籠の中の見える子ちゃん   作:hinadori2424

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みこは縄に縛られる

拘束され、ベッドの端と繋がれた両手首。

私を縛るロープはとても短くて、全く身動きが取れない。

 

「まずはハンドリングから始めようかしら……

多少強引にでも、慣らした方が効果的なこともあるらしいし」

 

みちるちゃんは私の上に跨ったままゆっくりと顔に手を伸ばしてきて、

輪郭を確かめるように頬をなぞり上げ、するりと手袋を外す。

 

「っ……、な、なにを……」

 

白く細長い指先で頭を撫でられたかと思えば、

さわさわと首筋をなぞり上げられ、ぞくりとして首をすぼめる。

 

「触れて、愛でて、この手は安全だって、覚えさせるところから……」

 

無数の触手が、私を囲む檻のように伸びて来て……

その中心で、彼女は優しく私の肌に触れていく。

 

「ん、ふぅ……、みちるちゃ、何して……」

 

触られたところが熱を帯びていくような感覚に耐えかね、

ギシ、とロープを鳴らして身じろぎするも、彼女は止まらない。

 

「ね、みこちゃん。わたしの手の形、覚えて……

わたしも、みこちゃんの形、覚えるから……」

 

服の中に手が入り込んできて、お腹をゆるやかに撫でまわされる。

たまらず目を閉じて吐息を漏らす私の髪の毛を、彼女が優しく咥えた。

 

「ふふ……。急に触ったら驚かせてしまうと思って、

ずっと我慢していたから……今、とても満たされた気持ち……」

 

はむはむと、私の髪をついばみながらみちるちゃんが囁いた。

それによって耳に息がかかり、ぞくりと全身が泡立つ。

 

「ふ、ぅ……! みちるちゃん、やめ……」

 

ゆっくり、じっくりと、私の存在を確かめるように、

彼女の細い指先が身体の隅々をなぞり上げていく。

 

「みこちゃん、いつも私が触ろうとすると、

少し怖がっていたけど……最初から、こうすればよかったのね」

 

彼女が触れる場所は、頬や首筋、お腹や腕なんかに留まって、

あくまでもスキンシップの延長線上、といった感じだけれど……

 

「……っ……!」

 

――ピアノでも弾いているかのような、繊細な手つきで触れられ続けて、

ぬめりを帯びた触手が全身を這い回る視覚的情報も相まって、

なんだか、身体が熱いというか、頭がふわふわする……。

 

「だんだん、大人しくなってきたわね……。かわいい……」

 

くすくすと彼女が息を漏らして、はむ、と私の耳たぶを咥えた。

それだけで、甘く痺れるような刺激に襲われて、頭が混乱する。

 

(なに、これ……なんか、ヘン……)

 

頭や手なんて、普段は触られたところでなんともないはずの場所なのに、

今は神経がむき出しになっているかのように、どこも敏感になっていた。

 

「ふぁ……。みちる、ちゃ……」

 

自分から出た声の甘さに驚きながらも、

やめてくれるよう彼女の名前を呼ぶけれど……。

 

「……だめよ、そんなにかわいく呼んだりしたら。

わたし、止められなくなってしまうわ」

 

私とみちるちゃんを檻のように囲んでいた触手が、狭められる。

そんな中で、彼女の手が、優しく私の肌を撫でさすった。

 

「ね、もっと……、もっと触れあいましょう――」

 

 

--------

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

――ベッドに身体を預け、ぐったりと横たわる私を前にして、

ようやくみちるちゃんが私の上から、名残惜しそうに触手を絡めつつ離れた。

 

「ハンドリングは、このくらいで大丈夫かしら……」

 

そんなことを呟いて、彼女は手袋を着け直す。

 

(終わった……?)

 

乱れた呼吸を整えながら、外して貰えることを期待して

ギシ、と手首を縛るロープを鳴らし、彼女に視線を向ける。

 

「慣らしたところで……そろそろ、しつけも本番ね」

 

――さっきまでのは本番じゃなかったの?

そんな疑問を浮かべる私の前で、彼女はしゅるりと自身のネクタイを解いた。

 

「本に、書いてあったの。しつけは可哀想なことに思えても、

その子のためなんだって……だから、これは必要なことなの」

 

解いたネクタイを手に、彼女はゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

「わたし……しつけが必要な生き物は、飼ったことがなくて……

でも、みこちゃんのために、ちゃんとお勉強しているから」

 

大丈夫、と告げられるも、何が大丈夫なのかわからない。

 

(……勉強って、何を参考にしてるの?)

 

まさか人間の監禁方法を書いている本なんてあるわけないし、

そもそも私を『飼っている』という認識から改めて欲しいんだけど……。

 

「ちょっと窮屈かもしれないけれど……我慢してね」

「え、ちょ、ちょっと……」

 

ロープの拘束はそのままに、再び彼女が私に跨った。

その手には、ネクタイが広げられた状態で握られている。

 

「何を――」

 

するの、と最後まで言い切る前に、視界が真っ暗になる。

先程まで持っていたネクタイは、私の目に巻かれたらしい。

 

「暗くしてあげて、環境の変化を少なくしてあげると、

落ち着くらしいけれど……こういうことで、いいのかしら」

 

何も見えない中で、彼女の声だけが下りて来る。

視覚と動きを制限され、何をされるのだろう、と強く不安に思う。

 

「じゃあ、私は撮影があるから……」

「ちょっ……!」

 

彼女が立ち去る気配を感じて、慌てて声を掛けた。

 

「ね、ねえ、このまま置いていくの……?」

 

ロープをギシギシと鳴らしながら、

解いて欲しいと暗に訴えるも、返ってきた答えは無情だった。

 

「ええ。数日はこうしたほうがいいって、書いてあったから」

「で、でもその……トイレとか、行きたくなるかもしれないし……」

 

実際、彼女は一度家を出ると、半日以上戻らない時もある。

必死に訴えていると、腰の下に何かが差し込まれる感覚があった。

 

「こんなこともあろうかと、ペットシーツを用意していたの。

だから、大丈夫。ちゃんと片づけてあげるから……」

 

――したくなったらこのまましろ、と……?

 

(何も大丈夫じゃない……!)

 

もう、それは人間にしていい仕打ちを超えている。

しかし彼女は何も疑問に思っていないのか、私からすいと離れる気配がする。

 

「ま、待って! みちるちゃ……!」

「……ごめんなさい、本当に時間がないの。

帰ったら、たくさんお話してあげるから……」

 

足音はどんどん離れてゆき、やがて玄関の方から、

扉を開け閉めする音と、ガチャリと鍵の掛かる重たい音が鳴り響く。

 

(ホントに、置いてかれた……?)

 

真っ暗な視界の中で、ズンと絶望感が圧し掛かる。

 

(暗い、動けない……怖い……)

 

何も見えない状態で、身動き一つ出来ずに取り残されるなんて、

考えたこともなかったけれど……その恐怖は、想像を絶するものだった。

 

「……っ……」

 

何一つ情報が入ってこない無音の部屋で、一人身を震わせる。

 

「誰か……み、みちるちゃん……いないの……?」

 

静寂と孤独に耐えかねて、気付けばそんなことを口にしていた、

けれど、勿論返事なんて来る筈もなく。

 

「みちるちゃん……。暗い、怖いよ……これ、外して……?」

 

無駄だってわかっているのに、何か喋りでもしていないと

孤独に飲み込まれてしまいそうで、口から言葉が溢れ出る。

 

「ねえ……返事してよ。みちるちゃん――」

 

 

--------

 

 

――どれくらいの時間が経ったのだろう。

三時間? 五時間? それとも、もっと?

 

(わからない……何も……)

 

声を出すことにも疲れて、気が付いたら眠りに落ちていたけれど、

目を開けても視界は暗いままで、恐怖と不安は募る一方。

 

(……もしかして、ずっとこのまま)

 

死ぬまで放置されるのかな、なんて思考まで頭をよぎってしまい、

身体の芯から凍り付くような感覚に襲われる。

 

「み、みちるちゃん……」

 

自分から出た声は思っていたよりも掠れ、震えていた。

 

「返事して……返事してよ……みちるちゃん、みちるちゃん……」

 

かつて、これほどまで必死に人の名前を呼んだことがあっただろうか。

この状況から私を助けてくれる唯一の名前を、何度も口にする。

 

――その時だった。

 

「みこちゃん……。大丈夫、わたしはここよ」

 

すぐ近くから返事が聞こえてきて、びくりと身体が震える。

いつの間に帰ってきていたのだろうか、彼女の手によって、目隠しが外された。

 

「あ……」

 

視界が開けて、冷静になったことで、

先程までの言動を聞かれていたことが恥ずかしくなり、押し黙る。

 

「そんなに何度もわたしを呼んで……寂しかった?

それとも、怖い夢でも見てしまったのかしら」

 

どうやら彼女は私が眠っている間に帰ってきていたようで、

起こしてあげた方が良かったかと、触手を揺らしながら訪ねてくる。

 

「う、ううん……大丈夫。ちょっと、寝ぼけてたみたい……」

 

何度も彼女を呼んでしまったことについて誤魔化しながら、

小窓の方に目を向ける。日は傾いているが、完全には落ちていない。

 

「今日は、少し早めに撮影が終わったの。

だから、早く帰ってきたのだけれど……寂しい思いをさせたみたいね」

 

そう言って、みちるちゃんは触手を揺らしながら

こちらに手を伸ばし、涙で濡れていた私の目元を指先でぬぐった。

 

「こんなこと、したくなかったけれど……でも、

あんなに激しく、わたしを呼んで、求めてくれるなんて……」

 

くすりと、彼女が吐息を漏らす音がする。

 

「しつけの効果は、あった……ということでいいのかしら」

 

指摘され、顔に熱が集まっていく。

……いったいいつから、彼女に見られていたのだろう。

 

「っ……! そ、それより、トイレ行きたいんだけど。

これ、外してくれないかな……」

 

恥ずかしさから話題を逸らして――実際、催してもいたし、

ロープをギシギシと鳴らして、解いてくれるよう訴えかける。

 

「そういえば、していなかったのね……」

 

そう言って、彼女はゆっくりと私の上に跨った。

 

「それじゃあ、解いてあげるから……じっとしていてね」

 

みちるちゃんは手を伸ばすと、私の手首のロープ――をスルーして、

ベッドに繋がれている方のロープを解き、私の手首に短く纏め上げた。

 

「あの……? これじゃ、トイレ出来ないよ」

「大丈夫。わたしがついているから」

 

……今一つ会話が噛み合わないまま、彼女は私に背を向ける。

実際トイレが限界近いのもあり、急ぎ足でその背を追いかけた。

 

「入って」

 

促され、そのままトイレに入ると、

みちるちゃんも後から一緒に入ってきて、内側から鍵を掛けた。

 

(え……。これ今、どういう状況?)

 

狭いトイレに二人きりで押し込まれるような形になって、

半ばパニックになっている私の下を、彼女は躊躇いなく脱がせる。

 

「ちょっ……!?」

 

縛られたままの両手で慌てて前を隠す私を他所に、

彼女は私を軽く押してトイレに座らせて、ゆらりと触手を蠢かせた。

 

「どうぞ」

「……え……?」

 

 

--------

 

 

(うぅ……もう、お嫁にいけない……)

 

――それから起こったことは、思い出したくも無い。

トイレに座らされた状況で我慢なんて出来るはずもなく、

また、両手を縛られたままでは、当然自分で拭くことも出来ず……。

 

「ご飯、用意出来たわ」

 

痴態を思い出して一人顔を真っ赤にしていると、

みちるちゃんがパンとスープ、それからいくつかの惣菜を持って入ってきた。

 

「熱いから、少し待っていてね」

 

彼女はそう言ってスープをスプーンにとって冷まし、

ある程度冷めたのを確認してから、私の口元に差し出す。

 

「これ、解いてくれたら、自分で食べられるんだけど……」

「だめ」

 

遠慮がちにお願いしてみるも、返ってきたのは無慈悲な二音の言葉。

 

「こうやって、手ずからご飯をあげたり、

お世話してあげたら、もっと仲良くなれるってあったもの」

 

さあ、と再度スプーンを差し出されて、

お腹も空いていた私は、諦めて目の前のスプーンを口に入れる。

 

「ふふ、おいしい?」

 

愛でるように触手で頬を撫でられながら尋ねられて、頷く。

……彼女の手料理は、正直な話……すごくおいしい。

 

「はい、あーんして……」

 

スープを飲み下したのを確認して、今度はパンが差し出された。

 

「ゆっくりでいいわよ。飲み込んでからで……」

 

くすりと吐息を漏らすように、彼女が笑う。

きっと、触手の下では微笑みを浮かべているのだろう。

 

「……あむ……」

 

食事は餌付けのように、ゆっくり、じっくりと進められ、

パンを食べる私の前に、次は肉と野菜の炒め物が用意された。

 

「口の端、ついてるわよ」

 

みちるちゃんが指を伸ばして私の口元をぬぐい、

当然のようにその指先を自分の口の辺りに持っていくのが目に入る。

 

「わたしの手からご飯を食べるみこちゃん。すごくかわいいわ……ふふ……」

 

私の挙動一つ一つを観察しながら、彼女は触手を揺らして笑う。

 

「そろそろ飲み物も欲しいかしら。はい、どうぞ」

 

顔の前にコップを差し出されて、中のお茶を飲み下す。

こうして、ただ、出されたものを受け入れるだけの食事をしていると……。

 

(……なんだか、犬か猫にでもなったみたい……)

 

人としての尊厳とか、大切な何かを失っている気分になりながら、

この『しつけ』がいつになったら終わるのか、私は漠然と考えるのだった――




お読み頂きありがとうございました。
ストックは以上となりますので、これからは
週に一度くらいのペースで完結まで更新していこうと思います。

常に同士を求めているので、評価や感想を頂けると大変喜びます。
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