Hertz-Maschine @ Metropolis   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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琥珀が霜国の武装集団を全滅させたことで、霜国は更なる混乱に包まれていく。


霜国にて

「どこもかしこもこの前の話で持ちきりじゃん」

「この国の人暇なんじゃない?」

 先日、霜国の青年たちが悧国軍と戦闘したときの話は瞬く間に霜国中に広がっていた。どこかに食事に行って帰ってきたらしい雄黄や青虎が店で聞いた噂の話をしている。

「天青ってあの技使えるの?」

 青虎がソファーに腰掛けながら天青に尋ねる。

「自爆技なら無理だけど」

「いや、そっちじゃないから」

「そっちでないなら、使えるには使えるけど」

 広範囲の人間を衝撃波で吹き飛ばし、そのあとで一帯を燃やすだけなら、不可能ではないだろう。けれど琥珀は最後にもう一段階炎の出力を上げた。自分がそれをするかと聞かれれば、答えは否だ。

「炎の威力はあんなに強くなくても、自爆技使おうとしてたんなら多分引火して普通に死んじゃったよね」

「そうだな」

「何で出力上げたんだろうね」

「さあな」

 自爆技を使おうとした向こうの方が当然悪いのだが、相手が戦闘不能になっても手を止めなかったどころか、さらに出力を上げた琥珀の残虐さについても噂になっているようだった。

「まあこれであの国にちょっかいかけようって人は減るかもしれないけどね」

 青虎が言う。霜国の人間が王位を目指して他国と戦おうとしたときに、一番やりやすいのが悧国だ。梓国は幻術への対策が難しく、號国は一番の大国だ。戦闘のスタイルは比較的単純で、しかも王が琥珀のような少女に代わったばかりということで、更に狙いやすいと感じている人たちは少なくはないだろう。

「普通におっかないもん」

「これまでも結構そうだったと思うんだが」

 初陣では、いくら相手に侮られていたとはいえ、あっという間に敵軍の将の首を飛ばした。まともな人間ならそんな人に勝負を挑もうとは思わないだろう。

「でもこれまでは一人だったからね。今回……三十人くらいだっけ」

「その人数でやることが自爆技ってのもなかなかだと思うけどな。それに琥珀以外はあの段階では自爆技に気が付いてなかったし」

「やっぱ飛び抜けて強いよね。普通の近衛兵だったら浮いちゃうかも、あれは」

 近衛兵のそれぞれが弱いわけではない。玉髄が組織していた勝手の近衛兵と戦っても勝てるくらいには訓練されているだろう。けれど琥珀はその中でも群を抜いて強いというのは確かだった。そして自爆技を発動前に見抜く洞察力もある。

 玉髄が生きている世の中で、琥珀が希望していた通りに近衛兵入りを果たせていたとしても、おそらくはその飛び抜けた強さが逆に枷になっていただろう。だからといって何も知らずに王になったことが幸福とも思えない。

「ていうか俺は対処できる気しないわ、あれ」

「あれは決まった手順を踏んで発動させる技だから、それを覚えておくといい」

 玉髄はもしものときに備えて近衛兵にもそれを教えていたから、琥珀も訓練に混じっていたときにそれを聞いていたのかもしれない。知っていたところで防ぎきれるものではないから禁止されたというのもまた事実ではあるのだが。

「でも外に行けなくなった分、中で色々ありそうだね」

「別に強くなるだけで王になれるわけじゃないんだけどな」

 一番強い人間が王である、という決め方で出来るのならそれほどわかりやすいことはなかった。けれど本来王を決めるのは血筋だ。それを捻じ曲げた王が一人いるだけで、本当はそちらの方が異常な事態なのだ。

「でもさぁ、王が天青の言う通りシステムだって言うなら、絶対四人用意しそうじゃない?」

 青虎が言う。仲間たちにも全てを教えたわけではないが、支障がない範囲でこの世界に隠されている嘘について話をしてはいる。

「四つの椅子が常に埋まるように、適合者がいなかったら他の人を入れたりとか。ありそうじゃない?」

「悧国の場合はそれで説明できるけど、この国は結局誰も王になれなかったからこの状態なんだろ」

「シンデレラみたいに国中の人間に試したわけじゃないじゃん」

 シンデレラもおそらく女しか試さなかったと思う。それにこんな世界の王になるためのガラスの靴なんて履く前に突き返した方がいい。

「登録されている人間の数だけでいったら今すでに四人なんだよね」

「……俺を数に入れるな」

 王になるつもりはないのだ。けれど必ず生きている人間が四人以上登録されている状態を維持している、という仮説は一理ある。王の血筋でないものが適合する確率は5%を下回っているらしいが、逆に言えばその数字を割り出せるほどにその血筋でないものが適合した例はあるのだ。王の数が四を下回ったときに限り、その5%未満に入る人間から補充している――と考えることは確かにできる。

「あの機械のことは俺もよくわからない」

「携帯端末のことだって完全にわかってるわけでもないのにみんな使ってるからね。そんなもんなのかもね」

 そのときはどこか他人事のようにその話を聞いていた。王の椅子は自分から捨てたのだし、今の霜国から琥珀のように王になれる人間が出てくるならそれはそれでそういうものなのだろうと思っていた。

 けれど数日後、これは決して他人事ではないことを知ることになった。

 

 

「今流行りのバトルロワイヤルってやつか」

「流行ってるんですか、それ」

「もしくは蠱毒かな」

 菫青(きんせい)と軽口を叩きつつも手に武器を持ちこちらに向かってくる男たちと相対する。相手はそれほど強くない。向かい合っていればわかる。始まれば数分でカタがつくような相手だ。

 相手が動き始めた瞬間に血の気の多いメンバーがあっという間に男たちを組み伏せる。数分どころか数秒だ。けれど床に倒れた男の一人が少しだけ顔を上げて、真っ直ぐに天青を見た。僅かに開いた口の中に小さな銃口が見える。その狙いに気付いた藍晶が男の頭を踏みつけた。

「……仕込み銃とはご丁寧に」

「でもこの仕込み銃、狙い定めるの難しいやつじゃない?」

 基本的に仕込み銃の類は狙いを定めるのが難しい。手首や口の中に隠すものはその中でも特に難しいので、もっと相手に近付いて使うものなのだ。

「――端末をどうにかしても意味はないんだけどな」

 おそらくは天青の持つHertz-Maschineの端末を狙っていたのだろう。琥珀たちとの戦闘のときに使ったから、そのときの映像でも見ていればどれが端末なのか知られていてもおかしくはない。

 Hertz-Maschineの端末、基本的にはその人間に一番合う形のものが勝手に作られる。琥珀は左手首につけているが、天青はピアスの形をしていたのでそれを左耳につけていた。

「しかもこれ一度つけると普通には外せないからな」

 無理矢理に壊してしまうという方法もないわけではないが、普通には壊せない素材でできているという話もある。これを普通に外すには他の王の力が必要になるのだ。琥珀が悧国のデータ領域に残された天青の情報を消していれば外すこともできたのだろうが、今のところ消されてはいないから外すことはできない。

「このあとも来るかなぁ、こういうの」

「霜国の中で争って一番強いやつがのしあがるってことになってんなら、まだ来るんじゃないかな。でも大体は雑魚でしょ」

 そんな話をしている藍晶や青虎を尻目に、天青は天井を見上げた。そうでなくても抗争やら何やらで溢れた世界だ。今更嘆くことはない。引っかかっているのはこの前あの男に言われた言葉だ。

 

「いずれ避けられない運命として王にならざるを得ない」――。

 

 あの男のことだから出任せを言った可能性もある。けれどそんな簡単には片付けられないほどに、その言葉が頭にずっとこびりついていた。

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