前回の最後からの続きです。
「ふう」
刀の手入れを終わらせ、置いてあったお茶で一息つく。お茶は基本的に緑茶をよく飲む。たまに気分で紅茶を飲んだりしているが、やっぱりお茶は緑茶だろう。まあ、紅茶は紅茶でおいしいのだけれど。
刀の手入れは今でこそ普通にできるが、初めのほうはよく膝の上から刀身を落としそうになったり、指を切ってしまったり、刀に塗る油をつけすぎて鞘の中が油だらけになったりと散々だった。あの時は出来る気がしなかったけれど、100年もたつと出来るようになるのだなあと時間の流れの偉大さを実感する。
さて、時の流れを感じるのもこれくらいにしないと寝るのが遅くなってしまう。だってまだ作ってないもん、晩御飯。刀を鞘の中に入れ、キッチンへと向かう。今日は少し時間もないのでサクッと作ってしまおうと思い、いつも通りの味噌汁と、弁当用に作りすぎてしまったポテトサラダとご飯でいいかな。
味噌汁を作るために鍋に火を入れ、米を炊くために磨いでから炊飯器に入れスイッチを押す。月の科学により米をたった3分で炊きあげさせるというとんでも性能の炊飯器のおかげで調理時間の短縮が出来るようになっている。
最初使ったときは何もすることがなく、5分位待てば料理が出来てしまうということがよくあった。材料だけ入れたらできるので、最初は『便利だなー』なんて思いながら使っていたが、結局自分で作るようになった。何故かというと、前世で母親がほとんどご飯を作っていたが大学に入学したとたんに『今度からは自分でご飯を作りなさい』と言われた。俺は反論したが受け入れてもらえず、渋々自分でやり始めたのだが、案の定全くできず大変な思いをしたからだ。もう、あんな思いはしたくない。
朝ごはんを作る時間がなく、午前の講義で死んでいたのはいい?思い出だ。
ピピッピピッ
あ、米が炊けたみたいだ。
〇
「ああ、暇だなぁ」
訓練中の玉兎たちを見ながらそんなことを呟く。もちろんの事ながら玉兎たちに聞こえないように小さく。まあ、どちらにせよこの距離からでは聞こえないだろう。私とお姉様が訓練をしている玉兎たちは月詠様から高い評価を得ている事もあり、通常よりも少し厳しい訓練をしている。
内容としてはまず午前中のうちにイーグルラビィの運動場を10周と妖力射撃訓練をして、昼食を取る。その後に私とお姉様との実践訓練。通常のイーグルラビィの訓練が射撃訓練だけと考えるとかなり厳しいかと思う。
月詠様から高い評価を得ていると言っても私たちはなにか教えることなどほとんどなく、手合わせしたり、サボらないか見ているだけ。実践訓練も、私からすれば玉兎たちの撃つ弾幕なんて目を閉じていても避けられるほど遅いし、威力もない。そんなだから私にとってはまるで訓練にならないのでかなり退屈になってしまった。
なってしまったというのも何故だか分からないけれど、急にいつもの日々が退屈に感じ始めている。今日だって朝起きて、玉兎の訓練の様子を見ていたり、お姉様と話したりと以前も同じような生活リズムだったのに、『暇』を感じてしまう。
実際にこの生活が暇なのだろうか?………いや違う。私はお姉様と会話したり、出来の悪い玉兎たちを見たりするのことも楽しいと思っているし、満足している。だから、日常生活がいけないという訳ではない。そういえば、こんなことを思うようになったのはいつからだろうか?確か、お姉様に呼ばれていじられたあの日より前。私が玉兎に攻撃してしまった時からだと思う。
百年ほど前の話でも、千年前の話でも、万年億年より昔の話でも、大体私は覚えている。覚えている理由としてはただ、それらを忘れてしまうような物事がなかった、ということだと思う。要は何か私たちが過ごす日常の枠を出た物事、忘れてしまうような大きなことがなかったのだ。
人が一つの物事を覚えている時間には限界があると師匠に習ったことがある。基本的に人間や妖怪の脳には情報を記録するメモリのようなものが頭の中にあり、それが我々の記憶になっていて、その限界には個人差があるとのことだ。物事を忘れるためにはそのメモリを上書きしないと消えないらしい。他にも成長や老衰、長い時間がたつなどで忘れるらしいが、特に変化のない生活の上に私は月人であるため寿命がなく、体がほとんど変化しない。だから記憶を忘れることがない。
そのせいで、かなり昔のことを覚えていたりするのだが。
いま私が暇を感じているのは新しい、メモリに上書きのできるものが入ってきたにも関わらず、いまだ触れることの出来ていないことから出た虚無感からの『暇』であろう。
あの玉兎に攻撃を止められたことを思い出すと、いつもやっている鍛錬にも心なしか力が入る気がする。月読様から手合わせのことを聞かされた時は内心すごくうれしかった。私のリベンジよりも、あまり手合わせをしてくれない月読様に代わって相手になってくれればいいなという喜びのほうが大きかった気がする。それに、扱う武器は刀!
月読様は手合わせをしてくれないし、お姉様はたまに手合わせをしてくれるが、そもそも使う武器が違うので刀対刀の訓練にはならないし、玉兎は論外で月の兵士も玉兎よりましだがそれでも弱い。
相手がいない。だから、今のように一人で鍛錬することが多い。
あの玉兎がどれほど強いのか。気になるところだ。
「ふふふふふふふふふふふ」
そんな万円の笑みで不穏に笑う様子の依姫を近くで歩いていた玉兎はこう思った。
『えっえぇぇぇ?何で依姫様笑ってるの???』
上司の不気味な様はもはや恐怖である。
〇
うーんなんか寒気がするな。何でだろう?風邪を引くわけないものなぁ。
各話のタイトルについてのアンケート
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いままで通り。
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◯章・◯◯話の後にその話の簡単な内容
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その話の簡単な内容だけ