【書籍化!】『君は勇者になれる』才能ない子にノリで言ったら、本当に勇者になり始めたので後方師匠面して全部分かっていた感出した   作:流石ユユシタ

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18話 究極の凡人 前編

 ウィルが住んでいる村、イシの村。そこでウィルは今日も勇者ダンはいないが早朝訓練をしていた。

 

 汗をかいた後、彼はエルフの国に向かうための準備をするために自宅に戻った。

 

「ウィル、おはよう」

「メンメン、おはようー」

「今日はフロンティア王国に行くんでしょ?」

「うん! だって、勇者ダンが呪詛王ダイダロスを倒して15周年祭があるから! 色々買おうと思って!」

「あ、そうなんだ……えっと、そのさー、私も行きたいなぁって」

「だったら、僕と一緒に行く?」

「いいの?」

「ダメだなんて言うわけないよ」

「ふーん……そかそか」

 

 

 そっぽを向きながらちょっとだけ顔を赤くするメンメンに気付きもしないで彼は身支度を整える。頭の中には同年代の可愛い女性よりも、勇者ダン祭で彼についての新たな解釈の本が出たりとか、自身の知らない勇者についての物語が無いかとか、それだけだった。

 

 

 ウィルとメンメンは一緒に、勇者ダンが初めて冒険者登録をしたポポの町に向けて出発をした。他愛もない話をして、暫く歩いたり、足に疲労を溜めたメンメンをおんぶしてウィルが走ったり……色々イベントを踏んで町に到着した。

 

 

「今日はフロンティア王国までユニコーンの馬車が出てるらしいんだ」

「へぇ、祭りだからそんなことしてくれるんだ」

「でも凄く便利だから人気でね、普通は乗れない。でも、僕は既に半年前から馬車の予約してたんだ!」

「おー」

「勇者ダンもユニコーンの馬車には乗ったことあるって言うしさ! これは予約するしかないよね!」

 

 

 

 相変わらず勇者ダンが好きなんだな、私の幼馴染はと思いながらメンメンは苦笑いをする。そんな彼女に気付くことなく、彼は馬車の元へと急ぐ。

 

 早足に進む彼はあることに気付く。名前は知らないが既に顔見知りの金髪の少年(ユージン)が馬車の元に居たのだ。

 

 

「あ、予約をしていたウィルさんですよね? こちら、同じく予約をして一緒に乗る方です」

 

 ユニコーンの馬主がウィルとユージンを交互に見ながらそう言った。馬車内では相席でも良いかなと思っていたウィルだが、まさかまた彼と会うとは思わなかったのだ。

 

 

「貴様もか。つくづく妙に縁のあるやつだ」

「君もユニコーン予約してたんだね」

「そうだ、それより無駄話は良いから早く乗れ」

「あ、ごめん。知り合いのメンメンって子も一緒に乗っても良いかな?」

「好きにしろ」

 

 

 腕を組んで鋭い眼を彼に向けながら、ユージンは無言で馬車の中に入った。それを見届けあと、二人も入り馬車は走り出す。ユニコーンは普通の馬よりもスピードが速く、窓の景色が猛スピードで切り替わる。

 

「うわぁ、ウィル、凄い速いよ」

「うん、本当に凄いや……勇者ダンも乗ったことあるって聞いたけど……本人はどう思ってたのかな」

 

 

 景色を楽しむ二人に対して、ユージンは腕を組んで目を瞑っている。そんな彼を見て、メンメンがウィルの耳元で小声でささやく。

 

「ねぇ、あの人、名前なんて言うの? 知り合いみたいだったけど」

「実は僕も知らないんだ。教えてくれなくて……でも、凄く良い人だよ。絶対悪い人じゃない」

「そう? ちょっと怖そうな感じするけど」

「本当に大丈夫だよ」

 

 ウィルとは正反対の怖そうな表情のユージンにメンメンは僅かに恐怖心を抱く。そんな彼女の警戒心を解こうと敢えてユージンに彼話しかけた。話す素振りや信条を見せつけるようとしたのだ。

 

 

「そう言えば名前……聞いてなかったよね?」

「言う必要はない。前にも言ったがいずれ世界にとどろく……その時に存分に聞け」

「あ、うん……えっと、君も勇者ダンの祭典に行くんだよね?」

「それ以外に何がある?」

「一応聞いたんだ。君も勇者ダンが好きなんだよね? 僕も好きなんだ」

「好きとか、そう言う感情ではない。ただ、勇者の『在り方』として唯一の真理を感じる存在だから興味があるだけだ」

「へぇ……在り方か……君が思う勇者ダンの在り方って何だと思うの?」

「圧倒的な強さだ。それ以外にない」

「確かに強さは納得だけど優しさとか……他にも……」

「ない。強さだけだ……世界が勝手に変わるほどの圧倒的な強さが真理であり、アイツの在り方」

「でも、勇者ダンは優しさも凄くあると思うんだ。心に響く名言とかもあるし……ほら、俺が居れば全て救われるとか、あれは優しさがあるからそんな事言えるのであって、思いやりがあるから凄く感動すると言うか、強さよりも……彼の他者を想う優しさが在り方なんじゃないかな?」

「違うな。それは順序が逆だ。言葉はたかが文字の羅列、そんなのに意味はない。だが、確かにアイツの言葉には重みがある。なぜか、強いからだ。他の奴がアイツと同じことを言っても響かない。意味もない」

「そう、なのかな……」

「勘違いするなよ。勇者ダンが慈悲を持っていないというわけじゃない。だが、アイツの勇者の在り方は強さだ。それだけであり、それが真理だ」

「……勇者は強さが全てって言いたいの?」

「それ以外に何がある。強い奴が歴史に名を刻み、歴史を作ってきた。この世界にある正義と悪。これは勝った方が正義、負けた方が悪と言われる勝敗の呼び名に過ぎない。強さでそれを証明し、正義を語ってきたのが勇者だろう」

 

 

 強さこそ全てである。どうあがいても彼の考えを変えることはできないとウィルは思った。元々変えてやるつもりも無かったのだが、勇者ダンには優しさがずっとあって、それが彼の芯であったと信じていた彼からすればどうしても食い気味に話し込んでしまった。

 

 

「そっか……確かに君の言う通りかもね……」

 

 

 

 二人の論争を同じ、車内で見守っていたメンメンは空気がぴりつくのを感じた。ウィルが僅かに引いたが、思想と思想のぶつかり合いの火花が少々見え隠れしていた。

 

 

「あ、あー! そう言えば勇者ダンって大賢者リンリンとラブラブの噂あったけど、あれってどうなったのかな!?」

 

 

 話を変えようとメンメンが勇者と賢者の恋話を無理やり持ってくる。そこでウィルもユージンも議論がヒートアップしていたことに気付いた。これ以上は並行戦で空気を悪くするだけだと悟り、これ以降はこの話は止めようと心に決めた。

 

 

「えっと、そうだね。僕も実は結婚すると思ってたんだ。覇剣士サクラとかも重婚みたいな?」

「え? サクラって男じゃないの?」

「あー、メンメンみたいに勘違いしている人は偶にいるけど、覇剣士サクラは色んな勇者ダンについての英雄譚を読んでいると実は女性って気付けるんだ」

「そうなんだ……全然知らなかった」

「君も知ってたんじゃないかな? 覇剣士サクラが女性だって」

 

 

 ウィルが黙っていたユージンに話を振った。

 

「あぁ、知っていた。貴族については色々聞くことがあるのでな」

「貴族?」

「メンメン、アルレーティア家はトレルバーナ王国の四大貴族って言う凄い偉い貴族なんだ」

「へぇ……全然知らなかった。ウィルって意外と博識だよね」

「まぁ、勇者ダン関連だけだよ」

「でも、覇剣士サクラが女性だったなんて全然知らなかったなぁ。でも、意外と顔は美人の可愛らしい感じだったね。もしかしてその人も勇者ダンのこと好きなのかな?」

「きっとそうだと思うよ。英雄譚からその感じが滲み出てるし」

「ふーん、あ、そっか……だからパレードの時、やたらボディタッチが多かったんだ」

「ボディタッチすると好きって事になるの?」

「多分……こんな感じで」

 

 

 メンメンが、平和パレードの時に勇者ダンにサクラがしてたようにウィルの肩軽くを叩く。

 

「へぇ、そうなんだ」

「あ、そう言う反応ね。知ってたけど」

 

 

 鈍感なウィルに若干の苦笑いを浮かべて軽くスルーをする。

 

「まさかと思うけど、勇者ダンも意外と覇剣士サクラが女性だって気付いてなかったりして」

「それはないよ。勇者ダンなら初見で看破してるに決まってる」

「確かにね。流石に何年も旅をしてきた美人女性を女性だと見抜けない人が勇者やってるわけないもんね」

 

 

 

 他愛もない雑談をしていると、ユニコーンの馬車が妖精(エルフ)の国、フロンティア王国に到着した。

 

 

 

◆◆

 

 

 妖精族と言う種族は全員が耳が少し尖っている、更には魔法の上達が早い、才能が多い子が生まれやすいと言う特徴がある。

 

「うわぁ、妖精族の人ってあんまり見たことないから新鮮」

 

 

 メンメンがエルフを見て、目を丸くする。美男美女も生まれやすいエルフが沢山いるとちょっとだけ、居た堪れない気持ちになったのだ。

 

 

「勇者ダンの本どこかに売ってないかな……」

 

 

 ウィルがキョロキョロ辺りを見渡しながら祭と言う事に出沢山ある売店を眺める。一つの本が積みあがっている店を見つけた。

 

 

「あの、ここは何の本を売っているのですか?」

「ここはダンリンリンダンを売っております」

「だ、ダンリンリンダン?」

「はい、勇者ダンと大賢者リンリンの恋愛小説の事ですね」

「へぇ……そう言うのも売ってるんですね」

「本人非公認ですが……割と人気です。新作を出すと必ず毎回、とあるエルフの方が購入をしてくれるくらいには」

「そ、そうなんですね」

 

 

 

 ちょっと面白しろそうだからとウィルはそれを買った。そして、他にも売店を回ると、不死身王イフリートと勇者ダンの戦いについての本を見つけた。

 

 

「ウィル買うの? 持ってなかった? 不死身王と勇者の英雄譚」

「でも、また知らない解釈があるかも……過去から現在に自身を持ってくる頂上的な相手を結局勇者はどうやって片付けたのか分からないし、これに書いてあるかも」

 

 

 ウィルはダンリンリンダンと不死身王イフリートと勇者の本を買った。

 

「やっぱり、過去から自分を持ってくるってズルいよなぁ」

「不死身王イフリートね……」

「本当にズルいよ、過去から自分を持ってくるんだよ!?」

「確かにねー」

「これをしりぞけただけでも凄いよ! 本当に過去から自分を持ってくるのはずるいなぁ」

「うん、過去から自分を持ってくるのはずるいよね」

 

 

 過去から自分を持ってくるのはずるい! それを何回言うのだろうかととメンメンは思わず突っ込みたくなるがそれほどまでに彼は勇者の物語が好きなのだと知っているので何も言わない事にした。

 

 

「呪詛王だったよね? 15年前に勇者ダンが倒した魔王って」

「うん……そうだよ。あそこから、彼は……」

 

 

 呪詛王の名前を聞くとウィルは僅かに顔を暗くした。彼の言う後継者、抑止力、呪詛王の呪いが頭をよぎる。

 

 プレッシャーとも言うべき重圧に震えている。その様子の変化にメンメンは気付いた。

 

 

「――ウィル?」

 

 

 

 そう、聞いた瞬間……空に暗雲が立ち込めた。太陽の光に満ちていた地上は一瞬にして薄暗い不気味な場所に変わる。妖精族の者達はこの底知れぬ不安をどこかで体験したことがあった。

 

 そう、15年前の呪詛王ダイダロスの侵攻である。

 

 ウィルとメンメンも不安に心を震わせた。暗雲に吸い込まれるように風が舞う。唐突に天から見下ろすように全ての者に声が降り注いだ。

 

 

『――聞け。愚かなる者達よ……我は真・呪詛王バルカンに仕える四天王が一人、ザリーバンドフェット』

 

 

『我らは15年前、あと一歩の所まで勇者を追い詰めた。しかし、あとわずか至らなかった。呪詛王ダイダロス、偉大なる王に戦果を捧げる為、再び宣戦布告をする』

 

 

『ひれ伏せ……我らが新たなる王は過去のどの魔王よりも、勇者ダンよりはるかに強い存在である。絶対にお前たちは勝てない。抵抗をするな、した場合は……死が待つだけだ』

 

 

『震えろ……全ての劣等種を、そして崇めると良い。新たなる王を』

 

 

 

 そこで声は消えた。しかし、暗い空は明るくはない。そして、その声を聴いた全ての者達は混乱する。叫び声が上がり、急いでどこか安全な場所へと逃げようと意味もなく走る。

 

 

「皆、怯えてる……」

 

 

 誰もが頼りたい正義の化身はそこにはいない。そして、更に恐怖を倍増するように大地を何かの大群が渡る音が聞こえる。

 

 何かが彼等に近づいている。

 

 

 不安不安不安、恐怖恐怖恐怖、正義の化身である勇者はいない。誰もが頼りたくなるダンは居ないのだ。

 

 しかし、この国にはダンではないが、希望が居る。妖精族の精鋭や、嘗て勇者ダンと共に世界を救った英雄が確かに居るのだ。

 

 

 

 空から巨大な隕石が飛来する。恐怖を助長させて、絶対なる死を連想させる、それは一瞬で爆風と共にバラバラになる。

 

――大賢者リンリン

 

 

 彼女の魔法により、絶望は無に変える。大群に向かっても彼女は魔法を放つ。地を歩く魔族は殆ど絶命するが、空から飛来する存在はそう簡単にはやられない。何千と言う数を彼女だけで捌くことはできない。

 

 

「ウィル」

「僕も戦わないと」

「に、逃げようよ、一緒に……」

「ダメだよ……僕は……勇者に……」

 

 

 彼は、彼の魂には勇者になりたい、勇者の後継としてなれと刻まれている。だから、戦いたいのだ。戦わなければならない。困難を超えていかなくてはならないのだ。

 

 

 大賢者リンリンに続いて、フロンティア王国の騎士達がも国の外に出て戦場を翔る。または空からの飛来する化け物に相対する。

 

 

 魔族に対して有効的な戦況で戦うことが出来たかに見えたが再び国の空には隕石が飛来した。それを幾度もリンが消す。彼女はこれが四天王、若しくは魔王クラスの魔族の仕業であり、それがかなり遠くから展開されている魔法であると勘づいた。

 

 

『アタシが戻ってくるまで、耐えていて』

 

 

 

 そう言って魔法の起動する場所へと彼女は飛行して飛んでいく。猛スピードで空を翔る、国でも既に避難が始まっている。

 

 ここに居ても足手まといにしかならないような気がしていた。だけど……彼はやはり引かない。

 

 

 

「メンメンだけでも、逃げて。この国の大樹の側ならきっと大丈夫……」

「ウィルは……」

「僕は――」

 

 

 

「――随分と余裕だな」

 

 

 

 二人に対して鋭い男の声がした。ユージンが魔族の首を剣で飛ばしながら空から降ってきたのだ。彼の体には返り血が付いていて既に戦闘は始まっている。

 

 

「戦場で優雅に談義をしている暇がどこにある。迷っているなら両者共に消えろ、邪魔でしかない」

「……僕は戦うよ」

「なら、剣を抜け。いつまで戦意を抑えている」

 

 

 城下町には逃げ遅れている者も居るが……既に戦の真ん中でもあった。彼等が居る場所こそ闘争表す場所。迷う存在は邪魔でしかない。

 

 

 ユージンはそう言った。そう言われてウィルも剣を引き抜いた。

 

 

「お前も怖いなら逃げていろ、邪魔だ……大賢者が一時的でもここを離れた……という事は敵もここで何らかの切り札を投入して――」

 

「――その通りです。分かりやすい手でありますが、こういった混乱の中ではそれが分からない者が多い」

 

 

 ユージンの言葉を遮るように誰かがそう言った。誰かは分からない。しかし、明らかにその主は味方ではないと言う事に気付かされる。城下町の屋根に視線が向く。

 

 そこには青い髪、青い目、眼鏡をかけている男性。肌は浅黒いが普通の人間とは違うのが角が生えている事。そして、蝙蝠のような羽も生やしていた。

 

 魔族、それもただの魔族ではない、明らかにその辺の雑魚とは違う。全く感じた事のない別次元の瘴気。

 

 

 気付けば手が震えていた。足も魂も恐怖で極寒の中にいるように只管に震えていた。

 

 

「お前は、さっきの声の魔族だな」

「ほぉ、この状況でも冷静な分析が出来ますか」

 

 

 しかし、ユージンは別次元の存在と相対してもさほど気にした素振りは無かった。メンメンは既に恐怖で尻もちをついてしまっていると言うのに。

 

 

「つまり、お前は四天王と言うわけだな……面白い」

 

 

 彼はそう言って僅かに嗤った。それは歓喜とも言える狂った感情。勇者ダンと同じ領域に至れるのであればこの恐怖すらも彼は至高の喜びであったと言えるのだ。

 

 その異質な在り方に魔族、それも四天王であるザリーバンドフェットはユージンを敵として認識した。

 

 

「……あまり生かしておいてよい存在ではなさそうだ」

 

 

 彼の頭の中には勇者ダンの影がちらついたのだ。家の屋根から降りて、彼の前に立つ。

 

 

「……君は強いね」

「俺は強くない。強くあろうとしてるだけだ」

 

 

 ウィルも彼に対して、恐怖と畏怖と嫉妬と尊敬と希望を持った。だからと彼も剣を抜いて、戦意を四天王に向けた。

 

 

(この二人……私の魔力を見ても物怖じせずに向かってくるか……生かして置けば後々面倒になることでしょう)

 

 

 殺すと明確に決めた。彼の役割は大賢者リンリンが居ない時を狙って妖精の国の大樹を枯らすこと。そして、城の壊滅。彼女の居ない間に国を壊せるだけ壊してしまおうと決めている。

 

 だが、それよりもウィルとユージンの処理を優先するのは、前者の役割よりもこの二人を先に始末する方が後々利益になると確信をしたからだ。

 

 

 

「まぁ、後々脅威と言った所でしょうか。今は他愛もない石ころ当然」

 

 

 

 ユージンとウィルは正に未来の希望と言えるのかもしれない。だが、それは今ではない。今はただの少年、だから、勝てない。

 

 空には暗雲が立ち込めて……それが晴れることはない。

 

 

「石ころかどうか、試してみろッ」

「行くぞッ」

 

 

 

 ユージンとウィルが向かう。ユージンは魔法展開をして剣に炎を付与する。ウィルはデコピンの原理を応用した新たな剣技で斬りかかる。二つの小さな光が四天王に向かうが……羽虫を掴むように両手の指さきで受け止められた。

 

 

 格が違う。

 

 

 そう思わせられる。存在は知っている。だが、それが明確な敵として立つ状況をどうこうできるはずがなかった。

 

 

 

「未来の希望はここで断っておきましょうか……私にもやることがありますし、早めにね」

 

 

 衝撃、そして、暗転……しかけた。彼等の腹には魔族の拳が既にあった。体の空気が全部消えて、マグマを流し込まれように熱かった。

 

 

 数メートル二人して飛んだ。

 

 

「う、ウィル……」

 

 

 

 メンメンがウィルの名前を呼んだ。尻もちをついたままで彼女は幼馴染を案じる。力が抜けた下半身を手で地面動かし、這いずるようにして彼の元に向かう。

 

 

 ユージンは既に意識を無くした。ウィルは辛うじて、僅かに気を保っていた。だが、眼はほぼ見えていない。虚ろで世界がぶれて見えていた。

 

 

「……この女もついでに殺しておきましょうか」

 

 

 鋭い爪を這いずるように動くメンメンに向ける。あの爪が彼女の細い体を貫けば一瞬で絶命をするだろう。

 

 虚ろな眼で僅かに見える景色でもそれが分かった。

 

 

――どうして、僕には……何も救えない。

 

 

 彼のように、誰よりも速く、強く手を差し伸べることが出来ないのか。どうして、大切な人すら守れないのか。

 

 怒り、嫉妬、憎悪、懺悔、そして、願い。

 

 

 誰か、誰か救ってくれ。

 

 

 そう、願う。だが、それは間違いであることに気付いた。誰でもない、自分が願われる存在なると誓ったのだと。

 

 彼は手を伸ばした、決して届かない距離だと分かっていたのだが。それでもかつてない感情の昂ぶりを見せて未来に手を伸ばした。

 

 

 

 ――爪がメンメンに振り下ろされた。

 

 

 辺りは血で染まる、城下の道に血の染みができる――

 

 

――そんな未来はなかった。

 

 

 

 ウィルはメンメンを両手で抱えていたのだ。一瞬で彼女を手中に収めた事に、ウィル以外が驚愕する。

 

 

「え!? う、ウィル!? え? か、髪の毛、真っ白……」

「落ち着いて、メンメン。僕は大丈夫だから」

「ふ、雰囲気違くない?」

 

 

 黒い髪は真っ白に、いやどちらかと言うと銀色に染まっていた。眼は黒ではなく、赤色に変わっている。

 

 

 お姫様抱っこされながら、メンメンはウィルの変化についていけなかった。確かにウィルであると分かる。だが、雰囲気や佇まいがいつものとは違い過ぎたのだ。

 

 

 ウィルは彼女をユージンの近くにそっと置いた。

 

 

「ユージン君の傷を治してあげて欲しんだ。メンメンなら出来るから」

「え!? わ、私、治癒魔法とかや、やったことないんだけど」

「大丈夫、願えばきっとメンメンの魔法が応えてくれるから。ユージン君を頼む」

「ゆ、ユージンって、この人の事でいいんだよね?」

「うん」

 

 

(この金髪の人の名前、知らないんじゃなかったの? 髪色も変わっちゃったし……本当にウィルなの?)

 

 

「何者ですか。貴方は」

「僕は勇者を継ぐものだよ」

 

 

 彼は淡々と薄ら笑みを浮かべてそう答えた。余裕があった。先ほどまでの石ころのような実力は一瞬にて希望とも言える存在へと昇華した。

 

 暗雲に僅かに太陽の光が差し始めた。

 

 

「……まぁ、何者でも良いでしょう。どうせ、殺すだけです」

「かかって来なよ。勝つのは僕さ」

 

 

 

 次の瞬間、両者は風になった。そして、驚くべきことにウィルの左手が四天王ザリーバンドフェットの頬に突き刺さっていた。バキリと顔にヒビを入れて数十メートル吹っ飛ばす。

 

 

「時間がないんだ、早めに終わらせるよ」

「調子に乗るなよ! 劣等種族が!」

 

 

 始まりの剣。それを抜いて、四天王の数百と展開された魔法を切り裂く。隼が飛ぶように、彼は四天王に向かって行く。

 

 あまりに実力が先ほどとは違い過ぎるウィルに驚愕を隠せない。

 

 

(こ、これはどういうことだッ、魔法!? いや、こんな実力を付与できる魔法があるはずもない。実力を隠していた!?)

 

(そんな意味もないはずッ、だったら、この成長、飛躍、そんな言葉すら生温い次元の強さを急にどうやって得たのだ!)

 

 

 

 ウィルの剣を拳で受ける、文字通り豆腐を斬るようにザリーバンドの腕は飛んだ。そのままウィルの回し蹴りが突き刺さり、四天王は数百、いや数キロ規模で吹っ飛んだ。

 

 戦場を抜けて、遥かなる魔の王が待つ場所まで飛んだ。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 大賢者リンリン。それは妖精族の希望。神の子として、彼女の出生は神託によって予言されていた。妖精の国の大樹は神が植えた木とされており、それが自然豊かな国として成長できた要因でもあった。

 

 

 神と言う存在を誰もが信仰している国で彼女は生まれた。幼い頃から彼女は期待をされていた。

 

 重圧とも言える、勝手な希望を押し付けられていた、特に彼女の小さいときは魔王サタンが復活して誰もが気が立っており、余計に彼女に縋る者が多かった。

 

 だから、彼女は幼い頃に国を飛び出した。

 

 

 色々あったが……彼女は期待を僅かに背負う必要は無くなった。それは勇者ダンが居たからだった。

 

 

 でも……今はいない。そう思った。そして、いつまでも彼に頼る自分で良いのかと疑問を持っていた。

 

 

(そんなわけないわよね……ダン……)

 

 

 隕石の作り出す魔族を追って、彼女は僅かに国を離れた。数十キロ離れた場所にカボチャの被り物をした魔族と、全身が岩で出来ている三メートルほどの巨人の魔族が眼に入る。

 

 長年の戦いの勘で分かった。あれは四天王であると。彼等の周りに数百体の魔族も居るが、あれはただの誤差のような存在であるとも分かった、

 

 問題なのはあの二人の魔族であると彼女は意識を向ける。

 

 

「オデ、アイツ、タオス……マオウサマ、メイレイ」

「ぷぷぷ、妖精の王女が本当に釣れたから早く倒しちゃおうよ」

「どうでもいいけど、アンタ達が四天王って訳ね。速攻で倒して国に戻るわ」

「ソレ、ハ、フカノウ、ナゼナラ、オマエ、マケル」

「アンタ達程度に負けるわけないでしょ……」

「ぷぷぷ、それはどうかな? 魔法が使えれば多少拮抗しただろうけど……()()()()()()()使()()()()()

 

 

 ゾクっと身の毛がよだった。違和感が体を支配していたからだ。彼女は自身の魔力が一切感じない事に今気づいた。

 

 

 彼女の疑問に答えるようにカボチャを被る魔族、四天王パンプキンは一本の剣を出した。

 

 

「これは呪詛王ダイダロスが生涯をかけてお創りになった、呪詛封呪の剣。これがある、一定範囲内は魔法が使えないのだー。因みにオンオフは使用者が決められるんだー、ぷぷぷ」

「オマエ、オビキダサレタ。マホウツカエナイ、ケンジャ、スグコロセル」

「殺そう、賢者を……ほら、配下達、やっていいよ。一応、勇者メンバーだから、油断せずに先ずは脳を砕いて、徹底的に殺して」

 

 

 

 数百と言える魔族が迫る。リンは歯軋りをしながらも杖で殴ったり、僅かしか使えないが体術で彼等に応戦した。だが、彼女は魔法使いであって、戦士でも武闘家でも、剣士でもない。

 

「オデモ、ケンジャ、コロス……マオウサマ、ハヤクニンムタッセイ……」

 

 

 四天王、ブロッグ。彼が岩の体を器用に使い、空に飛び拳を地面に打ち付ける。リンは必死に避けるがあれが生身の自分に当たったら間違いなく死ぬだろうと分かった。

 

 そして、このままきっと自分は殺されることも。

 

 

 

(あぁ、これ死んだわね……魔法使えないし……体術とか少ししか教わらなかったし……ダンに剣教えてもらおうと思ったけど……素直になれなくて無理だったのよね……)

 

 

(まぁ、アタシが悪いから仕方ないんだけど……)

 

 

 

(でも、死ねない。死にたくはない。だって、告白もしてないし、デートだって……手を繋いだことだってちょっとしかない。キスもしたことも……)

 

 

 彼女の頭の中には、心の中にはいつも勇者(ダン)が居た。死期を悟って尚、生きたいと思うのはダンが、彼と共に生きたかったからだ。

 

 疲弊した体を何とか、動かし、気力で、死ぬわけにいかないと無理に動かした彼女の体力はもう限界だった。血の味がする口内、もう、擦り切れるほどに走った。だが、希望は見えなかった。

 

 空には暗雲。

 

 

 眼の前には岩の魔物、それも四天王だ。魔法が使えない自分も、もう生き残れない。惨めに命を拾う事すらも出来ない。

 

 

 体力が切れて、彼女は膝をついた。巨大な岩の魔物の足音が聞こえる、心では逃げないとと思っているのに体はもう動かない。

 

 魂が震えている。会いたい、生きたい。一緒に居たかったと。後悔の念が強く強く魂を震わせる。だが、もう、気力ではどうにもならないほどに体は酷使された。

 

 岩の魔物が拳を天に引き上げる。あれが振り下ろされたら自分は――

 

 

(死にたくないよ……ダン)

 

 

「――え? これどんな状況?」

 

 

 唐突に間の抜ける声がその場にいる全員に聞こえた。ずっと止まっていた時間が動き出すように強く、只管に強く風が吹き始める。

 

 空の暗雲すらも強風で少しずつ動き始めた。

 

「大丈夫ですか? リンさん」

「バン……」

 

 

 

 ツンツンヘアーにぬぼっとした青年。どこにでも居るような平凡な彼がタキシード姿で立っていた。

 

 彼はリンしか見ていなかった。

 

 

「誰だよ。配下達、やっちゃって」

 

 

 パンプキンがそう言うと数百の魔族が彼に飛びかかる。だが、彼は驚きもせず、ただ通り過ぎた。それだけで魔族の群れは塵となって消える。

 

 

 正確には通り過ぎたのではなく、拳で数回程、殴り、その衝撃で全て無に帰したのだが。それを見えたのは誰も居ない。本当にただ通り過ぎただけで数百の魔族が消えたように彼女には見えた。

 

 

 

「……嘘。全く見えなかった」

 

 

 リンが眼を見開いて驚きを露わにする。だが、驚いているのだが、驚愕と言う程ではない。まるで、心の底ではそれが分かっていたかのように。

 

 反対に四天王の二人は驚愕するしかなかった。

 

 

「オデ――」

「――リンさん、凄い服汚れてますけど、大丈夫ですか? この後、冒険者交流会ありますけど」

 

 

 そう言いながら岩の魔物を殴った。何事もなかったように爆風が吹いて、岩が砂に変わるほどに衝撃が辺り一面に広がる。

 

 

「あ、うん……汚れは後で取れば良いから……それより、その……」

「この服装ですか? 実は15周年冒険者交流会だって聞いて、ちょっと気合入れて黒服にしてみたんです。妖精族は美人の人多いから、見た目気を使った方が良いかなって」

「あ、いや、そういうことじゃなくて……」

「確かにそうですよね……()() ()()()()()()()()()()

 

 

 何気ない言葉だが正に強者の言葉。覇気を入れて威圧するつもりがあったわけでもない。だが、どうしても滲み出る天に居る者の性。

 

 

 四天王のパンプキンは己の死を幻視した。既に命は目の前の男に握られていると。

 

 

「そいつらは、真・呪詛王の手下の四天王、らしいわ」

「……そう言えばこんなの居たな」

「え?」

「いや、なんでもないです」

 

 

 死を悟った魔族は無意味と分かりながらも、自暴自棄になり勇者に剣を向ける。

 

 彼は何もされていない。ただ、聞いただけだ。リンを傷つけられて怒気を含んだ声を、聞いただけ。それだけで彼は自分を失った。

 

「うわぁぁぁぁああああああああ!!!!」

 

 呪いの剣を振り下ろす。しかし、再び彼が無慈悲に拳を振るう。爆風によって魔物の身体も呪いの剣も吹き飛ばされた。

 

 脅威も恐怖も一瞬で消えた。唖然とするリンはバンを見て、ある存在を幻視してしまう。

 

「あの、呪詛王が復活したんですか?」

「違うの、なんか、バルカンとか言う魔王が攻め込んできて」

「そうですか」

 

 淡々と四天王を倒したことも気にも留めずに何が起こったのかとリンに聞いた。

 

 

「冒険者交流会邪魔されたら、嫌ですね」

「そんなに、あれ好きなんだ」

「それなりには……それでそのバルカンとやらはどこに居る感じですか?」

「ごめん、分からないの」

「謝らないでいいですよ。それより大分汚れてますけど大丈夫ですか?」

「あ、うん。その魔法を使えなくされててさ、それで走り回ってこんな感じに……」

「なるほど。取りあえず疲労してるみたいなので城まで送りますよ。強いお兄さんとかお姉さんとか居ましたよね? その人預ける感じで」

「いいわよ、アタシなんて気にしなくて」

「ここに放っておくほうが気になります。ほら、おんぶしますから」

 

 

 ぺちぺちと自身の背中を彼は叩いた。彼女はダンの背中に無意識に体重を乗せて、首に手を回した。

 

 その次の瞬間、彼は神速で走り出す。風すらも置き去りにして走り続ける。

 

 

「……バン……速くない?」

「いや、これくらい普通ですよ」

「いや、どう考えても普通じゃないと思うけど……」

「普通です。あと、俺が四天王倒したの秘密でお願いします」

「え? どうして?」

「まぁ、色々あって」

「……そう、分かったわ」

 

 

 彼女はこの背中の感触も、あの圧倒的強さもどこかで知っている。いや、もう気付いていた。

 

 

「ありがと、バン(ダン)

「いえいえ」

 

 

 

 バンはそのまま彼女を城まで送った。そして、真・呪詛王バルカンを探しに再び、走り出した。

 

 

 




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