黒雷の戦士ショールが歩く道   作:いちのさつき

12 / 37
第12話 イレギュラー

 あの金髪がいるということは右側がウル達のチームウイングラン、左側はナイトフォレストか。

 

『スタート』

 

 合図とともに一斉に動き出す。ふと上を見上げたら、空中にある映像に発生地点1と書いていた。他にもいくつかある。どういう意味か気になる。

 

「得点ゲットできる魔獣まで移動してるんだ」

 

 アーリーが小さく言った。今の選手たちの動きについての解説だろう。

 

「魔獣にそれぞれ得点がありましてですね。制限時間内で取った点数を比べて勝敗を決めてるんですよ」

 

 トゥルシーが勝敗について教えてくれた。

 

「そんなこともあって、団体部門ってランクないんだよね。弱いのも強いのも入れてるわけだし。スタンスはバラバラだし。力より頭脳が求められる部分が多いって感じ?」

 

 マイケルの言った通り、団体部門は戦略性が更に求められる競技のようだ。相手のチームは弱い魔獣を主に狩っている。さきほどのもので2体目だ。一方ウル達のチームはやっと1体倒したぐらい。点数は互角だが、今後の動きで変わってくるだろう。

 

『おっと! チームナイトフォレスト、ここで3体目の魔獣と戦い始めた!』

 

 チームウイングランの相手、ナイトフォレストが3体目の魔獣を倒すため戦い始めた。黒い毛の狼、角がやたらと大きい。影を操る魔獣と言ったところか。2人が遠方から攻めている。映像だと3人しか見えていないから恐らくそうだろう。

 

「弱い魔獣だと得点が低いからな。獲得する順を変更したな」

 

「だねー。ナイトフォレストって、基本スピード重視でどんどん狩るスタンスだし。まあ問題ないっちゃないか。前のシーズンで大物倒したからね」

 

「ああ」

 

 アーリーとマイケルが冷静に分析していた。あの様子だと普段から団体部門の試合を見ているにちがいない。

 

「とりあえず今のところはウイングランが不利ってこと? あ。ショ……じゃなかった。グリムリーパー、はいこれ」

 

 パメラと菓子の交換する約束をしていたことを忘れていた。コップを差し出そう。

 

「ありがとー」

 

「あ。私もください」

 

 トゥルシーも菓子の交換に参加する。このやりとりを見たアーリーがひと言。

 

「女子会か」

 

 女子会は男不在のものではないのか。何故かマイケルがうんうんと頷いている。

 

「だね。完全に女子会だ」

 

「待て。俺は男なんだが」

 

 解せない。いや雰囲気とかやり取りとかで判断をしていたのかもしれない。それでも断じて違うだろう。絶対に。それにしてもこの菓子は中々いけるな。

 

「美味いでしょ」

 

 パメラの言うことに頷く。

 

「これかなり有名どころの屋台でさ。魔界菓子コンテストで優勝したこともあるんだよ」

 

「そういうところも来てたのか。事前に確認しておけば良かった」

 

 情報収集不足だった。魔界の菓子について、もう少し調べておくべきだった。

 

「まあ急に店出すってとこもあるし、全部把握するのはきついけどね」

 

 パメラがそう言うのなら、多少は諦めるしかなさそうだ。試合の展開はナイトフォレストが獣を追い詰めている状態か。ウイングランは近くの小物を速攻で倒したところ。点数としてはちょっと逆転した程度。どんどん展開が変わってもおかしくないだろう。

 

『ナイトフォレスト、大物クラスを倒した!』

 

 ナイトフォレストが大きい狼のような魔獣を倒した。ウイングランにとって痛いだろう。ここで解き放たれる魔獣は特殊で、倒したら消える仕様だと聞いたはずだが……何故消えていない。嫌な感じだ。

 

「あ。おい。グリムリーパー!?」

 

 立ち上がって、大きい声で警告するしかない。乱入するわけではないし、ルール違反にはならないだろう。

 

「ナイトフォレスト! 警戒を怠るな!」

 

 機器に影響を及ぼすかもしれないが、やむを得ない。これで奴らのとこまで届けばいいのだが。

 

『あれ? 今の何だったの? え。得点が入ってない? どういうこと!?』

 

 女の実況者が狼狽えている。肉体が結合している。再生する速度が上がっていく。狼のようなものではない。毛のない人型のようなものになった。肌色がピンクで剥き出し。べとべとの何かがある。丸くて大きい口に鋭いものがある。

 

『ひい。なにあれ』

 

 とても不気味だ。女の実況者が怯えるのも無理はない。映像の方はどうなっているのか、見ておこう。今のところは化け物が殴りに来ているだけ。対応は出来ている。体についているベトベトの液体が生きているように思えるのは気のせいか。

 

『ぞ……増殖してる!? き、気持ち悪いー!』

 

 地面に落ちたベトベトのあれは人型に変化した。小さくてもナイトフォレストと互角の力を見せている。それが5体いるとなると厄介だ。本体らしきものは口にある先端部分に力を溜めている。溜めている?

 

『おっと!? ウイングランのウル選手だけ移動!? どこに行くつもり!?』

 

 金髪の男ウルが森の中とは思えないスピードで移動し始めている。この方向の先にナイトフォレストがいる。異変を感じ取っていたのか。あるいは……あの時の行動を。

 

『ナイトフォレストのとこ!? 何で!?』

 

 化け物本体が口から光線を解き放つ。ここでナイトフォレストが本体の攻撃に気付く。逃げ場はない。かと言って、まともにくらったら、ひとたまりもない。駆けつけてきたウルは何をするつもりだ。

 

『こ……拳で弾いた!?』

 

 真正面から右の拳で光線を弾いた。反撃をくらっているはずだが、化け物は無傷のまま。

 

『えっと。ウイングラン。もう1体、討伐! これで点数は同じになった! あの場にいるのはナイトフォレストが3人、ウイングランはウルのみ。どうなる!?』

 

 どれだけ獣を倒せるのかで競う種目だ。妨害しておくのがセオリーだろう。だが今回は出来るような状況ではない。化け物が作ったものが増えている。いくら強くても、限界が来るだろう。更に時間が経てば経つほど、化け物が強くなっている。そうなると……協力するしかない。

 

『初めてではないでしょうか! ナイトフォレスト、ウイングラン、まさかの共闘!』

 

 雑魚敵は木々に隠れている奴らが対応。接近戦に長けている奴らは本体を倒す。そんなところか。弓矢で戦っていたウルが前に出向いていることに驚きだ。女の子にモテないどうこうを言っていた奴が前でガムシャラに戦っている。

 

「ああいうウル、初めて見たぜ」

 

 アーリーが言うぐらいだ。今までの試合で披露したことがなかったようだ。魔法で強化し、跳躍し、右腕っぽいところに跨る。すぐにへし折る。化け物が痛がり、ウルをぶん投げた。受け身の態勢を取り、両足で着地する。他の奴らも剣や斧などで果敢に攻め込む。ナイトフォレストの誰かが左腕をぶった斬った。

 

「いいぞー! やったれー!」

 

「どっちも頑張れ!」

 

 前より盛り上がっている。熱気に包まれている。争いではなく、共闘という選択をしたからか、いざこざがない。

 

「おいおい。やられた両腕、もう元通りだぜ。どうなってんだ」

 

 この気持ちを熱くしたいところだが、冷静に全体を見ておこう。へし折ったり、斬ったりしたはずの腕が元の状態になっている。再生能力を持つタイプのようだ。この動きはまた光線を撃つ気だ。

 

『グラスランスが攻める!』

 

 フォレストナイトの選手が攻撃お構いなしに真正面から攻めようとしている。無謀にも程がと言いたいところだが、この緑色の纏っている辺り、策なしというわけではなさそうだ。加速していく度、増している。そういうことか。相殺する気満々だ。

 

『流石です! 緑の突進兵と呼ばれる男、恐ろしい! 魔法の準備さえあれば、この通り!』

 

 グラスランスの後ろに誰かいる。キラキラの金髪の男、ウルだ。一気に化け物の目の前に行き、跳躍する。あの目は冷たい。殺すと宣言しているようなものだ。

 

素早く動く。最初にひと突きで右肩に損傷を与えた。次々と突いていく。左肩、頭、股の近く、胴体、両足を手で傷つける。かなり深い。いや。この表現は正しくない。穴をあけたが正確だろう。化け物の体液が大量に出ている。赤色の肉片が散っている。もう生き物としての原型が失われている。

 

ウルは油断せずに、飛び散った肉片を見る。体液で濡れている。拭う事すらしていない。いつ何が起きても動けるような態勢で、未だに冷たい目のままだ。映像越しでも分かる。それが原因なのか、気圧されて、無言の奴が多い。

 

「勝負あったな」

 

上の席にいるスピリタスが静かに言った。それに関しては同意する。あの感じではもう再生すら出来ないだろう。核らしき水晶が粉々になっているからだ。化け物らしき肉片全てが消えたと同時に力尽きたのか、ウルが倒れた。仲間達が駆け寄って支える。

 

『はっ。これ、どうすれば、うえ!?』

 

 女の実況者がワタワタしている間に、マイクとやらを誰かに取られたようだ。

 

『う……運営委員長!?』

 

 魔法総合格闘技の運営委員長を務める男が実況室に来たみたいだ。女の実況者が驚いた理由はそこからだろう。

 

『失礼。運営委員長を務めているサミュエル・ルぺスだ』

 

 老人の声で、場内が騒然となる。予想外の人物がここに来ているからだ。俺も正直驚いている。

 

『今回は相当イレギュラーなことが起きたと聞いている。予想外の魔獣が来たと。会議はやってはいないが、この事態だ。致し方ない。今回の試合、ウイングラン対フォレストナイトは中断。そして原因究明を行うため、団体部門の試合は中止とする』

 

 楽しみにしていたはずが、こうなるとは思ってもみなかった。胸糞が悪いとはこういうことか。

 

「20年前みたいなことじゃなけりゃいいんだけどな」

 

 アーリーは大事件が起きたことを知っている。何か思うこともあるのだろう。俺も似たような考えを持っていたから分かる。

 

「ああ。そうでないことを祈るしかない」

 

 とは言え、俺にやれることはない。ただ様子を見るしかないだろう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。