その影響でつい書いちゃったんだ。
どう考えてもバッドエンドしか出ないのはスゲェ。
はじめまして、私はエレイン・緑谷。
自分の身に宿った盛りに盛られた設定に白目を向きそうな6歳児だ。
古今東西の創作物において転生者には因果や宿命を詰め込むのが様式美のようだが、この幼女ボディが背負ったモノは私にとって悪夢以外の何物でもない。
とりあえず事実の整理と気を落ち着かせる為にも、忌まわしい我が身の異能について説明させてもらいたい。
この語りを聞いて察していると思うが私には前世の記憶という物がある。
以前の生については名前や交友関係など、個人に関する記憶の大半は思い出せない。
しかし当時の常識や生前に詰め込まれた知識なんかはしっかりと残ってる。
今やおぼろげになってしまった前世の己について紐解けば、どうやら一つ前の私は高校生の時に命を落としたようだ。
死因は探していたヴィンテージ物のアニメビデオを手に入れて、その幸運に夜道ではしゃいでいたところをトラックでドン。
まさか昭和から平成がメインのコアなアニメ鑑賞という崇高な趣味が命を奪う原因になるとは……やはり『赤いハヤテ』に倣って忍術を修めなかったのは不覚だったか。
そうして生まれ変わった今生では、なんと日米ハーフな赤ん坊になっていた。
ぶっちゃけ、前世は地味系女子だったので金髪碧眼美少女な自分の姿は物凄い違和感だったよ……。
さて、私が生まれたこの世界は前世の日本とよく似ているけど、一つだけ大きな違いがあった。
それは大半の人間が『個性』なる異能を保有しているという事だ。
当然ながら私の父母もこれを持っていた、
父は最大6メートルまで全身を伸縮させることができる某海賊王志望も真っ青のゴム人間。
母は前世のお米の国で大人気コミックだった某ミュータント組織のメンバーのように、自分の意思で強力な嵐を巻き起こせるときた。
両者ともにかなりの強個性だそうだが、彼等はこの社会での花形職業たるヒーローには就かなかった。
理由は犯罪者や悪党から恨みを買って、家族や縁者に被害を出したくないからだそうな。
母の胸を吸いながらこの話を聞いた時は、両親の常識人っぷりに思わず泣いてしまった。
そんな優れた個性を持つ両親から生まれた私と双子の妹だが、生憎と個性なるものは存在しなかった。
これ自体は突然変異というわけではなく、個性社会といわれる現世でもそれを持たずに生まれてくる人は一定数存在する。
彼等は無個性と呼ばれ、世間からはあまり良い目で見られていないらしい。
実際、父方の従兄弟であるイッくん、緑谷出久君は無個性で幼稚園で自分が浮いている事を悩んでいた。
では私達は無個性なのかというと生憎と少々事情が異なる。
端的に説明するなら私達はこの世界の人々とは違った形で進化してしまった人間なのだ。
なので、この身に宿った異能は個性とは全くの別物なのである。
ではその異能とは何なのか?
それはヴァジュラという『虚界』と呼ばれる異世界から流れ込んでくる生体エネルギーだ。
このヴァジュラなんだけど発見した科学者曰く、人体を「高次元スキャナー」で撮影すると体内に影の様な領域が映るらしい。
彼はそれを『マインドシャドウ』と名付け、この領域は別の宇宙に繋がっていると定義した。
そしてマインドシャドウには、異なる宇宙から微量ながら力が流れ込んでいるのだと言う。
その力こそがヴァジュラ。
科学者が言うには中国拳法などで有名な眉唾パワー、氣もヴァジュラの一種だそうな。
前述したとおりヴァジュラなるパワーは生体エネルギーの一種、つまり微小ながら人間誰しもが持つ力である。
このパワーを人より多く所有し、それをある程度意図的に操れる者が超能力者だと研究者たちは定義していた。
そして私と妹は常人なら一つしかないはずのマインドシャドウを複数持ち、超能力者の数万倍ものヴァジュラを有しているのだ。
試した事は無いが私達のヴァジュラを念動に変換すれば大型ビルを玉砂利一粒程度に圧縮する事が可能なはずだし、静電気などの触媒があれば極大レベルの雷だって呼べるだろう。
実際テレポートやパイロキネシスだって成功しているし。
さて、何故私がヴァジュラは個性ではないと断言するかと言うと、個性持ちにはヴァジュラが全く存在しないからである。
この力があるお陰で、私達はヴァジュラ・エネルギーを察知する事に長けている。
しかし無個性の人間からはヴァジュラを感じ取れても、個性持ちからは全く見つける事ができなかった。
これについては彼等は生体エネルギーを個性に変換しているからではないかと考察しているのだが、なにせこの世界ではヴァジュラは正式に発見されていないので真偽を確かめる術はない。
ここまで長々と話してきたが、私が何故この世界では認知すらされていないヴァジュラについてここまで知っているかと言えば……
『やっほー! エレイン、聞こえてる?』
『ああ。聞こえているぞ。ダイアナ』
頭の中に響く舌足らずな幼い声に振り向くと、そこには私と瓜二つの幼女がヒラヒラと手を振っている。
彼女はダイアナ。
双子の妹にして、前世の記憶を持つ者という意味では唯一の同胞だ。
『けど本当にテレパシーが使えるなんてビックリだよ。これって個性持ちには使えないんだよね?』
『原理的にはヴァジュラ・エネルギーの共振を利用しているからな。それを介せずにイメージを伝えるならヴァジュラを思念波に変えて無理やり脳へ叩き込む事になる。私達が本気でそんな事をしたら、精神汚染待ったなしだよ』
例えば敵に頭の中を虫に食われるイメージを放てば、相手はそれを真実と思い込んで自らの手で頭蓋を割って脳を掻きだす、なんて具合にだ。
先ほどの続きだが、私がどうしてヴァジュラについて知っているかといえばコイツがある創作物に登場した力だからだ。
そしてその元ネタこそ途轍もない災厄だったりする。
『ところでお姉さま』
『なにかな、妹よ』
『今日も背後、というか謎の空間から熱い視線を感じるんだけど……』
『無視しなさい。目を合わせると世界が終わる』
またしても虚界からの熱烈なオファー、魔獣たんは今日も元気らしい。
◆
さて、諸兄は『ジェノサイバー 虚界の魔獣』なるアニメをご存じだろうか?
いや、知らなくても恥じる事は無い。
むしろ知らないのが普通といえるくらいのマイナー作品だからだ。
なにせ作品自ら『スーパーカルトアニメーション』と名乗っているくらいだからな。
『ジェノサイバー』は1991年から1992年に掛けて全5話でリリースされたオリジナルビデオアニメだ。
作品の大きな特徴としては息を呑む映像美に悲壮感とやり切れなさが残るハードでシリアスな話。
善人にはとことん不幸が降り注ぎ、悪人も相応の報いが首を刈りに来る為に登場人物の9割が死亡する超絶鬱展開。
そして現行アニメなど足元にも及ばない、日本アニメ史上トップレベルのゴア表現と人体破壊描写である。
血はもちろん肉片もモツも脳みそも修正なし。
子供でも容赦なくバラバラになり、きれいに身体が残って死ねるのはSSRレベルのレアという徹底ぶりだ。
そんな作風故に日本では一部の好事家を除いて人気が出る事は無く、数多と続くOVAの荒波の中へと消えていった。
まあ米国では妙な方向で人気を博したそうだが、その辺は詳しくはわからない。
何故この作品を説明したかと言うと、コイツに私達が扱うヴァジュラが登場するからである。
そして『ジェノサイバー』の主人公はエレインとダイアナという双子の姉妹。
ここまで言えば分かるだろう。
私達が現在進行形で繋がっている虚界、そこに封印されたこの作品の主役にて大災厄の権化であるジェノサイバーがこちらを狙っているのだ。
なんで奴を『魔獣たん』と呼んでるかだって?
そのくらいの洒落っ気が無かったらアレとまともに向き合ってられないからだよ!
ちょっと話がズレた。
こんな風に語ったが、私は彼女が本物ではないと当たりを付けている。
では何なのかと言えば、異世界転生特有のチート特典というモノ……のはずだ。
原作のラストではエレイン・リードとダイアナ・リードが何らかの形で魔獣を封印する描写があった。
なので何の関連も無いこの世界に干渉などできない……筈なのだ。
正直何の確証も無いがそうであって欲しいと心底願っている。
仮に魔獣たんが本物だったとしたらシャレにならん。
なにせ相手は体長4~5mのサイボーグに常温核融合炉なんて物を積めるレベルの科学力を有する世界を相手に戦いを挑み、単体で文明を滅ぼしてみせた正真正銘の化け物だ。
ぶっちゃけ、オリジナルだったら私は世を儚んで自殺するかもしれん。
この個性社会で何の力も持たないのは拙いと思うが、能力のチョイスにはもう少し気を配ってほしかった。
これならユニット・ガイバー……いいや、そっちも嫌だ。
私はまだ人間でいたい。
そんな私が魔獣たんが放つ熱い視線に気づいたのは3歳の時だ。
母やダイアナと一緒にお風呂に入っていた時、突然脳裏に赤黒く染まる虚界の光景とそこに封印された彼女の姿が浮かんだのだ。
恥ずかしい話だが、あの時は思わずチビってしまった。
もし私が普通の子供だったら発狂していたのではなかろうか。
それからは地雷原を歩くような気持ちでこの身に宿るヴァジュラの制御方法を模索していく日々。
原作知識と私の予測がたしかなら、感情の制御やヴァジュラの操作を誤れば最悪魔獣たんが現世へ現れる事になる。
そうなった場合、どれだけの被害が出るか想像もつかん。
国や島単位で消し飛ぶ程度ならまだマシで、最悪の場合文明社会が滅亡する。
この世界のダイアナは原作のダイアナ・リードと違い、私に負けないくらいの膨大なヴァジュラ・エネルギーを秘めているのだ。
魔獣たんが私達の力を合わせる事で現れるのだとしたら、単純計算で彼女の力は原作の二倍という可能性だってあるだろう。
そんなワケでヴァジュラに関しては妹へ説明しようとしたのだが、それがまたえらく大変だった。
なにせ妹はジェノサイバーを知らなかったのだから。
その所為で、ヴァジュラの事も『強個性キター!』とか喜んでいたものな。
無遠慮にポンポン使っているのを見た時は、正直気が気じゃなかった。
まあ、お陰で4歳にして彼女も虚界と魔獣たんを認識するハメになってしまったんだがね。
あの時は本当にヤバかった。
妹は恐怖で引き付けを起こすくらいに泣き叫んでいたからなぁ。
私がテレパシーで転生の事とか洗いざらいブチ撒けて宥めなかったらどうなっていた事か。
あそこで魔獣たんが『こんにちわ』したらと思うと、当方震えが止まりません。
そんなわけで、何が切っ掛けで世界の破滅が顕現するかを掴まないとオチオチ暮らすことも出来なかったのだ。
それに名目上『個性・念動』になってる事を考えれば、ある程度能力が使えないと都合が悪いからな。
そうして今日も今日とて努力と研究を続けていると、父が子供部屋に現れて私に声を掛けてきた。
「エレイン、今日はお外でご飯を食べようか」
ふむ、父がこんな提案をするのは随分と珍しい。
母にベタ惚れの彼の事だから、今日も手料理を涙を流して食うと思ったのに。
ちなみに父の緑谷伸茂は柔和そうな顔に眼鏡を掛けたちょっとぽっちゃり気味の身体に中背の日本人。
対する母のセレナ・緑谷はプレイメイトのトップに立てそうなボンキュッボンな金髪美人だ。
お陰で家族で出かけると道行く人から『何故あんな奴がアメリカン美女と……!!』的な嫉妬の視線をよく受けたりする。
人間は外見よりも中身なのだよ、非モテども。
「ダイアナもね」
そんなスーパーモデルな母はダイアナを抱き上げて笑顔を向ける。
美人さんなうえに人をホッとさせる優しげな笑み。
虚界との繋がりが出来たばかりの頃は、あの顔と豊かなお胸には本当に助けられたものだ。
「うん!」
「わかった」
もちろん私達の答えはOKの一択である。
今はこんなナリだが私も空気が読める日本人、久しぶりに家族揃って外出する機会をフイになどしない。
まあ、仮にNOと言っても幼児に留守番なんてさせられないので、連れて行くのは決定事項なんだけどね。
こうして我々家族は数か月ぶりの外食へと繰り出した。
繁華街には家電製品や化粧品の他にオールマイトを始めとして個性的なコスチュームに身を包んだ男女の広告が溢れている。
それ以外には記憶にある前世の街とあまり変わりない。
この世界と前世の差異があるとすれば、ヒーロー物の創作物がほとんどない事か。
80年代から90年代というヒーロー全盛のアニメを好む身としては酷く物足りないが、この辺は現実にプロヒーローが職業として存在する影響だろう。
「今日も街はヒーロー一色だな」
「昔は憧れていたけれど、実際になるとしたらハードルが高いわよね。……コスチュームとか」
街の様子を父がそう揶揄すれば、流れるセクシー系のヒロインの映像を見ながら母は小さくため息を付く。
たしかに身体のラインがモロに出る衣装は女性だと着るのに勇気がいるだろう。
もっとも母の場合はセクシー過ぎて別の意味でヤバいだろうが。
「エレインとダイアナはヒーローになりたいのかい?」
父の問いかけに私達は揃って首を横に振る。
「痛いのも怖いのも嫌いだからイヤ」
「私も目立つのは好きじゃないから嫌だな」
この世界のヒーローは前世の日本にあった滅私奉公の正義の味方じゃない。
例えるなら芸能人と警察とあとは個性ごとにレスキューや医療など専門分野に分かれる複合職のようなものだ。
収入の方も人気が出て企業や芸能界などとタイアップしないと高額にならないみたいだし。
正直オタク気質な私には遠慮したい業界である。
それ以前にヴァジュラ・エネルギーを無暗に使っていると手痛すぎるしっぺ返しが来るような気がするので、ヒーローなんて絶対に無理だ。
そう言えば、従兄弟のイッくんはヒーローになりたいって言っていたな。
そして私に無個性でもヒーローになれるかと問うていた。
たしかアレは今年の正月に親戚一同が集まった時だったか。
私はその時、なれると返した。
子供の夢を潰したくないという思いもあったけど、個性の有無だけで諦めるのは違うと思ったからだ。
創作物だけど、前世のヒーロー物には機械で異能や化け物に対抗するヒーローだって多くいた。
この世界のヒーローだって機械で個性を増幅や補助している輩も多くいるのだ。
だったら某兵器産業の社長や宇宙刑事のようにパワードスーツを着て戦うヒーローがいても問題はあるまい。
私がそう案を出すとイッくんは目を輝かせていたっけ。
妙な影響が出ない範囲でヴァジュラを使ってメタルヒーロー物のイメージを送り込んだのはやり過ぎだと今は反省しているが。
そんな事を考えながら、ダイアナと手を繋いで新婚のようにベッタリな父母の後ろ姿を見ていた、その時だ。
ビルとビルの隙間から飛び出したナニカが前を歩く二人を通り過ぎた。
まったく状況が掴めない私達の目の前で輪切りにされた肉塊となって崩れ落ちる両親だったもの。
血と臓物の胸が悪くなる匂いと周囲から上がる悲鳴の中、ビルの間からヌルリと現れたのは全身を黒いラバーで拘束された怪人だった。
「きれいだ…やっぱりきれいだ、肉面は」
両親の残骸を見ながら、強制的にこじ開ける口枷を嵌めているにも関わらず、どもる事無く言葉を紡ぐ怪人。
「ヴィ…ヴィランだぁぁぁっ!!」
「ヒーローを……誰かヒーローを呼べぇ!」
その姿にパニックとなった周囲の通行人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。
誰も私達に手を差し伸べることも無く、だ。
そして怪人はダイアナと抱き合ってへたり込む私の前に立つ。
「子供の肉、おとなよりきれい。ねえ、肉面みせて?」
気味の悪い声にゆるゆると上げた視線、そこから不自然に伸び始めた鋭い歯にようやく私は現実を認識した。
───コイツが両親を殺したのだ。
途端に頭の中が沸騰し、怒りが胸を焦がす。
たった6年とはいえ私達を宝物のように大切にしてくれたお父さんたち。
無茶をすれば叱り、ヴァジュラの使い方が上手くいけば全力で褒めてくれた。
そして初めて虚界を見た時は怯える私を一晩中抱いて慰めてくれた。
前世の記憶がある分気恥しさで上手く甘えられなかったけど、私は二人を愛していたんだ。
そんな大切な人たちをコイツがッ!!
臨界に達した憎悪と殺意で視界が赤く染まった瞬間、私はたしかに魔獣の咆哮を聞いた。
◆
幸せな家族を襲った怪人、ムーンフィッシュはシリアルキラーだ。
切断された肉の断面を見る事をこよなく愛し、それを見る為に自らの個性『歯刃』で殺人を犯す。
最初の獲物である夫婦の肉面も悪くなかったが、やはり綺麗な肉は子供に限る。
そう思って両親の死に呆然とする双子の姉妹へ標的を向けたのだが、今彼は激しく困惑していた。
視界を塞ぐ拘束具越しにも見える黄金の光が周囲を照らしたと思ったら、次の瞬間には目の前には子供ではなく別のナニカが立っていたのだ。
長身である自分と同等以上の2mを超える体躯に、青灰色の装甲の表皮を持つ機械と生物が入り混じったような歪で禍々しくも美を感じさせる女性型の肉体。
頭部には側頭部から後方へ2本の角が伸び、額にある第三の目は翠でその双眸は血のように赤い。
異形系の個性だとしても姉妹双方が消えているのはおかしいと思ったが、ムーンフィッシュはすぐに考えるのをやめた。
自分にとって重要なのは肉の断面を見る事だ。
その為に大きく開いた口から自慢の牙を伸ばそうとしたその瞬間、物凄い衝撃と共に彼を激痛が襲った。
口の中に広がる濃密な血の味とカリカリとこすれ合って音を立てる砕けた自分の歯。
そして上顎と下顎を万力のような力で締め上げられる苦しみから、怪人に手を突っ込まれた事を理解した時にはもう遅かった。
怪人はその剛腕でムーンフィッシュの口を上下に引き裂き始めたのだ。
激痛と脳裏をよぎる死の気配から必死に逃れようとするが、最大の武器である歯を失った彼に抗う術は残されていない。
そして甲高い咆哮と共に彼の身体は限界を迎える。
魔獣は彼の顎を真っ二つに引き裂くと、下顎を持った腕は勢いのまま喉から股間までの肉と骨を全て引き剥がしてしまったのだ。
いったいどれだけの剛力があればこんな事になるのだろうか?
皮膚や筋肉、そして胸骨から肋骨の前面半分を失ったムーンフィッシュの身体からむき出しになった心臓を始めとする臓物が零れ落ち、周囲に漂う血臭と生臭さをさらに濃いモノへと変える。
ムーンフィッシュを葬った魔獣は肉塊となった両親へ視線を向けた。
生体エネルギーであるヴァジュラを操る彼女は、成仏を待つ両親の魂と言うべきものが見えていた。
それは魔獣の精神に寄生しているエレインとダイアナもまた同様だった。
父母は魔獣の中にエレインとダイアナを見つけると精神体の彼女達を抱きしめる。
『ごめんな。お父さん達はもう一緒にいられないんだ』
『本当は貴方達の成長を見守り続けたかった。二人と楽しい思い出をもっともっと作りたかった。でもママ達は行かないといけないの』
『お父さん…お母さん……』
『ママ…パパ……』
精神体であるからこそ自分達を抱きしめる両腕から伝わる父母の無念や悲しみ、そして愛情に双子の目から涙が零れ落ちる。
『エレイン、ダイアナ。お父さん達は何時までもお前達の事を見守っているからな』
『二人共、幸せになってね』
そう言い残して天へと昇っていく両親の魂。
哀惜の念から彼等を追おうとした魔獣だが、その足を踏み出すことはできなかった。
何故なら彼女の足は錠で閉じられたかのように舗装された道路が噛みこんでいたからだ。
『化け物の足は本締した! これで奴は動けねえ!!』
魔獣が声の方に目を向けると、そこには褐色の肌と癖のある黒髪が特徴のヒーロースーツに身を包んだ男が地面へ手を突いている。
それは現場へと駆け付けた新人プロヒーロー『ロックロック』だった。
「この化け物が! これ以上は殺らせねえぞ!!」
魔獣に鋭い視線を向けながら吼えるロックロック。
ここへ駆け付けた当初は原型を留めない3つの遺体が転がる酸鼻極まりない現場を前にして、まだ経験の浅い彼は口の中に酸っぱいモノを憶えたものだ。
しかし現場で吐き戻すようではヒーローは務まらない。
彼は胸に宿った恐怖心を嘔吐感と共に飲み干して魔獣の動きを封じて見せたのだ。
そして彼の合図に応じて駆け付けていた警官隊が一斉に発砲を始める。
強個性を持つヴィランに対抗する為に大口径化した拳銃から吐き出される弾丸は、狙い違わずに大半が魔獣へと突き刺さる。
抵抗することも無く銃弾の雨に晒される魔獣。
「やったぜロックロック!」
「あんな化け物ぶっ殺しちまえ!」
警官隊とヒーローが優勢な様子に後ろへ退避していた野次馬達は口々に歓声を上げる。
間違いなくその場においては、周り全てが魔獣にとって敵といえた。
しかし彼女はそんな有象無象など気にしていなかった。
彼女の紅玉のような目に映るのは流れ弾によって損壊していく両親の遺体。
優しい風貌の父と美しい母の額に銃弾が突き刺さり、頭部が無残に四散する光景を目の当たりにした事で鎮火しかかっていた双子の憎悪は再び燃え上がる。
コイツ等は何が楽しいんだ?
父と母の死後が辱められる事がそんなに嬉しいのか!?
双子の黒い感情を受けて魔獣は再び甲高い咆哮を上げる。
そして足を捕らえていた本締を容易く砕くと、最も近くにいたロックロックへと襲い掛かった。
「お…俺の本締が!?」
得意技を容易く破られた事にショックを受けるロックロック。
だがそれがいけなかった。
その隙に魔獣の手が彼の顔面を鷲掴みにし、そのまま力任せに千切り取ってしまったからだ。
自らを鎧う肉から引き摺りだされ、頸骨はおろか脊椎までも道連れに身体から引き抜かれる頭蓋。
ヒーローや警察の活躍に沸いていた野次馬達からすれば、それはまさに悪夢の光景だった。
再び悲鳴と怒号が飛び交う中、警官隊の若い巡査は動揺しながらも上司に指示を仰ぐ。
「ど…どど……どうしますか?」
「各員発砲を続けろ! 奴の矛先を一般人へ向けさせるな!!」
指揮官の合図で再び魔獣へと放たれる数多の銃弾。
しかしそれは彼女を覆うヴァジュラの障壁に阻まれ、ただの一発も届くことは無い。
人間達が放つ稚拙な殺意と鉄火の中、魔獣は手にした頭蓋と内部に納まった灰色の肉を握り潰すと、緋色の翼を展開して宙へと浮かび上がった。
そしてビルの身長を追い越してコンクリートジャングルを脱した彼女は、茜色に染まる空で一声鳴くと地表へ向けてパワーダイブを敢行する。
翼の付け根に備わった『超能力炉』が生み出す膨大なヴァジュラ・エネルギーによって瞬く間に音速の数十倍に達した魔獣は、あえて低空を飛ぶことで警官隊を周辺にいた野次馬ごと薙ぎ払う。
それが生み出したのはまさしく地獄の光景だった。
至近距離からソニックブームを浴びた事で道路は捲れあがり、ビルを始めとした建物は窓ガラスや外壁が粉々に爆砕される。
そして暴威に巻き込まれた民衆や警官達は衝撃波で身体が破裂する者、叩き付けられ地面や建物の壁へ潰れて張り付く者。
さらには落下したガラスに切り裂かれ、或いは瓦礫に圧し潰される者など、次々と屍山血河の一部へなり果てた。
さらに悲惨だったのは破壊された自動車やガソリンスタンドから漏れたガソリンが引火した事だ。
天を衝くように吹き上がった炎は、魔獣が撒き散らすヴァジュラ・エネルギーの残滓に引き寄せられるかのように広がった。
さながら魔獣に付き従う不死鳥と化した業火は街や生き残った民衆達を紅蓮の舌で嘗めとっていく。
逆巻く炎を供として全てを蹂躙しながら甲高い咆哮を上げる魔獣。
彼女の破壊衝動はいまだ治まる事を知らない。
◆
『ぎゃあああああああああっ!?』
『グロぉぉぉぉぉぉい! 説明不要ッッ!!』
魔獣たんの中で私とダイアナはそりゃあもう盛大に悲鳴を上げた。
お父さんたちには悪いけど、さっきまで沸き立っていた怒りとか憎悪は現在進行形の地獄絵図がグロすぎて吹っ飛んだ!
ヤバい、ヤバい、ヤバい!!
魔獣たんを止めないといけないのに、破壊衝動が強すぎてまったく制御できる気がしない!
『お姉ちゃん、どうしよう!?』
『正直言ってどうしたらいいのか、さっぱりだ! とにかく魔獣たんが鎮まるように祈るしかない!!』
とはいえ、こちらの呼びかけに彼女はまったく応じようとしない。
それどころか返ってくるのは敵への憎悪と殺意、あとは膨大な破壊衝動だけ。
『鎮まりたまえ! さぞかし名のある魔獣と見受けたが 何故そのように荒ぶるのか!?』
『なんでアシタカ!?』
ふざけているように見えるかもしれないが、こっちは徹頭徹尾マジである。
非難の言葉を投げかけようとした人は私達が置かれている状況を考えてくれ。
現在進行形で眼の前で死体の山が量産されて、それに焦熱地獄のトッピングが付いてるんだぞ!
しかも暴走しているとはいえ、その元凶の片棒を担いでいるんだ。
こんなんネタでも入れなかったら精神が持たんわ!!
というか、原作のエレインはいったいどうやって魔獣たんを操ってたんですかねぇ!
私達がある意味精神的拷問を味わっている間にも地獄絵図は拡大し、人間がゴミのように死んでいく。
両親の遺体を傷つけた警察やそれを囃し立てる野次馬にはムカついたけどさ、ここまでしろとは言ってねえよ!!
なんとか状況を納めようと無い頭をフル回転させていると、私の脳裏をあるイメージが駆け抜けた。
実験動物同然に育てられた苦しみと自分を閉じ込める研究施設という檻の中で募る自由への渇望。
唯一の肉親であり自らの半身である妹から向けられる嫉妬と憎しみを感じた時の悲しさ。
研究施設を抜け出た時に出会った最初の友達である浮浪者の少年、彼との時間で初めて楽しいという事を知った。
彼を人質に取られて、妹と殺し合う事になった苦しみと痛み。
そして妹の手によって致命傷を受けた時の絶望。
その後、友人を助ける為に強引に妹の身体を奪った罪悪感。
邪魔なモノを破壊しながら友人を探し回った焦燥と、狭い研究施設から飛び出した事への解放感。
そして胸を一突きにされた友人の亡骸と滴る血の感触、それを前にして彼の魂と交わした永遠の別離が齎した心を引き裂かれそうな悲しみ。
これはジェノサイバーの原作のシーン?
いいや、この生々しさやむき出しの感情は作り話なんかじゃない。
これは魔獣の中に残ったエレイン・リードの記憶だ。
『お姉ちゃん! なんか知らない女の子の記憶が脳内に直接!?』
『ファミチキください……じゃねえや! 今はコイツを受け取るのはヤバい!!』
次々に展開されるエレインの辿った軌跡と彼女がそこで感じた嘆きと悲しみ。
その中で私は理解した。
魔獣たんが二次創作のような転生特典ではない事を。
何故私達姉妹がヴァジュラを使えるのか、こ奴はどうして私達に目を付けたのか。
そして私ではジェノサイバーを制御できないという事実もだ。
この魔獣は純真無垢な獣同然の精神を持つ原作のエレインだからこそ、ある程度の制御が利いたのだ。
小癪な知恵と理性を持つ私ではとてもではないが、手綱を握る事などできはしない。
心に圧し掛かる諦観、その間にもエレイン・リードの記憶と私はシンクロしていく。
自分が生まれる前から愛情を注いでくれたエレイン・リードの両親であるモルガン夫妻、研究所から逃げた先で知り合った初めての友達ラット。
内戦の続くカライン国で共に遊んだ幼い子供達、戦災孤児として保護された空母で母親のように接してくれた船医のマイラ女史。
脳裏に過る彼等は次々に無残な最期を遂げていく。
父であるグエン・モルガンは助手に裏切られて大企業に研究を奪われたうえに射殺された。
母のタニア・モルガンはエレインとダイアナを産んだ後は実験動物として生を終えた。
ラットは殺人サイボーグ達にエレインへの人質に利用され、彼女がダイアナに殺されてからは無用とばかりに胸を一突きされて息絶えた。
カライン国の幼子たちは内戦に巻き込まれ、軍用ヘリに狩りの獲物のように追い回された挙句に機銃掃射でバラバラにされた。
マイラ女史は身の回りで次々に起こる地獄のような現象によって発狂した。
その姿を見る度に記憶と同調している私の胸へ耐えがたい痛みと悲しみが押し寄せる。
そんな中、彼等の中へ今しがた見た私達の両親の死も重なる。
『魔獣様! 魔獣様!! 魔獣様!!! 困ります! あーっ!!! 困ります!!! 強制ビジョンクエストは困ります!!! あーっ!!! あーっ!!! 原作主人公様とのシンクロは!!! 魔獣様!!! あーっ!!! 魔獣様!!!』
『ヴァジュラから地獄が逆流する! ギャアアアアアアアッ!!』
恐らくはそれが最後の一押しだったのだろう。
私とダイアナのアレな叫びと共に魔獣の中でヴァジュラが膨れ上がった。
それはこの世界の物質と結びついて自然核反応を起こし、生み出された膨大な破壊のエネルギーは周囲の物を閃光の中に飲み込んでいく。
この日、四国地方は原因不明の大爆発により地上からその姿を消した。
ヘル幼女:魔獣たんの事やヴァジュラのヤバさも全て知っていたので、戦々恐々としながらも何とか制御するつもりだった。
しかし両親の死でブチキレたために全てがおじゃん。
ヴィジョンクエスト(Verエレイン)で人類に対する嫌悪をたっぷりと植え付けられたお陰で、人殺しに関するハードルは0になった。
悪党の姿を見ただけで問答無用で駆逐するヴィラン絶対殺す幼女
デス幼女:ヘル幼女の双子の妹。前世はアニヲタだったけど姉と違ってライト層の作品を好んでいた。
ヒロアカの事も知っていたのでデクと親戚になれてテンションが上がっていたが、一連の惨劇で全て吹っ飛んだ。
ヴィジョンクエスト(Verダイアナ)によって人類への嫌悪感マシマシ。(それでもエレインよりはソフト)
一般人はマトにしないが、ヴィランは両親の恨みもあって悪即斬する。
ラバースーツの出っ歯マン:人類滅亡の大戦犯。
コイツがいらん事をしなかったら、少なくとも魔獣たん召喚はなかった。
肉面を見るはずが自分のモツを大衆に晒して死亡。
◆
【急募】私達が世界を滅ぼさずに済む方法
次なるステージは……
四国地方消滅は序章に過ぎなかった。
あの惨劇から十年、殺戮の堕天使エレインとダイアナは時間の壁を超越して偽りの災厄を表す場へと降り立つ。
そこは巨悪の後継と正義を担うの雛鳥達が血で血を洗うバトルフィールドだった。
戦いがエレイン達の宿命か、ヴァジュラの運命が戦いを呼ぶのか?
善悪相討つヒーロー社会の縮図の中で、エレイン達は懐かしい人物と再会する。
ハーメルン史上類を見ない誰得なスーパーカルト二次創作
【急募】私達が世界を滅ぼさずに済む方法・第二巻
『対決・脳無!』
今、封印は解かれる。
…………封印解除に失敗しました。
データは消失します。