【書籍化!】『君は勇者になれる』才能ない子にノリで言ったら、本当に勇者になり始めたので後方師匠面して全部分かっていた感出した   作:流石ユユシタ

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32話 月光

 ダンと一緒にアタシは道を歩き続けた。

 

「あ、僕がおんぶしていきますか? その方が速くつきますし」

「ありがと、でも遠慮しておくわ」

 

 

 おんぶされるとダンが速過ぎるから道が分からなくなる。眼で追えるスピードで歩いて行かないとね……折角家が分かるんだから……

 

 

 よし、この辺りに溶けない氷の柱建てておこう。道標に……次来た時に分かるようにしておかないとね。

 

 

「何してるんですか?」

「ん? 道標に魔法で氷作ってるの」

「……ヘンゼルとグレーテルみたいな感じですね」

「なにそれ?」

「いえ、なんでもないです。分かりにくい例えなのでお気になさらず」

「……一人で納得しないで、アタシにも教えてよ」

 

 

 昔からそう言う気質があった。よく分からない童話やら、聞いたことのない伝説を知っている癖に話さない。勝手に一人で納得して会話を終わらせてしまう悪い癖。

 

 膨れっ面で睨むとダンは淡々と語った。なんでも、道に迷わないようにパンを道標にして、道に置いておいた兄妹がいたとか。そんな話一度も聞いたことはないんだけど……。

 

 どっから情報を仕入れているのやら……それも家に行けば分かるのだろうか。

 

 

「あ、ここです」

「……そう、ここなのね」

 

 

 思っていた以上に普通だった。てっきり豪邸とはいかなくてもそれなりの住居を持っていると思っていたからだ。彼の家は本当にどこにでもありそうな一軒家だった。

 

 本当にどこにでもありそうであったのだ。

 

 これじゃ、誰も辿り着かない訳ね……ダンの家は天空城とか、世界一高い山の上にあるとか言ってたの誰よ。バリバリ田舎にあるじゃない。

 

 

「ただいまー」

「「おかえり、ダ――」」

 

 

 家の中にはダンに似ている両親が居た。二人はきっと『ダン』と言いかけたのだろう。だが、アタシの姿を見ると

 

 

「「おかえり、バン」」

 

 

 切り替えが早い。アタシが居るから正体をバレないように偽名を一瞬で言う当たり、この人たちがダンの両親なのだろう。察しが良すぎるわね。

 

 

「あら、バン、その子はどうしたのかしら?」

「あ、知り合いのリンだよ。あの伝説の勇者パーティーの賢者だった子なんだけど、暇だから家に来たいって」

「あらあら、あの伝説の勇者パーティーの大賢者リンリン様がわざわざこんなしょぼくれた家に来てくれるなんて嬉しいわー」

「そうか、バン。ちゃんとおもてなしをしてあげるんだぞ」

 

 

 探ってるなぁ。特にお義母様が、アタシが勘付いてここにきているんじゃないとでも言いたげな眼だ。お義父様は取りあえずアタシがダンの正体に気付いていないと仮定して動いているようだ。

 

 ダンは……もしかして、何にも考えてないのかもしれない。

 

「取りあえず、びしょ濡れだから部屋で着替えてくるから」

 

 ダンはそう言って自身の部屋に帰って行った。いきなりお義母様、お義父様と三人で話すのは緊張するので一旦、ダンについて行きましょう。

 

「その、アタシも一旦、失礼いたします」

 

 

 ダンについて行った。ダンはびしょ濡れだった服を脱いでいた……え!? アタシはダンの部屋を覗くように頭だけ部屋の中に出していたのだが思わず絶句した。

 

 顔は普通だが……顔から下の体のつくりがオカシイ。いや、普通なんだけど、筋肉の密度があり得ない!!

 

 明らかに異次元体。腹筋も割れてるけど、腕も宇宙でも凝縮してるんじゃないかって言う程力強い。細身だけど、覇気が凄い。

 

 顔はぬぼーっとしてるのに違い過ぎる……

 

「バン」

「リンさん、着替えを覗かないでください」

「ご、ごめん。でも、体可笑しくない!?」

「あー。でも、田舎の人はこれくらいですよ」

「えええ!? 嘘!?」

「ははは。リンさんは王族ですからね、庶民はこれくらいなの知らないんですよね。しょうがないと思います」

 

 

 いや、そんなんで騙されるか!!! 明らかに庶民でもこんな肉体の奴が居ないってのは分かるわ!! アタシがいくら世間知らずの王族だからって、常識は分かるわ!!

 

 

「それより、ご飯食べましょう。着替えも終わりましたし」

「まぁ、そうね……ただ、ちょっと腕触って良い?」

「どうぞ」

「……かった」

 

 

 硬い。なるほどね……。ふーん、なるほどね……これでダンに抱きしめられたら逃げられないわね……。

 

 

「ありがと、それじゃご飯食べましょ」

「はい」

 

 

 アタシは食卓で必死にダンの両親にアピールをした。今は独身な事、そろそろ結婚をしろって言われてる事。冒険者交流会で運命的な出会いをしたこと。そして、ダンにこの間、四天王から命を救われた事。

 

 

 今のうちに、両親からある程度の支持を受けておいて損はない。最近、メンメンとか言う弟子が出来てしまって、そろそろ結婚があるとか言っちゃたし、今更引くに引けなくなってしまったと言うのも理由にはある。

 

 ご飯を食べ終わったとは、近くの町の銭湯に行った。アタシはお義母様と一緒に入った。

 

 その後は家に戻ってきた。今日はダンの部屋で泊って行けとダンの両親に言われたので泊まることにした。

 

「バンの部屋って普通なのね」

「まぁ、普通の一般人なので」

 

 嘘が下手すぎて笑いそうだけど、スルーしておこう。ダンの部屋は色んな書物とかノートみたいなのがたくさん置いてあった。中身は分からないが旅の時に毎日書いていたモノなのだろう。

 

「僕は椅子に座って寝るのでベッド使ってください」

「いいわよ。ほら、一緒に寝よ?」

「……え、あー」

「え? なに? 童貞なの?」

「……いや、別に童貞だから緊張してるとかじゃないですよ? そもそも俺、童貞じゃないですし」

 

 あ、変な所で意外とムキになるのは治ってないのね。一人称も僕から俺に成っちゃってるし。ムキにさせて隣で寝てやろうと思って童貞って言ったけど……凄い刺さるのね。気にしてるのかな?

 

 まぁ、アタシも経験ないから……そう言う経験が無いのを煽るのは、アタシの心にも凄い刺さるけど……

 

 

「じゃ、寝ますね」

「……い、いいわよ」

 

 

 急に緊張してきちゃった。ダンは隣で横になっているがぼぉっと上を見上げている。

 

 適当に話をした。時間は過ぎていって、気づいたらダンは寝ていた。

 

「眠れない……」

 

 眼が冴えている。月明かりが窓から部屋に入っていた。彼が座っている椅子に座って外を見た。

 

 こんな田舎から伝説は始まったのかと思うと、驚きもあるが同時にらしいとも思った。

 

 ふと、月を見上げていると、今までの事を思い出した。ダンはアタシの事をどう思っていたのだろうか。

 

 旅では明確な答えを聞くのが怖くて、ずっと聞くことは出来なかった。

 

 もしかして……ウザイとか、面倒くさいとか思っていたのだろうか。いつも守る必要がある足手纏いとか思っていたのだろうか。

 

 

 そうだったら悲しいなと思いながら明るい月から眼を逸らして、彼の机を見た。どこにでもある机だったが……古びたミサンガが置いてあることに妙に目を惹かれた。

 

 小汚くて、あんまり形も整っていない。でも、あれはアタシが初めて勇気を出して彼にプレゼントを贈ったミサンガだ。

 

勇者(アンタ)のファンとか言う奴が渡しておいてって言うから、渡しておくわ。まぁ、あんまり綺麗じゃないし、捨てても良いんじゃない?』

 

 とか言ったけど本当は自分でコッソリ作っていたのは内緒だ。どうしても彼にお礼と想いを告げたくて渡した。

 

 これをまだ、持っていたのね。プレゼントをしたのがアタシとは気づいてはいないでしょうけど……

 

 

 それだけでちょっと嬉しかった。

 

 

 

◆◆

 

 

 朝になった!!! 

 

 いやー、昨日はリンが泊まりに来たからね。全然眠れなかった、緊張してさ。リンってやっぱり見た目が可愛いから隣で寝られると緊張する。

 

 なんだかんだ、童貞だしね、俺……。しょうがないと言えばしょうがないけど。

 

 リンも眠れなかったようで昨日はずっと月を見ていた。まぁ、寝たふりを一度してしまったから話しかけられなかったけどな!!

 

 薄目を開けながらリンの姿を見たが……姿を見た途端に思わず目を全開にして開けてしまった。

 

 月光に照らされる彼女は本当に美しかったから。今まで色んな所を旅してみて来たけど、一番美しい光景は何処かと聞かれたらもしかしたら、昨晩月光に照らされたリンと言うかもしれない。

 

 

 そんな美しい彼女だが、一切眠れなかったようで目の下には隈が出来ていた。まぁ、枕変わったら眠れないよね。俺は無限回復恩恵とかあるし、眠れなくてもぴんぴんしてるんだけれども。

 

 

「そろそろ帰るわ……」

「大丈夫ですか? 眠そうですけど」

「平気よ……」

「おんぶして運んでいきましょうか?」

「……お願いしてもいい? 妖精の国、フロンティアまで」

「いいですよ」

 

 

 そう言ったので彼女をおんぶして走る。

 

「そう言えば机の上に汚いミサンガあったけど、あれはどうしたの?」

「あれは、手作りのミサンガなのですが妖精族の知り合いが渡してきました」

「そうなんだ。そのミサンガは……その妖精族の知り合いが作ったのかしらね?」

「そうですよ。渡した本人は別の誰かから渡すように頼まれたからとか言ってましたけどね」

「ッ……へぇ、そうなんだ」

 

 

 あの時のリンは弱さとか不完全な自分を見せるのを嫌ってたからな。ミサンガの出来が悪いから自分で作ったとは言えなかったのだろう。

 

 それに、普通に作ってる所、何回か見かけたし。普通にミサンガの作り方の本買ってたし。全然バレバレだったけど、本人が隠したかったらしいのであんまり追及はしなかった。

 

 まぁ、それはもう過去の事だ。それにリンも昔俺にあげた汚いミサンガの事なんて忘れてるだろうけどな。

 

「そう言えば……アタシ」

「つきましたよ」

「速い! 結構重要なことを言おうとしたのに! いう暇もないわね!」

 

 

 

 テンション上がってる。嬉しい事でもあったのだろうか。昔から寂しがり屋だからな。家に帰れて嬉しいのかもしれない。

 

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