アーリーからも問題ないという見方で、遠隔の面接で「人手が足りなかったのよね。ありがとう」と合格を受け取ったので、俺は初めてバイトをすることになった。第三区と呼ばれる再開発をしている地区のショッピングモール。吹き抜けのある建物の広場で行われるらしい。
指定の格好は決まっていない。しかし動きやすい恰好が相応しいというわけで、服に関しては私服と大差ない。浮く要素はないと思ったが、普通に浮いていた。新人界でも魔法総合格闘技の知名度があることを忘れていた。
「流石はプラチナ級に出ていた男だね。力仕事を任せられる」
仮に格闘技に出ていなくても、力仕事を主にやっていただろう。イベントを主催する女から指示を貰い、軽い紙で出来た頑丈な箱を運んでいく。その間に他の奴らはセッティング作業をしていたのか、物売りのところだと分かるような見た目になっていた。看板があり、台に布を敷く。天の世界だと感じさせる水色と白色を使っている。神々しさは流石に難しいが、ああいうものは金と時間が要る。無理にやる必要はないということか。
「おーそこの力持ちの君。どっかで見たことあるけど」
箱を床に置いた時だった。のんびりとした男に話しかけられた。芸術に勤しむ優男と言った感じだ。マスカレードと違うタイプ。そもそも白い翼がある時点で天の世界の住人である事が分かる。動きやすい恰好から時間遅れで来たバイト要員だなと感じ取るぐらいか。
「魔界の魔法総合格闘技に出ていましたからね。どこかの動画で見たとかでしょう。そういうあなたは……天使で合ってますか」
戦があったあの頃は伝承の存在でしかなかった。今でもニュースに出てくる遠い存在だ。それ以前に天使は御使いだから、慎重に接する必要があるのも事実だと俺は考えている。敬語を使ってどうにかなるとは思えないが、出来るだけのことはやる。
「ぶっは」
天使の男が唐突に吹き出した。そして震えだしている。俺は何か変な事を言ったか?
「おじいさんじゃないんだからさ。もうちょっとその」
俺の接し方があまりにも固かったらしい。大昔に生きていた人間だと伝えても、更に爆笑して周りに迷惑をかけて……しまいかねない。冗談の類だと受け取るだろう。そうなるとこれしかない。
「田舎育ちですからね。爺さんと過ごしていたこともあってか、やや古臭い価値観を持っているのかもしれません」
「納得納得。でもそのさ。敬語はなくっていいからね」
どうやら若い奴らは天使に対してフランクに接している事の方が多いようだ。そして俺のような考えは爺さん辺りに多い。あれだけニュースに取り上げられていたら、どう感じ取るかも変わる。それも時の流れというものだろう。
「そうか。そうさせてもらう」
「うん。そっちの方がいい。はーい。俺、呼ばれたから行くね。力仕事ガンバ」
互いに仕事の持ち場に戻っていった。天の御使いと言われる天使。まさかバイトで遭うことになるとは。しかもかなり友好的に接してくれていた。あの頃の友人に伝えても、「信じられない」と突っ込まれてしまうことだろう。そういう意味でも、このバイトをやっていて正解だった。