魔界都市キマリス。自分の記憶では戦があった頃の72柱の魔神の名のひとつだったはずだ。まさか都市の名になっていたとは思ってもみなかった。土の色で作られた建物。積み上げて作ったものだとすぐに分かる。列車の駅前に馬に騎乗した戦士の像。見覚えがあった。キマリスの姿を模したものだ。有名だと知っていたが、後世まで知られていたとは……流石といったところか。
魔界の住人らしき女性達がこちらを見ている。頬を染めている。自分の容姿が優れていること自体は理解している。しかし……かつて戦った魔界の住人からああいった反応をされるのは未だに慣れない。いや。嬉しいが、気持ちの問題だろう。千年も経ち、再び魔界に降り立つだけではなく、有名になった人間を見て、かつて魔界の戦士として戦ってきた者はどう思うのだろうか。
そもそも既にこの世にいない彼らに聞けない時点で諦めるしかないだろう。さて。肝心のオフィウクスはどこにいる。周囲を見渡したが、姿が見えない。そうなるとまだ到着していないのかもしれない。時間的にこちらが早く着いていたのが事実だ。気長に待つとしよう。その間に今朝やった範囲を復習しておこう。そろそろテストとやらが来る。対策をしないとマズイ。
「お。グリムリーパーじゃねえか」
聞き覚えのある安心感のある男の声。そのはずだが、あまり覚えがなかった。さらさらとした赤毛を肩まで伸ばした屈強な男の姿。スーツとやらの格好で堅苦しい印象が強い。ここで気付いた。顔だけ見覚えあった。
「まさか……スピリタスか?」
「おう」
本当にスピリタスだった。
「仕事か」
「ああ。商談っていう奴だよ。そういうお前は何でこっちにいるんだ? 競技中止になって、用はねえはずだろ」
確かに本来なら人界の住人である自分が魔界に行く理由はない。面倒な展開になりそうだが、一応正直に話しておこう。
「何だその顔は」
知らない間に俺は変な顔になっていたみたいだ。まあいい。
「オフィウクスと待ち合わせをしてる」
「ほお? つまりはあれか。デートという奴か」
スピリタス、何故そういう発想になった。アーリーも似た答えに辿り着いていたが……奴らの思考回路が意味不明だ。これは永遠に理解出来そうにない。
「違う。競技の事件のことがあっただろ。それの話を聞くためだ」
えらく落胆した。
「そっちか。てっきりあっちかと思ったんだがな。おっと。そろそろ行かねえと。グリムリーパー、またどこかで会おう」
「ああ」
商談とやらは時間が大事だ。だから行ってしまったのだろう。それにしてもスピリットは愉快な奴だ。それにまた手合わせ願いたいものだ。奴の姿が見えなくなった。復習をやっておこう。
「うーん。真面目にやってるね。まあ学生だと当たり前っちゃ当たり前だけど。頑張りたまえ。青少年」
途中お気楽そうな女からそう言われた気がした。気のせいだろう。そう簡単に積極的に声をかける度胸の……競技参加者ならいそうだ。否定しておこう。
「グリムリーパー」
どれぐらい復習が進んだかは分からないが、オフィウクスが来たため、中断にしておく。
「すまない。待たせたな」
オフィウクスは黒色のセーラー服とやらを着ていた。選手としての顔しか知らないからか、恰好が違うだけで雰囲気が異なっている。
「あ。ああ。これは学校の制服だ。授業が終わってすぐに向かったからな。初めて見るのも分からなくもない。人界と魔界の学校文化が異なるという話もあるからな」
くるりと回りながら教えてくれた。今の肉体年齢を踏まえると、本来は俺も高等学校に通ってもおかしくない。恐らくオフィウクスもそういうものなのだろう。
「そうかもしれないな。それで話したいと書いていたが」
「ああ。お前も気になってるだろ。何故急展開が起きたかを」
やはりあの件での話だった。
「流石に公衆の面前で語るわけにはいかない。だからその場所に向かおうと思う。付いて来い」
オフィウクスに付いて行く。キマリスの道は思ったよりも単純だ。路面電車が2つほど走れるほどの幅がある、大きい道ばかりだ。路面電車に初めて乗ったわけだが、時代が進んでいるということもあってか、乗り心地が良い。空飛ぶ船に比べれば、本当に快適だ。申し訳ないが。
「プラチナのツートップだ」
「え。何で一緒にいるわけ」
乗客がひそひそと話している。流石に注目度の高いオフィウクスと共にいるとこうなるか。何故ツートップ扱いになっている。強者のマスカレードやレオがいるだろう。そう思ったが、今回不参加組だ。記憶が正しい限り、負けがない選手となると俺自身とオフィウクスのみ。ツートップというのも納得がいく。
「グリムリーパー。次の駅で乗り換えるぞ」
「分かった」
考え事をしていたら、電車の乗り換えだ。それを3回ほど繰り返した。途中歩いたりもした。ずっと注目を浴びないためだろう。
「随分と時間がかかるんだな。目的地はどこだ」
地図の現在位置が南からどんどん北上している。電車と徒歩だけ1時間経過。オフィウクスはどこに向かうつもりだ。
「私の家だ。キマリスの外にあるからな」
魔界警察のフラウの発言を思い出す。確か……良いとこ育ち云々だったか。大きい土地を有した家系の娘と言ったところになりそうだ。
「そろそろ到着するから安心して欲しい」
木で作られた大きい門を潜る。骨や不気味な仮面など呪いの道具がぶら下がっているが、いつものことなのか、オフィウクスは気にする様子を見せない。人によって作られた魔界都市の外は自然が残る草原。その先にあるうっすらと見える集落がオフィウクスの住処なのだろう。