黒雷の戦士ショールが歩く道   作:いちのさつき

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第1章 目覚め
第1話 目覚める


 ずっと。ずっと。寝ていたように思える。あの戦いで敵を倒した後、長く眠っていろと呪いを掛けられていたから、それが原因なのだろう。頭が中々覚醒しない。それでも分かる。魔力の感じが変わっている。魔界と人間界が混ざっている気がするが、気のせいなのだろうか。とりあえず起き上がって、様子を見なければ、何も始まらない。

 

 洞窟の中だと推測する。そして仲間達が色々とやってくれたと分かる。侵入者を拒む結界が貼られている。無防備な自分を守るためだろう。いつ起きるのか分からないのにと思うのだが、ずっと仲間として扱ってくれたことにも感謝をしている。

 

 外に出よう。この感じだと、かつての仲間はもういないだろう。直感だが分かってしまう。だが歩むことを止めない。知りたいのだ。外がどうなっているのかを。一歩。また一歩。ひたひたと素足で進んで行く。

 

 体感としてはあまり経過していない。ちょっと進んだ程度ぐらいか。1つの固まりの魔力を感知した。敵意があったら問題だが、人と接触しないと何も始まらない。近づいて行こうと決意する。

 

 こちらとしては普通に歩いただけで速いつもりはない。その割に距離が予想以上に縮まっている。誰かが走って来てるということが分かる。小さい魔力の塊が急接近してくるなと思い、念のためカウンター攻撃が出来る状態にしておく。

 

 予期していた攻撃が来た。顔が付いている水色の球3個、大したことではない。手ではたき落とすだけだ。地面に落とされた球が涙目になっているが、襲い掛かって来る方が悪い。しかしこの感じは……様子を見るためだけに送って来ただけだとしか思えない。

 

「キャアア!?」

 

 広い空間で、やっと自分が望むものが来た。女だ。人間と思いたいが、魔人の特徴を引き継いでいるように思える。頭の左右に山羊の角、露出している右腕に鱗のようなもの。寝ている間に何かが起こったのだろうか。

 

 明るい茶色を高い位置でくくっている。青色の瞳で活発そうな感じがする。見たことのないものだが、動きやすい恰好をしているように思える。濃い緑色の鎧のようなものは身を守るためにあるのだろうか。非常に興味深い。

 

 観察をしていて変だなと思うところがある。何故……目の前にいる女は顔を赤くし、悲鳴のようなものをあげているのだろう。殺気を放ったつもりはない。武器を持って来ているわけではない。謎だ。

 

「〇▽×」

 

 女の仲間らしき人が駆けつけてきたか。三白眼の男が他の女を陰に隠した。意味が分からない。どうにか俺に伝えたいことがあるのか、身振り手振りで……これは何だろうか。下のものを穿くような仕草か。

 

 なるほどと思った。今の自分に纏うものは何1つない。だがそれが何故女を陰に隠すのだろうか。この身体の価値は宝石にも劣らないと言うのに。

 

「ん?」

 

 茶髪を逆立てて、耳の先が尖っている細身の男が何かを投げた。敵意はなさそうだ。布。いや違う。下のものだ。さっさと穿けと言わんばかりに身体を動かしている。正直このままでも問題ないと思うのだが、嫌だと言っているのなら仕方ない。応じるとしよう。

 

 穿いたら、目の前の奴がホッとした表情を見せた。解せない部分はあるが、時の流れがそうさせているのだろう。男が手でクイっと動かした。俺達に付いて来いということなのだろうか。今の段階では何も分からない。少しでも知るために付いて行こう。

 

 奴らに付いて行くことで、地上に出ることが出来た。山みたいなところに洞窟があったのか。上を見よう。暗い空に星々が光っている。昔と変わらない。かつての戦友が言っていた通りだ。ずっと上を見ているわけにはいかない。前を見るとしよう。金属の塊のようなものと焚火。両腕に鱗がある眼鏡をかけた老人がそこにいる。案内してくれた奴らと違い、ぶかぶかの服を着ているように思える。

 

 気付いてこっちに近づいてくる。老人と話すことになりそうだ。やり取りが出来ないのは大問題だ。互いに困ることぐらい、自分でも分かる。ズルになってしまうが、昔教えてくれた魔法を使おう。そうすれば意思の疎通が出来る。魔法が使えるかどうかの確認も出来る。そのついでに少し情報が集まるはずだ。

 

「ひぃ」

 

 最初に出会った女、すまないが魔法を使わせてもらう。額と額を当て、魔力を送り込む。学問を追求する者でない限り、パンクすることはな……この情報量はキツイ。倒れるところだった。甘かった。女の頭に相当な知識を有していたか。理解出来ないことの方が多い。戦士としてやって来たからだろう。それでも分かることがあった。共に戦ってくれた仲間達は既にこの世にいないことぐらいは。さて。遅くなってしまったが、この女に謝らないといけない。怖がっているのか、目を瞑っている。

 

「そこの女、すまなかった」

 

 周りが固まっている。不自然なことはやっていないはずだが。急に通じる言葉になったからか。誰でも驚くことだ。自分だって目の前でやられたら似た感じになる。

 

「お前……普通に喋れるじゃねえか!」

 

 細身の男が持つ物は紙の扇子にしては大きいな。叩いてきたか。そこまで大きい怪我にならないようだ。素直に受け止めておこう。この感覚は新鮮だな。紙に叩かれるとこういう感じなのか。とりあえず普通に喋れるようになった理由は伝えた方が良いだろう。誤解を招くのはよろしくない。

 

「魔法を使ってどうにか喋れるようになっただけだ。たどたどしいのは申し訳ないが」

 

「マジでゆっくりめに発音してる。変な奴。言語ほとんど無くなって、今は1つになってるこの時代に他のを使ってる奴がいるとか。あ。いや。例外はあるけどよ」

 

 失礼な気がするが、気になることがある。言語が1つとは。

 

「初対面に対して失礼だぞ。オットー。探索ご苦労だったな。それで。君は誰だね?」

 

 発音が合っているかは不明だが、言うしかない。

 

「ショールだ」

 

「ショール君ね。食事をしながらでいい。色々と聞きたいことがあってね。構わないかね?」

 

「ああ」

 

 情報を集めないといけない。戦士である自分がどこまで聞き出せるかは分からない。それでも1人でやらないとダメだ。戦闘能力が高いわけでもなく、悪意があるわけでもなさそうだが、気を引き締めておこう。

 

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