目を覚めた。前と違い、人がいる。右の2人が寝たままだ。既に誰かが起きている。外に出よう。
「ああ。ショール君。早く起きてたのか」
カーター博士だった。指で空中に1つの文字を描く。あの頃にはなかった魔法だ。唱えてないのに黄色の固形物に火が付いた。
「初めて見るかね」
「ああ。初めて見たものだ」
カーター博士はお湯を沸かして、何かを作るつもりだったみたいだ。その証拠にやかんに水が入っている。手伝えることがあればと思うが、知識すらない今は足を引っ張るだけだ。見る事に徹しよう。
「……昨日、ビッグボスに君の事を報告したよ。今の状態だと、生活自体が厳しそうだしね」
その辺りは否定しない。平和な時代となると、強すぎる戦士は不要だ。あの魔女がズボラだったから、家事は平気なのだが……どう活かせるのかが疑問だ。
「暫くはうちの助手のとこで過ごして、通信教育とかで学ぶと良い。ああ。それとだね。もう1つ」
学ぶ機会が与えられるのはありがたい。1人だけだと、確実に詰んでいた。カーター博士の言う「もう1つ」とは何の事だろう。
「なんだ」
「ビッグボスが言ってたよ。君があの昔話に出て来る人物そのものである可能性が高いとは周りに知らせないつもりだとね」
位の高い職種ではないから気にしない。戦に善も悪も関係ない。ただ戦うのみ。名誉は二の次だ。とは言え、時が流れているのは確かだ。確認しておいた方が良いだろう。
「それは構わないのだが……理由はあるのか」
「今は情報が全世界にあっという間に行き渡るからだよ。万が一ということもある」
「それも魔法の1つか」
「そう。蜘蛛の巣と呼ばれる目に見えない糸を張り巡らしてね。まあこの辺りは少しずつ分かればいいさ」
聞いただけでは分からない。だが魔法であるのは確かのようだ。
「それで。今日はどうするつもりだね? ここに残って作業するのも良いし、探索に付いて行くのも良いが」
すぐに答えが浮かんだ。そのまま言おう。
「探索に付いて行こうと思う。武器があるかどうか、探しておきたい」
「分かった。あとでミーティングをやろう」
予備の服を着替えた後、4人全員が起きて、パンと目玉焼きを食べた。黒いねとねとした物を付けてパンを食べていたから好奇心でちょっとだけ貰ったが……言葉で言い表せない珍妙なものだった。暫くは食べたくない。
朝食後、会議が始まった。体感としてはそこまで時間は経過していない。ここに着く前にある程度計画を立てていたのかもしれない。自分の望みも伝えてみたら、アーリーとマイケルの目が輝いていた。そしてパメラとトゥルシーは普通の反応だったが、何故そうなのかは分からない。とりあえず望みを受け入れてくれたことは理解した。終わってすぐ、自分がいた洞窟に入った。
友が洞窟にどういうものを付与したのかは分からない。ただ本当に何もない。感知の魔法をずっと使っているが、何も感じない。
「やっぱ何も引っ掛かってないよね」
手の平に収まるものに細い線が出ている。パメラ以外も持っている。
「魔法の痕跡を拾うものか」
「うん。私達探索者の必須アイテムだよ。こういう遺跡って何かしらの罠があるから。何でか今回はそういった感じのないっぽいけど」
探索者とやらの職種の奴らが首を傾げている。変だと感じているのだろう。かく言う俺もそうだ。俺という存在を守ることを前提に考えると、魔法の痕跡が1つもないことに不自然を感じている。
そしてずっと歩いて来たわけなのだが、特に大きいトラブルは起きなかった。こういうのを嵐の前の静けさなのかもしれない。そう思って警戒をしていたのだが、寝ていた場所まで辿り着いてしまった。これ以上は奥に行けない。ここで終わりだ。
「罠もそうなんだけどさ。物もないよね。ずーっと道だったし。本当に祭壇なの?」
「仮で付けられただけなのではないでしょうか」
トゥルシーが地図を見せてくれた。文字は読めない。だが小さい村があるというのは理解した。
「だね。推測だけで名付けただけだもんね。あれ。実態がどうかは別の話だよ。正直もうちょっとエキサイティングな何かがあればと思うけど」
マイケルがつまらなさそうに言った。何を期待していたのかは付き合いが浅くても分かる。アーリーの顔が良い証拠だ。
「それはお前だけだよ!」
やはりそう言うと思った。改めて周辺を見てみよう。祭壇を想像する道具は置かれてはいない。岩の寝台の下に何かある。木の箱だ。ここまで大きいのは滅多にない。引っ張って中を見てみる。
蓋を開けると、布で包まれている何かが入っていた。布を取っていくと、自分と同じ長さの黒い大鎌が出てきた。赤い魔石が埋め込まれている。懐かしいものが出てきた。だが念のため、魔力を込める。この感じだ。痺れるような感触が伝わってくる。
「鎌でっけ!? え。それお前の?」
アーリー達が驚くのも無理はない。魔武器の職人が手間かけて作った世界で1つしかない雷の武器だ。主の思いを元に変化する。戦場で頼れる相棒。固有の名がやたらと長く記憶はしてないが、それは大した問題ではない。
「ああ」
全員が魔武器を見ている。何か言いたげだ。
「街のど真ん中でそのまま持ち歩くんじゃねえぞ」
アーリーから俺のことを常識のない人間だと思われている。時代の流れによる価値観の違いがあるため、否定は出来ない。だがこれでも時と場合に合わせられる。あの頃も非戦闘時は黒いブレスレットにしていた。
「これで問題ないだろ」
無言だな。この武器自体、かなり特殊だ。戦っていた時ですら、驚愕の表情を見せていた奴の方が多かった。この時代でもそういうものなのか。
「ちょ。ちょっと失礼。調べさせてもいい!?」
「傷つけるつもりがないのなら大丈夫だ」
「よし!」
パメラが腰に付けている鞄から何かを取り出す。魔法陣を書いた紙を敷く。
「上に置いて」
持ち主の俺から離れ、黒いブレスレットは元の大鎌に戻る。はみ出ているがこれは大丈夫なのだろうか。
「はみ出ているが良いのか」
「うん。問題ないよ」
見たことのない文字が空中に羅列する。これも初めて見る魔法だ。朝見たものと似てはいるが、ここまで複雑ではなかった。
「ふぅー」
パメラはやりきったという顔をしている。集中してやっていたからだろう。しかし何をしているのか見ていても理解出来なかった。
「パメラ。今のは」
「対象が出来た年代を推測する魔法だよ。物質とか魔力とかの積み重ねを計算して、答えを出す。まああくまでもこれぐらいだってものだから、絶対じゃないんだけどね。因みに今回は1005年前って出たよ」
武器が完成した時ぐらいだと仮定すると。そうか。1000年は経っていたのか。分かってはいたが、改めて聞くと……不思議なものだ。
「他に何かあった?」
「ないですね」
パメラが魔法を使っている間、3人は探っていたみたいだ。あの様子だと本当に物を置いていないだろう。こちらも感知魔法を使ってみたが、何も引っ掛かっていないので間違いない。
「カーター博士が期待してたとこ……なんだよな? 報告したらコップ落としそうだ」
「うん」
アーリーの台詞にパメラとマイケルとトゥルシーが頷いた。何か出ると見込んでこの洞窟を探索していたようだ。正直何か魔法で仕掛けてもおかしくないと読んではいたが、結局何も無し。あの魔女がやったからこそ、気づかないのか、本当に何もしていないのか。判明するのは難しそうだ。
外に出て、カーター博士に報告。アーリーの予想通り、コップを落とした。割れる素材ではないのか、形は保ったまま。それと空だったため、こぼれることもなかった。カーター博士のあれは、絶望が伝わる表情だった。学を追求する役職はこうなってしまうのか。その一方で俺は明るいと思う。大事にしていた相棒が手首にあるからだ。あるだけで心強い。定期的に動かせる機会があればと願っておこう。