【書籍化!】『君は勇者になれる』才能ない子にノリで言ったら、本当に勇者になり始めたので後方師匠面して全部分かっていた感出した   作:流石ユユシタ

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13話 剣士と武闘家

 サクラ・アルレーティアという剣士が居る。彼、いや彼女は男として育てられた。彼女には剣士としての才能が有り、既に10歳の時に強さは他の者を優に超えていた。故に彼女は魔王討伐の為に旅に出て、当時11歳の勇者ダンと出会う。そこから彼女の運命は大きく変わったのだ。

 

 

 衝突もあった、最初は気にかけもしなかった存在と一緒に旅をして、伝説の勇者パーティーなどと呼ばれるようになった。そんな彼女も今や27歳、もうすぐ28歳になる。

 

 

「サクラ殿」

「何ですか?」

「以前の、勇者ダンの騎士育成校での教員の件なのですが――」

 

 

 

 王都トレルバーナにて彼女はとある女性聖騎士に話しかけられていた。それは兼ねてより打診されていた勇者ダンに育成校での教員をして欲しいというモノ。しかしながら、それはそう簡単に願う事ではない。

 

 なぜなら勇者ダンはどこに居るのか分からない。唯我独尊、俺様系、様々な謎と人脈の特質性から誰も願いを出すことは出来なかった。だが、嘗て一緒に旅をしたサクラ・アルレーティアならば問題なく打診を出来るのではないかと考えられた。

 

 更には偶に騎士育成校での演説も彼女が頼んでおり、うってつけの相手でもあった。彼女自身も今年から騎士育成校で教員として活動をすると言う理由も相まっている。

 

「分かっています、本人には僕から――」

 

 

 彼女はその為に勇者ダンを王都に呼び出した。いつものようにピシッとしたコートのような服。本当はバストサイズは大きいがさらしをまいて、髪も短い。だから、顔立ちが整った中性的な男性に見えなくもない。

 

 だから、ダンは未だに勘違いをしている。

 

 

「あ、勇者君ー!」

 

 

 待ち合わせ時刻の一時間前に彼女は待ち合わせ場所に待機していた。かなり早い時間帯から待っていたのだが、勇者も一時間ほど前にやってきた。

 

「……」

「えへへ、久しぶり」

「あぁ」

「それじゃ、ご飯いこっか」

「俺とお前だけか?」

「そうだよー」

 

 

 (僕はいつも待ち合わせとかは早めに来るけど、勇者君もいつも同じで早く来るなぁ……やっぱり僕達って気があうよね? って言えれば良いんだけど……)

 

「えっと、この間の個室がある飲食店行かない?」

「どこでも構わないが……今日の話はまた演説をしろとか言うのか?」

「あー、えっとね。今日は若干違うかな」

 

 

 二人が並びながら飲食店に向かって歩いて行く。その途中でサクラはまるで彼氏と恋人みたいだなと嬉しそうに笑う。

 

 

(二人だけの時間とか、なかなか取れないから……大事にしたいなぁ。ちょっと返すの引き延ばしちゃおー)

 

 

 頭の中でそんなことを計画していると、二人に声をかける影があった。

 

 

「勇者、それにサクラ……二人でどこ行くの?」

「か、カグヤちゃん……どうしてここに?」

「二人、さっきみつけた……だから、声かけた」

「そ、そっか」

「二人でご飯? わたしも行きたい」

「あ、うん、一緒に食べよっか」

「うれしい、ありがと」

 

 

 嘗てのパーティーメンバーであるカグヤも偶々王都に出向いていた。その為急遽二人きりのごはんから、三人の食事に移行をする事になり、ちょっとだけサクラは寂しくなった。

 

(ま、まぁ、皆で食べた方が楽しいからね……うん、たのしいたのしい……よしよし)

 

 

 自分の心に言い聞かせるように復唱をして、サクラは笑顔を取り繕った。その後、彼女を含めた三人が高級店の個室部屋に入って席に着く。勇者ダンの隣にはカグヤが居て、向かい合う所にサクラが座る。

 

 

(うぅ、隣に座りたかったのに……まぁ、二人きりでもそんな勇気無いけど……。でも、勇者君の顔を正面から見れると思えば……あ、どこ見ても鉄仮面フェイスだった……)

 

 

「勇者、なに、要請?」

「……無難にハンバーグにするか」

「勇者、よくそれ頼む、好きなの?」

「特にはな。それより、お前はどうする」

「わたしは、チキンステーキ」

 

 

(え、そんな至近距離で話すのズルくない? だけど、カグヤちゃんだから良いか……。カグヤちゃんって勇者君の事は父親くらいにしか思ってないみたいだし)

 

 

 カグヤと言う少女は勇者ダンが20歳の時に、文字通り空から降ってきた。その時は8歳という歳で小さかったのだが身寄りもなく、仕方なく勇者ダン、大賢者リンリン、覇剣士サクラの手で育てられて今があるのだ。

 

 嘗ては子供の様に小さかった彼女も今では一人の女性として成長をしているが、サクラからすれば子供の様に感じることも多々あった。

 

 

(天から降ってきたときは驚いたけど……なんだかんだ大きくなったなぁ。昔はあんなに小さかったのに今じゃ身長も僕より高いし……)

 

 

(昔から勇者君とか僕とかリンちゃんに甘えてたから、きっと親みたいに見えてるんだろうなぁ。だからまぁ、嫉妬するのはお門違いなのかな)

 

 

 眼の前で勇者の腕に絡みつくようにしがみつき、豊満なバストを押し付けているカグヤもサクラには子供が父親に甘えるようにしか見えなかった。

 

 

「勇者、おさけのむ?」

「嗜む程度にはな」

「さいきん、わたしも飲めるようになった。こんどいっしょに飲もう」

「……そうか。お前も飲めるようになったか」

「飲もう、いつにする?」

「悪いが暇ではないのでな。サクラとでも飲め」

「……サクラとも飲むけど、勇者と二人でないと意味がない」

 

 

 眼の前でずっとカグヤに構いっぱなしの勇者ダンを見て、サクラも流石に面白くなさそうに眼を細めた。

 

「そうだ、勇者君! 頼みたい事なんだけど」

「そうだったな、それで何の用だ?」

「えっとね、今度騎士育成校の教師に――」

「――断る」

「速い!! ちょっと最後まで言わせてよ!」

「俺は忙しいんだ」

「忙しい忙しいって勇者君言うけどさ、何をしてるの?」

「……それは色々だ」

「勇者……前もそれ言ってた。要請、詳細」

 

 

 勇者ダンに問い詰めるサクラ、カタコトで疑問の眼を向けるカグヤ、二人の目線に勇者は溜息を吐きながら首を振る。

 

「お前達には関係ない。俺だけの問題だ」

「……そっか」

 

(また、僕達に何も言わずに危険なことしてるのかな)

 

「もしかして、勇者おんないる?」

「え!?」

 

(嘘でしょ!? 勇者君……)

 

 

 一々一喜一憂をして、サクラは再び勇者を見る。たしかに予定が忙しいのはデート、若しくはすでに既婚者で色々と忙しいのではないのかとも彼女は思わなくもなかった。

 

 

「結婚してるから忙しいとか」

「俺はまだしていない。予定も大したことじゃないが継続的にしなくてはいけないと言うだけだ」

「そうなんだ、勇者まだ結婚してないんだ。うらでしてると思ってた」

「していない」

「するつもりはある?」

「……まぁ……両親が色々と言うのでな」

「へぇ……そうなんだ、了解、納得」

 

 

(なんか、カグヤちゃんがにやって笑った?)

 

 一瞬だけ、カグヤが眼を細めて頬を吊り上げた事にサクラだけが気付くことが出来た。しかし、勇者はそれに気づくことはなく、またサクラも何かの見間違えだと眼をこする。

 

 普段はダウナーテンションで表情もほぼ固定のカグヤが笑った真意が何なのかは当の本人しか分かりえない事だ。

 

 

 そのまま話題は流れる。

 

 

「勇者、仮面の下、みたい」

「何度も言っているが見せない」

「むー……じゃあ、最近流行りのおまじない教えてあげる」

「なんだ? それは」

「顔と顔を合わせて……」

「まさか、そのまじないの為に仮面を外せと言うわけではないだろうな」

「……」

「おい、無言で仮面を外そうとするな」

 

 

 

(まぁ、カグヤちゃんが仮面の下を見たいって言うのも分かるけどなぁ。ずっと見せてくれないんだもん)

 

 

(僕たち以外も気になってるんだよねー。王都の人とか、他国の人とか……知っているのって勇者君の両親くらいかな?)

 

 

(勇者君が素顔を明かさない理由は色々説があるんだよね……一つは勇者君魔族説。魔族だけど人知れず人を守るために仮初の姿になっているって……まぁ、これはあり得ないだろうけど)

 

 

(もう一つは……()()()()()()()()()()()。これもそもそもの勇者の里が噂だからなぁ……)

 

 

(なんだっけ? 嘗ての初代勇者は魔王を討伐して王族の姫と結婚した。しかし、旅の航路で何人かの娘と添い遂げており、既に子供がいた。そこにとある預言者が現れて、未来の最悪に備えて勇者の子孫を陰に隠し、血を育てることを促した……)

 

 

(ただの作り話と言うか、適当なでっち上げだと思われていたけど、全く王族とは関係ない場所から勇者が現れたから勇者君がその里の子孫ではないかと言っている人が居るんだよね)

 

 

「勇者の故郷、進行、懇願」

「それは無理だ」

「……」

「おい、だから不機嫌になったら仮面を取ろうとするな」

 

 

 サクラの眼の前ではキャットファイトの様に軽く手と手で戦う勇者と武闘家の姿があった。それにより、波のような思考の渦から彼女は抜け出した。

 

 

「あ、勇者君、教師の件だけど」

「悪いが俺は暇じゃない」

「だったら、非常勤講師はどうかな? 本当に偶にでいいんだけど……」

「……」

「ダメ、かな?」

 

 

 上目づかいでサクラは頼む。普通の男性なら可愛らしく見えてしょうがないなぁと頼みを聞いてしまう所。しかし、勇者ダンは眼の前の美女を美男と勘違いしており、その姿が少々痛々しく見えてしまった。

 

「分かった、だからその眼は止めろ」

「やった、偶に来てくれるんだね」

「本当に稀にな」

「それでも嬉しいよ! 僕も今年から教師として頑張るからさ! 一緒に頑張ろうね!」

「……頑張るとは言っていないがな」

 

 

 そっぽを向いて溜息を吐く勇者に、嬉しそうに笑顔を向けるサクラ。そんな彼らの下に料理が届き、それぞれが食べ始める。その途中でカグヤが一口サイズに切ったチキンステーキを勇者の口元に運んだ。

 

「あーん」

「いらん」

「いいから、あーん」

「……」

 

 

 勇者の口元に運ばれたチキンは、口の中に入る絵面は見えないのに自然と仮面の前で消えた。

 

「これ、ほんとうに不思議……なぜ消失、疑問、拭えず……」

「勇者君、素顔絶対に見せないよね……」

 

 

 二人は眼をぱちぱちさせているが相変わらず勇者の素顔は見えなかった。そのまま三人は食べ終えて、料理店を出る。

 

 

「じゃあねー、次もご飯約束だよー、勇者君!」

「お酒、つぎは絶対……ふたりでね」

 

 

 

 背を向けながら手を挙げて、勇者ダンは去って行った。彼が去った後でサクラとカグヤは二人で歩き出した。

 

 

「この後、サクラ、わたしのいえ、来る?」

「え? いいの?」

「おさけ、無駄になる」

「あー、勇者君と飲むために買ってたんだっけ? でも、カグヤちゃんももう大人だねー。好きな人とか出来たんじゃない?」

「いるよ、ずっと」

「おー! 誰だれ?」

「勇者」

「ふふ、ずっと可愛いなぁ。確かに父親みたいだもんね。でも、その好きはちょっと違うかもね」

「……そういうことにしておく」

 

 小声でカグヤはそうつぶやいて、眼を細めた。何食わぬ顔で彼女はサクラの隣を歩く。そんな彼女の大人びた表情に本当に大きくなったのだなとサクラは感慨深い感触に襲われた。

 

 

「あんなに小さかったのに……本当に大きくなって……。僕は嬉しいよ」

 

 

 そう言ってカグヤの頭を撫でる。ふさふさの髪の何度も手で触ると嬉しそうにカグヤは笑うが、直ぐに元の顔に戻る。

 

 

「ねぇ」

「どうしたの?」

「勇者、結婚してないんだって」

「あ!? う、うんそうは言ってたね!?」

「……分かりやす」

「え? 何か言った?」

「別に……いつまでも子供として見てると……足を掬われるってだけ」

「え? どういうこと?」

「別に……深い意味はない」

 

 

 再び、眼を細めるカグヤ。いつまでも子供としてしか見ていないとどういう事になるのか、サクラには分からなかった。

 

 

 

「お酒って何を買ったの?」

「ウルトラアル」

「え!? あれめっちゃ酔いやすい奴じゃない!?」

「だから、かった。元から酔わせるつもりだった」

「あー、そ、そうなんだ……?」

「勇者には、今度お肉沢山ごちそうになる……徹底的にしゃぶりつくして、たくさんモグモグするの。勇者がひーひー言うまで」

「ふふ、勇者君はお金沢山持ってるから、カグヤちゃんがちょっとお肉食べたからって余裕だと思うよ」

「だといいね。でも、どうかな……ずっと子ども扱いしてきたから、大分つけは溜まっているけど」

 

 

 ニタリと獣のように笑みを見せるカグヤの顔に再び驚くサクラだったが、眼を一度閉じて、開けると直ぐに無表情の彼女が居たのでまた見間違いと思うだけだった。

 

 

 彼女達を照らす太陽はぎらぎら輝いていた。

 

 

◆◆

 

 

 俺はサクラに呼びされていたので待ち合わせ場所に一時間前に来ていた。アイツは昔から一時間前に目的地に来ていたのでそれに合わせる。

 

 

 サクラにはよく呼ばれる。飲食店に向かっているとカグヤにも偶々会った。昔は子供だったのに今では大きくなったな。

 

 でも、どうせサクラの事が好きなのか……? と言い切れるような言い切れないような不思議な感じもする。だって、カグヤは小さい頃から子供みたいに扱われてきたから、彼女もリンリンもサクラも子供同様に見てる感じあるし……。

 

 カグヤの結婚式とか俺がスピーチとかする羽目になるのか……?

 

 

 色々未来について考えていると、飲食店で騎士育成校の教師について頼まれる羽目になった。でも、俺には後継者を育てる事があるし……。

 

 しかし、サクラの27歳上目遣いには見てて痛々しくてつい承諾をしてしまった。非常勤講師だからね、本当に暇な時にしか行かないからな!

 

 あと、カグヤがお酒を飲もうと言ってくるとは時が経つのは本当に速いな。

 

 

 まぁ、俺からすればまだまだ子供だけどね。

 

 

 


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