今日は試合があるわけではないが、アーリーの誘いで魔界にある魔法総合格闘技の競技場にやって来た。アーリーと同じ歴史学者の手足である探索者のパメラ、トゥルシー、マイケルと共に、ここに来るとは思ってもみなかった。しかも団体部門の試合がある日だ。都合が良い日がここしかなかったのが1番の理由だろう。全員が合うなんて早々ないと言っていたから間違いない。
「20年ちょっと前までは団体戦の方が人気あったんだけど、事件があってルール変わってからは下がっちゃったらしいぜ」
競技場に入る前、アーリーが解説してくれた。動画サイトとやらを見ても、確かに再生回数は個人部門の方が圧倒的に多かった。個人部門の1番低い……というわけではないが、ブロンドランクですら負けている。競技のルールに致命的な何かがあったからこそ、ルールが変わったのかもしれない。事故という言葉を使っていない部分が気になるが。
「根本的に変わっちゃったもんね。今は魔獣をどれだけ狩れるのかを競う競技だけど、昔は違うんだっけ。聞いた話によると確か……えーっと」
マイケルが唸っている。思い出そうと必死になっているのだと分かる。表情がコロコロ変わり、見ていて退屈しない。
「ありました」
トゥルシーが見つけてくれた。小さいタブレット端末と呼ばれる小さい板から電子世界に繋がり、情報を探っていたみたいだ。
「個人部門のルールを元に、人数増やしてやってるような形だったようですよ」
「そりゃ昔は人気だったわけだ。事件とかは書いてあるのか?」
アーリーの質問にトゥルシーは横に振った。
「この記事には載ってないですね」
「こっちで調べてるけど……簡単にしか載ってなーい! まだ発達してない時代だったからかな」
パメラも調べていた。事件があった時代、蜘蛛の糸と呼ばれる魔法はなかったかもしれない。そう考えると、記録すら載っていないのも頷ける。
「いや大昔の映像も載ってる時代だぜ? 初年度の試合の記録も簡単に見られるしな」
というわけでもなかった。アーリーの指摘にパメラは納得していた。
「あーそれもそっか」
「ま。俺らが気にする必要もねえか」
入場証を見せ、入る許可を貰う。右の飲食店が集まるコーナーに行く。画像で見た屋台のようなものがずらりと並んでいる。酒。揚げ物。菓子。摘まんで食べるものばかりだ。
「食う物買って、ここで集合な」
アーリーが示した目印は2人の戦士が戦っているような金の像。これなら分かりやすい。貰った金で食べるものを買おう。揚げた棒に砂糖をまぶしているあれにしよう。10本入っている紙コップを受け取って飲み物を買う。甘くない茶にしよう。甘いものと甘いものだと舌が馬鹿になると、学習済みだからだ。
「よお!」
途中でスピリタスに話しかけられた。特徴的な赤いトゲトゲの頭がいるのは気づいてはいたが。あの時と違って、酒を飲んでいないのか、頬の色は普通だ。
「珍しいな。こっち側に来るなんてよ」
「それはこちらの台詞だと言いたい所だが……ウル達の試合か」
「そういうことだ」
スピリタスがニヤリと笑った。初めて会った時から親しい感じだったからそうだと思っていた。
「1人で来たのか」
「いや。友人達と共に来てる」
集合の目印の金の像に集まっている。そろそろ行くとしよう。
「そうか。邪魔したな。グリムリーパー、次の試合でやり合おうぜ」
「ああ」
軽いやり取りをしただけだったからか、そこまで注目を浴びる事はなかった。静かに集まっている所に向かう。
「お。来たな」
アーリーが手を振る。こちらも手を振っておく。
「遅くなってしまったか?」
「いや。そこまで時間経ってねえし」
何故かアーリーは俺の手元を見ていた。危ない代物を買った記憶はないのだが。
「あ。これにしたんだ! あとで交換しない?」
パメラが目を輝かせながら提案してきた。黄色の球体、鈴を模している。黄緑や水色などカラフルなものでコーティングされている。名前は分からない。だが見ていて分かる。絶対美味い奴だと。
「よし。成立だね!」
何も言っていないのに、パメラが嬉しそうに言った。顔に出ていたのかもしれない。あるいは無意識に仕草をしていたか。
「よし。そろそろ行くか」
アーリーの案内で観戦席に行く。高いところから試合を見るのは新鮮だ。選手は真ん中のフィールドで戦うわけだが、木々を生やしている。記憶にない。
「団体部門だと色々と障害物とか設置するからね。今日は森林ステージか。ちょっと見えづらいな」
マイケルが残念そうに言った。その通りだと思う。観戦席からだと見逃すところがあるからだろう。
「ねえ。アーリー、この番号ってこっちだっけ」
「だな」
小さい階段を2つ下り、指定された数字と文字を見比べ、席に座る。見ていて固そうだと思っていたが、やはり固かった。左右にコップを差し入れる部分がある。
「よお。また会ったな」
頭上から声。見上げるとスピリタスがいた。あの流れだと次の試合まで会わないものなのではないかと思うが……あの様子だと、たまたま近い席を取ってしまったのだろう。
「スピリタスとグリムリーパーだ」
「何で」
周囲からひそひそ話が聞こえるが、気にする必要はない。問題はアーリー達にどう説明すればいいのかだ。一度も対戦していないから不審に思うはずだ。というより、表情で伝わってくる。
「おい。どうやってスピリタスと会った。あの様子じゃ今回が初めてってわけじゃねえっぽいし」
耳元でアーリーから聞かれた。小声だ。正々堂々と聞いても、奴のことだから、普通に答えてくれると思うが。
「ちょっとした縁があってな。ほんの少しだけトレーニングルームで共にした」
勝手にスピリタスが答えていた。これで納得するとは思えないが……なるほどではない。マイケル。あっさりと理解するな。
「グリムリーパー、ウル達の戦いを見ておくといい。失礼したな」
スピリタスは連れのところに行ってしまった。視線を下のフィールドに移す。既に10人、入場している。団体部門ならではの戦い方、拝見させてもらおう。