肛門ダンジョン 〜超巨大モンスターの尻穴に挑む〜   作:フーツラ

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そして夜が更ける

「【冷静沈着】ですか?」

 

「そうだ。そのスキルを使うと、どんな場面でも心が鎮まって冷静になるらしい。貴族や騎士なんかに人気のスキルだとか」

 

「……それを私に」

 

「【人体発火】は興奮すると勝手に発動するスキルだろ? ならば興奮を抑えられるようになればいい」

 

「……興奮を……抑える」

 

 ビデールは神妙な顔で青いスキルオーブを見つめている。

 

「ビデールは【人体発火】のスキルが発動するタイミングはわかるんだろ?」

 

「はい。なんかこう、頭の中にドバーッと来るタイミングで発動します。キタキタキターッ! ってなるんです」

 

 ビデールの発言を聞いてカウンターの中のマスターがギョッとした。カウンターに座る他の客達も一瞬、会話を止めてこちらを見ていた。

 

「そのタイミング、身体に火がつく直前で【冷静沈着】を使えばいい。そうすればベッドごと彼氏を丸焼きにする心配はないだろ?」

 

「……確かに、そうかも知れません」

 

「だから、このスキルオーブはビデールが使え」

 

「あ、ありがとうございます! いくらでしょう!?」

 

 ビデールが慌ててバッグに手を突っ込み、何か──おそらく金だろう──を漁っている。

 

「いや、金はいい」

 

「はっ! まさか私の初めてを狙って!?」

 

「いや、それはいらない」

 

「ひどい! 私、結構可愛いって言われるのに!!」

 

 酔っ払ったビデールが膨れる。

 

「俺がプーシの街に行った時に、良くしてくれ」

 

「……はい! 分かりました!!」

 

 これ以上の問答は不要と察したのか、俺が促すとビデールはスキルオーブを手に取った。

 

「よーし!! 今、ここで効果を試しちゃいますね!!」

 

 なっ! こいつ酔い過ぎだろ!!

 

「皆さーん、私、今からスキルオーブを頂きまーす!!」

 

 席を立ち、店の中央に躍り出たビデールが注目を集める。右手に持った青色のスキルオーブを高く上げ、見せびらかす。

 

「おっ、なんだ! 色っぺーネーチャンだな」

「新手の興行か!?」

「一体なんのスキルオーブだい?」

「よくわからんが、やれー!!」

 

 方々から酔っ払ったどもの歓声が飛んだ。

 

「では先ず、脱ぎまーす!!」

 

 ォォォオオオオォォォ!!

 

 訳の分からない一体感が店を支配し、手拍子が巻き起こる。ビデールはリズムに乗りながらスルスルと服を脱いで全裸となった。尚も手拍子は止まず、ビデールは踊り始める。

 

 プーシの街の踊りだろうか? 誘うような妖艶な動きに男達は唾を飲む。ビデールの顔は紅潮し、昂っているのは誰の目にも明らかだ。

 

 エイッ! とテーブルの上に飛び乗り、下から覗き込むような男達に惜しげなく肢体を晒す。その身体は汗ばんでいる。

 

「ぁああ、キタァァ!!」

 

 ォォォオオオオォォォ!!

 

 何の歓声だ! ビデールの嬌声に店内が一つ生き物のように反応し、それを受けて更に昂ぶる。

 

「あぁ、嗚呼!!」

 

「スキルオーブを使うんだ!!」

 

 俺の声に反応したビデールが手に持つスキルオーブを口の中に放り込む。一瞬、全身が青い光の膜に覆われ──。

 

「【冷静沈着】!!」

 

「「「「…………」」」」

 

 店の中をスッと冷たいモノが通り過ぎた。立ち上がっていた男達が我に返ったように各々のテーブルへと戻る。その様子はとても落ち着いていて、冷静さを感じさせた。

 

 すっかり普段の表情に戻ったビデールが、脱いだ服を拾いながらカウンターへと戻ってきた。

 

「ベン君、効果は抜群ですね。【冷静沈着】」

 

「ああ。まさか周囲の人まで冷静にしてしまうとは……」

 

「私、結婚出来ますかね?」

 

「頑張れ」

 

 その晩、俺とビデールは店が閉まるまで、しんみりと飲み続けたのだった。

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