焚火を囲っての座りながらの食事だ。久しぶりに食にありつけた。固まりのようなものを液体に入れることで食い物になるとは実に興味深い。戦っていた時にはなかったものだ。もしあの時にあったら、荷物が軽くなっていただろう。
「さてと。初めましてと言うべきかな。考古学者のカーターだ。彼女達はその助手といったところだね」
老人の名がカーター。考古学と言うのはどういうものかは不明だが、調査する職のはずだ。色々と迷惑をかけてしまった女はその助手だった。奴らはその仲間のようだ。
「俺はアーリー・オットー。で。此奴がパメラ・ゴールドだ」
茶髪を逆立てている細身の男がアーリー・オットー。色々と迷惑をかけてしまった女の名がパメラ・ゴールド。他の名も聞いてみたが、全員苗字持ちとは珍しいこともあるものだ。
「ショール君。君は普段からあの遺跡で遊んでいるのかね? それともそこを住処としているのかね?」
考古学者の奴からそう聞かれた。住処であることには否定はしない。ずっと眠っていた。何も食わず、どれぐらい経っているのかは不明だが……何があったのかを話しておいた方がきっと答えやすくなるだろう。
「俺は友と共に世界をかけて……戦士として戦っていた。神に等しい存在を倒し、激しい戦闘を繰り返していた。人間界のためにと必死にやってきた。最強の戦士だが、それしか取り柄がなかった。だから戦うことだけ、やってきた」
奴らの反応は鈍くない。何かを知っている様子だ。
「だが所詮俺は人間だ。幾度となく戦い、気力でどうにか保っていた。油断していた自分が悪かったと思う。倒して気が緩んだ時、魔法をくらった」
「そして今日まで眠っていた……か」
考古学者カーター、何故それが分かった。この場にいる奴ら全員が分かっている感じだ。
「どうして分かったのかって感じだね」
腕輪から何かが出てきた。半透明の水色の四角が浮かび上がっている。以前見たことがある魔法の天才ケリドウェンが開発したものと酷似している。あの時は大きい物を触れて発動していたが、ここまで小さくなっていたとは。絵と文字。黒い鎧。雷を纏う大鎌。読みは怪しいが眠りの騎士で良いのだろうか。
「古くから伝わっている物語でね。2つの世界が混じっていない時のお話だよ」
考古学者の言う物語に間違いがなければ、あの時の混じっているという印象は気のせいではなかったということだ。
「今の時代に知らない子はいない。君も幼い時に嫌と思うぐらい聞いてきたはずだ。ごっこ遊びはやめなさい。正直に答えてくれ。何故あの場にいた」
逆に怪しく思ってしまったか。伝え方が下手な自分のせいだ。
「カーター博士。俺はショールが本物じゃないかって思うんです」
アーリーは何を言おうとしているのだろうか。
「オットー君。何か考えが?」
「ええ。ショールと名乗る青年と初めて会った時、言語による意志疎通が出来ていませんでした。見たことのない魔法でいきなり通じるようになって。あと初めて見るものでしたし……ついでに素っ裸でした。今の安物のズボン、俺の予備ですし」
ついでとは何だ。裸だからと言って、恥ずかしがる必要はないはずだ。
「凄かったよね。正々堂々と全裸で」
「ああ。あれひとつの作品だよな。街中でやったら逮捕待ったなしだけど」
他の2人の言葉通り、流石に全裸で動くのはまずいか。パメラという女は両手で顔を隠し、考古学者は頭を抱えている。今後やらないように気を付けよう。
「いくら何でも……世の中を知らなさすぎるのではないか!? 言語は地区によるからまあそこは省くとしてだな! 根本的には大差ないはずだが!」
考古学者が喚きだした。これでも常識は持っていると自覚している。そのはずだが、だいぶズレてしまっている。話を聞いている限り、相当時代が流れている。どれぐらい寝ていたのか分からない。ズレはそこから生じているのか?
「世間ズレの子でもこうはならんでしょ。いっそのこと、千年前の記録でも見せたらどうですってもうやってるか」
アーリーが言う前に考古学者は喚きながら何かをしていた。千年前の記録。千年?
「当たり前だ! これでも学者だぞ! 冷静さが失ってもやるべきことぐらいは分かってる!」
映っているものが別の物に変わっている。ああ。この字は懐かしい。王が書いたものだ。
『友であり、我が黒雷の戦士に送る。いつか目覚める時、読んでくれることを願って。戦いは終焉に向かった。我々も魔界側も多大な被害を被った。互いに生きるために起こされたもの。争うだけでは生きてはいけない。課題は山ほどあるが、超えてみせる。我が友よ。未来はどうなっているのだろうか。見て。聞いて。感じて。歩んで欲しい』
「ショール君。これ使って良いですから」
小さい布を渡された。雫が落ちている。どこからだろう。目だ。俺は今、泣いているのか。止まらない。どうすれば制御出来る。
「博士。知ってて見せました?」
「いや。未解読のものだよ。ここまで泣くのは予想外だよ」
考古学者とその助手の奴らに見られているのに、未だに涙が止まらない。
「無理に泣くのを止めようとしない方がいい。思い切り泣いて良いよ。それで気にする人はいないから」
カーターが背中を擦ってくれている。ああ。我が王よ。油断して眠りに付いてしまった愚かな自分をここまで大事にしてくれた感謝をしたい。どうしてもうこの世界にいない。戦友たちもそうだ。別れすらも告げていないというのに。