【急募】私達が世界を滅ぼさずに済む方法   作:アキ山

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魔獣たん「変身ヒロインとのクロスなのに、1話から私の出番がない。訴訟」


対決ヴァジュラノイド・再び

 個性社会の象徴にして社会の平和を守るヒーロー、それを夢見る若者たちを育むヒーロー科を備えた高校は日本全国には多い。

 

 その中でも西の士傑と並び称される名門中の名門たる国立雄英高等学校。

 

 例年であれば体育祭で奮闘する生徒達の姿に歓声に包まれている筈の場所は悲鳴と断末魔、そしてこの世の物とは思えない生きる屍が放つ呪詛で満たされた地獄と化していた。

 

 地獄の起点となるのは正体不明の怪人『ネオ・ヴァジュラノイド』

 

 奴は背中に生える触手を次々に伸ばし、逃げ遅れた観客や生徒達を食らい続けている。

 

 しかし天下の雄英高校も奴の暴虐をただ指を咥えて見ているわけではなかった。

 

「YHEEEEEH!!」

 

 校庭を囲むフェンスの一部に設置された実況席、そこから耳をつんざくような叫びが木霊した。

 

 それは物理的な力すら伴ってネオ・ヴァジュラノイドを包み込む。

 

 しかし並のヴィランならば数秒で気絶する程の轟音にも、漆黒の怪人は小揺るぎもしない。

 

「シィット! こっちは全力だったんだぞ! あの野郎、聴覚がねえのかよ!? イレイザー、奴の個性は消せねえのか!?」

 

「ダメだ! 奴は複数の個性をもってやがる! 一つを封じても他の物で代用されちまう!! ───危ねえ!」

 

 プレゼント・マイクの問いかけに吐き捨てるように答えていたイレイザーヘッドは、自分達へ向けられたヴァジュラノイドの手から炎や氷、拳大の岩などが散弾のように放たれたのを見て、即座にその場を離れた。

 

 彼等の姿が消えた次の瞬間、無数の様々な個性を宿した飛礫を食らった実況席は蜂の巣にされた後に炎上する。

 

 この多種多様な個性を織り交ぜた弾丸は、怪人を取り囲むヒーロー達の攻勢を何度も挫いていた。

 

 そして、その間もヴァジュラノイドの猛威は止まらない。

 

 左右の手から放つ牽制の弾幕を維持しつつ、その胸部から生み出した新たな触手を逃げ惑う観客や生徒達へ放つ。

 

 非戦闘員を狙って飛来する怪人の魔手を防ごうとヒーロー達は奮戦する。

 

 スナイプは弾丸を放って怪人を牽制し、エクトプラズムは自らの分身を生み出して突撃させる。

 

 その間にセメントスはセメント操作で客席へ防壁を作ろうと試み、ブラドキングは両手首の管から発射した自らの血を操ってヴァジュラノイドへ差し向ける。

 

 一流ヒーローでもある雄英教師達の猛攻、しかしヴァジュラノイドはその全てを跳ねのける。

 

 スナイプの射撃は何故か本体が小揺るぎした程度で終わり、エクトプラズムの分身は両手から放たれた個性の弾丸で撃墜される。

 

 セメントスが築き上げた防壁はその下から突き上げた岩盤の牙によって破壊され、ブラドキングの操血はヴァジュラノイドの身体に触れると硬化する間もなく消えてなくなる。

 

 他のヒーロー達も阻止を試みるが、触手の餌食となればこの世の物とは思えないような無残な最期を遂げると分かっていては及び腰にもなる。

 

 その結果、防備に出来た綻びが引き起こすのは、血と臓物に彩られた酸鼻極まる惨劇だ。

 

 頸椎に触手を受けたある資産家は肥大した脳が頭蓋を割って溢れだし、さらにかき回された腹部からせり上がった腸を血塊と共に口から吐き出して生ける屍と化した。

 

 ある婦人は連れていた我が子共々触手に胸を貫かれ、母子共に肌や肉に内容物などがドロドロに融合して全身から血と膿を撒き散らす。

 

 日本有数の権威を持つ老政治家は日頃自慢していた頭脳を触手によって吸い出され、無頭症になったかのように目から上をベコリとへこませたうえに小さく膨れた腹から血と臓物を撒き散らす。

 

 隣にいた者があり得ない程に凄惨の死を迎えた事で、観客たちは瞬く間にパニックに陥った。

 

 我が身を護る為と無軌道に個性を発動させ、流れ弾や誤射で傷ついた者が報復を行う事で死者や負傷者を増産する。

 

 そうして弱った者はまた触手の餌食となって生ける屍と化す。

 

 そんな阿鼻叫喚の地獄絵図を前にしては数十人程度のヒーローで対処の仕様など無い。

 

 しかし彼等は絶望していなかった。

 

 何故ならここには最強のヒーローが存在したからだ。

 

「おのれ、ヴィランめ! これ以上はやらせん! テキサス・スマッシュ!!」

 

 多くの死を目の当たりにして怒りに燃えるオールマイトは、捕食行為を止めようと剛拳を振るい衝撃波を放つ。

 

 しかしヴァジュラノイドは足元のグラウンドから岩石を隆起させ、盾とすることで大気すら震わせる脅威を防いでみせた。

 

「くっ! 奴め、どれだけの個性を備えているのだ!?」

 

 ならばと間合いを詰めようとするオールマイトだったが、それより先にヴァジュラノイドは個性の弾幕をオールマイトのいる方向へ重点的にばら撒いた。

 

 奴の放つ個性は一般市民から集めたモノ、ヒーローのように洗練されてもいなければ威力も低い。

 

 オールマイトの屈強な体なら苦も無く弾き返せるだろう。

 

 しかし彼の背後には逃げ遅れた生徒や避難中の観客がまだ残っている。

 

 非戦闘民が弾幕を食らえば負傷は必至。

 

 オールマイトは背後の護るべき人達の盾として、そこへ磔になるしかない。

 

 先程まで避難民の防壁を築こうとしていたセメントスも、今は観客の逃げ道を塞ごうとするヴァジュラノイドの岩石操作を食い止める事で精いっぱいだ。

 

 そうして被保護者という足枷でヒーローの動きが鈍る間にも、漆黒の怪人は自己強化に励んでいく。

 

 次にヴァジュラノイドが目を付けたのは教師に誘導されながらも、持ち前の正義感で避難を迷う雄英の生徒だった。

 

 胸から生えた触手の一本が大きくしなり、その反動を利用して空を裂く。

 

 その先にいたのはヒーロー科1年A組の一人、芦戸三奈だ。

 

「ひっ!?」

 

 普段の芦戸であれば持ち前の陽気さと正義感で恐怖を乗り越えて対処しようとしただろう。

 

 しかし周囲で展開する地獄の所為で半ばパニックだった彼女は、個性を使って防御する事すら頭が回らなかった。

 そして硬直した彼女の胸に触手が撃ち込まれようとしたその瞬間、割って入る影があった。

 

「切島!?」

 

 それはクラスメイトの切島だった。

 

 彼は個性によって体を硬化させ、その右腕で触手を受けきったのだ。

 

「大丈夫か、芦戸!」

 

「うん!」

 

「よし! だったら逃げ……ぐわぁっ!?」

 

 身体に突き刺さらなければ大丈夫。

 

 そう考えた切島は自分の個性を活かして仲間の盾になる気だった。

 

 しかし彼の誤算は一つ。

 

 ヴァジュラノイドの力はそこまで甘くはなかったという事だ。

 

 触手と接する前腕部に葉脈のように黒い筋が蠢くと、力が抜けると同時に右腕が自分の意志で動かなくなる。

 

 だというのに腕の内側で何かが蠢くような不快感と、自分の身体が汚染されているという実感はあるのだ。

 

 しかもそれは明らかに体へと広がっていくのだから堪らない。

 

「あ…あぁ……うあああああああっ!!」

 

「切島! 大丈夫!? 切島!!」

 

「切島君! 誰か触手を切断してくれ!!」

 

 先ほどの雄姿をかなぐり捨てて絶望の叫びをあげる切島に、芦戸と先頭で騒ぎを聞きつけた飯田が駆け寄る。

 

「テメエ! 切島を離せ!!」

 

「チィっ!」

 

 友人がやられた事で怒りに燃えた上鳴が電撃を放ち、同時に轟も氷の個性で攻撃を行う。

 

 しかし、生み出した電流と氷山はヴァジュラノイドが造り上げた岩山に阻まれて、目標へ届くことない。

 

 仲間を救えない自分の至らなさに彼が歯噛みした瞬間、ヴァジュラノイドが横殴りの紅蓮の炎に飲み込まれる。

 

「何をしている、焦凍! 何故左を使わない!!」

 

 そして降り注ぐ叱咤の声に顔を上げると、そこにはスーツ姿で炎を身に纏う憎き父親エンデヴァーの姿があった。

 

「うるせえ! 誰がテメエの力なんざ!!」

 

 心に湧き上がる反発心を燃料に再び凍結の力を振るう轟。

 

 瞬く間に形成される氷山、それを踏み台に宙へと跳ぶ影があった。

 

「君の力を使わせてもらうぞ、轟少年!」

 

 まるでカタパルトに乗ったかのようにもうスピードで飛び出したのはオールマイトだった。

 

 衝撃波を防がれた事で直接打撃で倒すしかないと判断していた彼は、弾幕が収まる瞬間を待っていたのだ。

 

 全身から黒煙を上げるも大きなダメージは見当たらないヴァジュラノイド。

 

 奴の体勢が整う前に追撃を叩き込まんと、オールマイトは自分の身体の前で両手を十字に交差する。

 

 必殺のカロライナ・スマッシュ。

 

 しかし決して悪を逃さぬその一撃が放たれる事は無かった。

 

『ソイツに触っちゃダメだ! 食われる!!』

 

 最大音声で放たれた警告が両の手刀を寸前で止めたのだ。

 

 声の方を見れば、ところどころ装甲がひび割れたファイテックスを纏った出久が両足のロケットエンジンを使用して試合場から飛んできていた。

 

『あの怪人の能力は融合捕食! 触手だけでなく体のどこでも相手を侵食して食い殺せます!!』

 

「それは本当か、緑谷少年?」 

 

 寸でのところで腕を振った衝撃波で軌道を変え、ヴァジュラノイドとの接触を避けるオールマイト。

 

 その問いかけに出久は頷く。

 

『奴の表皮の組成は触手と同様です! スナイプ先生の撃った弾丸も食われてました!』

 

「……っ! なんということだ!」 

 

 自分の持てる技の大半が封じられた事に歯噛みするオールマイト。

 

 だが、事態は彼に煮え湯を飲む暇も与えなかった。

 

「あ……ぐがあぁぁぁぁっ!!」

 

「切島! 切島ぁ!?」

 

「触手は焼き切れたのにどうして!?」

 

 そう、未だに切島はその身を貪る侵食の被害から逃れられていなかったのだ。

 

『トト、サーチだ!』

 

『───右腕部に増殖中の侵食痕を確認。胴体部まで及べば致命傷となるでしょう』

 

『どうすればいい?』

 

『被害は上腕部まで及んでいます。右腕を付け根から切断するしかありません』

 

 相棒である管制AIが提示した非情の方法に息を呑む出久。

 

 だが逡巡も一瞬のこと、彼は上空から一気に切島へ向けてダイブを始める。

 

『ブレード展開!』 

 

『ブレード展開完了、高周波振動開始』

 

 出久の指示によって右手首から甲を通る形で両刃の刀身が出現する。

 

『ごめん、切島君!』

 

 そして出久は降下の勢いもそのままに、切島の右腕目掛けて刃を振り下ろす。

 

 切島は個性で防御力をあげていたが、高周波指数で振動する特殊チタン製の刃には叶わない。

 

「ぐわああああああっ!?」

 

 結果、彼の右腕は付け根から断ち切られ、一瞬の間を置いて鮮血が流れ出る。

 

『止血滅菌ジェル、非致死性麻酔液射出!』

 

『了解』

 

 ショックアブソーバで着地の衝撃を殺した出久は、体を起こしながら右手の人差し指と中指を切島へ向ける。

 

 すると人差し指の先から白いゲル状の物質が放たれ、中指からは透明な液体が迸った。

 

 ゲル状の物質は絶叫する切島の肩口に張り付くと傷を覆う形で固定化し、瞬く間に出血を止める。

 

 そして透明の液体が彼の口に入ると切島は糸が切れたかのように気を失った。 

  

「緑谷! どうして!?」

 

『彼を救うには──危ない!』

 

 あまりのことに詰め寄る芦戸に弁明しようとした出久だが、新たな触手が襲来した事をセンサーで感じ取ると彼女と切島を抱き上げて後ろへ飛ぶ。

 

 彼等がいた場所の床に突き立つと、触手はその地面を黒く侵食し始める。

 

 芦戸達を降ろした出久が迎撃態勢を整えようとしたところ、強烈な爆炎が突き立った触手を根こそぎ吹き飛ばした。

 

「ガタガタぬかしてんじゃねえぞ、黒目女ぁ! 出久がクソ髪の腕ぶった切ったのは助ける為に決まってんだろうが!!」

 

『かっちゃん!』

 

 宙にたなびく黒煙を切り裂いて現れたのはジャージからヒーロー装備に着替えた爆豪だった。

 

「でも、腕を斬るなんて酷いじゃん!!」

 

「だったら、ソイツがああなってもいいってのか?」

 

 それでも納得がいかない芦戸の声に爆豪は観客席を指差す。

 

 そこでは生ける屍になった者が、自らの腹から溢れた腸を触手に変えて他の観客を取り込んでいる姿があった。

 

「あっ……」

 

「いい加減理解しろや! アレは普通のヴィランなんかじゃねぇ、正真正銘の化け物だってなぁ! クソ眼鏡ぇ!!」

 

 凄惨過ぎる光景に桃色の肌から血の気が失せた芦戸を一瞥すると、爆豪は飯田へ声をかける。

 

「な…なんだ?」

 

「モブ共を連れてとっとと消えろ! テメエ等は邪魔なんだよ!!」

 

「何を言っている!? 避難なら君達も一緒だろう!」

 

 爆豪の暴言にも似た要請にクラス委員長である飯田は戸惑いを隠せない。

 

 ここから退避するというのなら、同じ生徒の爆豪も同様のハズなのだ。

 

『悪いけど僕達はやる事がある。だから先に行ってくれないか?』

 

「緑谷君まで!?」

 

 更に同じ事を言い出す出久に苛立ちをぶつけようとした飯田だが、出久から感じた圧のような物も言葉を飲み込んだ。

 

『こっちはかっちゃんとの勝負に水を差されて腸が煮えくり返っているんだ。アイツを叩き潰さなきゃ気が済まない』

 

 普段の出久からは想像もつかない程の殺意と狂気、それは一流のヴィランにも匹敵するものだ。

 

 飯田の喉を凍てつかせたそれを感じながら、爆豪は口角を吊り上げた。

 

「気が合うじゃねえか、出久。こっちもあの野郎を粉々にしたくてウズウズしてんだ」

 

『いくよ、かっちゃん! 奴に触れないように気を付けて!!』

 

「おうよ! テメエはさっさとスーツであのクソを丸裸にしろや!!」

 

 そして飯田が制止の声を上げるよりも早く、二人はヴァジュラノイドへ牙を剥く。

 

「まずはコイツを食らえ!!」

 

 自らの爆風で宙を舞う爆豪は放たれた複数の個性を利用した弾幕を掻い潜ると、ヴァジュラノイドの頭上から爆風を叩き付ける。

 

 至近距離で榴弾砲が炸裂したような一撃に、グラリと傾くヴァジュラノイドの身体。

 

 そこに猛烈な氷の奔流が寒波を伴って走り、間髪入れずに黒煙を上げる身体を飲み込んだ。

 

「なんのつもりだ、半分野郎!」

 

 地上から伸びる氷山の端、そこに立つ轟焦凍に爆豪は苛立ちを隠そうともせずに声を荒げる。

 

「俺も手を貸す。二人より3人の方がいいだろ?」

 

 それを受けて返した轟の言葉を爆豪は鼻で笑い飛ばす。

 

「笑わせんな、舐めプ野郎が! ここは試合じゃねえ、殺し合いの場なんだよ! 全力を出さねー奴が役に立つか!!」

 

 爆豪が吐き捨てたのは正に正論だが、轟は他の生徒達の元に帰ろうとはしなかった。

 

「こっちにも事情って奴があるんだよ。なにも知らねえ奴がガタガタ言ってんじゃねえ!」

 

 彼とて自分に宿った炎熱の力を忌むに至った理由がある。

 

 十年もの間、抱き続けてきた憎悪と決意を簡単に捨て去る事など出来る筈がない。

 

 むしろ元凶である父親の前で氷結だけで戦えると示す事こそが、自分の夢の第一歩なのだ。

 

「気に入らないんだったら捨て駒でも何でも好きに使え。俺は退かねえ、母さんから受け継いだ氷結の力だけでヒーローになってやる!」

 

 感情のままに叫びながらさらに氷の波を放つ轟。

 

 普段の彼からは想像もつかない怒声と触れれば切れるような鋭い視線に、かつての出久程ではないにしろ並々ならない決意を感じた爆豪は轟の評価をほんの少し改める。 

 

「チッ! だったらテメエは出久の護衛でもしてろ!」

 

「護衛? 三人で攻めた方がいいんじゃねえのか?」

 

「奴は今スーツと一緒にあのバケモンを解析してんだよ! つべこべ言わずにさっさと守れや!!」

 

 轟の放った疑問に怒鳴り返す爆豪。

 

 その一瞬の隙を突いてヴァジュラノイドが氷結の束縛から脱出するが、直後に突風のような衝撃波がその腹に突き刺さる。

 

「何をしているんだ君達は!? 早く避難しなさい!」

 

「うるせえっ! 邪魔すんな、オールマイト!!」

 

「悪いがアンタの言葉でも聞けねえ。俺には通すべき信念がある」

 

 拳を振り抜いた体勢で警告を発するオールマイトに、うざったいと言わんばかりに怒鳴り返す爆豪とそれとは裏腹に冷たく言葉を返す轟。

 

 爆豪の瞳の奥で煌々と燃える憤怒の炎、そして轟の向けた氷のような視線は№1ヒーローすらも一瞬怯ませるものだった。

 

 ライバル達が激情を発している間、出久は憧れの存在だった男の声に反応すら返さずにその優れた頭脳でモニターに走る情報を整理していく。

 

『おどろいたな。アイツは受けた個性に対して耐性を持つように身体を改造しているのか』  

 

『はい。ですが、奴の組成変化の速度は出現当初に比べると急激に低下しているようですね』

 

 ヴァジュラノイドの戦法に戦慄を憶えていた出久だが、相棒の告げた言葉に度肝を抜かれる事になる。 

 

『それは本当かい?』

 

『はい。当初奴は複数のヒーローを相手取る為に全属性への耐性を得るように動いていました』

 

『全属性って……そんな事が可能なのか?』

 

『個性因子は宿った個性の属性に対して、使用者の身体に自らの個性で傷つかないように耐性を与えます。数多の個性を奪った奴なら、あらゆる属性を完封する事も不可能ではありません。しかし、それは二つの理由で頓挫したようです』

 

『頓挫って、その理由は…おっと!?』

 

 こちらへ飛んでくる触手を躱そうとした出久だったが、それが巨大な氷山によって阻まれた事で取ろうとした回避行動を中断する。

 

『ありがとう、轟君』

 

「いや。つーか、そのスーツって目が光るんだな」

 

『まあね。必殺技を放つ時と相手を調べる時は光るのはお約束だから』

 

 轟の割とどうでもいい質問に答えながら、出久は割れたバイザーの奥で煌々と光るデュアルアイによって、ヴァジュラノイドの秘密を暴いていく。

 

『一つは奴の意図した耐性付与は大きな負荷が伴うという事です。個性の耐性は通常であれば成長と共に時間をかけて得るモノ。それを一つならともかく、全属性に対して植え付けるなら掛かる負担は並大抵ではありません』  

 

『なるほど』

 

 眼前にそびえる氷の山を迂回し、展開したショルダーアーマーから災害対処用の超小型ミサイルをヴァジュラノイドへ叩き込む出久。

 

 彼が子供の時にも自分の個性で怪我をする子もザラにいた。

 

 そんな子供達は少しづつ傷つきながら体を成長させ、自らの個性に慣れていったのだ。

 

 それを一足飛びに得ようというのは、いくら何でも都合が良すぎるという事だろう。

 

『二つ目は組成変化に必要なエネルギーが枯渇しつつある事です』 

 

『それは個性じゃないの?』

 

『いいえ、個性因子とは全く別です。これは融合捕食やダメージからの肉体再生の際にも使用されているので、このまま行けばその二種類の能力も使用不能になるでしょう』

 

『そのエネルギーが枯渇した理由は分かるか?』

 

『不明です。他者からの個性奪取が引き金と思われますが、確証はありません』

 

 主の質問に流暢に答えているトトだが、彼には出久に開示していない情報が一つあった。

 

 それはヴァジュラノイドの放つエネルギーがエレインが超能力を使う際に発生する物と同一だという事だ。

 

 サポートAIの役目からすれば情報の秘匿は褒められた事ではないが、これも出久を守る為だ。

 

 自分の主はあの姉妹の事になると、冷静さを失うきらいがあるのをトトは理解しているのだから。

 

 そんな従者の思いを他所に、出久は二割ほど戦いに思考の割合を戻しながら、トトが弾きだした情報を基に考えを巡らせる。

 

 網膜投影ディスプレイに映るヴァジュラノイドの姿は、トトが施したフィルターによって胴体を緑、そして上半身が赤、下半身が青に色分けされている。

 

 検証の為に左手首から弾丸を放てば、それによって抉れたヴァジュラノイドの肩は徐々に修復されながら、色を赤から緑へと書き換えていく。

 

「どこ見てんだ、ゴラァ!!」 

 

 そして注意が此方へ向いたところを腹部へ爆豪の爆破を食らうと、そこも修復と共に緑から赤へと切り替わっていく。

 

 肉体の再生と色の書き換えの速度を大幅に落とし、トトの告げたエネルギーの大半を食い荒らしながらだ。

 

『これだ!』

 

 頭に組み上がった作戦を伝えようとした出久だったが、それよりも早く背後から彼の肩を掴む者がいた。

 

「いい加減にしないか、緑谷少年!」

 

「焦凍! それに貴様もだ! 頭に殻を被ったヒヨッコが出てくる場所ではない!!」

 

 自分を押さえていたのはオールマイト、轟や爆豪もエンデヴァーによって捕まえられていた。

 

 なるほど、プロヒーローからすれば安全面でもメンツの面でも自分達の行動は見逃せないだろう。

 

 だが、出久達からすれば、そんな物は『犬に食わせろ』だ。

 

『オールマイト! 奴を一撃で倒す自信はありますか?』

 

「な…何を言っているんだ! そんな事より早く避難を……」

 

『そんな事はどうでもいいんです! 出来るんですか!? できないんですか!?』

 

 注意をしようとしていたオールマイトだが、出久の剣幕にあっという間に押されてしまう。

 

「できる! この拳が届くなら必ずや、奴を倒して見せよう!!」

 

 その言葉を聞いた出久はスピーカーを最大にして爆豪達へ呼び掛ける。

 

『かっちゃん! 奴の腹に全力で爆破を浴びせてくれ!』

 

「何かわかったんか、出久!?」

 

『奴は融合捕食や再生、肉体に個性の耐性を付ける為のエネルギーが尽きかけてる! ここで火炙りにすれば、奴は残ったエネルギーを全て耐火へ回すはずだ!!』

 

「そうやって悪食も再生も封じたところで、ドデカいのをかますって訳か! オールマイト頼りなのは気に入らねえが、やってやらぁ!!」

 

 そう言うと、爆豪はエンデヴァーの手を振り切って再びヴァジュラノイドへ向かう。

 

「食らえや、ハウザー・インパクトォォォォ!!」

 

 そして至近距離で最大火力を持って爆撃を叩き込む。

 

 ヴァジュラノイドは吹き飛ばされたものの、即座に体勢を立て直して技を放った後で動きが鈍い爆豪へ複数個性の弾丸を飛ばそうとする。

 

『させるか! トト、ライトニング・フレイル射出!』 

 

『了解。電圧は対巨獣型個性にセット、フレイル射出します』

 

 出久の指示によって腕の付け根部分の装甲が開いて、先端に分銅が付いたワイヤーが発射される。

 

 それは爆豪に向かって手をかざしたヴァジュラノイドの足に絡み付くと、高圧電流を浴びせかけた。

 

 そうして動きが止まったヴァジュラノイドへ浴びせられるのは、その全身を覆いつくす程の氷塊だ。

 

「焦凍、お前……!」

 

「うるせえんだよ! 人の戦い方に口出ししてる暇があったら、ヒーローとしての責務を果たせ!!」

 

 頑なに炎熱の個性を使おうとしない息子に反射的に文句が出かかったエンデヴァーだが、そう返されては言葉を飲み込むしかない。

 

「くっ! 無個性の小僧にすら勝てぬ未熟者が……!」

 

 なので苛立ちを込めて彼はその業火を氷漬けになったヴァジュラノイドへ振るうのだ。

 

 息子の産み出した氷を溶かす事で、彼の意地が無意味だと告げるように。

 

 様々な思惑を孕みながらも、彼等の波状攻撃はヴァジュラノイドへダメージを与えながら、胴体へ施された衝撃の耐性を書き換えていく。

 

 そして変化をつぶさに観察していた出久は、最高のタイミングで最大の戦力へ合図を出す。

 

『今だ、オールマイト! 奴のどてっ腹に全力でブチかませ!!』

 

「ああ、任せろ!」 

 

 そして№1ヒーローは自慢の筋力をフルに使って飛び立った。

 

「デトロイト・スマッシュ!!」

 

 そして一条の矢となった彼の拳は、死を振りまく漆黒の怪人を見事射抜いて見せた。 

 

 

 

 

 どうも、みんなの脅威に対抗しようと力を合わせたら、それを上回る人類の天敵が生まれる『ありえなーい』なプリキュア詐欺の黒い方、エレイン・緑谷です。 

 

 早速で申し訳ないが世界の危機だ。

 

 え、ヴァジュラノイド?

 

 そりゃあヴァジュラ関連の技術の流出は看過できんが、あんなの一匹出た程度で世界が滅ぶわけないじゃないか。

 

 私達が世界の危機と言えば一つしかない。

 

 そう、魔獣たんだ。

 

『ヤバいよ、お姉ちゃん。どうしよう?』

 

『ああ。まさか、魔獣たんが出せと荒ぶるとは思わなかった』

 

 頭に響くプリキュア詐欺な白い方ことダイアナの声に私は苦虫を噛み潰した顔をする。

 

 さすがにこれはグランパ達には言えないのでテレパシーで通話せねば。

 

 何故こんな無茶ぶりが飛んできたかというと、私達を通して魔獣たんがヴァジュラノイドの存在を知ったのが原因だ。

 

 噛ませとはいえ、本家ヴァジュラノイドは対人類の総力戦を除けば魔獣たんに唯一傷をつけた相手だ。

 

 そんなのが再び現れたとなれば、彼女が私達を気づかうのは当然だ。

 

 なので向こうから『【ママ】を殺させてなるものか!!』という殺意マシマシの想いがガンガン来てるんですよ、はい。

 

『どうする? 言う通り出しちゃおうか?』

 

『NO。それではテンションマックスで暴れまわって、メイオー攻撃からの関東全域が【魔獣たん♡】だ。むこうからの要請を無視するのは?』

 

『NO。それだとストレスマッハで私達の封印を破って出てきちゃうよ。そうなったら憂さ晴らしに暴れまわって、全方位ブラスターボルテッカからの日本全域が【魔獣たん♡】だよ』

 

 なんという事だろうか。

 

 A案を選んでもB案を選んでも大破壊の未来しか訪れないとは……。

 

 分かっていた事だが魔獣たんの終末力はトンデモない。

 

『つまり私達に求められるオーダーは、魔獣たんを呼び出さずにこちらの安全を確保し、先方を満足させるだけの戦果を挙げたうえでヴァジュラノイドを殲滅。さらには周辺への被害を最小限に抑えるというものか』

 

『……無理ゲーじゃね?』

 

『それは言わない約束だろう。破滅を回避するにはこれだけの無茶を通さねばならんのだ』

 

 ぶっちゃけ、私達的には家族が安全だったら雄英や日本が吹っ飛んでも構わない。

 

 だが、そんな考えでは早晩文明を滅ぼしてしまうのは自明の理。

 

 これから穏やかに生きる為には、こちらとしても魔獣たんにも自重を憶えねばならん。

 

「それじゃあ、私は雄英に戻るからダディ達は警察に保護してもらって」

 

「キャシー、本当に行かなくてはならないの?」

 

「そうだ。むこうにはあのオールマイトがいるのだろう? ヴィラン一人が相手ならお前が出る必要は無いじゃないか」

 

 転移した警察署の前で、ヒーローとして戦場に舞い戻るというキャシーにグランパ達は渋い顔を浮かべている。

 

 グランパ達の言いたい事はよくわかる。

 

 キャシーはあくまでアメリカのヒーロー、日本で起こった事件で危ない目にあってほしくないのだろう。

 

 例のグロ&ゴア地獄を目の当たりにした二人からすれば心配するのも当然だ。

 

「ダディ、マム、私はヒーローなの。ヴィランが起こした悲劇に助けを求めている人がいるのなら、見捨てる訳にはいかない」

 

 しかしキャシーにもヒーローとしての信念と矜持がある。

 

 あの惨劇が今も続いているのなら、見て見ぬフリはできないのだろう。

 

「マスターは全盛期を過ぎて衰えていると聞いた。それに奴は今までのヴィランとは違う。あの時の恩を返す為にも私は協力したい」

 

 そう言い切るキャシーにグランパ達も諦めたようだ。

 

 さて、このままでは私達もグランマ達とお留守番になるんだが、そういう訳にはいかない。

 

 シャレでも何でもなく、世界の命運が掛かっているのだから。

 

「キャシー、私達も連れて行ってくれ」

 

 私がそう言うと3人のギョッとした視線が一気に向いた。

 

 まあ、当然だ。

 

 せっかく死地から逃れたのに、わざわざ戻りたいなんて普通の幼女は言わないからな。

 

「何を言うんだ、エレイン!」

 

「ごめんなさい、グランパ。これは大事なことなの」

 

「ダイアナまで、どうして……」

 

 妹が二人を押さえてくれている間に、私は再びキャシーへ向き合う。

 

 同時に私達の周りにヴァジュラを用いた遮音と認識阻害の結界を形成した。

 

 これで余計な人間に聞かれる事は無いだろう。

 

「キャシー、クランパ達も私達の力が個性じゃない事は分かっているだろう?」

 

「それは……」 

 

 こちらの問いかけにキャシー達は反対の声を出そうとしていた口を閉じる。

 

 私とダイアナが使った力は発火能力とバリア、さらにはテレパシーに転移と一人一つが原則の個性ではありえないものだ。

 

「セレナはお前達の個性を念動と言っていたが、それは嘘だったんだな?」

 

「お母さん達は私とダイアナを守ろうとしたんだと思う。個性とは別の超能力の持ち主だなんて誰かに知られたら、どんな目に遭うか分かったものじゃないでしょ」

 

 この世界においては異端の力であるヴァジュラ、それが露呈すればロクな目に遭わないだろう。

 

 実験、抹殺、その他もろもろと少し考えるだけで魔獣たん召喚フラグのオンパレード。

 

 世界はそんなに滅びたいのかねぇ、はっはっはっ。

 

「だとすれば、猶更その力は見せてはいけないんじゃないの?」

 

「そうなんだけど……実はね、あの化け物から私達と同じ力が感じられたの」

 

 黙り込んだキャシーの代わりに私達を説得しようとしたグランマにダイアナは言葉を返す。

 

「私達と同じ力を持つモノが他にもいたか、もしくは私達の力の事を知った輩が十年前に私達の体細胞を盗んでいたんだろう。ウチは一般家庭だからその辺の防御はできないだろうから」

 

 原因は全然別なのだが、敢えてこういう風に煙に巻いておく。

 

 ぶっちゃけ、マンダラの存在が明るみに出て量産なんてされたら悪夢以外の何物でもない。

 

「だからアイツを止めたいの。きっと私の力はこの世界に必要の無いモノだから」

 

 かつて、世界の終末にダイアナ・リードが漏らしたセリフを紡ぐ我が妹。

 

 ヴィジョンクエストの影響か、その言葉は真に迫っている。

 

 私達の訴えに目を閉じて熟考していたキャシーは、ゆっくりと目を開くと鋭い視線をこちらへ向けた。

 

 それは伯母ではなく、ヒーローとしての視線だった。

 

「わかった。その代わり絶対に無理はしないこと、いいわね?」

 

「うん」

 

「わかった」

 

 キャシーの言葉に私達は真剣な表情で頷く。

 

 言っておくが、この言葉は嘘じゃないぞ。

 

 私達が無理をするという事は=魔獣たんだからな。

 

 こうして私達はキャシーに抱えられながら雄英へと戻ったんだが……ここで予想外と言うか、私達にとっては予想の範囲内な事が判明した。

 

『あー……やっぱりこうなってたか』

 

『地下から出てきた時点でおかしいと思ってたんだよねぇ……』

 

 念の為に地下を透視してみると、雄英の動力源が見事にヴァジュラノイドに乗っ取られていたのだ。

 

 なんで学校が独自に動力なんてもってるのかなぁ。

 

 つーか、本体に思いっきりマンダラ付いてるし!

 

 くっそー! 黒怪人の腹に付いてたのダミーかよ!?

 

 この世界にマンダラがある事にビビった所為で全然気づかなかったわ!!

 

『けど、アイツってなんで真っ先に動力を押さえたのかな? アレキサンドリアの時はそんな事しなかったよね』

 

『あの世界のヴァジュラノイドがコイツより完成度が高いのもあるだろうが、マンダラから生成されるヴァジュラがむこうより弱かったからだな』

 

『あー。基礎になる科学力もヴァジュラ研究も段違いだし、コッチには個性があるもんね』

 

『なにせ人間の2割しかヴァジュラを生み出さないんだ、自然界にあるヴァジュラが例の世界より目減りするのも無理はない』

 

『たしか他の動植物よりも人間の方が生み出す量多いんだっけ』

 

『そう。だからグエン・モルガンは例の実験に彼女達を使ったんだ』

 

『お陰で私達にも思いっきり飛び火しちゃってるんだけどね。そっかー、だからマンダラの稼働率を上げるのも含めてエネルギーを狙ったのか』

 

『あの怪人がUSJで出たのと同じなら、奴自身にも個性がブチ込まれている可能性があるからな。そうなればマンダラで精製された分がそっちに取られてヴァジュラは余計にカツカツだ。動力でも押さえなかったら融合捕食なんて無理だったんじゃないか?』

 

 つーか、あの野郎、ご丁寧に動力ルームの壁に犠牲者の顔を並べてやがる。

 

 アレキサンドリアの時みたいに自意識まで残してだ。

 

 思念の流れからするに、自我の方は取り込んだ個性の情報取得と制御を分担する為に敢えてやってるな。

 

 なんとも悪趣味な事だ、奴を作った人間の顔が見てみたいよ。

 

 しかし巨大な化け物になって脈打つ動力炉に合わせて嘆きと怨嗟を垂れ流す生きたデスマスクでびっしりの内壁とは、この世の地獄という物があるならまさにこの光景だろう。

 

 グロ耐性マックスな私達だから無事でいられるけど、普通の人間が見たら発狂待ったなしだぞ。

 

『けどさ、アイツから感じるヴァジュラ、めっちゃ減ってない?』

 

『うん?』

 

 ダイアナの言葉に意識を向けてみると、たしかに奴からヴァジュラエネルギーが殆ど感じられない。

 

 いったいどういう事か?

 

 思考を巡らせていると、壁に並んだデスマスク共に目が行った。

 

『そうか、個性だ』

 

『個性?』

 

『奴は融合捕食で獲物から肉と共に個性を取り込んでいた。それが逆にマンダラから生成されるヴァジュラを圧迫していったんだ』

 

 恐らくヴァジュラノイドを作った奴は個性とヴァジュラの関係に気付いていなかったのだろう。

 

 知っていたならこんな馬鹿な代物を作ったりしない。

 

「どうしたの、二人共。地面をじっと見て」 

 

 観察と思考に気を取られていると、心配したキャシーが声をかけてきた。

 

 戦場を前にしていきなり地面を見て動かなくなったら心配もするか。

 

「ごめん、キャシー。雄英の地下を透視してたんだけどヤバいモノを見つけた」

 

「ヤバいモノ?」

 

「視覚を共有するから手を貸して」

 

 ダイアナがキャシーの手を取ると途端に彼女の顔色が蒼褪める。

 

「なんてこと……」

 

「今暴れまわっているヴィランは端末に過ぎない。雄英は初めから奴の手に落ちていたんだ」

 

 奴が個性を奪ってくれて本当に助かった。

 

 仮に融合捕食だけに精を出していたら、動力炉どころか雄英全体が奴の胃袋になっていただろう。

 

 あ、ちなみに視覚共有だけどヴァジュラノイド本体だけを映しているぞ。

 

 壁の生きたデスマスクはグロ過ぎるからな。

 

「これはどうしたらいい? 雄英を犠牲にするとしても相手は地下、核は無理だ。だとすれば衛星レーザーで……」

 

 予想外に悪化した状況を前に、私達がいる事も忘れてヤバい言葉を漏らしながら思案するキャシー。

 

 ヴァジュラノイドを駆除するに当たって考えられる方法は核などの超兵器で雄英ごと消し飛ばす、もしくは奴のテリトリーになった動力室へ乗り込んで本体を叩くの二択だ。

 

 前者は問題が山積み、そして後者は危険度が半端ない。

 

 そりゃあキャシーだって悩むだろうさ。

 

 しかし私達ならそのどちらでもない第三の方法を提示する事が可能だ。

 

「キャシー、私にいい考えがある!」

 

「いい考えって……」  

 

 戸惑うキャシーに私は練っていた策を説明した。

 

 この方法は素人が即興で考えた策だが、それなりに有効だろう思えるくらいに自信がある。

 

 その際にキャシーからは少し注文があったが、私とダイアナの力を合わせればそのくらいは軽いので何とかなるだろう。

 

 そんなワケで私とダイアナは雄英を真ん中に挟む形で外周の通路に陣取った。

 

『それじゃあ行くぞ、ダイアナ』

 

『オッケー! お姉ちゃん!!』

 

 妹に念話で合図を出すと、私は突き出した両手からヴァジュラを放つ。

 

 すると私とダイアナから放たれた力はヴァジュラノイドの本体を隔離する形で結界を形成する。

 

『よし、第一段階完了! ダイアナ、それじゃあ釣るぞ!』 

 

『ほいほい! ところで人面瘡はいいの? 引っぺがすと皆死んじゃうけど』

 

『構わん。あんな形で生かされるくらいなら、一思いにあの世へ送ってやるのが慈悲ってものだ』

 

 それに見知らぬ人間がどれだけ死んでも気にならんだろ?、そう問いを投げるとダイアナから同意が返って来た。

 

 こんな性根では、ヒーローなどどう間違えてもなれんな。

 

 さて、どうでもいい話はこの辺にして作業に戻るとしよう。

 

 結界に奴を閉じ込めれば次に行うのは念動で地下から引き摺り出す事だ。

 

『お姉ちゃん、上には生体反応は無しだよ』

 

『よーし! じゃあゆっくり上げるぞ。人身事故になっても賠償金なんて払えないからな!』

 

 ダイアナにそう返すと私は見えない力場を使って、結界ごと奴の本体を上へ引き上げる。

 

 多種多様なヴァジュラ由来の超能力の中で、私達が最も得意とするのがこの念動だ。

 

 なにせ虚偽申告の関係上、大っぴらに練習できたのはこれだけだからな。

 

 その気になれば地下施設ごと雄英を引き摺り上げることだってできるさ。

 

 そうして力を強めていくと、室内から奴に繋がっていたコードやパイプが音を立てて千切れ、中から血管のように薄紫色の体液が溢れだす。

 

 次いで聞こえるのはヴァジュラノイドが挙げる苦悶の叫びと、デスマスク達の口から迸る断末魔と絶望の声だ。

 

 そして本体が動力室の天井を突き破る際、私達は壁に向けて遠隔で生み出した衝撃波で、デスマスク達を壁ごと粉砕した。

 

『これは他の人には見せられないもんね』

 

『ああ。放っておいて発狂でもされたら寝覚めが悪い』

 

 そこから雄英の地下施設を破ってゆっくりと奴の身体を地上へと持ち上げていく。

 

 ここまでで巻き込まれた人間は無し。

 

 雄英の中にはキャシーから警告が行っているはずだが、万が一があってはシャレにならん。 

 

 建物の損害に関してはコラテラル・ダメージという事にしておいてくれ。

 

 そうして奴を白日の下に晒してやると、雄英の中から悲鳴や驚愕の声が次々に沸き起こった。

 

 悲鳴の数がかなり少ないが、果たして非戦闘員はどれだけ生き残ったのやら。

 

『第二段階、終了。キャシー、聞こえる?』

 

『聞こえているわ。よくやってくれたわね、そっちは大丈夫? 無理はしていない?』

 

『このくらい全然平気! えっと、作戦だとここで稲妻を呼べばいいんだよね?』

 

『ええ、お願い。それを使って奴を焼き尽くすわ』

 

 雄英の上空に待機しているキャシーと最後の打ち合わせを終えると、私達はヴァジュラノイドを空中に固定する。

 

 そして奴を包む結界の上部を開放し、発生したエネルギーを天へと逃がす為に形状を煙突に近い形へ変化させた。

 

『準備完了! 最終工程だ、行くぞダイアナ!』

 

『あいあいさー!』

 

 さらにグロ生物から生えたケーブルで、未だに発生しているスパークを呼び水として天から落雷を引き寄せる。

 

 晴天の中、不自然に表れた黒雲から降り注ぐ雷。

 

「【雷撃】は私の槍となる!!」 

 

 宣言通りに一本の槍として手中に収めたキャシーは、古代では天の怒りと恐れられた莫大なエネルギーを大きく振りかぶる。

 

「はああああああっ!!」

 

 そして放たれる必滅の一撃、それはまさに光の速度で巨大な怪物の顔となったヴァジュラノイドの眉間へと突き刺さる。

 

『今だ、ダイアナ! しくじるなよ!!』

 

『お姉ちゃんこそ、調整間違えないでよ!!』

 

 そしてここからが私達の正念場だ。

 

 ヴァジュラノイドが高圧電流で感電している間に、まずはダイアナが限界寸前までヴァジュラを高めた。

 

 すると結界の底、デカブツで見えない位置に赤黒い粒子が発生する。

 

『姉御! 姉御!! 視線が! 背後からのプレッシャーがぁ!?』

 

『見るなよ! 絶対に見るなよ!! フリじゃないからな!!!』

 

 ヤバい! 早くカタを付けなければ全てが終わる!!

 

 それに私のヴァジュラを化合させてやれば、発生するのは超エネルギーを内包した黄金色の光だ。

 

『ギャアアアアアアアアアッ!?』

 

 光の源である結界底部で発生した温度は約一億度、しかもコイツはこの世界の法則では絶対に防げない代物だ。

 

 そしてエネルギーは結界の形状に沿って昇って行き、黄金の柱となって天へと消えていく。

 

 そうして結界を解除すると、ヴァジュラノイドは綺麗さっぱり消滅していた。




出久:やった! 倒した!!と思った瞬間に地下からトンデモない物が出て来てビビる。 戦いのあと、学校内や地下にセンサーを設置していなかった事を反省。
「違法改造してでも、もっと雄英のセキュリティーをあげないと!!」

爆豪:体育祭+出久との戦い+ヴァジュラノイド戦で実はバテバテだった為、本体がやられるのは見てるだけだった。キャスリーンの力を見て世界の広さを痛感する!
「ぜってぇ抜き去ってやるから覚悟しとけや、ババ……ヘベッ!?」

轟:出久戦のあと、父親からボロクソに責められた。ヴァジュラノイド襲撃で爆豪と出久が戦っているので心配と対抗心から参加したが、その際にもエンデヴァーに文句を言われた事で反抗心が爆発。原作とは違い炎熱の永久封印を誓った。
これからは氷結ヒーローを目指すもよう。
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