Hertz-Maschine @ Metropolis   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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ハロウィンツイノベ、ペーパーウェル、300字SSの企画で書いたものをまとめました。


王か少女か/束の間の仮面の/潰えた未来

『王か少女か』

 

「いや、ごめん。私だよ……」

 死神の仮面を外して、申し訳なさそうに琥珀(こはく)は言った。仮面で正体が隠せるからと選んだ衣装だったが、子供たちにとってはただ怖いだけだったらしい。死神の正体がわかった途端に安心した子供たちが琥珀に群がる。

「大人から見れば、正体が王様ってのも怖いけどねぇ」

 

 そう呟いたのは桃簾(とうれん)だ。可愛らしい魔女の格好をした彼女は、子供たちにお菓子を配りながらも幼い王の少し困ったような笑顔を見ていた。

 殺した人間の数は既に両手両足では足りないくらい。けれど本当は子供が好きで、恥ずかしがり屋で、少し気分屋の、普通の少女だ。そのことを、近衛兵である自分達も、そして琥珀自身も忘れかけているのではないか。時折そんなことを考えてしまうのだ。

 

◆◆◆◆

 

『束の間の仮面の』

 

 塔の下にある、棄民たちが暮らす四つの国にもそれぞれ行事のようなものはある。中でも()(こく)は比較的治安が良いこともあり、クリスマスやハロウィンなんかの祭りが開催されていた。とはいえ治安が良いというのはあくまで他に比べてでしかない。中心街でのこのハロウィンパーティーも、あと一時間もすれば乱闘のひとつやふたつは発生するだろう。中心街を見下ろせる建物の屋上で、黒いフードを目深にかぶった琥珀(こはく)は溜息を吐いた。

 そのとき、琥珀の背後で物音がした。ここは穴場だと思っていたけれど、他にも知っている人がいたのだろうか。そう思って振り返った瞬間に、琥珀は自分の行動を後悔した。

「ハロウィンだからって浮かれてんじゃねぇよ、クソ兄貴」

 父親代わりだった玉髄(ぎょくずい)が見つけた場所だから、当然兄の天青(てんせい)も知っている。それを失念していた。というか来るとは思っていなかった。しかもしっかりと仮装――いや、琥珀の知らないアニメのコスプレをして。

「……ハロウィンの意義わかってる?」

 ハロウィンで仮装するのは、悪霊や妖精などの姿をして戻ってくる死者たちに気付かれないためだ。つまるところ不気味な格好をしなければならないのだ。

「いいだろ、別に。実質仮装パーティーになってるわけだし。そもそもこの世界に悪霊も妖精も神もいないんだから。ていうかお前のそれは仮装なのか?」

 琥珀が見下ろしているパーティーも、実際のところみんな好き勝手な格好をしている。どうせ悧国のハロウィンなんて、ただの仮装大会だ。だから今更コスプレをしている人を責めるようなものでもないのだが。

「昼間に施設の職員の手が足りないからって駆り出されたんだよ。で、一応死神の衣装貸してもらったんだけど、仮面が怖くて子供が普通に泣いたから外したの」

「なるほど。でもそれ普段着と大して変わらなくないか?」

 さすがに私服でマントは着ないけれど、真っ黒で顔があまり見えないというところは確かに普段とあまり変わらない。プラスチック製の安っぽい大鎌は邪魔だったので置いてきてしまった。仮装に見えないのは琥珀も認めざるを得ない。

「そもそも何で霜国(そうこく)の王になった人間が遊びに来てるんだよ」

 既にトリックオアトリートの儀式を終えてきたのか、天青はお菓子がたくさん入った袋を提げていた。お気楽なものだ。天青も琥珀と同じく王のはずなのに。

「気晴らしに?」

「自分の国でやれよ」

「どう考えても今の霜国でやったら人が死ぬレベルの乱闘になると思うが」

 それをどうにかするのが王の仕事ではないのか。天青が王になった後、多少は治安もよくなったとは聞く。けれど長らく無法地帯だったために、すぐに改善することは難しいのだろう。

 琥珀は天青との会話をそこそこに切り上げて帰ろうとした。そもそも外の風を浴びに来ただけで、ハロウィンパーティーに参加するつもりはあまりなかったのだ。琥珀はわざと天青にぶつかりながら、その横をすり抜ける。しかし天青に呼び止められて、琥珀は溜息を吐きながら足を止めた。

「何?」

「ハロウィンと言ったらアレだろ」

「お菓子も悪戯もお断りなんだけど」

 悪戯されたらその場で首を刎ねてやろうか。そう思いながらも、今日は帯刀していなかったのだと琥珀は残念に思った。

「そういや何で死神なんて選んだんだ?」

 施設に用意されていた衣装には、それこそコスプレに近いような可愛らしいものもあった。でもそれは他の近衛兵の面々が着た。琥珀がこの衣装を選んだ理由は単純だ。

「顔が隠れるやつがこれしかなかったから。でも仮面は結局意味なくなったけど」

 本格的すぎて子供にはただただ怖かったらしい。前に使った狐面でも使おうかと思ったけれど、洋風の出で立ちに狐面が合わなかったのでやめた。

「それに……別に意外でもないんじゃない、死神?」

 悧国の王になってから、数え切れないくらい人を殺した。一部では死神と呼ばれていることも知っている。そして自分がやっていることが何の意味もない行為かもしれないこともわかっているのだ。

「――わかってるのに続けるのか?」

 天青の問いに、琥珀は何も答えなかった。意味がなくても、心が摩耗していこうとも、今はこの道を進むしかないのだ。

「関係ないでしょ。もうこの国の人間じゃないんだから」

「このまま続けるなら、俺はいつかお前を殺さなきゃいけなくなる」

「……殺される、の間違いでしょ」

 琥珀はそのまま屋上を出て行った。誰も彼もが正体をなくして浮かれる街。仮面をつけられたら、もしくはちゃんとした仮装だったら、自分にもそれができたのだろうか。パーティーとは対照的な闇の中に、漆黒の死神の姿は溶けていった。

 

 

 そしてその数分後。琥珀を追いかけても怒られるだけだとわかっていたので、天青は一人になった屋上からパーティーを見下ろしていた。どうせならここでもらったお菓子を食べるのもいいかもしれない。そう思って袋の中に手を入れた天青は、中のお菓子が数個減っていることに気が付いた。

 そういえば、琥珀はあのとき何故かわざとぶつかってきた。そして琥珀のしていた死神の仮装は、フード付きの長いマントがあるために、その下に物を隠しやすい。

「あいつ手癖悪すぎないか……?」

 しかも高額なお菓子ばかり盗まれている。天青は溜息を吐いた。

「……お菓子も悪戯もしてるな」

 明らかな窃盗を悪戯と解釈してもいいなら、だが。ハロウィンを楽しみたい気持ちは少しはあったのか、それともただの嫌がらせか。どちらにしろしょうがない奴――琥珀に聞かれたら間違いなく怒られそうなことを、天青は考えていた。

 

◆◆◆◆

 

『潰えた未来』

 

 自分がやってきたことが全て無駄だったとわかったとき、そして動き出したものが止められないとわかったとき、人はどうすればいいのだろう。

 知ってしまった真実を、誰にも言うことはできなかった。言ってしまえば未来が失われてしまうから。仲間に希望を持たせたのは私だ。その私が、「やっぱり無理だった」なんて言えるだろうか。遠くない未来に、その運命が尽きることになると告げられるだろうか。

 パンドラの箱の中に最後に残ったのは希望だという。でもその箱の中には厄災が詰まっていたのだ。それなら希望とは、本当は厄災なのかもしれない。

 希望さえ抱かなければ、未来に絶望することもなかったのかもしれないのだから。




ハロウィンツイノベはちょっと加筆しました。
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