西郷の女と呼ばれる立ちんぼが、上野公園には存在する。見た目は三十五歳を少し過ぎたぐらいの美女で、いつも西郷隆盛像の近くにいることから、西郷の女と言われている。それだけならば都内に数多いる売春婦と変わらないが、その女には変わったところがある。相手によって一晩の料金が変わるのだ。

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西郷の女と最高の男

 西郷の女と呼ばれる立ちんぼが、上野公園には存在する。見た目は三十五歳を少し過ぎたぐらいの美女で、いつも西郷隆盛像の近くにいることから、西郷の女と言われている。

 

 それだけならば都内に数多いる売春婦と変わらないが、その女には変わったところがある。相手によって一晩の料金が変わるのだ。

 

 女は客の顔を一目見て料金を決める。五万と言われる男もいれば一万と言われる男もいる。

 

 男二人が西郷の女の前に立ち、それぞれ値踏みされると面白いことになる。安い料金を言われた方は勝ち誇り、高い料金の男をせせら笑う。

 

 そして女は言う。

 

「さぁ、どうするの? どっちが私を抱くんだい?」

 

 すると不思議なもので、ほとんどの場合、高い料金設定をされた男の方が女を買う。それほどまでに俺と寝たくないのなら! とムキになり、大枚を叩いてホテルへと消えてゆく。

 

 そんな女だから当然のごとく風俗掲示板にも専スレが立ち、今は西郷の女パート250だ。都内の立ちんぼの専スレの中では最も盛んに書き込みが行われ、俺は三万だった私は五千だったと盛り上がる。

 

 ある日、その専スレに奇妙な書き込みがあった。

 

 自分は西郷の女に金を貰ったぞと。金を払っているお前達はなんと魅力のない生き物なのだろう。全く下らない。今すぐ死にたまえと。

 

 この書き込みには普段温厚な変態紳士たる私も怒りで震えた。かく言う私は、西郷の女から0円査定をもらっている男なのだ。もうずっと前からタダで致している。それなりのプライドがある。

 

 私は怒りに任せて専スレに書き込んだ。

 

 ふざけるな。我こそは0円査定の男であるぞ。西郷の女からは最高の男だと言われている。そんな私でも0円だ。金を貰ったなどと嘘を吐くのではない。

 

 すると、すぐさま反応があった。

 

 書き込みは事実だ! 自分はいつだって金を貰っているぞ。今日だって貰った。悔しいからといって、人を嘘吐き呼ばわりするものではない。これだから下等な男は救えないと。

 

 宜しい! ならば直接会って二人まとめて値付けして貰おう。今すぐ上野公園に来たまえ!

 

 望むところだ。というのは男の最後の書き込み。

 

 上野公園交番前を通り階段を上がると西郷隆盛像が見えてくる。

 

 その傍らにはいつも通り、西郷の女がいる。まだ、客はついていないらしい。

 

 女は私を認めると渋い顔をしてぷいとそっぽを向いた。可愛いものだ。私は近くのベンチに腰を下ろして、例の男が現れるのを待った。

 

 十分、三十分と待ち、私に恐れをなしたかとほくそ笑んでいた頃だ。

 

 齢十二、三に見える少年が西郷隆盛像にツカツカとやって来て、大きく息を吸い込んだ。

 

「我こそは西郷の女に金を貰う男だ! ゼロ円査定の男よ、出て来い!!」

 

 それを聞いて一番最初に動いたのは西郷の女だった。

 

「隆史! なに馬鹿なことを言ってるの! お母さんの仕事の邪魔をするもんじゃないよ!!」

 

「馬鹿なものか! 俺は何一つ嘘を言っていないぞ! 今日だって夕食代で千円貰った!」

 

 これは参った。これが反抗期というものか。いくら私でも、子を思う母親の前では無力。

 

 しかし、ここで出て行かなければ、先の啖呵が嘘になる。私は立ち上がり、大股で歩きながら声を上げた。

 

「待ちくたびれたぞ! 書き込みの男! 我こそはゼロ円査定にして、西郷の女から最高と評される男ぞ。ただ血続きに頼る童が偉そうに語るではない」

 

「ふん! こんなジジイがゼロ円とは笑わせる!」

 

「なんとでも言うがいい! 決めるのは、西郷の女だ!」

 

 そう言って女を見つめると、頭を抱えている。

 

「母さん! 早く!!」

 

「うるさいねぇ! もう! この人はいつも通りゼロ円で、隆史は一千万円だ! 払えるのかい? 払えないならさっさと家に帰って宿題でもおし!」

 

 ポロポロと泣き始めた少年は「警察に言ってやる!」と吐き捨てて、駆けていく。全く、ゼロ円ならば売春ではないというのに。

 

「今日はもう、店仕舞いだ。あんた、付き合ってもらうよ」

 

 女は私の手を引いて、すぐ側にあるいつものホテルへと入っていく。フロントも慣れたもので、何も言わずにスッと鍵を出した。

 

 部屋に入るや否や女は私の服を剥ぎ取り、貪るように唇を奪った。そして背中に爪を立てながら言う。

 

「初めて会った自分の息子には、優しくするもんだよ」

 

「……」

 

「ふふふ。その顔、傑作だよ」

 

「……本当なのか?」

 

「どうだかねぇ」

 

 女は呆然とする私をベッドに押し倒し、そのまま跨って熱く搾り取るのだった。


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