黒雷の戦士ショールが歩く道   作:いちのさつき

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第17話 オフィウクスの挑発

 3日後、オフィウクス対ジャックナイフの試合が来てしまった。どう響くのか。それが疑問点だ。あの事件後の初めての試合。遠いところから見守るしかない。だが出来るだけ近いところで。そう思い、競技場の観戦席に座る。以前よりも観戦客が少ない。目視になるが、5割まで減っているだろう。距離があるとは言え、人が死ぬところを見たいと思う輩はいない。当然のことだ。

 

『それではデュエルスタート』

 

 機械の声で試合が始まる。実況者はいない。運営側だが心情は世間と同じで、外部に情報が行き渡らせたくなかったからだろう。ところで何故黒い雲が出始めたのだろうか。魔界の天気に詳しいわけではないが、天気が悪くなる徴候は何ひとつなかったはずだ。この膨大な魔力の塊。間違いなく魔法で引き起こしている。ジャックナイフが警戒しているということは……オフィウクスがやったものだ。

 

「なーるほどね。やっぱあの子、隠してたんだ。力を」

 

 飄々とした化粧をした男が楽しそうに笑った。視線を移したら、微笑みで返していた。

 

「初めまして。グリムリーパーちゃん」

 

「どうも?」

 

 挨拶を返しておいて観察を行う。体が細い。どこまでも肌が白い。濃い緑色の布で腰に巻き付けた格好。赤い髪を逆立てて、メイクをしている。どう考えても怪しい奴にしか見えない。

 

「ちょっと。その目は何だよ。これでも前のシーズンでオフィーちゃんと戦った相手だ。今回は長期間の仕事があったから、参加してないけど」

 

 オフィーちゃんが誰のことかは分からない。だがうっすらと分かる気がする。そして奴も魔法総合格闘技に参加しているみたいだ。見た目だけだと、そうは見えない。

 

「選手名はマスカレード。もうちょっと長くしたかったけど、運営から短くしろと言われた。困ったことだが」

 

 マスカレードか。あとで調べておくとして、試合の観戦を優先しておこう。奴には申し訳ないが。

 

「……冷たく対応したらモテないぞ。そんなに試合が気になるのか。気持ちは分かるよ。あれ以降の初めての試合だからね」

 

 空に浮く巨大な蛇がジャックナイフを襲う。オフィウクスが召喚したと考えて良さそうだ。絞め殺す気か。いや。おとりの可能性もあり得るだろう。見た目の割にジャックナイフが切り裂いていた。そこまで防御寄りという印象がない。奴は何を考えている?

 

「あらま。呼んだ子切られてる」

 

 マスカレードとやらが呑気に観戦。普通の客ならショックを受けるはずだと思うのだが。

 

「と言う割に悲観的ではないみたいだが?」

 

「小手調べでしかないからな。あれは。お前だって分かってるだろ。序盤でしかないってのを」

 

 強者同士の戦い。そして同じ理解を持つ奴との対談。あまり情勢がよくないのを理解しているし、理想とは言い難い形になっている。それでも口元が緩んでしまうのは性なのかもしれない。

 

「ジャックナイフが攻め込んできたか」

 

 ジャックナイフがナイフをそれぞれ片手に持ち、オフィウクスに仕掛ける。黒い霧。オルタカウンタと似たパターンだ。そう考えていたが、霧の規模が違う。どんどん大きくなっているように見える。間違いなく、ジャックナイフは奇襲をするつもりだ。

 

「あーはっはっは!」

 

 甲高い笑い声。ジャックナイフのものだと考えていいだろう。しかし声だけでどういった感情かを察することなんて出来ない。どう判断すべきだ。少なくともオフィウクスの魔力は感知できる。それなら何故笑う。

 

「やっぱ変だよな」

 

 マスカレードも変だと感じていたみたいだ。正直自分だけでなくてホッとしている。

 

「オフィーちゃん、無事なのに笑ってる」

 

「ああ」

 

 複数の魔法が混在している。どういった魔法かを見極められない。魔眼持ちではない自分が分かることなんてないだろう。あの魔女がいれば、解説などを聞けたのだろうが……いない奴を求めても仕方がない。

 

「霧が晴れてきたらわか……普通に晴れてきたな」

 

 マスカレードの言う通り、霧さえなくなれば、ある程度は見ることが出来る。というか普通になくなっている。その代わりキラキラと輝いている。オフィウクスとジャックナイフ、どちらも無傷のままだ。何故かジャックナイフはあらぬ方向を見ている。幻覚の類の魔法をかけている。奴の魔法を利用して、オフィウクスがやったのだろう。

 

「オフィーちゃん、何する気だ」

 

「分からない」

 

 小さい蛇が地面から出始める。浮遊して、ジャックナイフに近づく。目と目が合ったと思ったら、ジャックナイフの身体が石化し始めた。召喚した蛇に魔眼なんて聞いたことがない。この表現は正しくない。わざと与える魔力の量を減らして、弱いフリをして強力な魔眼を共有化していた。

 

「魔力のコントロール、前よりも上手くなってるな。ここまでくると前よりも倒しづらい感じだろうな」

 

 マスカレードが困ったように笑った。ずっと同じ熟練度というわけでもなく、オフィウクスは鍛錬を重ねていたみたいだ。こうなってくると……ますます戦いたくなってくる。

 

「グリムリーパー、顔に出てるぞ。というか今はそれを考えてる場合じゃない」

 

「すまん」

 

 確かに今はそれを考えている場合ではなかった。石化がどういう扱いになるのか。マスカレードはそれを言いたいのだろう。

 

「生か死か。それで勝敗が分かれるのが変更後のルールだ。そうなると死の定義とは何か。ここからだと俺は考えている」

 

 マスカレードが難しい話をしてきた。静かに聞いておいた方がいい。

 

「今の時代だと生命の維持が困難になった時。脳と心臓が機能しなくなった時点で死と認定される。あるいは魂が肉体離れた時点で死と扱われるね。それで本題に入るけど、石化はあやふやなとこがある」

 

 確かに石化は動くことが出来ない。全てが石となっているためだ。だが魂は肉体から離れているわけでもない。だからこそ、きちんとした対処さえすれば、元の生活に戻ることが出来る。

 

「オフィーちゃん、大胆に仕掛けてきたね。これならどう認定するのか。その辺りを見るためにやったんだと思うよ」

 

 石化は死と認定される。魂という点を考えると、生と判断される。これは奴なりの挑発だ。

 

「運営側がどう出るのかな。俺はサミュエル・ルペスが出ることに賭ける」

 

 マスカレード、この場で相応しくない発言をするのもどうかと思うが。そもそも主催者が出てもおかしくないはずだろう。

 

「何故このタイミングで賭けをする。というか確実に出るだろ」

 

 サミュエル・ルペスが映像に映る。やはり出てきた。ここからの展開が読めない。それでもやれることがない。見守るしかなさそうだ。

 

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