籠の中の見える子ちゃん   作:hinadori2424

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みこは籠の中に墜ちる

――目隠しをされて、手足をロープで逆Yの字に拘束されて、

その上で、前の『しつけ』よりも、ずっと長い時間放置される日々。

 

(暗い……怖い……。喉、乾いた……)

 

彼女は、いつもいつも、

私が耐えられるギリギリのタイミングでやってくる。

 

そして、黙々と食事と身体の世話をして、

軽いスキンシップを取っては帰っていく。

 

(怖い、怖いよ……みちるちゃん、次はいつ来るの?

本当に来てくれるの? みちるちゃん、みちるちゃん……)

 

そんな生活が繰り返されるうちに、頭が働かなくなって、

気付けば彼女のことばかり、考えるようになっていた。

 

――ガチャリ。

 

「あ……!」

 

ドアが開く音を聞いて、自分から漏れた声は、喜色溢れるものだった。

 

「みちるちゃん、来てくれたの、みちるちゃん……」

 

何も話さない彼女に、一方的に話しかけていると、

いつものように食事を与えられ、身体を手入れされ、スキンシップをされる。

 

「……ま、って」

 

いつもと違ったのは、スキンシップが終わって、

立ち去ろうとするみちるちゃんに、そう声をかけたことだった。

 

「行かないで……。おねがい、一人はやだよ……」

 

罰を受けている立場なのに、こんなことを言ったら、

気を悪くして本当に放棄されてしまうかもしれない……

……それでも、言わずにはいられなかった。もう、限界だった。

 

「もっと私に触って、私と一緒にいて……みちるちゃん――」

 

縋るように首を伸ばして、必死に言葉を掛け続けた。

これ以上、繰り返されると、狂ってしまいそうだったから。

 

――不意に、視界が明るくなった。

 

目隠しを取られたのだと気づいたのは、

ゆらゆらと、ご機嫌に揺れる触手が目に入ってからだ。

 

「ふふ、ふふふ……」

 

触手の塊の中心から、くすくすと息を漏らす音がする。

 

「……ふふ、ようやくね。わたし、ずっと待っていたのよ」

 

久しぶりに言葉を発して、みちるちゃんは私の背中に腕を回す。

 

「心の底から、みこちゃんが……わたしを求めてくれるのを」

 

きゅう、と優しく抱きしめられる。

触手の塊――みちるちゃんの顔が近づいてきて、私の頬にすり寄せられた。

 

「ずっとずっと、待っていたの……」

 

ぴったりと、触手の塊に密着されて……すごく怖い、はずなのに。

なんでだろう、今、私の中に、恐怖の感情は無かった。

 

「今、解いてあげるからね……」

 

こうして、腕に触手が巻き付いてきても、何も怖くない。

……むしろ、触手が『見える』ことに、安心感さえ覚えた。

 

「みちるちゃん……行かないで……」

 

解いて貰った両手で、彼女の背に腕を回して抱き着いた。

黒い塊に顔が飲み込まれ、真っ暗になるけれど、そんなのどうでもよかった。

 

「おねがい……」

 

私を包み込めてしまうくらい大きな体に縋って、懇願する。

彼女の身体からは、嗅いだことのない花のような、不思議な香りがした。

 

「ええ。……ずっと傍にいてあげる。ずっと、ずっと」

 

背中に、彼女の長い腕が回されて、触手が巻き付けられる。

その温かさに、心が安らいでいくのを感じた。

 

「みこちゃん」

 

不意に、みちるちゃんが私から少しだけ距離を取る。

くすりと、彼女が笑う音を聞いた気がした。

 

「今から、どうしてほしい?」

 

ふわりと、目の前で触手が広がった。一見捕食寸前にも見える姿だけれど、

今の私にはわかる。……彼女は、私を甘えさせようとしているんだ。

 

「……かわいがって」

 

誰かに甘える、というのはあまり得意じゃなくて。

出てきた言葉は少しそっけないものだったけれど、それで充分みたいだった。

 

「…………」

 

しゅるりと触手が伸びて、私の周囲を囲い込む。

私の両肩に、彼女の手が置かれて――

 

――ちゅ。

 

唇に、柔らかい感触が訪れた。

 

「……っ……!?」

 

驚いて固まる私の前で、くすりと、吐息を漏らす音がする。

 

「はじめて? ……わたしもよ」

 

それより、口にキスされたことに驚いているのだけれど、

彼女は私を囲う触手の一本を手首に巻き付けながら、私の手を取った。

 

「仲良しになると、こうやって、キスして触れ合うっていうものね……」

 

すらりと、彼女の細長い指先が、私の指の間に入り込んできて、

いわゆる『恋人繋ぎ』のような状態で、彼女はくすくすと笑みを漏らす。

 

「ふふ……。ずっと我慢していたもの。こんなものでは、足りないわ」

 

きゅ、と絡められた指先に力が込められて、再度彼女の顔が近づいて来る。

覚悟して目を閉じると、再度唇に柔らかい感触が訪れた。

 

――はむ、はむはむ。はむぅ。

 

ついばむように、優しく、何度も唇を咥えるようにキスをされ、

気恥ずかしくて離れようとするけれど、絡んだ指先がそれを許さない。

 

「みこちゃんの唇、柔らかいのね。それに、あたたかいわ」

 

彼女は体温が低いようで、指先も唇も、ひんやりとしている。

 

「身体も、すごくあたたかい……ふふ……」

 

繋がれていない方の手を、彼女は私の服の中に入れて、

お腹から脇腹にかけてなぞるように優しく撫でた。

 

(……っ、女の子同士でこんなの、絶対おかしいのに)

 

どう考えても、みちるちゃんの距離感は常識的ではない。

女の子同士とはいえ、口にキスして服に手を入れるなんて非常識だ。

 

なのに――

 

(――なんで、私、安心してるの……?)

 

羞恥で火照った身体を冷たい指先で撫でられるのを。

ひんやりとした唇に、優しく口づけを落とされるのを。

嫌じゃない、そう感じてしまっている私が居ることに気が付いてしまった。

 

「そんなに可愛い顔されたら……。わたし、やめられなくなってしまうわ」

 

自分の感情がわからなくて、ついつい彼女を見つめていると、

みちるちゃんは絡めた手はそのままに、私の身体を押し倒した。

 

「ふふ……。たくさん、かわいがってあげる」

 

するりと指先が外されるのを、なぜだか名残惜しく感じる。

そんな情緒に戸惑う私の身体の下に、彼女の両腕が差し込まれた。

 

――ギュウウウウウウ。

 

触手を私に巻きつけて、みちるちゃん自身も包み込むように

私をしっかりと抱きしめながら、すりすりと私の胸元に頬擦りをする。

 

「みこちゃん、ドキドキしてる……」

 

触手のせいで彼女の頭部を見ることはできないけれど、

胸の中心に耳を当てられているような感触がある。

 

「生きているのね……今、私の腕の中で……ふふ……」

 

ぎゅっと私を抱きしめたまま、くすくすと笑う彼女に、

なぜだか触れたくなって――彼女の背中に腕を回して、抱き返した。

 

「……っ……」

 

私に巻き付いていた全ての触手が跳ねるのが視界に入る。

彼女自身は動いていないけれど、驚かせてしまったのかもしれない。

 

「みこちゃんっ……」

 

――私の背に回されている腕に、より強く力が込められる。

 

よかった、嫌だったわけじゃなかったみたい。

そう安堵して、直後に、自分が安堵した理由がわからず混乱する。

 

「すき、すきよ。だいすき……」

 

どれだけ考えても、自分の気持ちが理解できなくて。

混乱する私を、みちるちゃんはただ抱きしめて、耳元で言葉を紡ぎ続ける。

 

「あなたの全てがわたしのトクベツなの……みこちゃんの、全部が欲しいわ」

 

それでも、ただ一つだけ、わかることがあるとするなら――

 

(……私を守ってくれるのも、助けてくれるのも、みちるちゃんだけ)

 

暗くて、動けなくて、お腹も空いて、怖かった。

彼女に逆らって逃げようとするなんて、考え自体が間違っていた。

 

「いいよ、好きにして……みちるちゃん」

 

そう答えると、私に巻き付いていた触手がほどけて、

みちるちゃん本体と一緒に時が止まったように固まった。

 

「……私、わかったよ。

どれだけみちるちゃんが私を大事に思ってくれていたのか」

 

いい子にしていたら、みちるちゃんは優しくしてくれる。

私を大切に、守ってくれる。『ヤバい奴ら』も、駆逐してくれる。

 

「だから私……みちるちゃんの物になる……」

 

彼女の首であろう箇所に腕を回して、きゅ、と抱いてみる。

すると、触手ごと固まっていた彼女が、再び動き出した。

 

「ふふ……ふふふ……」

 

彼女は、淑やかな笑い声を上げて、再度私の唇に口づける。

 

「いいのね、みこちゃん……。わたし、もう、とまれないけれど」

「……いいよ」

 

私は、受け入れることにした。彼女の想いを。彼女の全てを。

そうすれば、きっと――悪いことには、ならないから。

 

 

--------

 

 

「ふぅ、ふぅ……は、ぁ……」

 

彼女と激しく触れあって、乱れた衣服を整える余裕もなく

荒い呼吸を繰り返す私の頭を、みちるちゃんが優しく撫でる。

 

「……いい子。いい子ね、みこちゃん」

 

ゆらり、ゆらりと、上機嫌に揺れる触手を見ると、なんだかホッとした。

 

「うん……私……いい子にするから、だから……」

 

疲れ果てて、ぐったりと彼女に身体を預ける私を、

みちるちゃんは優しく抱き留めて、なだめるように背中を叩く。

 

「わかっているわ。安心して……、みこちゃん」

 

歌うように、機嫌よく囁かれるのが心地よくて、目を閉じる。

 

「もう『おしおき』も『しつけ』も終わりよ……」

 

ゆっくりと言い聞かせるように囁かれながら、背中を撫でさすられて……

安心感に包み込まれて、まどんでいく意識の中、彼女の背に手を回す。

 

「みちる、ちゃん……」

 

彼女は私の身体を片腕で優しく抱き返して、頭を髪の流れに沿って撫でた。

 

「眠たければ、このまま眠っても大丈夫よ」

 

寝かしつけるようにリズム良く背を叩かれて……

いよいよ心地よいまどろみに、意識が溶けていく。

 

「……ん、ぅ……」

 

彼女の身体に顔をうずめ、擦り付ける。

暖かくて、大きな身体は、私を安心させてくれる。

 

「ふふ……ようやく……ようやく墜ちて来てくれた……」

 

私を撫でながら、彼女が何か言っているけれど、それは子守唄のように

右から左へと、ただの音として私の耳を流れていった――

 

 

--------

 

 

――眠りに落ちた獲物を抱え、白銀の髪と触手を揺らして、

くすくす、くすくすと、一人の少女がとても楽しそうに笑っていた。

 

「羽も含めて、魅力的だったけれど……」

 

細く白い指先で、黒髪を救い上げ、はらはらと落とす。

 

「飛んで逃げられるくらいなら……もいでしまえばいいのよ」

 

愛おしそうに、髪の流れに沿って眠る少女の頭を撫でて、

自身には見えない触手をぐるぐると繭のように巻き付ける。

 

「もう、色々な顔を見ることができないのは、少し寂しいけれど」

 

目を伏せて、寝顔をじっと見つめる。

その表情は安心しきった安らかなもので、少女の笑みが深まった。

 

「羽をもがれて、わたしのことだけ見てくれる姿も……きっと可愛いわ」

 

腕の中の獲物を、ぎゅっと抱きしめ、髪に口づけを落とした。

 

「本当は、少しずつ仲良くなっていくつもりだったけれど……

でも、しかたないわよね。ふふ……」

 

すやすやと、腕の中で寝息を立てる姿を見ながら、笑みを零す、

 

「わたしの……わたしだけのみこちゃん……」

 

うっとりと目を細めて、長身の少女が深い笑みを浮かべる。

 

「ドロドロに甘やかして……可愛がって……

逃げようとする羽なんて、二度と生えないようにしてあげる」

 

「わたしのことしか考えられないくらいに、愛して、愛して……

他のことなんて、ぜんぶぜんぶ、忘れさせてあげるから」

 

「だから……。だからずっと、わたしのところにいてね」

 

物音一つしない、小さな部屋の中。

 

少女が楽しそうに吐息を漏らす音だけが、ただ鳴り響いていた――




ついに堕とされてしまいましたが、
あと数話だけ続きます。是非ともお付き合いくださいませ。
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