Hertz-Maschine @ Metropolis   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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琥珀は一人、かつて兄と行ったテーマパークのことを思い出す。普段は憎んでいる存在だが、その奥底には――。


テーマパーク

 悧国は四つの国の中では比較的豊かな方だ。中には小規模ながら飛行機をテーマにした遊園地もある。だが最近はどうも経営が厳しいらしい。そんな資料を眺めながら、琥珀は溜息を吐いた。

 子供の頃、そのテーマパークに遊びに行ったことがある。玉髄ではなくそのときの近衛兵の一人に連れられて、天青と一緒に行ったのだ。思えばその日は大きな戦闘があった日で、玉髄は琥珀たちの目をそれから逸らせたかったのかもしれない。けれどそのときはそんなことなどつゆ知らず、紙飛行機の形をしたコースターに乗ったりして楽しんでいた。

 あの頃に戻りたいとは思わない。けれど、懐かしく思うことはある。今は憎悪しか抱かない兄のことも、当時は慕っていたのも事実だ。あの頃のように無邪気ではいられない。あのときはこの世界のことなど何も気にせず生きられていただけだ。

 王として私企業に温情をかけるわけにはいかない。経営状態が厳しいとわかっていても、公的な援助を求めてこない限りは静観しているしかない。滅びていくとわかっていても何もできないときはある。

「最後に一回くらい行っとくのはいいかもしれないけど」

 遊園地自体は好きだ。そしてそこには思い出が眠っている。あの遊園地には確か、子供が紙飛行機を作って飛ばすと、パネルに映る映像が変わる小さなアトラクションもあったはずだ。琥珀はなかなか紙飛行機をうまく飛ばせずに、最終的に天青によく飛ぶ紙飛行機を作ってもらったのだった。

 琥珀はそばにあった使わない紙を適当に折り、椅子の背もたれに体を預けたままそれを飛ばす。紙飛行機はすぐに地面に落ちた。今も紙飛行機は下手なままなのか。天青ならもう少しましに飛ばせるのは今も変わらないのか。

「……何で、何も言わずに出て行ったんだ」

 何か言ってくれたら、今からでも説明くらいしてくれれば、憎まずに済むかもしれないのに。国中で飛び交う噂の通り、王になりたくないという理由だけで国を出たとはとても思えないのだ。

 口が裂けても言うことはないだろうが、天青になら今の近衛兵を託せるとも思っていた。自分に何があったとしても、天青なら彼女たちを見捨てるようなことはしない。けれど――天青が王になることを拒否して国を出た理由がわからない以上、完全に信用することはできない。

 もう戻れないのだ。

 一度割れた皿を元には戻せないように、あの頃のようにはなれない。懐かしんだところで何の意味もない。

 ただ、いずれその理由を知りたいとは思う。何故何も言わずに国を出たのか。そのくせやたらと琥珀を気にかけてくるのは何故なのか。

 もう一枚紙を取って紙飛行機を飛ばす。今度は先程よりも少し長く飛んで、壁に当たって地面に落ちた。

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