校舎内に入る。オフィウクスが在籍しているクラスに向かう。色々な勧誘がある中、人が多い廊下を渡り歩き、目的地に辿り着く。
「ここだが!?」
不意にオフィウクスが教室に引きずり込まれた。普段なら対応できるはずだが、クラスメイト相手だと気の抜けた面が出ているのだろう。否定しよう。さきほど悲鳴があがった。女が楽しそうにしているが、何をしているのだろうか。
「グリムリーパーではないか」
聞き覚えのある老人の声。プラチナピンク色の短髪の老婆。紫色の布を纏って、洒落ている。ブロンドランクのマーブルだ。
「マーブル。何故ここに」
「孫がここに通ってるからね」
確かに孫がいてもおかしくない年齢だ。囲まれている感じしかない。
「何故お前はここで待ちぼうけしてるわけだね」
気になるのも無理はない。
「オフィウクスと共に行動をしていたのだが……急に姿が見えなくなってな。いや。この表現は違う。教室にいるクラスメイトとやらに引きずり込まれて……このままだ」
「学年的にそうだろうと思っておったが、ここオフィウクスがいるクラスだったのか。ま。あと少ししたら来るさ」
楽しそうに言って、マーブルはどこかに行ってしまった。あと少ししたら来る。何か感じ取ったのか。今更だがオフィウクスのクラスの出し物を確認した。喫茶店だった。店員はシンプルな恰好ではなく、メイドと執事の格好だ。魔法で弄っているらしいが、言及はやめておこう。
「あ。グリムリーパーさん、どーぞ中へ!」
元気ありまくりのふりふりのメイド服の女に呼ばれたので中に入る。控室と書かれた看板。カーテンで囲まれている。狭いように見えるが、魔法で広くしているのだろう。
「わ。ちょ。こ。この格好をグリムリーパーに晒せと!?」
「大丈夫だって。えーい」
困惑気味のオフィウクスと呑気な女。考える暇なんてなかった。女がオフィウクスを押して出したからだ。
「グ……グリムリーパー」
オフィウクスは制服姿から別の格好になっていた。白と黒のメイド服。そのはずだが肩を出し、胸を強調させるような形だ。スカートの長さが短く、ちらちらと靴下止めみたいなものが見えている。正直……目に毒だ。
「見……見ないでくれ。恥ずかしい」
オフィウクスはそう言って、顔を赤くしている。恐らく俺も顔を赤くしている。かなり顔が熱い。どう言えばいいのだろう。女と夜を過ごした経験はいくらでもある。ただそれは俺自身の立ち位置が高いところにいただけだ。素で付き合えたことなんて一度もない。いくら後悔しても仕方ない。褒めるしかないのだろう。そして誘えばいいはずだ。この場面は。
「その……似合ってると思う」
効果なさそうだ。むしろ悪化している節がある。その割に周りは特にフォローする気配がない。
「良かったら……一緒に食べないか」
大フィーバーという奴だ。クラスの仲間らしき奴らが盛り上がっている。そう言えば異性にそういう誘いをしたら……そうなるのか。感覚が中々掴めない。この感じは。右手で受けとめる。
「この状態でも出来るとは……流石だな」
「私としてはモロにくらって欲しかったんだがな」
いつもよりは弱い拳。それでも素早い。鍛えている輩ではないと、到底防げないものだ。
「はいはーい。ここでバトらないでねー」
ポニーテールをした穏やかな女が近づいてきた。この感じは魔法で特徴を隠している。ここは素直に従うしかないだろう。
「承知した。適当に座る。オフィウクス、それでいいか」
「ああ」
力の弱い返事。今のままだと話しづらい。それに見ていくとなると……目立ちそうだ。
「着替えてきたらどうだ。まだ色々と回るだろ」
周りから批判的な目で見られた。一方でオフィウクスはホッとした表情を見せている。どれが正解だ。そう思いながら、制服姿に戻ったオフィウクスと席に座る。
「すまないな。色々と」
「いや。こちらも変なことを言ったかもしれない。すまなかった」
互いに謝ることから始まるなんて思ってもみなかった。
「ところで。どうだ。実際に学校に来て」
オフィウクスが強引に話題を変えていく。ずっとぎこちないムードは良くないという判断か。
「そうだな。俺は通信しか受けた事がない。それに友の話を聞いた程度でしかなかった。だから空想上でしかないようなものだった。賑やかだな。本当に」
「ああ。変人奇人ばかりだからな。イベントがない日でもトラブルなんてよくある。競技関連はそうでもないのだが、創作系は大体やらかすぞ。この間なんて人型機動兵器が勝手に動いて一部閉鎖したしな」
苦笑いした。相当酷かったのだろう。一部閉鎖と言っている時点で。
「グレードアップしたいというのが機械創作部の主張だったらしいが、トラブルのリスクを抑え、かなり控えめにしたという結末だ。作品を出していたはず……確か屋外展示だ。見に行くか?」
「そうだな。見に行こう」
千年も前にはなかった代物のはずだ。ぜひこの目で見ておきたい。
「お待たせしました。紅茶とケーキです」
さきほどのポニーテールの女が来た。
「グリムリーパー君。学校は何処に行ってるのかな」
女から不意の質問が来た。学校は何処に。通う方が大多数だからか。
「通信教育を受けている身だからな。その質問には答えられない」
「へーそっちなんだ。こっちに来ない? 退屈しないわよ」
オフィウクスがいるクラスは高等教育の範囲だ。俺は初等教育から学んでいる最中だ。編入試験を受けても確実に不合格判定をくらう。
「誘いは嬉しいが……ここでやれるほどの学力はない。純粋な知識量はここの中等部より下だと思う」
「そっか。ちょっと残念。はーい。分かった。今行く。ふたりとも楽しんでねー」
誰かに呼ばれたのか、にこにこと笑って、仕事に戻っていった。
「てっきり私は行くと答えると思っていたが……意外だな」
オフィウクスにとって、俺の答えは意外性を感じていたみたいだ。
「事実を言っただけだ。今の俺ではここの中等部の授業すら受けられない。諸事情があってな。まともに教育を受けられなかった身だ。初等教育の段階からやっている」
大昔の時代の人間であることは伏せておく。それ以外は全部言っておけば、怪しまれずに済むはずだ。
「そういうタイプだったのか。そうなるといずれは働きながら、教育を受けていく形になるのか」
事情によって通信教育を受ける輩もいるのか、特に怪しまれずに済んだ。将来に関する質問はどう答えようか。今まで一度も考えたことがなかったわけではないが。
「それは分からない。色々と手探りしながらになるだろう。そういうお前は」
オフィウクスは少し悩む仕草をする。
「まだ悩んでいる。小さい子達を支えたいと思っているがな」
「子供達をか。俺には出来ないことだな。俺は……」
ケーキを口しながら、本当に言って良いのかと悩んでしまう。本質は戦士。ギリギリで戦って、血塗られた者でしかない。平和になった今では不要なものだ。
「今の所……戦う事以外、何も出来ない」
「私もだ。前はそうだった。複数の魔眼を持っていたからな。神話の時代から引き継いだものを活かすとなると、戦うこと以外ないようなものだと思い込んでいた。ここは色んな奴がいるからな。接していくと次第に答えが変わっていった。」
神話からある魔眼を複数所持しているとなると、周りの圧力があるだろう。戦う以外ないと思い込んでしまうのも分からなくもない。
「魔法総合格闘技も変わった者が多いからな」
そうかもしれない。ただの戦士ではない。何かしら経たものばかりだ。純粋な戦士ではないからこそ、色々と模索してみたいと感じるのかもしれない。
「そうだな。だからこそ挑戦してみたいかもしれない。色々なことを。だから案内して欲しい。こういったところは滅多に行かないからな」
ここは様々な生徒が多い。変わった奴らがいる。接したりして、吸収していきたい。