グロは無しでーす。
全米No1ヒーロー、スターアンドストライプことキャスリーン・ベイト。
彼女がその思念を受け取ったのは、実家で両親と静かに過ごしていた時だった。
普段は軍との訓練や事件など忙しなくアメリカを飛び回っている彼女だが、10年前から4月14日だけは必ず休みを取っていた。
何故ならその日は四国地方と共に消えた妹家族の命日だったからだ。
7歳年が離れた溺愛する妹と彼女を任せるに足ると認めた義弟、そして愛らしい双子の姪。
娘と可愛い盛りの孫を突然失った両親の落胆は酷く、事件当時は自分の精神的なダメージと相まってヒーローの道を断念するか悩んだものだ。
しかしそんな心の傷も十年という年月によって漸く癒えて、今は静かに失われた家族の冥福を祈る事が出来るようになっていた。
そんな中、記憶も薄れ始めた姪たちの愛らしい声が頭の中に響いたのだ。
両親は突然の事に焦っていたが、キャスリーンは経験からこれがテレパシーである事に気が付いた。
『キャシー、キャシー! 聞こえる、キャシー?』
「……誰だ?」
親しい人間なら自分の事を愛称で呼ぶ者も多くいる。
だが正体不明の輩にそう呼ばれて平静でいる程、彼女は温厚でも甘くも無い。
プライベートから戦闘用に頭を切り替えた彼女は鋭く言葉を返す。
『私だよ。ダイアナ! 声、忘れちゃった?』
その瞬間、キャスリーンは自分の頭が怒りで沸騰しそうになるのを自覚した。
姪たちの命日を狙って、当人に成りすますとは!
しかも両親まで巻き込むなど悪戯にしても質が悪すぎる!!
一瞬、ありとあらゆる罵声が頭の中を過るが、口を衝くギリギリのところでキャスリーンはそれを飲み込んだ。
「キャシー、この声は本当にダイアナなの?」
「あの子達は生きているんじゃないのか?」
記憶そのままの声を聴いて、両親は明らかに動揺している。
今なら赤子の手をひねるよりも容易く彼等を騙す事が出来るだろう。
だからこそ、この悪辣な輩を逃がしてはならない。
ここで尻尾を掴んでおかなければ、確実に両親へ被害が及ぶ。
「生憎と私の姪達は十年も前に天国へ旅立った。騙るにしても相手が悪すぎるぞ」
吐き捨てるようにそう言うと次に返って来たのはもう一人の姪の声だった。
『お姉ちゃん、なんだか信用されてないみたいだよ?』
『仕方ないだろう。私達には一瞬でも、他の皆からすれば十年経っているんだ』
「ダイアナの次はエレインか……よほど、首を捩じ切られたいらしいな」
一流のヴィランでも股ぐらが縮み上がる殺気を込めた脅しだが、テレパシーの主は気にする様子もなく言葉を続ける。
『それって偽物の場合だよね? だったら問題なーし!』
『だが、このままでは埒が開かないな。キャシー、どうしたら信じてくれる?』
「二人が私達の家に遊びに来た時の事を言ってくれる? 貴方達が本当にエレインとダイアナなら、一つくらいは話せるでしょう?」
『信じると思っているのか!』とキャスリーンが怒鳴り返すよりも早く母がそう言った。
きっと彼女もこれが本当に孫からのモノだと信じてはいないだろう。
それでも一縷の望みを手放す事が出来ないのだ。
これでテレパシーが切れるか、それとも騙されたなと嘲笑うか?
深く傷つくであろう母を思って唇を噛むキャスリーンだったが、現実はそんな想像の斜め上を行った。
『うーんと……あれだ! 私達が4歳の時に遊びに行って、お土産で持っていったナメロウにキャシーがお腹壊して、一日中トイレから出てこなかったんだよね!』
『ああ。お陰で私達はグランマが出してくれた【おまる】で用を足す事になったな。あの時は恥ずかしさで夜しか眠れなかったよ』
「うわああああああっ!?」
自身の黒歴史をガッツリと削られて、キャスリーンは思わず大声を上げた。
よりにもよってソレを持ち出すか、ダイアナ!
そしてエレイン、お前達はお昼寝もバッチリしていただろう!
頭を抱えるキャスリーンを他所に、彼女の両親は突然の奇跡に涙を流した。
何故なら今の話を知っているのは、あの時にベイト家へいた人間だけだからだ。
「エレイン、ダイアナ! 生きていたんだな!!」
「セレナは? 貴方のパパとママは無事なの!?」
喜びの声を上げる父に次いで母の発した妹を案じる問いかけ、それに返って来たのは目を背けたくなるような凄惨な光景だった。
ヴィランと思われる個性の攻撃によって、身体を寸断される妹夫婦の姿。
しかもその凶事は幼い姪達の前で行われたのだ。
『ダイアナ!』
『あ……ごめん、お姉ちゃん』
エレインの叱責に申し訳なさそうな声を上げるダイアナ。
おそらくあの光景は二人にとってトラウマであり、母の問いかけでフラッシュバックしてしまったのだろう。
テレパシーは思念を介して行われるものだ。
強力なイメージが意図せず相手側に送られる事だって珍しくない。
『ごめん、みんな。酷い物を見せてしまった』
「いいえ、あなた達の方こそ大丈夫なの?」
『うん、なんとかね』
喜びから一気に気分が下降してしまった両親に代わって、エレインの謝罪にキャスリーンは首を横に振る。
出来れば妹たちを殺した犯人を知りたかったが、ここで尋ねる程キャスリーンは非情ではない。
それに例の大災厄前の話なら、もう犯人もこの世にはいないだろう。
その後、キャスリーン達はエレインとダイアナから二人の現状を聞かされることになった。
何より驚いたのは二人が十年前からタイムスリップしてきたという事だった。
信じられないというのが正直なところだったが、いくら幼児とはいえ姪達がそんな突拍子のない嘘をつく理由も無い。
実際、テレパシー上のイメージで今日の日付が映ったテレビを背に鏡に映る、十年前と変わらない二人の姿を見ている。
そもそも二人が生きていること自体が奇跡なのだ。
頭ごなしに否定するよりも、そういう可能性もあると考えておくべきだろう。
次にUSJでヴィランを殺害してしまった事に関しては気にしなかった。
状況を聞けば個性が暴走したのは不可抗力だし、それでクズ共が死んだとしても正当防衛だ。
エレイン達にしてみれば、何が何だか分からない中で突然40人以上のヴィランに襲撃を受けたも同然なのだ。
そんな目にあった6歳児に、パニックになるなという方が無理過ぎる。
アメリカと日本ではヴィランの命に関する価値観が大きく違う。
日本では殺害は禁止されているが、アメリカでは民間人や周辺への被害を防ぐ為ならやむ無しなのだ。
キャスリーンとしても姪とヴィランとでは命の価値など比べるまでもない。
奴等を手に掛けてでも生き残ってくれる事を望むに決まっている。
責任の所在というなら、むしろプロヒーローである雄英の教師が複数いる中でエレイン達に手を汚させた事の方が問題だろう。
そして現在エレイン達は雄英高校によって保護されているという。
キャスリーンが心の師と尊敬するオールマイトの母校である。
信用したいところではあるが、双子の秘密を考えればそれも難しいだろう。
彼の大災厄の生き残りなうえに人類史上初の確認できるタイムトラベラー。
日本政府が知れば手中に収めようとする可能性が高い。
どう手を打つにしても動くなら早い方がいい。
「ダディ、マム。私は日本へ行くわ」
「エレイン達を迎えに行くのね?」
「なら私達も行こう」
「お願い。もしかしたら私はヒーロー公安を相手にするかもしれないから、そうなったら二人を見てあげて」
そう言うとキャスリーンは事情とアメリカを離れる事を説明すべく、全米ヒーロー協会へ連絡を取った。
奇跡のような確率で生きていた姪達なのだ、必ず保護するという決意を胸に秘めて。
◆
どうも。
絶対にバロム・クロスしてはいけないバロム1の片割れこと、エレイン・緑谷です。
さて、私達が雄英高校に保護されてから3日が経ちました。
飯も美味いし部屋も快適で過ごしやすい。
外に出れない事を除けば文句なしの環境である。
しかしテレビで流れる十年後の世界というのは興味深いモノで、私もダイアナも行きたいという欲求を抑えられなくなってきた。
そろそろテレポートでとんずらしようかと考えていた時、イレイザーヘッドから呼び出しがあった。
普通の子供なら泣くような視線を向けられながら、彼と13号の案内で通されたのは応接室。
そこには例のげっ歯類校長とメディアでよく見る筋肉メーンがいた。
「よく来たね、エレイン・緑谷君、ダイアナ・緑谷君。そこに掛けてほしいのさ」
そう対面の席を勧めるげっ歯類。
私はそんな彼の前に昼食のオマケで付いていた6分の1ピースのチーズを置いてみた。
「素敵なプレゼント、ありがとうなのさ!」
するとそんな事を言いながらカカカカッとチーズを食い始める下等生物校長。
「お姉ちゃんだけズルい! 私もネズミさんにエサあげる!」
「ほーら、たんと食え」
「ダメよ、根津校長が早死にするでしょ」
私に習って妹もナッツやバナナなどを与えていたのだが、部屋に立ち会っていたミッドナイトから止められてしまった。
「窮屈な思いをさせてすまないね。今日は君達に聞きたい事があって呼んだのさ」
「聞きたい事?」
そう切り出したげっ歯類こと根津校長。
それを聞いて私達も気を引き締める。
こちらの返答次第によっては日本政府やヒーローが敵になるかもしれない。
私もダイアナも人類とガチンコする気は無いんだ。
言える事、言えない事、しっかりと見極めないとな。
「というか、まずはこっちに説明してほしいよね」
「ああ。私達が気を失っている間にここへ運び込んで、ロクな説明も無しに放っておかれているからな」
先ずは牽制代わりにジャブを打っておく。
実際、私達が受けている説明はここが雄英高校という学校である事と、私達を保護しているという事の二点のみだ。
ダイアナの原作知識が無かったら、私達を狙う組織だと判断して学校ごと消し飛ばしているところである。
「それは済まないと思っている。ただ君達の立場はかなりデリケートな物なんだ」
「それを説明する為にも、先ずは君達の事を知りたいのさ」
大きな体を縮こませてこちらへ頭を下げるオールマイト、その言葉に続いて根津校長が提案を投げてくる。
なるほど、そういう事なら一旦は矛を収めようではないか。
「わかりました。それで聞きたい事とは?」
私が敬語を使った事に立ち合いをしていたミッドナイトが『小さいのに偉いわね』と言っていた。
本当は子供らしくタメ口で通そうかとも思っていたのだが、ダイアナはそういう方面を気にしないタイプなので私だけでも礼儀は払った方が心証がいいと考えたのだ。
「最初に緑谷出久君の事は知っているかな?」
「うん。私達の従兄弟の男の子だよ」
根津校長の問いかけにダイアナが頷くと、今度はオールマイトが私に視線を合わせる。
「彼は君達が10年前に起きた四国地方消滅事件に巻き込まれたと言っていた。そして当時と変わらない姿でUSJに現れたのだともね」
「彼の証言を信じるなら君達は十年の時を越えた事になる。その辺はどうなのかな?」
No1ヒーローの言葉に続く形で言葉を吐く根津校長。
そこに込められた感情は半信半疑といった具合か。
ここで否定するのは簡単だが、そうすると私達がエレイン・緑谷、ダイアナ・緑谷である論拠を失う。
キャシーに助けを求めている現状を思えば、それは痛い。
……リスク承知で認めるしかないか。
「私達はそう考えてます。───証拠はありませんが」
私がそう答えると応接室にいた教師たちの表情が少し強張る。
「辛い事を聞いてすまない。十年前のあの日に起きた事は憶えているかな?」
「爆発の事? ……正直分からないよ。いきなり目の前がピカッって光ったら気が遠くなったもん」
「エレイン君、君はどうかな?」
「私も同じです。当時は妹と一緒にいましたから」
オールマイト達の質問に答えていると、立ち合い役のミッドナイトも参加してきた。
「じゃあ、どうやって爆発から助かったかも分からないのね?」
「はい」
嘘にウソを固めている状態だが、この辺は仕方がない。
『四国を吹っ飛ばしたの、私達の魔獣たんでした!』なんてゲロしたら、人類種の天敵認定からの世界を相手取った第二次ジェノサイバー大戦のコンボが炸裂するのが目に見えている。
個性の影響か、この世界は原作ジェノサイバー世界と比べて科学技術は大幅に劣っている。
あの世界では体長4m程度の殺人サイボーグに常温核融合炉が搭載されていたのに、こちらでは未だ開発されていないのがいい例だ。
そんな有様では魔獣たんには逆立ちしても勝てない。
この世界の人間にそれを言えば『俺達には個性がある!』と憤慨するだろうが、実は相性の問題で個性では魔獣たんを倒す事はできないのだ。
これはダイアナが言っていたオール・フォー・ワンや、その後継である死柄木弔とやらでも変わらない。
唯一打倒できる可能性があるとすれば目の前にいるオールマイトだろうが、攻撃が届かない高高度から自然核爆発を連打してやれば完封できるはずだ。
もちろん現状ではこちらに世界を滅ぼす気はないので、人類が私達に牙を剥かない限りは最悪の事態は避けねばならない。
そんなワケで私達は読心術や思考解析などをヴァジュラで防御しながら、その後の事は知らぬ存ぜぬで通す事になった。
元よりタイムスリップに関しては原理云々など説明しようがないからな。
幸い両親についてはむこうも気を使っていたのだろう、尋ねられる事は無かった。
私達くらいの歳で親の姿が無くても落ち着いている事から、深い事情があると判断したんだろう。
お父さん達についてはまだダメージがあるので、下手に触れられるとブチキレる自信があったからな。
なんにせよ、ありがたい事である。
そうしてある程度話が進むと、根津校長がこんな事を言ってきた。
「エレイン君、ダイアナ君。君達の個性はたしか『念動』だったね。ここで見せてくれないかい?」
この注文に私は内心で舌打ちをした。
何故なら彼等が私達の力に疑いを持っている事に気が付いたからだ。
ダイアナの話では立会人の一人であるイレイザー・ヘッドが持つ個性は『抹消』という個性封じなのだという。
彼は例のUSJにいたらしいので、暴走を装っていた私のヴァジュラを抑えようとしたのだろう。
「と言っても、個性テストのような本格的なモノじゃない。机の上にあるオレンジを浮かべてくれるだけでいいのさ」
しかし彼の『抹消』では私の力を封じることは出来なかった。
そして、その事は上司である校長達にも伝わっているに違いない。
つまり、彼らは私達の力を疑っているのだ。
個性ではなく別種の超能力ではないか、と。
「……わかりました」
私は校長の言葉に応じて机の上に置かれたオレンジへ右手を向ける。
そして顔が真っ赤になる程に力んでみせる。
しかし机の上にあるオレンジはびくともしない。
1分ほどそうして頑張った後、私は深いため息と共にこう言った。
「すみません、個性が上手く使えないみたいです」
私に続いてダイアナも行ったのが、結果は同様。
「なんでだろ、急に使えなくなっちゃった」
「気にしなくていいんだ、ダイアナ少女。調子が悪い時だって偶にはあるさ」
首を傾げるダイアナに、困った顔でフォローを入れるオールマイト。
そんな彼等に対して私達が行った対応は、手抜き・やってるふり・いわゆる三味線を弾くという奴だ。
むこうはイレイザーの個性を私達が知っている筈がないと、ハメるつもりだったのだろうがそうはいかない。
異端認定なんてされたら、こちらもデフコンレベルを一つ上げる事になるからな
平穏の為には避けるべきだろう。
「最後に聞きたいんだけど、君達はヒーローになる気はあるかい?」
なんやかんやと腹の探り合いをしていた私達だが、最後に向こうが投げてきた質問はこれだった。
もちろん私達の答えは決まっている。
「ありません。他人を助ける余裕なんて私達にはない」
「私も怖いのも痛いのもイヤ」
そもそも私達には魔獣たんのヴィジョンクエストで人類に根深い不信感が生まれている。
人助けなどしたいとは思わない。
こうして私達への質問が終わると、次に雄英側から現状の説明が行われた。
もっとも、内容は会議で盗み聞きした事や部屋の端末で調べられる情報と同じだったけど。
私達は法律上はまだ死人であるうえ、戸籍上の年齢と実年齢に隔たりがある事から調整は難航する可能性が高い。
そのため、社会復帰の目途が立つまでは、今までと変わらずここで暮らして欲しいそうだ。
実年齢云々で戸籍を弄る事になるのなら、どうあっても私達の存在はお上へ伝わるだろう。
キャシーに連絡を取ったのは正解だったな。
こうして小一時間程掛かった会議は終わったわけだが、ミッドナイトの先導で部屋へ帰っていると見知った顔があった。
「エレイン! ダイアナ!」
それはクラスの友人と廊下を歩くイッくんだった。
「イッくん、久しぶり」
「おっきくなったねぇ」
しかし本当に大きくなってしまったな。
昔は私達と背丈もトントンだったのに、今では見上げないと顔も映らない。
「ミッドナイト、彼と話させてくれないか?」
「いいわ。けどもうじき授業も始まるし、少しだけよ」
ミッドナイトに許可を求めると、彼女は快く応じてくれた。
「エレイン達はどこへ行っていたの?」
「ネズミ校長と色々お話をしてたの」
「主にこれからの事についてな。今の私達は何かと宙ぶらりんだし」
「そうか。出来ればウチでって思ってたんだけど……」
「引子おばさんに私達の事を話したのか?」
「ううん、まだだよ。学校から口止めされていたから」
「そっか。まあ仕方ないね」
そんな事を話しながらも私達はイッくんの背後から流れる負の感情に気が付いていた。
その出所は言うまでもなく彼のクラスメイト達だ。
少し丸っこい茶髪をセミロングにした女の子に眼鏡を掛けた真面目そうな男の子、あとはあからさまに怯えているブドウっぽいものが頭に付いた小柄な男の子か。
チラリと視線を向ければ全員が蒼い顔で視線を逸らした。
まあ、あの惨劇を見たのならこの反応も仕方ないだろう。
こちとら見た目は金髪美幼女だが、中身はジェノサイド・カッター94並の危険物だ。
迂闊に飛び込んで10割ダメージを食らうのは、むこうも遠慮したいんだろうさ。
「そういえば、本当にパワードスーツを造ったんだな」
「うん。まだ試作品だけど、名前も決めてるんだよ」
「へぇ、どんな名前なの?」
「ファイテックスっていうんだ」
満面の笑みでそう言うイッくんだが、私は引きつりそうになる表情を抑えるのに必死だった。
何故ならイッくんが挙げた名前に聞き覚えがあったからだ。
私の知るファイテックスは、これまたマイナーアニメ『装鬼兵M.D.ガイスト』に登場するパワードスーツの事だ。
このM.D.ガイストはジェノサイバーと同じ監督が手掛けた作品で、ジュラという惑星を舞台に世紀末さながらの荒廃した世界、そして主人公が齎した最悪の終末世界を描いた作品である。
2になると殺人マシンの暴走でジュラの人口の9割が死滅する鬱展開もしっかり完備している。
ちなみにこのM.D.ガイスト、ジェノサイバーと同じく日本ではマイナーなのにお米の国では大人気でОVAが当時のビルボードトップ40にランクインした事もあるらしい。
余談はともかくとして、USJで見たスーツは作中のファイテックスとは明らかに別物なので、単なる偶然だと思うが、その手の因果が流入してるんじゃないだろうな……。
イッくんがバイオクロン技術でMDSに改造された挙句に戦闘狂になって、さらには声が若本御大に変わるとか勘弁だぞ。
「みんな、悪いけどそろそろ授業が始まるわよ。教室へ戻りなさい」
「あ! また今度ね、二人共」
出来ればファイテックスを見たいと思っていたのだが、口に出す前にタイムリミットが来てしまった。
残念だが現物を拝むのはまたの機会にさせてもらおう。
◆
エレイン達が去ったあと、応接室ではイレイザー・ヘッド、オールマイト、そして根津が話をしていた。
「二人共、エレイン君達が個性を使えないと言ったのは本当だと思うかい?」
「嘘でしょうね。彼女達は自分の力が個性ではないと悟っている。そしてあの二人、特にエレインは年齢よりも聡い。だから、異端とみられる事を避ける為に力を隠そうとしたんでしょう」
「相澤君、本当にあの子達の力は個性じゃないのかい?」
先程とは打って変わって貧相な体となったオールマイトの問いかけに、イレイザー・ヘッドは迷う事なく頷いた。
「少なくとも念動ではない事は確実ですね。USJでは遠距離から攻撃しようとしたヴィランにエレインは催眠を掛けていました」
「どんな効果か分かるかい?」
「奴等の悲鳴を聞く限りだと、身体の内部を蟲に食われるイメージだったようです。そしてその深度は自ら内臓や脳を掻きだす程だった。念動の副産物だと考えるにはあまりにも凶悪過ぎる」
顔を顰めるイレイザーヘッドに根津は小さくうなりを上げる。
「困ったね。これが本当だとしたら、彼女達の歩む未来は我々の想像以上に過酷なモノになってしまう」
「四国消失の生き残りでタイムトラベラー、さらには未知の超常能力の持ち主か。いくら何でも属性盛り過ぎですね」
「あんな小さな子達がどうして普通に暮らせないんだ……」
苦悩する根津とオールマイトにイレイザー・ヘッドは深々とため息を吐く。
あの姉妹は知れば知る程巨大な爆弾だという事が分かる。
この情報が外部に漏れれば、彼女達に残された道は実験動物か殺害かの二つだけだ。
特にヒーロー社会を保持しようとするヒーロー公安を始めとする国の上層部は、新たな超常など認めようとしないだろう。
「彼女達がヒーローを志してくれれば、ある程度庇いようもあるんだが……」
「本人たちにはその気はないようですしね」
雄英は国立の学校だが、日本最高峰の難関に加えてオールマイトを始めとするビルボードチャートトップクラスの優秀なヒーローを輩出している。
そういう意味では政府や世間に対する影響度は学校とは思えない程に強い。
エレイン達がヒーロー志望であれば、保護する方法は無いワケではないのだ。
そうして将来的にヒーローとなって社会にとって有益である事を示し続ければ、彼女達の力も受け入れられるようになるかもしれない。
「彼女達は現在15歳だったね?」
「ええ、あくまで戸籍上はですが」
イレイザー・ヘッドから返って来た答えに、根津は白い毛並みに覆われた口元を小さく吊りあげる。
「では、一度彼女達をヒーロー科に入れてみよう。ヒーローを志す生徒たちの熱意に触れれば、彼女達の考えにも変化があるかもしれない」
根津校長、痛恨の誤算。
雄英高校に地獄が出現するか?