黒雷の戦士ショールが歩く道   作:いちのさつき

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第14話 恐怖の変革

 スピリタスたちと話してから数日後、今日は試合がない。それでも競技場に行く。情報収集するのも大事だと司令官の本に載っていた。確かにその通りだと感じ、他の選手の戦い方を間近で見る事にしたのだ。昔なら役目が違うため、他人に投げていたが、今の自分を見て、かつての仲間たちはどう思うのだろうか。

 

「グリムリーパー様!?」

 

 視線が集まる。殺意がない。有名になると、違う意味で注目されるのだと改めて学ぶ。スナック系統の食べ物を扱う出店に自分の選手名が大きく載っていた。メリットはあるのかと思っていたが、行列を見て、その影響を理解した。

 

「おう。グリムリーパーじゃねえか。珍しいな。1人でこっちに来るなんてよ」

 

 茶を扱う出店の主に話しかけられた。頭の左右に2本の角があり、バンダナとやらで頭を巻きつけている明るい魔界の住人だ。特徴的なTシャツに興味あるが、魔界の店にないということはオーダーメイドとやらなのだろう。試合まで時間がある。少しだけ話すとしよう。

 

「ああ。最新の情報を集めておこうかと思ってな」

 

「そういえば今日の試合の……オルカウンタ、お前の次の相手だったな」

 

 魔界の金を払い、いつもの茶を受け取る。

 

「ありゃ違う意味で厄介だな。環境を上手い具合に活かしている。苦戦してる選手がいるっていう話だし、見ておくという選択はいいかもしれねえ」

 

「ああ。性質を見極めれば、対策が可能だ。ルールに従って戦うのは不慣れだが、そういう経験も悪くない」

 

 茶の店の主がニヤリと笑った。何か変なことをした記憶は一切ない。

 

「やっぱヤンチャしてたタイプか。デッドヒート、紅蓮の走者、ノットエンドって感じか?」

 

 喧嘩をしたり、バイクとやらで爆走したりする不良系をやっていたと勘違いしている。組織名であることは分かるのだが、明らかに人界にないものだ。

 

「おっと。そういりゃお前は人界出身だった。知らねえよな。魔界3大暴走族って奴を」

 

 魔界3大暴走族。知るわけがない。

 

「当たり前だ。全て人界で聞いたことのない組織名だ」

 

「はっはっは! 派手でも人界で有名になるところは流石にねえか。そろそろ行くか?」

 

 派手なのか。魔界の雰囲気とよく合うが、仮に人界で走っていたら、逮捕されるのがオチだろう。確かに茶の店の主の言った通り、そろそろ行った方が良さそうだ

 

「ああ。そうだな。観客席のところに行こう。また機会があれば会おう。茶の店の主」

 

 観客席に向かう。席の番号を照らし合わせて座る。その前に隣にいる女に話しかけておかなければいけない。こういうのがルールだとアーリーが言っていたから間違いないはずだ。

 

「失礼する」

 

「ああ」

 

 肩に届かないぐらいの短い金髪に褐色肌。左右に山羊のような角。太い尻尾。肩を出して、黄緑色の上着を周囲に纏うような形になっている。どこかで見た記憶がある。動画で見た。何の動画だ。そこで思い出した。奴こそ、オフィウクスなのだ。

 

「なるほど。噂に聞くグリムリーパーか」

 

 意外にもオフィウクスは俺のことを知っていた。他の試合と違って、かなり早めに試合が終わっているからだろう。奴の耳に届くのも時間の問題だったということか。

 

「オフィウクスで間違いないな」

 

「ああ。そうだ。珍しいな。試合があるわけでもないだろ?」

 

 オフィウクスが手で座っておけと表現している。ずっと立つのもあれなので、素直に座ろう。

 

「次の相手が厄介だからな。事前に対策しておくのも悪くないし、いい勉強になる。そういうお前はどうなんだ」

 

「私も似たようなものだ」

 

 まさか同じような目的でここに来ているとは思ってもみなかった。視線が更に強くなっているが、純粋に疑問から来るものだとすぐに分かる。特に気にする必要はない。そろそろ試合が始まる。オルカウンタとジャックナイフだったはずだ。ジャックナイフは恐らく自分とは違う登録日に来た。

 

 そして圧倒的な力でデビューしたに違いない。それなら注目度はあるはずなのだが、試合を棄権している。働きながら試合に参加している者がいるという話があるため、特に疑問を感じるわけではない。スピリタスも過去に何度か商談で棄権せざるを得ない時もあったと聞いているからだ。

 

「事実上のジャックナイフのデビュー戦だ。どう動くのかが気になるな」

 

 オフィウクスの言った通り、これがジャックナイフの初試合。スケジュール的に相手になることはないが、気になるのが性という奴だろう。真ん中の試合フィールドに選手が入って来た。2つのナイフを握る男がジャックナイフ。上半身裸で入る奴は初めて見た。それほど実力に自信があるということなのだろう。反対側から入場してきた銀色の鎧姿の男がオルカウンタ。動きづらい印象が強い。片手盾をメインに戦うタイプであることが分かる。

 

「そうだな。今までの試合を放棄している。未知の存在だ。オルカウンタの対策を考えるために見に来たが……」

 

「ああ。オルカウンタが相手だったな」

 

 オフィウクスは端末を操作していた。試合中でも唯一使用が許される情報サイトを見ていた。試合予定のものを見ていたことを察する。

 

「そうだ」

 

「かなり厄介だぞ。あれは私も苦戦した」

 

 トップクラスの強さを持つオフィウクスが苦戦した。それを知った俺は更に楽しみになって来た。

 

『それでは試合開始の合図を!』

 

 興奮気味の女の実況者の後に、

 

『5、4、3、2、1』

 

 抑揚のない機械の声がカウントする。

 

『デュエルスタート』

 

 試合が始まった。ジャックナイフが何かを呟く。知らない魔法言語の類だ。ナイフが大きくなり、禍々しくなる。付与魔法の系統だったようだ。オルカウンタの盾も何かしら付与されている。鎧の色が虹色になっている。この辺りは見てすぐに分かった。

 

「流石にジャックナイフの方が速いか」

 

 身軽な恰好のジャックナイフが先に動く。オフィウクスの言う通り、スピードはジャックナイフの方が上だろう。オルカウンタは盾を構えて迎え撃つつもりのようだ。ジャックナイフは右の巨大化したナイフを真っすぐに投げる。オルカウンタは盾で薙ぎ払う。ジャックナイフは大きくなった刃物を両手で持ち、そのまま真っすぐに切る。プロテクトオーブがあるため、悲惨な目にはならない。むしろオルカウンタのスタイルを考えれば、ジャックナイフは返り討ちに遭うオチだろう。だがここまで真っすぐに行くのだろうか。

 

「オフィウクス。奴が対策せずに攻めると思うか」

 

「いや。あの戦法はかなり有名だ。基本的な部分は新入りでも知っている。生半可なものでは通用しないだろう」

 

 新入りでも何かしら対策をたてている。苦戦したというオフィウクスもそうだったようだ。ジャックナイフも何か目的があって前進している。何を目的に。

 

『おっと! ジャックナイフが切り裂く! しかし得点には入らない!』

 

 右肩から斜めに切るようにナイフを動かした。プロテクトオーブの防御は馬鹿に出来ないと動画で見て学んだ。そもそも死ぬ可能性の高いものが防がれている時点で相当なもの。だからこそ違和感が出てきた。言葉では言えない何かを。いつもと違うものを。

 

 これは早めに払拭しておきたいところだ。試合の観戦を集中していく。ジャックナイフの背後に黒い霧。中から刃が複数まぎれている。一瞬で組み上げて大鎌の何かに変化した。鎌は生き物のように動き、オルカウンタを襲撃する。あれはかなり素早い動きだった。防御する間もなく、オルカウンタは刃の攻撃をもろにくらってしまう。かなり殺傷能力があり、固い鎧ですら斬ってしまう。それで止まればまだよかった。奴なら間違いなく生きていたはずだからだ。その希望はすぐに砕かれていく。

 

「明確な違反行為だな」

 

 骨も臓器も刃で斬っていく。いや刻んだが正確か。普通の観客には見えない速さだ。赤黒い血がフィールドを濡らす。これは競技ではない。殺しだ。誰もが思ったのか、観客のほとんどが悲鳴をあげたり、逃げたりし始めている。混乱状態に陥った。実況者の声掛けすら反応していない。

 

「グリムリーパー」

 

 戦士ではないオフィウクスの表情に大した変化はない。声も平常そのもの。恐怖心に支配されていないだろう。トップはひと味違うのかもしれない。

 

「会場の外に行くか?」

 

 混乱を利用して、安全圏に移動するのが1番良い選択肢だ。しかし今後のことを考えると、それが果たして得策と言って良いのだろうか。

 

「様子を見たい」

 

「そうか。私も同行させてもらおう。最終手段もあるから安心しろ」

 

 関係のないオフィウクスを逃がそうと思ったが、先手を打たれてしまった。小さい蛇2匹が浮遊していることに気付く。最終手段とは此奴らが鍵になるのだと察した。視線を真ん中のフィールドに移す。やった張本人であるジャックナイフは血しぶきを浴びながら、喜びを謳うかのように踊り始めている。あの表情は意図的にやったものだ。うっかりとかそういった類ではない。

 

「あの……2人とも避難しないのですか?」

 

 赤色のヘッドフォンを装着している黒い獣のたれ耳の女の実況者が涙目になりながらも、こちらに話しかけてきた。

 

「いや。少しこの場に留まる。情報を集めておきたい」

 

 オフィウクスが答えた後、人が来る気配を察知した。雰囲気を感じ取ったのか、女の実況者はキョロキョロと周囲を見渡し始める。上の方から誰かが来る。スーツとやらを纏う白髪の老人。年齢の割に衰えを感じさせない歩き方。太く短い角2本が左右にあり、右手はドラゴンのものとほぼ同じだ。普通は顔を見ると思うのだが、オフィウクスは何か別のものを見ているように思える。

 

「運営委員長サミュエル・ルぺス?」

 

 咄嗟に奴が呟く。雑誌で見たものと同じ姿。確かに近づいてきた奴こそ、運営委員長のサミュエル・ルペスなのだと理解した。

 

「あなたも様子を見に来たのですか」

 

 オフィウクスの問いにサミュエル・ルペスはどう答えるのか。方針は奴らが決める。それ次第でこの後ガラリと変わる。これは絶対に聞き漏らしてはいけない。

 

「いや。宣言をしに来た」

 

 胸元ポケットからマイクが出てきた。そして空中にさまようカメラ付きのドローンに視線を合わせている。

 

「本日をもって個人部門のルール変更が実施される。試合の通り、死ぬことが負けとなり、生き残ることで勝ちとなる。試合はどちらかが死ぬまで続行する。引き分けはないと思え」

 

 ふざけた宣言だと感じた。こんなことは望んではいなかった。何より互いに生きるための戦いでもない。嘘だと信じたいが、これが現実なのだと言い聞かせるしかない。

 

『勝者はオルカウンタ。いえ。ノー。ノー。オー。訂正。訂正』

 

 機械の声が狂い始める。魔法が塗り替えられる。古いものから新しいものへ、アップデートされていく。抵抗して欲しいと願う。しかしその儚い願いは硝子のように脆かった。

 

『勝者はジャックナイフ』

 

「弱き者は去れ。強き者には栄光を。これが新しい魔法総合格闘技の秩序だ」

 

 そう言った後、サミュエル・ルペスは観戦席から消えた。それと同時にジャックナイフの姿も消える。俺達はぼーっとするしかなかった。

 

 

 

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