黒雷の戦士ショールが歩く道   作:いちのさつき

5 / 37
第5話 第一区へ

 数日間、金属の箱で移動。空を飛ぶ船に乗った経験はあったが、こちらの方が心地良い。舵を取っていた奴には申し訳ないが。定期的に休憩を挟みながら、奴らが言う「第一区」とやらに着く。その時には日が沈んでいた。周囲を見ながら、奴らに付いて行く。部外者である自分が建物の中に入って良いのかという疑問を持つが、あちら側としては問題ないのだろう。恐らくは。カーター博士の研究室での話し合いが終わり、再び外に出て、住宅街とやらに入っていく。

 

 かつて戦っていたあの頃は土で作られた建物が多かった。平民という身分の住居は。それが千年も経つと、当たり前の話だが、変化している。暗い緑色が主体となっている。道も建物も。知識がない今だと、素材すら見当が付かない。

 

 この灯りは火によるものではなさそうだ。自分の知る街灯は火を付けて、数時間維持するもののはず。暖かさのない光。冷たい感じがある。見ただけではそう思う。それは自分があまりにも知らないからだろう。

 

「おーい。ぼーっとしてねえで早く来いよ」

 

 アーリーに呼ばれた。周りを堪能している場合ではなかった。

 

「ああ」

 

 暗い緑色の家が建ち並ぶ。感知の魔法を使うと、中に住人がいる。建物が冷たい感じすると思った原因は遮断しているのかもしれない。

 

「それじゃ。私達はこっちだから」

 

「おう。気を付けろよ」

 

「うん。それじゃ」

 

 途中でパメラ達と別れ、俺はアーリーと共に左の道に行く。どれも似たような家で、迷子になりそうだ。

 

「着いたぞ。ここが俺の住んでるとこだ」

 

 アーリーの足が止まった。家族で暮らす割にだいぶ大きい四角の建物だ。目測が正しければになるが、5階はありそうだ。やたらと入り口があるのには気になるが。あとで聞けば解決はしそうだ。付いて行こう。真ん中にある階段を昇る。3階で右に曲がった。3つの入り口があるようだが、真ん中がアーリーの家のようだ。慣れたように手でドアを触れている。力を入れるのが常識のように思えるが……魔法で開けるものなのか。隔てていたものが無くなっている。薄暗い中に家具らしきものが見える。

 

「先に入ってくれ」

 

 カチという音がした後に灯りが入った。中は白い壁とツルツルの木の床だ。台所らしきところとくつろぐところがある。見て回ろう。寝室が2つ。ものが無造作に大量に置かれている。もう片方は寝床だけだ。それ以外に体を綺麗にするところと洗濯機とやら。家族で過ごすには少し狭いように思える。しかし1人でとなると、十分……なのかもしれない。これ以上見る場所はない。戻ろう。

 

「今日はもう遅いからな。軽めの夜食だ」

 

 台所らしきところに入る。アーリーの両手に湯気が出ている器2つ。その内の1つを差し出している。自分の分は持てということか。

 

「あっちで食うからな」

 

 低い木の台。ふかふかとしたもの。娯楽の類のもの。明らかにくつろぐためにあるものだと思っていたが、それだけではなかったようだ。床に座って食事をとる。中に突っ込んでいた木の匙で掬って口に入れる。

 

 ねばねばのこれは牛の乳を発酵したものか。穀物と相性がいい。赤い粉は初めての感覚だ。舌に来る。刺激。以前というより、大きい戦の前に噂で聞いたことがある。暑い地域では辛い野菜があると。

 

 すぐ器が空になり、勝手に洗ってくれるという不思議な箱に入れる。押したら魔法陣がいくつも出ている。複雑だな。何種類か同時に発動は俺にも出来るが、精密な制御となると話は別だ。相当高い技術を持っているのだろう。

 

「あとは水を浴びて寝よう。使い方教えるぜ」

 

 壁に触れるだけでシャワーヘッドとやらから水が出て来る仕組みか。温度も調整出来る。便利だ。昔は冷たいままだった。知っている限りでは5人ぐらい喜びのあまり泣きそうだ。アーリーの教えが良いし、簡単な方法だから、そこまで習得に時間はかからなかった。体を洗った後は簡単な魔法で一気に乾かせばいい。寝間着を着れば、口の中を清めれば、あとは寝るだけだ。

 

「お前はこっちの部屋な」

 

 物が置かれていない寝室。気になったことを聞こう。

 

「1つ質問いいか」

「ん?」

「他に家族はいないのか。狭い感じがあるのだが」

 

 アーリーは特に表情を変えずに答える。当たり前なのかもしれない。

 

「察しの通り、1人で暮らしてるぜ。今は昔と違って、若い時は1人で暮らすことも多いんだ。寝る部屋が2つもあるのは、たまにダチが遊びに来るからな」

 

 誰が遊び来るのか想像は付く。悪戯好きのマイケルの顔が頭に浮かぶ。

 

「それじゃ。寝ようぜ。おやすみ」

 

「ああ。おやすみ」

 

 部屋にある柔らかい寝床で横になる。少しずつ瞼が重くなる。頭が回らなくなる。ただ移動に付き添ったようなものだが、疲労していたようだ。

 そうして朝を迎えた。透明の戸を通して、太陽の光に当たる。そのお陰で自然に目が覚めた。台所から音が聞こえる。そちらに向かおう。

 

「お。おはよう。もう用意出来てるぜ」

 

 既にアーリーは起きていた。しかも朝食の用意もしてくれていた。硝子のコップに緑色の液体が入っている。小皿に穀物を固めた棒のようなものと赤いドロドロの何か。

 

「食おうぜ」

 

 早速食べ始める。飲み物を最初に挑戦する。葉物をそのまま液体にした形だ。牛の乳があるお陰でまだマシ。アーリーは慣れているのか表情は変わっていない。穀物の棒は何も味がせず固い。赤いドロドロのものに付けて食す。これならまだいける。そう思った時だった。

 

「キキィッ!」

 

 何かの獣の鳴き声が耳に届く。

 

「ビッグボスから書類等が届きました」

 

 その後、抑揚のない温かみのない声がどこかから発する。アーリーが玄関に行ってしまった。すぐに戻ってくる。紙の封筒がパンパンになっている。それを低い木の台に置く。

 

「流石ビッグボス、仕事が早い」

 

 アーリーがペリペリと封筒を開ける。真っ白い紙。知らない何かで書かれている文字。自分の知るものではないことが分かる。

 

「ビッグボスはここ第一区の主で、色々と統治を行ってるんだ」

 

 突然、アーリーはビッグボスについて教え始めてくれた。ビッグボスとやらは耳にした程度で、ほとんど知らないからだろう。しばらくは第一区で生活することになる。道理という奴だ。

 

「そうか。王みたいなものはいるのか」

「いや。お前が想像する王様はいねえ。色々と変わっちまってな。世界統一戦争って言うのが起きてからは、企業が世界そのものを支配してる」

 

 アーリーの言葉に少し引っ掛かる。前ならまだ王のような者がいたと言っているような感じだ。企業はあまり知らないが、元々は土地を支配するようなことはやっていなかったのではないかと考えてしまう。

 

「ま。その辺りは勉強しとけおけばいい。これから読むから、しっかり聞いとけよ。ビッグボス直々の手紙だからな」

 

 真剣に聞く必要がある。食事は中断だ。

 

「ショールと名乗る青年よ。初めまして。第一区を統治しているベンジャミン・プライスだ。カーター博士から色々と聞いている。古い時代の生き残りである可能性が高いとね。こちらの方でも住民登録をしていないことが分かったし、生きる上で必要なものすら知らないことも分かった。私達は出来る限りのサポートをするつもりだ。住民登録の手続きと通信教育の手配を進めている。長話は無用だろう。だからこれで終わりとする。ようこそ。第一区へ」

 

 思ったよりも短かった。アーリーが右手を差し出している。

 

「ま。とりあえず、しばらくはよろしくな」

 

「こちらこそよろしく頼む。世話になる」

 

 握手を交わした。爽やかな朝、気持ちよく自分を受け入れてくれた第一区に感謝しよう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。