【急募】私達が世界を滅ぼさずに済む方法   作:アキ山

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こんなネタに感想までいただけるとは、当方涙が止まりませぬ。

そんな訳で、感謝の気持ちを込めて続きを書いてみました。

どうぞ、お楽しみください。


対決、脳無!

 雄英高校1年A組でヒーローを志す緑谷出久の心には埋められない傷がある。

 

 それは父方の従兄弟である双子の姉妹を失った事だ。

 

 事は彼が6歳の時に遡る。

 

 新たな芽吹きを迎えた春のある日、原因不明の大爆発により四国地方が跡形もなく消し飛んだのだ。

 

 日本を襲ったこの大災厄は、何らかの理由で起きた核爆発が原因とされている。

 

 島を跡形もなく消し去る程の暴威を前に無事だった者などおらず、当時四国に住んでいた全ての人間が帰らぬ人になった。

 

 その中には出久の従姉妹一家も含まれていた。

 

 この一件だが発生当初は他国からの侵略行為の疑いが出たために、犯人探しと先進国の間での駆け引きで世界的に緊張が高まった。

 

 しかし数か月に及ぶ綿密な調査の結果からその可能性は否定された。

 

 世の人々は戦争の危機から脱した事に安堵の息を吐いていたが、出久はそうではなかった。

 

 何故なら彼は自らの夢を応援してくれる理解者達を失ったからだ。

 

 無個性だと診断されてから幼馴染を始め、同年代の子供達は自分の夢を嗤った。

 

 縋るような思いで夢は叶うかと問えば、絶対の味方である親も涙を流してこちらに謝るだけだった。

 

 あの時の自分は謝罪など欲しくなかった。

 

 ただ一言『お前はヒーローになれる』と言ってほしかっただけだ。

 

 しかし誰も彼もが出久の憧れを否定した。

 

 そんな現実に将来への希望を無くした彼は、自室で枕を泣き濡らす日々を送っていた。

 

 そんな中、出久の夢を肯定してくれた少女がいた。

 

 しかも慰めではなく、具体的な手段を提示したうえでだ。

 

 10年経った今でも出久はあの時の会話を鮮明に思い出せる。

 

『ねえ、僕はヒーローになれるかな?』

 

 田舎にある祖父母の家の縁側で涼んでいたエレインとダイアナに出久はそう訊ねた。

 

 友人に、両親に、幼稚園の保母などの周囲の人間へ何度も投げた問い。

 

 今まで肯定的な答えなど一度も返ってこなかった嘆きの声に、彼の前に座る金髪碧眼の幼女達はこう答えた。

 

『私はなれると思うな』

 

『イッくんがその夢に本気なら、道は開けるはずだよ』

 

 その言葉を耳にした時、出久は最初は何を言われたか分からなかった。

 

 否定の答えに慣れ過ぎて、知らない内に自分の胸には諦めが巣食っていたからだ。

 

『で…でも、僕は無個性だよ?』

 

『知ってるよ。それがどうしたの?』

 

『無個性だからってヒーローになれないなんて誰が決めた』

 

 思わず口を付いたネガティブな言葉をエレイン達はバッサリと切って捨てた。

 

 そしてポカンとしている出久を気にすることなく、二人は言葉を続ける。

 

『個性が無いなら道具で補えばいい。空を飛ぶのに飛行機を使う事や海を渡るときに船を使うのと一緒さ』

 

『ヒーローにも機械で個性を補っている人っているんでしょ?』

 

『うん。サポートアイテムを使うヒーローはいっぱいいるよ』

 

『なら、ヒーローをやる為の力を全部機械でカバーしたっていいじゃん』

 

『そもそも人間は今までそうやって不可能を可能にしてきたんだ。個性が現れたからってそれを捨てる必要はないさ』

 

 従姉妹達の言葉は出久にとってまさに天啓だった。

 

 今まで自身の将来を覆っていた暗雲が晴れるのを感じた出久は、興奮を隠そうとせずにエレイン達へ詰め寄った。

 

『じゃ…じゃあ! どんな道具を作ればいいかな!?』

 

『そうだな……例えばコスチュームの代わりにパワードスーツを着るなんてどうだろう。空を自由に飛んで高い防御力を誇り、力も機械のアシストで個性に負けないようにするんだ』

 

『あとはレーザー銃やブレードなんて武器を揃えたらオッケーかな。そういうのを造れたら、ヴィランにだって負けないと思うな』

 

 エレイン達の言葉と共に出久の頭に浮かんだのは生身の身体に銀や蒼銀、朱銀のスーツを鎧うまさにヒーローの姿だった。

 

 生身で配下の戦闘員を倒し、強力な異形のヴィランが現れればパワードスーツを身に纏って正義を行使する。

 

 脳裏に流れる彼等の活躍に出久は瞬く間に魅了された。

 

『私達はイッくんが諦めなければヒーローになれると思っている。だから君もただ落ち込んでるだけじゃダメだ』

 

『そうそう。スーツが出来ても使いこなせなかったら意味ないもんね。だから身体を鍛えて勉強も頑張らないと!』

 

『うん!!』

 

 その時見た二人の笑顔は出久にとってこの上ない救いだった。

 

 そしてこの夜の思い出はこれから訪れるであろう、無個性ゆえの偏見や差別に立ち向かう力となる……はずだった。

 

 しかし語らいから数か月後、エレイン達は四国と共に消えた。

 

 その事実を知った時に出久を襲った衝撃は強烈だった。

 

 唯一とともいえる味方を失った喪失感は自分が無個性だと診断された時、いやそれ以上の絶望だったからだ。

 

 一時は廃人のようになっていた出久だったが、そんな彼を蘇らせたのは母親の『このまま腐っていたらエレインちゃん達もガッカリするわよ』という説得だった。

 

 母の言葉に我を取り戻した出久はあの夜に語ったパワードスーツを生み出す為に工学系の知識を貪欲に取り入れ、同時に格闘技を始め様々な肉体強化に取り組んだ。

 

 当時小学生になったばかりの彼にとって、それらは血反吐を吐くほどに辛いモノだった。

 

 しかし出久は遊びはもちろん寝食すら忘れて目標へまい進した。

 

『エレイン達が語ったようなヒーローになる』

 

 この誓いが二人の消えた世界で出久が生きる寄る辺だったからだ。

 

 その為ならどんな辛苦だって耐える事が出来た。

 

 そして彼は無個性ながらも日本屈指のヒーロー養成校『雄英高校』へと進学を果たす。

 

 受験寸前、とある事件が切っ掛けで憧れだったオールマイトから個性の継承を提案されたが、出久はそれを辞退した。

 

 今の彼が目指すのは彼女と語らった無個性でもなれるヒーローだったからだ。

 

 如何にNо1ヒーローの個性でも、それに頼る事は出久にとって妥協でしかなかった。

 

 そうしてパワードスーツの自作に苦心する傍ら、鍛え上げた肉体で雄英のカリキュラムを熟す出久。

 

 そんな中、『USJ(ウソの災害や事故ルーム)』での実習の際に彼等はヴィランの襲撃を受けてしまう。

 

「一塊になって動くな! 13号、生徒を守れ! アレは……ヴィランだ!!」

 

 彼の担任であるイレイザーヘッドこと相澤消太や引率の13号が警戒する中、雄英学園指定のジャージ姿である出久は右の手首に巻き付けたブレスレットへと指を這わせる。

 

(プロトタイプで本物のヴィラン相手にどれだけやれる?)

 

 初めて感じる本物の殺気に肌が粟立つ感覚に閉口しながらも、彼は冷静である事を己に強いた。

 

 武術の師匠から『有事の時こそ平静を保て』と叩き込まれていたからだ。

 

 眼前にいるヴィラン達は40人は下らない。

 

 そのどれもが個性を持っている事を考えれば自分にとって全てが強敵だ。

 

(やっぱり力を温存するなんて愚の骨頂だ! 生き残る為には出し惜しみする余裕はない!!) 

 

 浮足立つクラスメイトの中、彼がそう決意した時だ、

 

 突如として出久達勇英生とヴィランの間に黄金の光が立ち上った。

 

「くっ!? 視界が……」

 

「今度はなんなん!?」

 

「お前等、警戒しろ! ヴィランの攻撃かもしれん!!」 

 

 さらに緊張が高まる中、そこにいる者全ての視界を焼く眩い光が収まると、その跡には二人の小さな少女が倒れていた。

 

「子供!?」

 

「クソッ! 13号、あの子達の安全を確保するぞ!!」

 

 状況を掴めないとはいえ、ヒーローである相澤達は小さな子供を見捨てる事などできない。

 

 瞬時の判断で拘束布を伸ばした相澤だったが、それより先に彼女達の前にいたチンピラが小さな体を掴み上げる。

 

「なんだぁ、このガキ共は?」

 

「おい、ソイツ等は押さえておけ。ヒーロー共に対する有効な手札になる」

 

 リーダーらしき人の手を模したアクセサリーを付けた男が指示を飛ばす中、まるで人形を扱うように左腕を掴まれて宙にぶら下がる金髪の幼女達。

 

 出久はその姿を見た瞬間、思わず息を呑んだ。

 

「エレイン、ダイアナ……」

 

 それは記憶に焼き付いている死んだ従姉妹にそっくりだったからだ。

 

 人質にされた子供の姿がヒーローとその卵の動きを封じる中、幼女の一人が目を覚ました。

 

「お、起きやがった。よく見りゃ別嬪じゃねえか、この件が済んだら高値で売れそうだな!」

 

 自分を掴むチンピラの下卑た声を耳にしながらゆるゆると視界を巡らせる幼女。

 

 そしてその視線が自分の隣で俵抱きにされている片割れを捉えた瞬間、彼女の身体から膨大なエネルギーが沸き起こった。

 

「ダイアナぁ!」

 

 幼女、エレインの叫びと共に黄金の光として放たれたヴァジュラは、彼女を掴んでいたチンピラの上半身を爆砕した。

 

 ヴィランもヒーローたちも、目の前で起こった惨劇を誰もが理解できなかった。

 

 血と砕かれた肉片、そして千切れた臓物が降り注ぐ中、素足で土を踏みしめるエレイン。

 

 荒れ狂い帯電する高出力のヴァジュラエネルギーを纏った彼女は、妹を俵抱きにしていたモヒカンヘアーのヴィランへと視線を向ける。

 

 その瞬間、風船が弾けるような音を立てて彼女の瞳に捉えられた哀れな犠牲者の身体は砕け散った

 

 念動で引き寄せた未だ目を覚まさない妹を大切に抱きしめると、エレインの纏ったヴァジュラはさらに出力を増して金色の光となって噴き上がる。

 

「な…なんだぁ!?」

 

「こ…このガキだ! クソッたれ! ぶっ殺せぇ!!」

 

 そんな中、仲間が迎えた無残過ぎる死を目の当たりにしたヴィラン達は恐慌状態に陥った。

 

 ヴィラン連合などと名乗っていても、構成員の殆どは一山幾らのチンピラ集団だ。

 

 相手がヒーローならば死ぬことは無いとタカを括っていた彼等にとって、今の惨劇は狂気に落ちるには十分すぎた。

 

 恐怖をかき消す為に雄たけびを上げながら、エレイン達へ殺到するヴィランの集団。

 

「いかん!」

 

 焦った相澤の声に出久が飛び出そうとした時、更なる殺戮が幕を上げた。

 

 エレインの念動によって留め金を捩じ切られた巨大照明が、天井から隕石のごとくヴィラン達へ降り注いだのだ。

 

 音速に近い勢いで落下した大質量は、轟音と共に悪党共を挽肉に仕立て上げる。

 

 後方に位置する一団は運よく被害を免れたが、それで彼等が助かったわけではなかった。

 

 今度は照明に繋がっていた大口径のケーブルが意志を持ったかのように襲い掛かったからだ。

 

 鎌首をもたげて蛇のように襲い掛かるソレは、切断面から覗くコイルで目や腹を貫き、大蛇のごとく肉や骨が砕ける程に締め上げ、そしてUSJに供給される膨大な電力を担保にその身を焼く。

 

「クソッたれ! 近づくのはダメだ!! 遠距離からぶっ殺すしかねえ!!」

 

 断末魔と悲鳴の中、誰かがひと際大きく張り上げた声を皮切りに遠距離系の個性持ちのヴィラン達はエレインを狙撃しようとする。

 

 しかし───

 

「ぎゃあああああああっ!? 頭が…俺の脳が虫に食われちまうぅぅっ!?」

 

『ウジだ! ウジが俺の腹の中にィぃィぃっ!!』

 

『目の中にハエが…ハエが飛んでる!? 止めろ! 卵を産み付けないでくれぇぇぇ!!』

 

 それよりも早くエレインから叩き付けられた強烈な思念波によって、彼等は一瞬で催眠状態へ陥った。

 

 本来ならありもしない、無数の蟲に体内の臓器を貪られる悍ましさ。

 

 痛みはもちろん体内を小型生物がはい回る感覚すらも再現された幻覚に耐えらえず、遠距離個性の持ち主たちは次々に自らの力を用いて脳や腸を抉り出しては果てていく。

 

「クソッたれ! 脳無! あのガキ共を殺せ!!」

 

 血と臓物に塗れた地獄絵図の中、連合のリーダーである死柄木弔は後ろに控えている怪人をエレイン達へ差し向ける。

 

 漆黒の屈強な体に脳がむき出しになった異形の巨人、脳無は対オールマイト用に生み出されたヴィラン連合の切り札だ。

 

 その凶悪な力を振るえば、幼き少女を殺すなど容易いと指令の主である死柄木弔は考えていた。

 

 しかし、そんな彼の思惑はあっさりと潰える事になる。

 

 脳無がエレイン達の眼前に立った瞬間、突如としてその身体がグシャグシャに潰され始めたのだ。

 

 まず両手両足が付け根へと圧壊し、まるで巨人の手に丸められるように原型を失っていく脳無。

 

 それは荒れ狂うエレインのヴァジュラが生み出した莫大な念動力の為せる業だった。

 

 そして唖然としている死柄木の前で脳無は小石程度の大きさまで圧縮されると、そのまま虚空へと消えた。

 

 如何に自己を修復する個性があろうとも、あのザマでは再生もヘッタクレもない。

 

「なんだよ! なんなんだよ、いったい!?」

 

 自分の目論見がご破算になった事に苛立ち、首筋に爪を立てる死柄木。

 

 そんな彼を黒い霧が包み込む。

 

「死柄木弔、撤退します!! ここは何かヤバい!!」

 

「おい!?」

 

 死柄木弔の抗議を聞くことなく黒霧が彼の身体を飲み込んだ次の瞬間、漏電していた照明やケーブルが火を噴き出した。

 

 それはヴァジュラが生み出した風を孕むと、瞬く間に天井を突き破るまでに巨大な紅蓮の竜巻、局所的な火災旋風へと成長する。

 

 天を衝く炎の竜に飲み込まれたヴィラン達は断末魔の叫びと共に次々と焼き尽くされ、その遺体も粉々に砕けていく。

 

 その光景は残酷ながら一種の退廃的な美しさを孕んでいた。

 

 一連の酸鼻極まる光景はヒーローの卵である雄英の生徒達でもキツかったらしく、1年A組の生徒の中には嘔吐する者や気絶する者が続出した。

 

 もちろん引率者であるプロヒーロー達はこの惨状をただ見ていたわけではない。 

 

「あの子達が纏う力場が強すぎて引き寄せられない! 先輩! 個性を抹消できないんですか!?」

 

「あの力は個性じゃない、俺では消せん! 13号、生徒達を避難させろ!!」

 

 自らの力を暴走させている幼き少女を救うべく、なんとか手を尽くしていたのだ。

 

 しかし彼等の力をもってしても、荒れ狂う力とそれが齎した死という現実を前にしてはどうにもできない。

 

 それは気を強く持っていた少数の生徒も同様だった。

 

 それも仕方がない事だ。

 

 普通に生きていれば人の死に直面する機会などほとんどないのだから。

 

 だが、そんな中一人だけ前へ駆けだす男がいた。

 

「出久君!」

 

「出久! テメエ!!」

 

 そう、緑谷出久だ。

 

 麗日や爆豪の声を背に、出久は荒れ狂う力場の中へ迷うことなく飛び込んでいく。

 

「なにをしている! 緑谷、戻れ!!」

 

 教師の制止もクラスメイトの悲鳴も彼の耳には届いていなかった。

 

 出久の目に映るのは、あの日失ったはずの宝物だけだ。

 

「起きろ! プロト!!」 

 

『YESマスター。アーマー・プロト起動します』

 

 電子音声と共に右手に付けたブレスレットから出久の全身をトレースするように金属フレームが奔る。

 

 そしてそれを骨格として瞬く間に数多の機械が彼の身体を覆い、それを表皮たる特殊合金製の装甲が鎧う。

    

 全身を艶のない銀色一色で染め上げた、無骨でありながら何処か勇壮さを感じさせる姿。

 

 これこそが出久が今まで積み上げてきた努力の集大成、現実に形を成した夢の一端。

 

 パワードスーツのプロトタイプだ。

 

「な…なんだあれは!?」

 

「うおお! かっけぇ!!」

 

 飯田天哉が驚き切島鋭児郎が目を輝かせる中、出久は頭部を覆うマスクとヘルメットを解除する。

 

『マスター、頭部装甲を解除されては防護面に重大な欠陥が生じます』

 

「いいんだ! 顔が見えなかったらエレインが僕だと分からない!!」

 

 そう叫びながら放出されるヴァジュラエネルギーが生み出す圧をパワードスーツの力で無理やり踏破する出久。

 

 その気配に気が付いたエレインは振り返ると同時に視線を媒介にヴァジュラによる衝撃波を放つ。

 

 出久の顔面を粉砕せんと奔る不可視の鉄槌。

 

 しかしそれは地面に足を取られて前のめりになった、出久の頭を通り抜ける事となった。

 

 そして崩れそうになる体勢をパワーアシストを込めた右手を地面に衝く事でリカバーした出久は、全身に掛かる圧に耐えながら声の限りに叫ぶ。

 

「もう止めるんだ、エレイン!!」

 

 そんな彼の必死の表情を見たエレインは目を大きく見開くと呟くようにこう言った。

 

「……引子おばさん?」

 

「……へ?」

 

 思わぬ返しに唖然となる出久、そんな彼の前でエレインは目を閉じると抱きかかえていたダイアナに折り重なるように倒れた。

 

「エレイン! ダイアナもしっかりするんだ!!」

 

 雄英の教職員や生徒達が理解できない中、双子へ必死に呼び掛ける出久の声が惨劇の終結を知らせるのだった。

 

 

 諸君、私の事を憶えているだろうか?

 

 盛大過ぎる大ポカをブチかましてしまった大罪人Aことエレイン・緑谷だ。

 

 正直言って会える機会は巡ってこないと思っていたので、この再び見えた奇跡には感謝しよう。

 

 さて、魔獣たん大暴走から数日、私達姉妹を取り巻く環境は激変してしまった。

 

『まさか、十年後にタイムスリップしちゃうとはねぇ……』

 

 与えられた個室に備え付けられたテレビを見ながら、ダイアナはこちらへ思念を飛ばしてくる。

 

 声を出さないのはここの人間を信用していないからだ。

 

『ヴァジュラによる大規模破壊は時として時空間を歪ませる。それは知っているだろう?』 

 

『ああ、エレイン・リードが香港島を吹き飛ばした時のアレか。私達も同じことをやっちゃったわけね』

 

 そう、四国でのやらかしが原因で私達は十年の時を一気に超えてしまったのだ。

 

 これに関しては並行世界および原作に前例があるので、驚きはしても騒ぐほどじゃない。

 

 つまり、あの時必死に声を掛けてきたのは、引子おばさんじゃなくて成長したイッくんだったという訳だ。

 

 あの時纏っていたアイアンマンじみたスーツを見るに、イッくんは私達が語ったメタルヒーローの道を順調に進んでいるらしい。

 

 発案者としては嬉しい限りである。

 

『そんなイッくんを頭パーンしそうになったくせに』

 

『仕方ないだろう。例の百年戦争を体験したお陰で、強化外骨格を付けている人間は脊椎反射で消し飛ばすようになってしまったのだから』 

 

 こちとらヴィジョンクエストとはいえ、ジェノサイバーと人類の一世紀にも及ぶ最終戦争を体験した挙句、人類文明の崩壊まで味わったからな。

 

 こちらへ敵意を持つ者はどんな人間だろうと躊躇なく殺れるようになっている。

 

 あの時、イッくんが顔を見れるようにしてくれてて本当に良かった。

 

 そうじゃなかったらせっかくのスーツごとミンチにするところだ。

 

 少し脱線してしまったな、話を戻そう。

 

 まず私達が十年前に引き起こした魔獣たんの暴走だが、その結果四国地方は綺麗さっぱり消滅したらしい。

 

 犠牲者は四国在住者をはじめ、爆発による津波や天変地異などで被害を被った瀬戸内や近畿地方を合わせると600万は下らないらしい。

 

 意図した事ではないが、人類史上ブッチギリの大量虐殺者になってしまったな。

 

 まあ、人類の九割五分を殲滅した事がある身としてはあんまり心に響かない訳ですが。

 

 でもって10年の時を超えて私達が降り立った場所はUSJ(ウソの災害や事故ルーム)という場所だった。

 

 うん、紛らわしい事この上ないのでユニバーサルスタジオは訴えていいのではないだろうか。

 

 そんな状態で目が覚めた瞬間に入って来たのは、全裸の妹を抱えた世紀末モヒカンチックな悪党である。

 

 妹を助ける為に問答無用で皆殺しにした私をいったい誰が責められるだろうか?

 

 とはいえ、ここは法治国家である日本。

 

 いくらゴミムシより価値がないヴィランでも、40人以上を意図的にブチ殺しては問題がある。

 

 なので狸寝入りを繰り出して、力の暴走という体を取ったワケだ。

 

 さすがに私達も二度目の対人類戦は御免だからな。

 

 そんなワケで私達は現在雄英高校なる場所に保護という名目で軟禁されている。

 

『ところで、この雄英高校というのは本当に信用できるのか?』

 

『まあ、教師は善人が多い……と思うよ。他のスタッフとかは知らないけど』

 

 私の問いかけにダイアナは自信なさげに答えを返す。

 

 妹からこの世界が『僕のヒーローアカデミア』なる作品に類似した世界である事は聞いている。

 

 イッくんが物語の主人公であり、この高校がホームであることもだ。

 

 しかし、だからといって信じられるほど私達は純真ではなくなってしまった。

 

 そう私は会話をしながらも意識の糸を放つ。

 

 それを道標にヴァジュラは壁の中へと入り込み、内側に張り巡らされたケーブルを伝って外へとのびていく。

 

 これは原作において魔獣たんのライバルと銘打たれた噛ませ犬、ヴァジュラノイドが使っていたヴァジュラによる機械の支配を応用したものだ。

 

 そうして私の感覚器となったヴァジュラの向かう先は会議室。

 

 この学校の首脳陣が私達姉妹の処遇を話し合っている場だ。

 

『つーか、マジなのかよ。あの大災厄を生き残ったうえに、10年前からタイムスリップしてきたなんてよ』

 

 そう口にするのは金髪にサングラスの少しガラの悪そうなオッサンだ。

 

 ダイアナが言うにはプレゼントマイクというヒーローだそうな。 

 

『政府にあるDNAバンクと彼女達の遺伝子は一致している。それに従兄弟である緑谷の証言もある』

 

 愚痴るようなマイクの言葉に答えたのは、例のUSJにいた教師の一人。

 

 イレイザーヘッドというヒーローだ。

 

『その証言というのは何なの?』

 

 でもってその発言に食いついてきたのは、色気が凄い妙齢の女性。

 

 18禁ヒーローミッドナイトだ。

 

 自ら18禁を名乗るとは色んな意味で凄いな。

 

『保護した時、緑谷を見た双子の片割れは奴の母、つまり叔母の名前を呼んだそうです。現在の緑谷夫人は10年前よりかなり体重が増しているらしくてな、それを知っているのなら奴の顔を見て間違える事はないと』

 

 イレイザーヘッドの返答に、何故かいるネズミの横に座っていたオールマイトが口を開く。

 

『真偽の程はどうあれ、彼女達を外へ出すのは危険でしょう。例の災害は多くの人に爪痕を残した。特に四国在住の人間は生き残りがいない。そんな中で生存者が現れたとなれば世間の注目は避けられない』

 

『それに加えて彼女達は人類初のタイムトラベラーの可能性もある。ヴィラン、日本政府、その他。その身柄を欲しがる人間は事欠かないさ!』

 

 そんなオールマイトに続いて言を発したのは、なんと鼠である。

 

 何時の間にげっ歯類が人の言葉をしゃべれるようになったのかと驚いたのだが、ダイアナ曰くアレは個性だそうだ。

 

 彼は根津といい、この学校の校長をしているらしい。

 

 ……うん、信用度が一瞬で底辺にまで落ち込んだぞ。

 

 その後会議は『当面の間、私達の身柄を預かる』という結論に落ち着いたのだが、我々としては面白くない。

 

 この学校は国立だというなら、国が私達の事を聞けば引き渡しに応じない訳には行かないはずだ。

 

 真偽は定かでなくても、タイムトラベラーという人類の夢を体現した私達は、研究者や権力者からすれば垂涎の的になる事は容易に想像がつく。

 

 私もダイアナもヴィジョンクエストの所為で実験はアレルギーレベルで嫌いだ。

 

 そんな事になるなら迷うことなく魔獣たんを呼び出すだろう。

 

 どうしたものかと考えていると、ダイアナから思わぬ提案があった。

 

『キャシーに助けを頼んだら? 上手くグランパ達に伝わったらアメリカに逃げられるかも』

 

 キャシーとは母の姉で、たしか十年前は32歳だったはずだ。

 

 年に数回アメリカの祖父母に顔を出しに行っていた時、ものすごく可愛がってもらった。

 

 ヒーローをやってるとか言っていたし、助けを求めたら何らかの手を打ってくれるかもだ。

 

『それじゃあやってみるか。アメリカまで思念波が届くかは分からないが手伝ってくれ、ダイアナ』

 

『OK!』

 

 そうして私達はヴァジュラを高め、伯母であるキャスリーン・ベイトにテレパシーを送るのだった。   

       




緑谷出久:原作主人公で、この物語では超努力の人。
エレイン達が死んだと知らされた時は本気で後追い自殺を考えるほど絶望したが、二人に語ったヒーローになる為に精神的地獄の底から蘇った。
その後の努力は狂気の域に入っており、幼馴染の爆豪がいじめを止めて本気で心配するほどだった。
そのお陰で空手・柔道は黒帯、科学の面でも地元の天才少年と称されるようになる。
パワードスーツの制作は独学ではなく、とあるコネを使って米国の天才科学者シールド博士の協力で制作したモノ。
姉妹が生きていたのは泣くほどうれしいが、淡い思いを抱いていた相手が未だロリである事が悩みの種。

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