Hertz-Maschine @ Metropolis   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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琥珀が悧国の王になったときの話。


early days
王の資格


「覚悟はいいですね?」

 時計の形の頭をした男が琥珀に問いかける。琥珀(こはく)は不機嫌そうに頷いた。どのみち逃れられはしない。玉髄(ぎょくずい)が斃れ、正当な後継者であった兄の天青(てんせい)の行方がわからないとあっては、王になるべき人間は、玉髄の養子である琥珀しかいないのだ。

「――先に言っておきますが、もしあなたがHertz-Maschineを従わせることができなかった場合は、あなたは王になることから逃れることができますよ」

「そうなった場合は――この国は(そう)国と同じ王なき無法の国になる」

 そうなっても構いはしないとは言えなかった。この|悧《り国には琥珀にとって必要なものが確かに存在していたからだ。

「ですがあなたに責任はありませんよ。どのみち、玉髄様と血が繋がっていない以上、あなたが王になれる確率はせいぜい5%くらいでしょうか」

「5%ね。この国での遺伝子操作児の二十年生存率よりも高いくらいだ」

 あと数年で確実にその命を散らしてしまう仲間たちに比べれば、5%はまだ賭けるに値する数字だ。その5%を琥珀が掴むことができなければ、それよりも低い確率を覆すことなど出来はしないのだ。

「それでは――いつでも始めていいですよ」

 琥珀の目の前には、塔を動かす機構(システム)であるHertz-Maschineの使用者を認証するための端末がある。琥珀は短刀で親指の腹に傷をつけ、血判を捺すように指を端末の上部に触れさせた。

「適正ユーザーではありません」

 合成音声が冷たく言い放つ。結果はやる前からわかっていたことだ。Hertz-Maschineを使えるのは王の血を受け継いだ人間だけ。しかし琥珀はここで引き下がるつもりはなかった。

「……機械の分際で」

 他に誰もいないから琥珀はここに立っているというのに、あくまで血に拘泥するのか。王の器を決めるのは血筋なのか。そこに刻まれた遺伝情報なのか。

 そんなくだらないものは全て捩じ伏せてやる。5%の確率さえ覆せないなら、この先の未来を拓けるはずもない。

「機械の分際で私の器を測ったつもりか――。私は悧国を統べる新しい王だ。わかったなら、私に従い、応えろ……!」

 機械はエラーを吐き出し続ける。この道を切り拓く鍵を手に入れるためならば、心を持たない機械すら屈服させる。5%の確率があるということは100回試せば5回成功するということだ。

 膠着状態が一時間ほど続いたあと、急に端末が放つ光が赤から緑へと変化した。琥珀は口角を歪めて笑う。

「ユーザーを認証しました。悧国王、琥珀様。登録されている前ユーザー二人のデータを消去しますか?」

「二人?」

 玉髄のデータが登録されているのは当然として、二人とはどういうことだろうか。琥珀の疑問に応えたのは時計男だった。

「玉髄様と、天青様でしょうね」

 名前を聞くだけで苛立ちが募る。クソ兄貴――心の中で悪態を吐きながら、琥珀は機械に向かって答えた。

「消去する必要はない。消したくなったらそのときに言う」

「了解しました」

 琥珀が端末から指を離すと、闇の向こうで機械の作動音が聞こえる。数分もすれば、どこでもHertz-Maschineを起動できる琥珀専用の端末が完成するだろう。

「本当に消さなくてもよかったんですか?」

「別にどっちでも良かったんだけど」

「ですが、天青様がご健在の場合、データを残していると王位を簒奪される可能性もありますよ。あなたは強引に機械を捩じ伏せただけなのですから」

「……そのときはそのときだよ」

 琥珀は指先に滲んだ血を舐めてから、時計男を置いてそのまま部屋を出て行った。王として認証されたのなら長居の必要はない。分厚い扉が後ろで閉まったのを確認してから、琥珀は息を吐いて肩の力を抜いた。

 まだ最初の鍵を手に入れたにすぎない。本当の目的はこの先にある。これから繰り広げられる茶番劇の全てで、負けることは許されない。見世物と化した戦争でも、琥珀たちにとってそれは命懸けの戦いであった。

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