ザクエラ・ヌーヴォの逮捕。魔界で起きた出来事とはいえ、競技場であったことだからか、人界でも話題としてとりあげられた。経緯等については不明だと書かれ、それが原因なのか、コメント欄を見ると無法地帯となっていた。元から見る価値がないからどうでもいいが。
「でもよ。なんでこんな急展開に」
アーリーの疑問は尤もだ。あの場にいなかったから、余計に理解しづらいはずだ。しかも観戦席にいた俺も何故そうなったか分かっていない部分が多い。ただ……。
「これだけは言える。名もなき奴らとオフィウクスが手を組んだ可能性がある」
「いやそうかもしれねえけど。だって都市伝説扱いされてたんだろ? そのノーネームド。どうやって知り合うんだよ」
都市伝説として扱われていた連中とどう出会う。元から知り合いだとは思えない。試合がなかった日で何かあったのは確実だが、それ以外は分からない。というよりか、どう考察していけばいいのかさっぱりだ。判断材料がないに等しいからだ。
「それは分からない」
「だよな」
はっきりと言ったら、何故かアーリーはガックリしていた。気になっていたのか。
「あ。なんか新しい通知来てる」
端末に何かが来ていた。アーリーが操作すると、宛先が判明した。運営委員からだ。
「詫びか」
「だといいんだが」
「お詫び申し上げます」の類だけならまだいい。直感でもっと最悪なものがあるのではないかと悟った。文を読む。登録選手一同。この度はご迷惑をおかけしました。原因究明、及び裏の組織に関する調査により、今回のシーズンは中止いたします。思わずため息を吐いてしまう。
「だめだったか」
「ああ。中止になる前に……戦いたかった」
オフィウクス。奴と戦う機会が失ってしまった。解決したのは良かったのだが……楽しみにしていたものがなくなると、複雑な気持ちになる。
「うわーお。テンションガン下がりだ。誰とやりたかったって」
「オフィウクスだ」
「だろうなと思った。残念っちゃ残念だけど」
アーリーが固まった。視線の先はベランダだ。カーテンを開け、日光が当たるいつもの光景。急いでアーリーがベランダの方に行っている。何故だろう。
「いきなりどうした」
無言で見せてくれた。手のひらに細い蛇。ピンクのリボンのようなものが巻かれている。この感じは間違いなく、オフィウクスのものだ。ぶつかったのか、気絶しているようだ。
「此奴をどう思う」
アーリーが真剣な顔になっている。魔力が籠っているリボンを先に解くとしよう。
「躊躇なしでやるかフツーは。罠とかの可能性もあったろ」
「オフィウクスからだ。問題ない」
「……よく分かったな」
アーリーが感心しているような、呆れているような、複雑な表情になっているが、無視しておこう。解いたらリボンから紙に変化した。魔法でそういう風に設定したということか。手紙。俺宛であることが分かる。魔力がかなり特徴的だったものだから魔法で送らせてもらった。話がある。魔界都市キマリスにある戦士の像で待つ。そう書かれていた。返事をしたいところだが、召喚した蛇を経由しては難しいだろう。予め返事なども含めている場合は楽なのだが。
「とりあえず書いたらどうだ」
考えても時間の無駄だ。アーリーの言う通り、返事を書こう。了承の言葉を書けばいいはずだ。魔界の住人相手でも問題がない文字のはずだが……実際に書くと不安しかない。
「アーリー。これでいいか」
見させてもらうのが1番いいだろう。そう思ったのだが、アーリーの反応がよくない。
「もうちょっと書かねえか? 素っ気ねえにも程があるだろ
確かに文章1つだけだと寂しい。冷たいという印象を受けてもおかしくもないだろう。一応通信教育で書き方も教わったのだが、実際にやってみるとなると別だった。難しい。ただ書けなくはない。こちらとしても色々と話したいことがある。そうなるとこの文章が最適だろう。
「これでいいだろうか」
「おう。それで合ってる。何だかんだ話したかったんだな。お前も」
何故かアーリーがニヤニヤ笑っていた。悪意はないと思う。しかし揶揄っているように思える。気のせいだろうか。
「ああ。あの件は謎が多いからな。どこまで話せるかは分からないが、ある程度疑問を解決しておきたい」
「あーそっちだったか」
答えたら何故か落胆していた。解せない。
「ん」
この爬虫類の独特のひんやりとした感触。左の人差し指に巻き付かれた感覚。何故だと思いながら、指を見てみる。
「回復したのか」
すぐに合点がいった。召喚の蛇が回復していた。待っている仕草をしている。小さい手紙を細く折って、紐のようにし、結びつける。これだけだと不安定で落ちる可能性もあり得る。付与魔法でやっておこう。
「オフィウクスに頼む」
小さい蛇が飛ぶ。これで返事を出したわけだが……これでどう出るのか。どういった話が出来るのか。自分の望みが叶えられるのか。それは分からない。とりあえず話が出来るだけマシだろう。