天界に行きたい。そう思うのなら、複雑な事情を抜きにした場合、昔はただ空を飛び、見知らぬ奴の家に泊まればよかった。だが今は滞在するときは金が要る。俺でも手が出せる宿は最低限のものしか提供されないらしいが、自然の中で寝てきた経験があるから、その辺りは問題ない。外敵がないから気楽にいられるのが良い。俺にとっての問題は……天界の知識があまりにも古過ぎるということだ。
「アーリー」
台所で作業をしていたアーリーに聞くとしよう。奴なら少しは知っているだろう。
「なんだ?」
作業中だったみたいだが、問題はなさそうだ。このままいく。
「天界について、どこまで知っている」
アーリーは悩んでいる。眉間に皺が寄っている。
「一般的なものだとあれだな。神々が住んでいて、天使がそれに仕えているとか。数千年も前から、同じ関係を築いていたという証拠もあるぐらいだしな。最近だと浮遊都市国家と呼ばれるでっかいところが栄えてるぜ。トレンドは確か天の乳って呼ばれるもので作ったデザートだな。同じ牛でも品種が違うとか、そういうので全然味が違うって話だぜ」
神々と天使。浮遊都市国家。天の乳で作られたデザート。これだけだと想像が付かない。より細かい調べが必要だろう。
「正直」
アーリーの発言に続きがあった。聞くとしよう。
「電子世界経由で調べた方がいいぜ。俺は天界の専門家ってわけじゃねえし、パメラみたいにトレンド詳しいわけじゃねえしな」
アーリーが頭をかきながら言った。学問の知識。トレンド。ありとあらゆるものが欠けている。そういう捉え方でいいのだろう。しかし俺としてはそれで十分だ。
「いや。手掛かりを教えてくれただけでも十分だ。助かった」
「……あれから、急に天界のこと興味持ってるみたいだけど、何かあったか」
アーリーの指摘が来た。鋭いな。いや。検索履歴で天界の行き方などが残っているから、それで見たということだろう。そう言えば、天使と会ったことを伝えていなかった。ますはそこからだ。
「バイト先で天使と会って、少し話をして、興味が出た。俺自身の名が昔話に出てきたというのが一番大きいが……その天使との出会いもあったからこそだ」
「そうか。とりあえず宿の確保だけは忘れるなよ。街路で寝ることをするなよ」
ひと昔の俺なら確実にやることを突っついてきた。とは言え、この時代での生活はある程度経っているのだから、常識ぐらいは身に付けている……はずだ。
「安宿にする予定だから問題ない」
「……変なとこを選ぶなよ? 安いなりに理由ってのがあるんだからな」
「俺なら対処可能だが……面倒ごとに繋がるのは厄介だな。気を付ける」
「がんばれー」
アーリーが作業再開したか。宿よりも天界について調べよう。歴史がここまで簡潔に載っているのは凄い。世界誕生。神々の住まい、天界に関するエピソード。地上の世界に鉄槌を下したとされる出来事。天使の身分の革命。都市国家建設。天使は恐ろしいもので、人とは決して分かり合えない。そういう話も聞いたことがあった。しかしこれを見ている限り、大して差はない。天界との交流が増えているこの時代にいるからこそ、感じることだろう。我が王もビックリするはずだ。そのまま酒で飲み交わしそうだ。
「白い」
下を見ていくと、画像が出てきた。街の風景というものらしいが、白くて眩しい。数千年前からずっと同じだと? 戦場になったことがないのか、或いは管理が上手いからか。新しい都市は白い塔がたくさんあったり、ガラスみたいなもので出来たタワーのようなものがあったりしている。周りのものに合わせて作ったと書いている。天界は天界だと考えていた俺が浅はかだった。ここまで幅が広いとは思ってもみなかった。とりあえずいくつかに絞って、宿を確保して……移動できる公共交通機関を探そう。あとは資金を計算して、目標を設定しておこう。
こういうことができるのも、平和だからこそだろう。戦があった頃は計画を立てて、のんびりと旅行すること自体ができないものだった。かつての友と一緒に出来たら……もっと良かった。