈夫」
うん。大丈夫。
少しくらい…我慢出来る… 倒れる前に取り戻せばいいだけなんだ。
「雄二、僕は戦線に戻るよ」
「あ、ああ…。行ってこい」
雄二にそう告げて僕は教室を出ようとしたその時。
「あ、アキちゃん! 坂本! 島田さんが人質にとられた!」
須川君は慌てて教室に入ってきてそう伝えた。…って、え…?
美波ちゃんは部隊の隊長を任されていたはずだよね…?
なんでこんなことになってるのかな…?
「…須川君…。それで美波ちゃんはどこにいるのかな…?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「あ、ああ。こっちだ 着いてきてくれ」
「近付くなっ! それ以上近付いたらこいつを戦死させるぞ!」
その場所に到着すると、Bクラスの男子2人と人質になっている美波ちゃんの姿が見えた。
「あ、アキ…」
「ねぇ…美波ちゃん…なんでこんなことになってるのかな…?」
「そ、それは…」
「それなら吉井が保健室に行ったって情報流したら1人でのこのこ現れたぜ?」
へぇー…。
「それで持ち場を離れたんだ?」
「そ、そうよ。アキのことだからサボって保健室に行ったに決まってるって思ってお仕置きしに行ったのよ!」
…持ち場を離れたことは百歩譲るとして、倒れたとは思ってくれないんだね…。
「…もういいよ。試獣召喚ッ」
物理 Fクラス 吉井明久 395点
「なっ…! 止まれ! 本当に戦死させるぞ!」
「アキ! こんな奴ら早くやっつけてウチを助けなさい!」
…聞こえなかったのかなぁ…。
「もういい…って言ったんだよ…?」
「「は?」」
「…え…?」
Bクラス 男子2人 0点 DEAD
Fクラス 島田美波 0点 DEAD
「戦死者は補習!」
「「い、嫌だああああ!」」
「なっ、なんでウチまで戦死してるのよっ!」
理由があったとしても持ち場を離れていいわけがない。本当に分かってないんだろうか…美波ちゃんは。
「わからないかな?」
「わかるわけないでしょ!!」
「……。西村先生 早く戦死者を連れてってください」
「あ、ああ わかった お前ら、補習室に行くぞ」
そう言って西村先生はBクラスの2人を肩に抱える。
そして美波ちゃんはと言うと…。
「アァァァァキィィィィ…ッ!」
今にも僕に掴みかからんばかりの形相だった。
「島田ァ! 早く来い!」
だが西村先生の前では流石に掴みかかれないのか僕を睨むばかりだ。
「覚えて…覚えてなさいよ…ッ!!」
美波ちゃんも連れていかれて僕はホッと一息つく。
「…一旦戻るか」
そして僕は一旦教室に戻るのだった。
「雄二 戻ったよー」
「明久か。首尾はどうだ」
「あ、うん。美波ちゃんごと戦死させてきちゃったけどよかったかな?」
「ああ、構わん」
「最近の島田は見るに堪えんかったからのう…」
おかげで大分時間をとられてしまった。
「今の時間は…」
「3時…あと1時間だな」
「今日中に決着は無理そうじゃのう」
「ま、明日決着をつけてやるさ」
…それじゃ…遅い。だからと言って僕のせいで皆に迷惑は掛けられない…だから。
僕は教室の出入り口に向かう。
「…明久?」
「どうしたのじゃ?」
「ん? なんでもないよ。…ねぇ、雄二。用事を思い出したからちょっと行ってくるよ」
「あ、ああ。どこにだ?」
「ん、ちょっとBクラスにね」
「…は?」
雄二達はポカーンとしている。
「お、おい。ちょっと待て!」
僕は制止の言葉に振り向かず、Bクラスへと歩を進めた。
ガラガラッ
「Fクラス、吉井明久がこの教室にいるBクラス全員に日本史で勝負を挑む!」
僕はBクラスの前に到着すると教室の扉を開けてそう言い放つ。
「は?」
『はああああああ!?』
Bクラスの人達は驚愕してる。当然の反応だね。
「1人でBクラスの教室までご苦労だったな。だがこれを見てもそう言えるのか?」
そんな中、根本君は前に出てくるとそう言って何かをシャカシャカと振って見せる。僕の薬ケースだ。
「根本君…それ、返してもらうよ」
「はっ、言われなくても戦争が終わったら返してやるからそれまで大人しくしてろ」
…今返すつもりはないようだ。
「今返すつもりはないんだね」
「当たり前だろう? Fクラスの最大戦力を封じられるんだ。返す理由がない」
プチン
そっか…なら…もう容赦はしないよ…。僕も命がかかってるんだ…。
僕は根本君に向かって歩を進め始めた。
「なっ! これがどうなってもいいのか!?」
根本君は薬ケースで僕を脅してくるが…そんな脅しはもう遅いんだってば…。
「くっそ…! こうなりゃ数で潰してやる! 行くぞ!」
『試獣召喚ッ!』
Bクラス教室にいる全員が一斉に召喚を始める。
日本史 Bクラス 根本恭二 293点
Bクラス その他15人 平均220点
「どうだ! これでも1人で勝つ――」
…うるさいよ…。
「試験召喚獣…!召喚〈サモン〉ッ!」
日本史 Fクラス 吉井明久 825点
「――つもり…か…? は? はあああああ!? なんなんだその点数は!」
「日本史は僕の得意科目なんだよねー。じゃ、根本君? 恨むなら僕を怒らせた自分を恨むんだよ?」
僕は最大限の笑っていない笑みを浮かべ根本君に最後通告をする。
「ひ…ぎゃああああああああっ!!」
Bクラス 根本恭二 0点 DEAD
Bクラス その他15人 0点 DEAD
「…僕の勝ちだ。これは返してもらうね」
驚愕で声が出ないのかこくこくと頷くばかりの根本君の手から僕は薬ケースをひったくる。
…あれ? 代表の根本君を倒したのに戦争終了の宣言が来ない…?
「………………!」
そう思って先生の方を見てみると先生は驚愕した様子で固まっていた。
Fクラス1人が代表を含めた計16人のBクラスを相手に勝つ…。そんなあり得ない光景に流石に先生も言葉が出ないのだろう。
「飯田先生。戦争終了の宣言、お願いします」
だから僕は言葉を促す。
「はっ…! せ、戦争終了! 勝者Fクラスッ!」
こうしてFクラスの皆には知られることなくBクラスvsFクラスの試召戦争は終わりを告げたのだった。